4-Ex2. 1月……自分のことも考えた方がいいと思うよ
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
津旗 聖納:ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。
父さん:仁志の父親。頭部は地肌が目立つ。理屈っぽいが、大らかで茶目っ気がある。
彩:仁志の妹。小学6年生。かわいいけど、イタズラ好きで抜け目がない。
父さんが出ていった後にノックの音がコンコンコンと鳴った。かなり軽い音だから父さんではないし、テンポよくリズミカルな感じだから母さんっぽくもない。
とすると……。
「お兄ちゃん、入ってもいい?」
やっぱり、妹の彩だった。
彩のことだから、美海や聖納とどんなことがあったのかを聞きたがって来たのだろう。
「まあ、いいぞ」
追い返すこともできるが、美海や聖納に贈るクリスマスプレゼントを提案してくれたお礼もまだ言えてなかったのと気付いてしまって了承することにした。
彩が嬉しそうに入ってくる。
「えへへ、お土産もあるよ?」
彩がお腹あたりに隠していたお土産のお菓子を服の中からすっと取り出した。
「晩飯を食べた後にお菓子なんて母さんに知られたら叱られるぞ」
彩は笑顔で一緒にお菓子を食べたそうにしているが、朝食前のお菓子や晩飯後のお菓子は全面的に禁止されているため、バレようものなら母さんからのきついお叱りが待っている。
「その時は一緒に怒られようよ?」
「嫌だが?」
うるうるっとした瞳を上目遣いにして、かわいさアピール全開にしてくる。
彩は妹としてのひいき目をなくしてもかわいい方だと思う。
しかし、どれだけかわいかろうと妹なので、かわいいアピールされてもなあ。
「かわいい妹が一人で叱られるなんて悲しいと思わないの?」
いや、自分まで叱られる方が悲しいし辛いだろ。
「自業自得だからしかたないだろ……それに疲れているときの母さんは……分かるだろ?」
「うっ……そうだね、やめとく」
母さんは普段おっとりとしている雰囲気だが、割と感情豊かというか、感情的な行動が目立つ。特に疲れているときや嫌なことがあったときなんかは、感情のマイナス側への振り幅が激しくて目も当てられない。
高校生になった今でも、まるで嵐が過ぎ去るのを待ちわびるように、母さんが特に不機嫌なときはなるべく近付かないようにしているくらいだ。
彩もそれは重々承知しているようで、俺が想起させるようなことを言ったらすぐに小悪魔の誘いを止めた。実に賢明な判断だ。
っと、言い忘れる前に言わないと。
「そう言えば、クリスマスプレゼント、ありがとな。美海も聖納も喜んでいたよ」
彩がパっと笑顔になって、まるで自分がプレゼントでももらったかのように嬉しそうにうんうんと頷いていた。
「そっか! よかった。でも、2人とも一緒で良かったの?」
「まあ、2人とも思うところがあるだろうけど、そこは何も言われなかったよ」
俺は美海にも聖納にもペンシルロールと鉛筆削りをプレゼントした。
どちらも同じくらい大事だと示したかったからだ。
もちろん、大事の意味合いは違うかもしれないけど、2人とも俺にとって掛け替えのない存在であることに間違いない。
「そうじゃなくて、お兄ちゃんの方」
「俺?」
彩はなんだか心配そうに俺を見てくる。
俺? 急に俺? なんだ?
「本当は一緒じゃないんでしょ? 気持ち的に」
うっ……鋭い。俺が悩んでいるのも分かっていそうなくらいに鋭いな。
「まあ、そうだけど、彩が気にすることじゃないだろ」
「ぶー、そんな言い方しなくてもいいじゃん」
彩が頬を膨らませて、口を尖らせている。
たしかに……心配してくれているっぽいのに、突き放す言い方はよくなかったな。
「すまん、ちょっと俺もいろいろあってな。そこには触れられたくなかったんだ」
「そっか……私も変なこと言ってごめんね」
「いや、いいんだよ」
彩は引き際が割と見えているのか、俺が本気で怒るようなことは滅多にしない。
俺が謝ると、彩も何かを察したようで同じように謝ってきた。
和解としては無難な終わり方だろう。
「ところで」
「なんだ?」
ちょっと重くなった雰囲気を変えるためか、彩が話を変えようとしてきた。俺もそれに乗って彩の質問を待つ。
彩がおずおずといった様子でゆっくりと口を開く。
「クリスマスイブに……キスした?」
「お前な……。まあ、したよ」
俺は思わずうな垂れる。彩も小学6年生だからか、若干、おマセな年ごろになったのだろう。とはいえ、人が……しかも、兄が恋人とキスしたかどうかなんて知ってなんかあるのか?
まあ、俺は嘘がすぐバレる方なので正直に肯いて答えた。
彩が目を爛々と輝かせて露骨に興奮し始めている。
「おおおおおっ! それで、それで?」
それでって……それ以上があったとしても、彩に言えるわけないだろうに。
まあ、王様ゲームで全員下着姿になったし、なんなら俺は全裸になったわけだし、それとキスもキスで美海と聖納の濃厚なキスシーンまで見たわけだが……そんなこと叡智なことを言えるわけもない。
「それでって……それくらいだが」
「もう捨てちゃった本と同じようなことはしなかったの?」
「ぶふっ!? してねえよ! そういうのはもっと大きくなってから!」
捨てちゃった本とは、俺が好きな作家さんを応援するために買った薄い本のことだ。その作家さんは絵が特に好みで好きだったんだが、性癖が深く多岐にわたっていてちょっと追いつけなかった。
彩にその本の存在を知られてしまったこともあり、新年を迎える前にさっさと処分した。まあ、お布施にはなっただろうし、これ以上は俺の尊厳も危ういしな。
「ふぅん……なんだ、つまんない……」
彩よ、兄に何を求めているんだ。仮に、それ以上のことがあったとして、お前は本当に兄のそういうことを知りたいのか?
少なくとも俺は、彩がそうじゃないと信じたい。
「つまんなくないが? 人のことで面白いかどうかを判断しないでくれるか?」
「はーい。でも、キスかあ、いいなあ」
恋に恋する少女とでも言えばいいのか、まだ見ぬ素敵な相手とのキスを夢見ているあたり、年ごろの女の子という感じもする。
大事なのは相手だぞ、と言いたかったが、二股をしている俺が言えることかと思うに至り、その言葉はやむなく封印することにした。
「はいはい、おマセさんもいつかする日が来るよ。がんばれ、がんばれ」
「お兄ちゃんこそ、がんばってね」
俺のおざなりな対応を意に介した雰囲気もなく、彩は俺に何故か激励をしてきた。
「え?」
当然、俺は何のことやらと訝し気に彩を見る。
彩はお土産のお菓子を再び服の中へ忍び込ませた後に、ゆっくりとこちらを指差してきた。
「美海ちゃんと聖納さん、その2人のことを考えるのもいいけど、お兄ちゃんは自分のことも考えた方がいいと思うよ」
俺は何も言い返せなかった。
「彩……」
「それじゃね」
彩は元気よく飛び出していってしまう。
なんだかんだで彩にも心配をかけさせているのか。
なんて、ちょっと胸に穴が開くような寂しい気持ちになっていたら、遠くから彩と母さんの声が聞こえてきた。
どうやら、あっと言う間にバレて、彩が「食べてないから!」と反論したものの、そもそものお菓子を持ち出したこと自体で叱られているっぽい言い合いが聞こえてくる。
「……はあ、仕方ない……一緒に叱られてやるか……」
俺は声のする方へと向かうために部屋をゆっくりと出ていった。
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