4-3. 1月……仲良くできてるんかな
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
津旗 聖納:ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。
3学期が始まり、学校はかなり慌ただしい感じになる。3年生たちは大学入学のための共通テストが中旬にあるし、2年生たちは来年に向けたテストや模試も増えてくる。
俺たち1年生だって休み明けの課題試験が終わったかと思えば、共通テストに合わせたかのように外部の総合学力テストなるものを受けなきゃいけない。さらには2月だって、学年末テストがあるし、3月になったらゆっくりできるかと思いきや、到達度テストやらが待ち受けていて落ち着く暇もない。
正直、テストが多い気もするが、この学校が進学校の端くれともなれば、そこを選んだ俺も覚悟しなきゃいけないことなのだろう。
と先々のことも言ったが、まずは1月の総合学力テストが今日終日で執り行われた。
手応えはそこそこ、しかしながら、これで全国的にどのレベルなのかは判断できない。
「こひゅー」
「ぷしゅー」
「ふぅ……」
まあ、俺や美海、聖納までもが放課後に青息吐息といった感じで、図書室に立ち寄って休憩していた。
3年はいない。共通テストに備えて、早々と帰宅している。2年もまた、2年は外部の総合学力テストが明日もあるため、早々といなくなっている。
だから、美海も聖納も部活はお休みで俺と一緒に図書室で休んでいた。
ちらっと2人を見ると、机に突っ伏すような感じで机と隠れてキスでもしているかのようだ。
「どうだった?」
俺が美海と聖納にそう話しかけると、美海も聖納も弱々しい様子で俺の方に顔を向けてくる。聖納は顔が隠れているので表情が読み取れないけど、美海の方は覇気というか生気がない様子で焦点が定まっていない目をしていた。
「疲れた……」
「疲れました……」
1年は1日で済むけど、2年は明日もあるんだよな。来年度はさらに知力も体力も試されるってことか。
「だよなあ……お疲れ……」
「ひーくんもお疲れ」
「仁志くんもお疲れ様です」
会話が全然進まない。まあ、休憩しているんだからいいんだけど。美海や聖納に聞きたいことも言いたいことも今のタイミングじゃないなって思ってしまう。
糖分だ。糖分が足りない。
「あとで一緒にいちごなオ・レでも飲まないか?」
俺の提案に美海と聖納が力なく肯いた。
「賛成、ウチも甘いの欲しい」
「はい、私も糖分欲しいです」
で、満場一致だったのはいいが、俺も美海や聖納も今すぐでも糖分補給したい状況にも関わらず、どうにも身体がだるくてうだうだとしている。
すると、カウンターから暇そうにしていた司書が近付いてきた。
「お疲れ様。外部テストはどうだった?」
司書は少し楽しそうにしながら微笑みとともに、静かな落ち着いた声で話しかけてくる。
「分かっていましたけど、やっぱり難しいですね」
「数学は無理ぃ……」
「全国となるとレベルがちょっと高いです」
それぞれが思い思いの感想を述べると、司書が先ほどよりも大きめに笑った。
「ははっ、懐かしいな。私もこの時期になると、テストばかりでうんざりしていたことを思い出すよ」
司書が少し遠くを見るように呟いた。
司書にも司書の想い出や青春があるのだろう。
「司書さんもテストばかりだったんですか?」
「何を言う、少年よ。当たり前だろ? 私だって潰しのきく進学を選んだからにはテストばかりだったよ」
潰しのきく進学。俺もまだ何をやりたいかが分からないから進学を選んでいる。もっと言えば、文系よりも理系の方が専門性もあるっぽいから理系を選んでおこうとも思っている。幸いにして、文系科目も理系科目も普通だ。突出したものがないって意味ではただの器用貧乏だが、普通に生きるならそれでもいいだろう。
「テスト、やっぱり高校生のときは大変ですか?」
俺の質問に司書は人生の先輩として大きく肯いて答えてくれる。
「そうだな、高校生はさっきも言ったようにテスト三昧だからな。特に思い出深いのはやっぱりセンター試験だな」
「センター試験?」
美海が何気なく聞き返すと、一瞬だけ司書の動きが笑顔のままで止まる。
あぁ、若干のジェネレーションギャップだな。と言っても、共通テストの名称が変わったのは数年前くらいだから、そこまで離れている感じもないけど。
「……今の共通テストの前の呼び方だよ」
「そうなんやあ。名前が変わるんですね」
「共通一次じゃないんですね」
美海がそのまま素直に反応したので、俺がちょっとふざけてみた。
センター試験という名称が30年近く使われているわけだから、共通一次って、俺たちの親世代かもうちょっと上くらいだからな。
ピシッ。
あ、マズい……さすがに司書の笑顔に亀裂が入ったように見える。
「……少年? 私をいくつだと思っているのかな?」
静かな怒りの波動を感じる。
これは全力で謝った方がいいな。
「すみません……さすがに調子に乗り過ぎました……」
「まあ、少年と私の仲だからこれくらいで許してやろうじゃないか」
お返しとばかりに俺の頭をワシャワシャと司書が撫で回されてちょっと困った。
が、それよりも「少年と私の仲」という単語で、美海と聖納がピクリと反応したことに気付いて、俺の全身に緊張が走った。
「ひーくん、司書さんとやっぱり仲いいんやね?」
「仁志くん、司書さんととても仲が良いですね?」
美海のジトっとした湿度の高い眼差しは危険信号でもある。聖納も目こそ前髪で見えないが、何故か聖納から捕食者のような狙い定めた視線を感じる。
話を変えないと。
「……司書さん、センター試験の思い出ってありますか?」
「ん? そうだな、センター試験とかは会場までの移動もあるから、雪にはならないでって願ったな」
司書は俺の頭から手を離して、昔を思い出すように少し上を見たかと思えば、先ほどのような自然な笑みで当時の話をしてくれた。
「あ、そうか、普段と違う環境でテストになるのか」
「まあ、これからいろいろテストも受けるだろうさ」
「そっかあ……ずっと、テストなんやね」
突然、美海が割って入るかのようにそんな呟きをするので、俺も司書も聖納も美海の方を向いた。
「美海? どうしたんだ?」
「あ、ごめん、ううん、なんでもないんやけど……2年後、ウチらどうなってるんかなって」
美海の「2年後のウチら」はおそらく、テストやクラス、部活のことだけじゃない。きっと俺たちの関係のことも指しているのだろう。
2年後、俺たちはどうなっているのか。
このまま二股でいることは……俺がそうならないようにするから、きっとないと思う。
「……そうですね」
「仲良くできてるんかな」
そうだとすれば、どういう関係になっているだろうか。
たとえ、どんな関係になったとしても……。
「2年後のことは正直分からないけど、少なくとも、いつまでも仲良く一緒にいられるといいなって思う」
たとえ、どんな関係になったとしても、2人と仲良くしていたいって思うのは虫が良すぎるだろうか。
「ウチも」
「私も」
「私も」
……待て待て、なんか思っていたのと違うのあったな。
「……なんで司書さんが入ってくるんですかね?」
司書が俺に向かって、意味ありげなウィンクをしてくる。
や、め、て、く、れ!
もちろん、美海と聖納が過敏に反応する。
「ひーくん?」
「仁志くん?」
なんで、こう、警戒が俺の方に向くのだろうか。
普通、そういうことを仕掛けてくる司書じゃないのか?
「うん、本当に、本当に何もないから。頼むから疑いの目を向けるのはやめてくれ」
とりあえず、俺は疲れた体と頭を奮起させて、美海と聖納の2人を宥めるのに時間をかけるしかなかった。
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