4-Ex6. 3月……そうなったのかあ
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。彼女。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
津旗 聖納:ヒロインその2。特別な友だち。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。
乃美 梓真:美海の友だち。あーちゃん。
彩:仁志の妹。小学6年生。かわいいけど、イタズラ好きで抜け目がない。
土曜日の昼。3月もまだ上旬くらいだとちらほら雪も降っていて、俺は出かける用事もなく家でのんびりしている。
美海と聖納、俺でつくった3人のグループリンクを覗いてみると、美海が『あーちゃんと遊んでるよ!』とメッセージを送ってきていて、カフェで頼んだオシャレな飲み物の写真やウィンドウショッピングで見つけた面白いモノの写真もいくつか送られていた。
聖納がスタンプでイイネという返事をしていて、俺もそれに乗ってスタンプで美海に返事をしてみる。
「楽しんでそうで何より……ん?」
俺がスマホを置こうとした瞬間に、スマホがぶるっと震えてリンクの通知が来た。
『津旗 聖納:仁志くん、お時間があるなら一緒に図書館とかカフェで勉強しませんか?』
図書館かカフェで勉強か。
俺と聖納は友だちという関係性なので、美海からも「叡智なこと禁止」、「内緒でコソコソ会うの禁止」などのいくつかの条件を満たしさえすれば、2人で遊んだり会ったりすることも許可されている。
とはいえ、この天気だしなあ。
『仁志:ごめん、お誘いはありがたいけど、天気が悪いからまた今度がいいかな』
『津旗 聖納:分かりました。もしよければ後ほどリンクでお話をしませんか?』
まあ、電話ならいいか。
美海は乃美と遊んでいるから、俺と聖納の個別リンクで電話するか。
『仁志:それならいいぞ。30分後よりも後なら聖納のタイミングでコールしてくれていいよ』
『津旗 聖納:ありがとうございます! 30分後ですね!』
こうして俺が聖納とのやり取りを終えて、スタンプを押してみると既読が2人になっていた。美海もきちんとやり取りを確認した上で、待ったをかけてこないあたり、一応OKなのだろうと思う。
俺がフッと息を吐くと、今度は部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
「お兄ちゃん、いい?」
妹の彩だ。
昼飯も食べ終わった後だからご飯で呼びに来たわけでもないよな。
なんだろう?
「彩? いいけど」
彩が部屋に入ってくるなり、ベッドで寝転んでいる俺の隣にダイブしてきて、至近距離で俺の顔をまじまじと見つめてくる。
ん? なんだ? 俺の顔になんかついているのか?
「お兄ちゃん、単刀直入に言うね」
彩が急に改まった表情をして、持って回った言葉を放ってくるので思わず身構えてしまう。
「なんだ、急に」
「ホワイトデーのお返し、もちろん、考えてるよね?」
彩がじっと見つめて告げてくる言葉。
ホワイトデー。
お返し。
「…………」
「…………」
俺は取り繕う言葉すらも一音も出せなかった。
忘れていた、というか、完全に想像を超えた先のことに驚愕する。
いや、昨年までの話で言えば、家族の義理チョコのお返しは当日に気付かされて買っていて、それでも事なきを得ていた。彩だって、「ラッピングすらないの?」と言いはするものの、それ以上のことを言うでもなくお返しの飴を口に放り込んでいた。
「……ありがとう、彩。俺は今、最大限の感謝の意を彩に示したい」
しかし、本命のお返しともなれば、そんなわけにもいくまい。
あれ? 3倍返しだっけ?
あのチョコ、いくらかかったんだろうか?
特に聖納の方、2キロを超えるチョコってどうすればいいんだ?
「だと思った。ところで、お兄ちゃんっていつもお返しにキャンディをくれるけど、それの意味分かってる?」
「……意味?」
彩の言葉にオウム返しをしてしまった。
意味ってなんだ?
お返しなんて「贈ってくれてありがとう」とか「俺も好きだよ」とか以外に意味あるの?
「……だと思った、パート2。お返しのお菓子で意味が変わるんだよ?」
お菓子で……意味が変わる?
なに? どういうこと?
