4-6. 1月……そんなに知りたいん?
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
津旗 聖納:ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。
美海が話を終えたと思って離れようとしていたところだったので、俺はぎゅっと抱きしめて話を続けようとする。
すると、美海が優しく俺の腕を抱きしめてくれた。
後ろから抱きしめているから美海の顔が見えないけど、雰囲気は良いだろう。
今なら、聞ける。
「教えてほしいんだけど」
「ん? うん? え、何?」
美海の声色が少しだけ警戒している。
和やかだった雰囲気が少しだけ翳りを見せてくる。
だからって、ここまで来て怯むわけにはいかない。
「どうして、美海は俺に二股なんかさせたんだ?」
言った。
いや、これまでも何度か言っている。
でも、今日こそはという感情が滲み出ていたのか、怒っているわけでもないのに少しだけ声が低くなってしまう。
美海はビクッと身体を跳ねさせて、顔をちょっとだけ俯くように傾げる。
「そのこと……忘れたくらいでいつも聞いてくるよね?」
美海は答えるわけでもなく、俺の様子を窺うような返しを言ってくる。
「ごめん……でも、やっぱり、どうしても……気になるからさ」
いつも、はぐらかされてしまう。
今までは、それでもいつかは話してくれるかもって期待して辛抱強く待っていた。
でも、状況が変わってきている今、悠長に待っているわけにもいかなくなってきた。
だけど、焦ってはいけない。喧嘩をすれば、また有耶無耶になってしまう可能性もある。
美海だって、永遠にこのままでいいと思っているわけじゃないと、そう信じたい。
「そうやよね。ひーくんのことでもあるもんね」
幾分か声のトーンは落ちているけれど、裏を返せば、俺の話に落ち着いて受け答えをしてくれているともいえる。
徐々に、徐々に、美海の気持ちに絡まった糸をほぐすようにゆっくりと進めよう。
「あぁ、美海の考えや気持ちがきちんと知りたい」
沈黙。
お互いの顔が見えない今は、声色やちょっとした仕草で美海を読み取るしかない。
不安からか、美海は俺の腕をぎゅっと掴む力を強くする。
「……そんなに知りたいん?」
美海の気持ち、ほつれた糸口が見えた。
ここでこれを逃すわけにいかない。
「あぁ、だって、ヤキモチ妬きで甘えん坊の美海が——」
「は? ウチ、ヤキモチ妬きじゃないもん。それに甘えん坊でもないもん」
……なん……だと?
「……いつもこの頬をいっぱいに膨らませたり、こんな感じでくっつきたがったりするのに違うのか?」
俺は抱きしめ方を変えて、美海の頬をつんつんとつつきながら美海に聞き返す。
ふにふにっとした柔らかい頬が俺の指を優しく迎えてくれている。
「むむっ……むぅ……それでも違うもん……」
むにむに。
美海は意外と強情で、自分が認めないことだとなかなか認めようとしない。
今も違うと言い張っている。
「違うのか?」
むにむに。
「もう! ほっぺた、むにむにし過ぎ! 指、刺さってるし!」
むにむに。
「かわいいなあ」
「むう……話を戻そ!」
……しまった、そうだった!
俺が脱線してどうする。
でも美海の頬を堪能したので、それはそれで満足だ。
「そうだな。どうして、二股を俺にさせたんだ?」
美海は観念したように、ちょっとだけ身体と頭を捻って、俺の方に顔を向ける。
話す気になった表情をしているように見えた。
「いくつか理由があるんやけど……」
美海は体勢が辛かったのか、ごそごそと身体を動かしてスカートを直しつつ、俺の膝上に乗ったままで身体をまっすぐこちらに向けた。
美海が身体を少し密着気味に寄せて来て、上目遣いで俺を見てくる。
かわいい。
それに、この体勢だとまるで対面座……げふん。
なんでもかんでも、そういう叡智な方向に考えを持っていくのは良くないな。
「教えてくれるか?」
俺は言葉だけ至って真面目に振る舞う。
「あのね、せーちゃんのことが心配だったのは本当やよ」
「聖納が壊れるかもしれない……だっけか?」
これは前に教えてもらったことでもある。
これが美海の考えの全てだと言うのだろうか。
本気か?
