4-13. 2月……ちょっと話そ?(1/2)
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
津旗 聖納:ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。
バレンタインデーも終わった2月後半はテスト週間と学年末試験で慌ただしくなる。
テスト週間の放課後はいつもであれば、図書室や自習部屋として開放された教室で、俺と美海と聖納の3人で仲良くテスト勉強をする。
「ひーくん、ちょっと話そ?」
ただ、今日はちょっとだけ違った。
聖納が「ちょっと調子が悪いようなので、今日は早く帰って家で勉強します」と俺や美海に告げて早々に帰ってしまったために、美海と2人きりになったのだ。
そこで美海がわざわざ「ちょっと話そう」と言ってきた。
美海の表情が固い。
何か決心がついたような顔つきだ。
決して軽めの雑談なわけもない。
それならこんな顔をしない。
「分かった」
どんな話だろうか。
さすがに別れ話ではないだろう。
話す内容を想像するのに頭を使いつつも美海についていくと、向かった先は図書室ではなく1階のミニホールだった。
放課後になると換気も兼ねて玄関の扉が数か所ほど完全に開いてしまうため、玄関近くのミニホールは外気温が流れ込んできて屋内ながらも寒くなる。故に誰もがそこにあるはずのミニホールに目もくれず、帰るために玄関か勉強するために図書室へ向かっていく。
意外とここも体育館裏同様に穴場なんだよな。
「ここでいいかな?」
「全然問題ないよ」
美海に促されてミニホールのローテーブルと椅子のある場所まで歩いていく。
ここまでくると、玄関から聞こえてくる声や音も遠くに感じて、決して無音ではないほどよい雑音がまるでカフェのように思えてくる。
ただちょっと寒いな。
俺も美海もそう思ったのか、それぞれ腕に掛けていたダッフルコートを広げて着込んでから椅子にゆっくりと座る。もちろん、隣どうしだ。
俺はふとポケットにあるホッカイロに気付いて、2つのうち1つを美海に渡す。2つとも昼休みに開けたからまだギリギリ使えるだろう。
「ありがとう……ふあああああ……ぬくいね」
美海が俺のポケットを温めていたホッカイロに柔らかい頬を左右交互にくっつけて幸せそうな顔をしている。
「役に立ってよかった」
うん、かわいい。満点かわいい。
先ほどの固い表情から無防備に喜んでゆるっとした顔になっているのを見ると、俺もホッと安堵の溜め息を吐けた。俺に怒っている感じもないし、拒否感もないから悪い話じゃなさそうだ。
ただ、その後数分くらい、俺と美海は無言になった。いつもマシンガントークな美海が、怒ってもいないのに何もせずに、無言でこれだけ長く一緒にいるのは正直珍しいと言ってもいい。
まあ、何かあるのだろう。それを待てないほど忙しいわけじゃない。
徐々に玄関から聞こえていた帰宅ラッシュも落ち着いてきて、音がどんどん静かになっていく。
「あのね……えっとね……」
やがて耐えきれなくなったのはやはり美海だった。
何かを無理に言おうとして、言葉にならない言葉を繋げている。
「大丈夫。無理に何かを話そうとしなくても大丈夫だよ」
俺は美海を安心させようとそう言った。
その気持ちが伝わったのか、美海はちょっとだけホッとしたような様子でもじもじと手遊びを始める。
落ち着かないのだろう。
それだけのことを言おうとしているのだろう。
すると、俺の中でようやくある可能性が浮かび上がった。
1月に聞こうとしたこと。
どうして「美海が二股恋愛を許した」というか「あえて二股恋愛をさせたのか」ということ。
「ありがとう……あのね、ひーくん」
「ん?」
ゆっくりと、ゆっくりと、美海が口を動かしていく。
どんなものでも動かし始めが一番力を込めなきゃいけない。
「1月に聞かれたことなんやけど」
予想通りだ!
