4-23. 3月……予定通りに期待外れや
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。彼女。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
津旗 聖納:ヒロインその2。特別な友だち。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。
松藤:仁志の友だち。バスケ部。美海のことが昔から好きで告白してフラれた。
3月ももはや数日で終業式を迎えようとする頃。
俺が不思議でしょうがないのはこんな時期に球技大会があることだ。
俺の通う高校は運動会がない代わりなのか、クラスマッチと呼ばれる球技大会が年に2回もある。特に2回目の球技大会なんて終業式の数日前くらいにあるので、学年末最後のレクリエーションみたいなものと化していて、成績にも反映されているんだかされていないんだかすら分からない。
まあ、学年最後の思い出作りと考えたら、悪くもないかもしれないな。
美海も聖納も1回目の球技大会同様にがんばっているし、俺もそれに感化されてがんばっているところもある。
美海がバスケでぴょんぴょん飛び跳ねているのもかわいいし、聖納もバスケに参加していて何がとは言わないけどぼよんぼよんと飛び跳ねているのも魅力的だ。
……視線だけは気を付けないと、美海の目にハイライトが消えていって、ジトっとした視線が俺の心に容赦なく突き刺さってくる。
「よお」
俺は1回目と同様にバレーボールを選択していて、会場がバスケと違う体育館だ。だから、試合も終えたところで美海と聖納の試合を見に行こうとしていた。
そんなときに後ろから不意に声を掛けられた。
聞き覚えはもちろんある声。
「松藤か」
松藤を説明するなら、聖納と同じクラスで、俺と中学校からの友人で、美海とは小学校からの幼馴染かつ美海のことが好きなバスケ部の糸目系イケメンだ。
2学期には松藤が美海に告白したことで、俺と美海の喧嘩に発展したこともあった。ただし、俺が美海との昔の約束を思い出した結果、松藤はフラれてしまう。
それで終わればいいんだが、松藤は美海と俺が別れた場合に次の彼氏になると勝手に美海を予約している。
聖納が俺の予備彼女と言うならば、松藤は美海の予備彼氏みたいな言い方もできるだろう。
俺は美海と聖納がいるであろうバスケの会場に行くために再び歩き出す。
もちろん、松藤もついてくる。
会話も始まるだろうから急ぎ足は危険か、ゆっくり歩こう。
「なんや、最近、冷たいんちゃうか?」
俺も高身長なので、松藤と俺の目線はほぼほぼ同じ高さだ。とはいえ、松藤の狐目というか糸目というかでは、どこを見ているのかはさっぱり分からない。
どこか飄々としていて、石川訛りというよりも関西訛りに近い喋り方で、バスケもできるイケメンなので引く手数多……にも関わらず、まさかの俺の恋のライバルである。
「そんなことないけど」
避けてはいないが、美海のこともあるので警戒はしている。
普通に考えれば、俺に勝ち目ないよ? だって、俺、顔はどうひいき目に見ても普通だし、運動能力も負けているし、強いて言うなら学力こそ俺の方が上だけど、同じ高校の中で言えばだから、全国的に見れば大差なんてないだろう。
だからこそ、松藤じゃなくて俺が選ばれて、ちょっとだけ自尊心も上がるわけだが。
「ところで、二股はどうなったんや?」
松藤は会うたびに頻りに俺の二股を気にしていた。
松藤は美海が二股で苦しんでいると理解して、その解消のために美海に告白した節もある。下手すると、俺よりも美海を想っているかもしれないし、年月で言えば、圧倒的に松藤の方が美海を想ってる日々が長い。
俺はあまり言いふらしたいわけじゃないが、松藤には言っておかないといけないよなと思う。それが松藤をけん制する動きにもなるしな。
「二股じゃなくなった。付き合っているのは美海とだけだよ。聖納とは別れて、友だちというか親友っぽい感じになった」
俺が淡々と告げると、松藤は目が開く……なんてこともなく、ただ口だけがへにょっとへの字になって分かりやすく失望感を露わにしている。
「はあ……やっぱ、そうなったんかあ。予定通りに期待外れや」
「予定通りに期待外れって言っていておかしいと思わないか?」