落ち着け、いつもの彩の冗談かもしれない。
冗談だと信じたいが、彩の顔がものすごい真剣かつ若干の侮蔑も滲んだ感じではあるけど。
「嘘だろ?」
とりあえず笑ってごまかそうとしたら、どうも下手を打ってしまったようで、彩の表情が般若のように恐ろしい表情に変わっていく。
「本当だよ! その手に持っているものは、本のしおりじゃないでしょ?」
彩が俺のスマホを見て指を差してくる。
調べろってことか。
俺は完全に彩に気圧された感じでスマホにつらつらと「ホワイトデー お返し 意味」みたいなワードを入れて検索をかけてみる。
すると出るわ出るわ、ホワイトデーのお返しに関する贈るお菓子の意味。
えっと、ちなみに、キャンディは……っと。
「……本当だ。キャンディは『あなたのことが好き』か」
「お兄ちゃんはお母さんや私にいつも愛の告白をしてくれていました」
彩はひどく単調で一切の抑揚を感じられない物言いをしてきた。
目はだいぶ蔑み感が強いな。
「地の文の朗読みたいな感じで言わないでくれ。まあ、家族として好きなのは間違いないからいいんじゃないか?」
実際、母さんも彩も好きだぞ?
家族的な意味で。
もちろん、「あなたのことが好き」ってのは、そうじゃないってことなんだろうけど。
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、美海ちゃんや聖納さん、あと義理チョコくれた人にマシュマロやグミなんか送っちゃダメだよ?」
そう言われて、マシュマロやグミの意味を調べてみると「あなたのことが嫌い」とあった。
なんだよ、「あなたのことが嫌い」って、お菓子で遠回しに伝えるんじゃないよ!
男なら口で言え! と思いつつ、言わずとも伝える便利さは大事だよなと思い直す。
面と向かって、好きって言うのも恥ずかしいしな。嫌いも言いにくいって意味では同じだろうな。
「気を付けるわ」
美海や聖納が家に遊びに来た時、絶対に母さんや彩がマシュマロやグミを俺に出させなかったのは、このホワイトデーのお返しのための布石だったのだろうか。
だとすると、教育が遠回し過ぎるぞ、2人とも。
言ってくれ、言ってくれないと分からないから。
「ところで、お兄ちゃん、なんか変わった?」
そう思っていると、不意に彩の雰囲気が変わった。
変わった……か……。
「え……あぁ……そうだな。彩には言ってもいいかな」
そう言えば、彩に二股を解消したってことを伝えていないなと気付く。
もちろん、言う必要なんてない。
だけど、勝手に彩の方から首を突っ込んできていたとはいえ、なんだかんだで助けてもらっているし、今回もホワイトデーのお返しのことでアドバイスをもらったわけだから、近況報告をしないのもなんだか居心地が悪い。
しかしだ。小学生の妹に自分の恋愛事情を喋る兄というのも中々特殊ではないだろうか。そう思いつつも俺は彩に最近のことを話した。
「そっか……そうなったのかあ」
「あぁ……最近になってようやくな」
彩が一瞬驚いた顔になったことを俺は見逃さなかったが、彩もすぐに静かに納得した顔になっていたので言及する気になれなかった。
「……でも、聖納さんとも友だちの関係でいられるのはいいと思う。聖納さんの方がお兄ちゃんをしっかりと支えてくれそうだし」
彩はくすくすと笑っていた。
兄が頼りないと言わんばかりだ。
「おいおい、支えるって……そんなにか?」
まあ、実際頼りないだろうけど、勢いよく首を縦に振られると思うところも出てくるぞ。
「そうだ、お返しの相談も聖納さんとしてみたら?」
「お返しする相手に相談するのってどうよ……」
「聖納さんは相談されたら喜ぶと思うよ。お兄ちゃんに頼られたいって思っているだろうし」
「そういうものかな」
その後、聖納とリンク通話をするのだが、真っ先に聞かれたことが「ホワイトデーのお返しを考えているか」という話で、彩同様に俺がそういうことに無頓着だということがバレていた。
ここは彩の言う通りに従ってみるか。
そう考えて俺は聖納に思いきって相談を持ち掛けてみると、聖納が電話越しでも嬉しそうな感じでいろいろと話してくれた。
どうも正解みたいだ。
彩にはよいお返しを買ってあげないといけないな。
ちなみに聖納は、友だちを意味する「クッキー」よりも、特別な存在を意味する「マカロン」がいいと俺に強く念押しをしてきた。
それから聖納と話が終わった後も、美海にはやっぱり「キャンディ」や「金平糖」がいいよな、乃美にはどうしようかな、とお返しに悩むのだった。
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