「うん」
聞きたい、聞きたい、聞きたい。
知りたい、知りたい、知りたい。
俺はようやく答えが聞けると逸るばかりの気持ちをどうにか押さえつけて、美海のペースに合わせてゆっくりと待っている。
「それをちゃんとひーくんに言おうと思ってる」
「そうか」
落ち着け、俺。
表情を変えるな。
今だけは全力で少し微笑んでいる感じの顔をキープしろ!
「バレンタインのときに思ったの」
「バレンタインのとき?」
不意に1月の話のはずがバレンタインの話になってしまうも、俺は眉根も微動だにさせない気持ちで美海の言葉を待つ。
「うん、せーちゃん、どんどん……ひーくんのことを好きになってってるって」
「俺も……自分で言うのもなんだけど、なんとなくそう思う」
このままでは聖納の暴走が止まらないと、美海も焦っているのだろうか。
「このままやと、せーちゃん、1番になりたいどころか、二股さえ我慢できなくなって、またウチ……ひとりぼっちになるんかもって怖くなって……」
「美海……」
美海は小学生のとき、二股を掛けられて、フラれたことがあると言っていた。
おそらく、そのときの経験や感情がフラッシュバックするように蘇ってきたのだろう。俯き始めて寒さじゃない何かでぶるぶるっと震えているように見える。
俺は美海の肩を抱いて、安心してほしくて、少しだけ抱き寄せた。
「ありがと……やから、ウチ、ちゃんとひーくんに伝えなきゃって……ひーくんが気になっていたことをきちんと話さなきゃって……」
「そうか」
ちょっとだけ……美海の打算的な考えが見えたような気がした。
そう、いろいろと思うことはあったけど、まずは深く考えないようにした。
「あのね、前にも言ったけど、せーちゃんが心配だったの」
「言っていたな」
聖納が壊れるかもしれない。
俺のことを「光」と表現したように、聖納は俺のことを心の拠り所にしている節があって、俺と離れることになったら拠り所を失ってどうにもならなくなる可能性がある。
それは美海からもそれとなく聞いているし、俺も聖納を見ているとそう思うし、聖納自身もそれを恐れて俺と接している部分があるような気がしている。
「でも、ひーくんなら思ったんじゃない? なんで、ウチがそんなにせーちゃんのことを心配してるんかなって」
そう、それだ。
俺が一番に引っ掛かっていた部分だ。
「まあ、思わなかったと言えば嘘になるな。いくら美海が優しいとしても、彼氏をシェアするようなことなんてしないだろうし、昔二股で傷付いたって聞いたからなおさらな」
美海にはどんな理由があって、聖納をそこまで気に掛けることがあるのだろうか。
ちょっとやそっとの理由じゃ、トラウマを再発するような状況を許容できるわけもない。
だって正直、俺、二股してくれって言われたとき、その後に俺と別れても問題ないくらいに軽くてゆるい感じかと思ったくらいだ。
実際はそうじゃなかったわけだけど。
「うん……その二股もちょっと関係しているんやけど」
「小学校のときの二股? え? どういうこと?」
え? 美海と聖納って小学校、一緒じゃないよな?
「そ、それは余計な感じだからあとで話すね」
「……分かった」
いや、分からん。
謎が深まった。
まあ、それもいずれ教えてくれるのだろう。
「えっとね……せーちゃんの傷なんやけど」
「あぁ」
聖納が顔に負った傷、前髪の奥に目とともに隠された額にある傷跡たち。それは聖納が中学校のときに、友だちだと思っていた女子に付けられてしまった傷と聞いている。
こっちも色恋沙汰の果てに起きた痛ましい話だ。
美海も聖納も、恋愛で何かしらの傷を負っている。
それでも俺のことを好きになってくれるのは嬉しかった。だからこそ、俺はその気持ちに全力で応えたいと思った。
だけど、やっぱり、二股は全員が辛いと感じた。
だから、俺は……。
「その傷を付けたの、ウチの小学校のときの友だちなの」
「……え?」
聖納に傷を付けた女子が……美海の友だち?
俺は内心、すぐにでも詳細を聞きたい気持ちを抑えるのに必死だった。
ご覧くださりありがとうございました!