だとすれば、人が良すぎる。
「うん。せーちゃん、中学校のときのことがあって、ひーくんが心の命綱っていうか、心のえっと……」
美海の中で適当な言葉が見つからないようで言葉を探し続けて目が泳ぐ。
多分、こう言いたいんだろうな。
「心の拠り所?」
美海はハッとしてニコリと笑う。
「うん、それ! 心の拠り所! せーちゃん、本当に男の人のこと苦手みたいなんやけど、ひーくんのことだけは大丈夫で、ひーくんのことが本当に好きだって分かるから」
美海が聖納のことを気に掛けていることは分かった。
じゃあ、俺が聞くべきは「どうして美海が聖納をそれほどまでに気に掛けているのか」だろうな。
だけど、美海のペースで話をしてもらわないとそれは聞き出せない気がする。
「美海……」
「あ! 言っておくけど、ウチもひーくんのことが好きなんは負けてないからね?」
俺は頷いた。
「それは疑ってないから。美海も好きでいてくれているって分かるから」
俺は美海の頭をまるでその長い髪を梳くように流れに沿って優しく撫でた。
「うん……ひーくんに頭をなでなでしてもらえるの嬉しい」
美海が安心している顔をしている。
ゆっくり、ゆっくりいこう。
「聖納のことは分かった。それで、いくつかって言っていたけど、理由はほかにもあるのか?」
「……うん」
やっぱり、まだ隠したい本命があるのか。
じっくり、じっくりと慌てずに。
「それも教えてくれるか?」
美海は俺の胸に顔を埋めた。
「……心の準備がほしい」
「今じゃないってことか?」
美海は顔を埋めたままこくっと頷く。
「うん……でも、ちゃんと言うから、もう先延ばしにして自然消滅させようとしないから……」
以前、美海と小学校からの幼馴染でもあり、俺の友人でもある松藤から教えてもらった美海の悪い癖。
美海は自分に都合が悪いことに対して、時間を引き延ばして、曖昧にして、有耶無耶にして、自然消滅させて、なかったことにすることがあるようだ。
だけど、今回、それはしないと俺に宣言してくれた。
「美海……」
「でも、少しだけ……少しだけ待ってほしいの」
今すぐに聞けないのだろうけど、はぐらかされてきた今までとは違う。
美海にも改めて考える時間は必要だろう。
少し歯がゆい部分もあるけど、自分だけでこれは解決しない。
美海も、聖納も、俺も変わっていかないと解決しない。
「わかった。待っているよ」
「ありがと。もう……ひーくんのことをあんまり不安にさせたくないから」
2学期のごたごたのことを言っているのだろう。
あのとき、美海と別れるかもしれないと思うくらいにすれ違ったこともあった。
美海はもうそうなりたくないと言ってくれていると思う。
「美海、ありがとな。言いにくいことだろうに」
ちょっとずつ、ちょっとずつ、良い方向に変わっていけばいい。
「ううん。じゃあ、お昼ごはんにしよ?」
「そうだな」
今度こそ話が終わったと思った美海が俺の膝の上からどいて、俺の隣に座り始める。
……ちょっとだけ美海の温もりが名残惜しい。まあ、でも、あのままじゃ人に見られたら誤解しか生まないだろうからしかたない。
美海は弁当を開けて、箸でから揚げを1つ掴むと俺の方に向けてきた。
「あーんのし合いっこしよ?」
はい、かわいい。満点かわいい。
ちょっと首を傾げているのもポイント高い。
「ははは。やっぱり、美海は甘えん坊さんだな」
「むう……いいもん、甘えん坊でも! はい、あーん!」
ちょっとムッとした美海が容赦なく俺の口にから揚げを勢いよく放り込んできた。
あーんにしてはスリリングだ。
その後、俺たちは昼飯を食べて、昼休みいっぱい、別の話で盛り上がるのだった。
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