松藤のなんだか奇妙な言い回しに、俺が軽くツッコミを入れてみる。
すると、松藤は両手を肩まで上げて「やれやれ」と言わんばかりに溜め息を吐く。
「嬉しくない方向で予想が当たってしまったってことや」
「言わんとしていることは分かるけど」
松藤は残念そうだ。
やっぱり、まだ美海のことが好きか。
そりゃそうだよな。小学校の頃から好きだった女の子をそんな簡単に諦められるわけもないか。
「しばらく、ののちゃんを金澤に預けておくしかないな」
……おいおい。
「しばらくって、預けておくって、俺に言うことか?」
「前にも言うたやろ? 俺は諦めてない。ののちゃんのこと、まだ好きやし、金澤とののちゃんが別れることがあったら、次は俺やって、ののちゃんとも約束してるしな」
松藤はいつもの飄々とした雰囲気を装って俺に接してくる。
残念と思いながらも次を考えて、まるでバスケの攻守が交代したかのように気持ちが切り替わったのだろう。
「そんな堂々と俺の前で言うなって。人の彼女を順番待ちするなよな」
松藤の口が上向きの半円を描く。
「ええやないか。別に金澤から無理やりに奪い取ろうって言っているわけやないんやし」
「いいわけあるか!」
松藤がまだ美海を狙っているってだけでハラハラする俺の身にもなってほしい。
いや決して美海を疑っているわけじゃないが、美海だって情にほだされることもあるかもしれないし。って、思っている時点で美海に悪いよな。
心の中で反省しておく。
「そんな偉そうに言ってるけど、どうせ津旗さんも俺と同じようなもんやろ?」
「え?」
松藤から思いも寄らぬ言葉が返ってきて、俺は思わず立ち止まってしまった代わりに素っ頓狂な声をあげて目を見開いてしまう。
「やから、金澤と津旗さんは友だちになったけど、金澤がののちゃんと別れたら、次は津旗さんがまた彼女に戻るんやろってことや」
「……よく分かるな?」
俺は隠しもせずに松藤にそう答えた。
松藤も勘が良い方だ。俺の嘘なんてすぐにバレる。
下手な嘘を吐くくらいなら正直に話した方が松藤も裏を掻こうとしてこない。
「嘘吐かん……いや、嘘吐けんのが金澤のいいとこやな。まあ、なんや、津旗さんからは似たような執念深いもんを感じるわ」
「そうなのか?」
松藤と聖納が同じと思ったことはないけれど、まあ、視線が分からないって意味では同じか、とか見当違いのことを思いついてしまう。
「類は友を呼ぶという感じやろか。なんとなく雰囲気で分かるもんやから説明しづらいわ」
類は友を呼ぶ、ね。
「へえ、ってことは、聖納と仲良くなれたりするものか?」
「それは無理やな。同族嫌悪的な感じで性に合わん」
類は友を呼ぶと言ったり、同族嫌悪と言ったり、似た者ではあると理解しつつも相容れないという感じなのだろうか。
「なんだか難儀な感じだな」
率直な意見を言ってみると、松藤が苦笑いを浮かべる。
きっと松藤も同じように考えているのだろうな。
「というわけで、金澤とののちゃんが別れたら一番丸く収まるんやで?」
「あのなあ……」
俺も、美海も、そのことを考えなかったわけじゃない。
だけど、お互いにお互いのことを好きだって思っているのに、そんな打算的な話で落ち着けるわけもなかった。
それは松藤も分かっているはずだ、と俺が睨みつけると松藤が両手を上げて俺を落ち着かせようと宥めるポーズを取る。
「冗談や、冗談。でも、気を付けや? 不仲になったら周りが黙っていないってことやからな。俺は少なくとも高校生活中は待ってるわ」
松藤と話していると感情の落差が激しくなって、まるでジェットコースターに乗っているようだ。
「……ご忠告、痛み入るね」
「さて、俺はバレーの会場に戻るわ。金澤、まだ勝ってるんやろ? 今回こそ半年前に叶わんかったことやろうや」
1回目の球技大会で言っていた松藤に勝ったら手助けしてもらえるという話。
結局、戦うこともできなくて、松藤の温情をもらったっけか。
「あのときの借りを返すさ」
俺はそう言って、松藤に軽く手を振ってバスケの会場へとそのまま向かった。
「待っとるわ」
……ちなみに、今回も結局松藤とは戦えなくて、次回へ保留になった。
うん、なんとも話が締まらない結果だなあ。
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