4-2. 1月……初詣に行こ!(2/2)
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
津旗 聖納:ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。
俺たちが訪れた神社は、バス停から少し歩いて石段を上って鳥居をくぐるとステンドグラスの施された門がある神社だ。言わずと知れた有名な神社で、街中にあるということもあって観光客も多く訪れる場所でもある。敷地内に池や庭園もあり、散歩をするのにも最適で風流だと思う。
ここは3人とも初詣といえばとも言える神社だったので、行く場所がすんなりと決まった。
老若男女問わず、家族連れや夫婦、カップル、友だちグループなどの誰彼関係なく並んでいて、大通りまで続く長い列になっていた。その中で俺たちはまだ先ほど言っていた石段すら昇りきれていない。
「やっぱり人が多いな」
押し合いにはならないがひしめき合っている中で、俺と美海と聖納ははぐれないように俺を中心にして絡まっているように腕組みをしている。左に美海、右に聖納、いつもながら俺の両手は使用不能になるわけで、さらにお互いがコートでただでさえ使えない腕の可動域もほぼない。
でも、美海も聖納も嬉しそうだから、まあ、いいか。
「三が日は雨でしたからね」
聖納は近くに男がいないか気になるのか、いつもより俺の腕に必死な感じで絡みついてきているような気がしている。
そうだよな。男性が苦手なのに人混みが得意なわけ……ないよな。
「でも、やっぱり、いつもよりも空いている気がするんよ!」
美海はちょっとはしゃいでいる。かわいいけど、あんまりはしゃいでいると高校生に見えないぞ。
以前、美海が小学生に間違われて膨れ面になっていたことを思い出してしまって、俺は悟られないように思い出し笑いをかみ殺す。
「まあ、たしかに。三が日は激混みだからなあ」
「そうですね」
この会話の間に石段を数段昇っている。思ったよりも早く辿り着けるかもしれない。
ちらほら周りを見回すも、さすがに知り合いの姿を見つけることはなかった。こういう時は人よりも身長が高いことを幸いに思う。まあ、逆に言えば、見つかりやすいわけだが。
「ひーくんが温かい飲み物を買ってきてくれて助かった」
「寒いのは嫌だしな」
そう、俺はホッカイロも何個も持ってきて2人にも渡していたが、並ぶと体が中からも冷えると思って、さらに美海と聖納に先に向かってもらっている間にコンビニで温かいお茶やコーヒーを買ってきた。
もちろん、飲み物代のお金は飲み物を手渡す際にきちんと渡されてしまう。美海にも聖納にも、奢れたためしがない。
「はあ……あったかあ……」
美海は、コートのポケットでホッカイロのようにしていた温かいほうじ茶を柔らかい頬にぴたっとくっつけて、温かさで幸せそうな顔も見せつつ暖を取り始める。
「身体も心も温まりますよね」
聖納も温かいブラックコーヒーを美味しそうにちょこちょこ飲んでいる。
ちなみに、俺は甘めのミルクティーだ。美海がミルクティーで、聖納がほうじ茶で、俺がブラックコーヒーかなとか思って、3本を好きに選んでもらったらこうなった。
「2人にそう喜んでもらえると、俺も嬉しいし心が温まるよ」
俺はまだまだ2人のことをよく分かっていないのかもしれない。まあ、まだ付き合って半年だし、そんなもんかなとも思う。
……半年か。まだ半年だよなと思いつつ、二股を半年も続けているのかとも思う。以前、「すぐに決め込むな」と父さんに言われたからってのもあるが、いろいろなことをなあなあにしながら半年も経ってしまった気もしている。
「ふふっ」
「んふふ」
俺の言葉に美海と聖納が微笑んでくれる。
2人とも俺にはもったいないくらいの彼女だ。
「ねえ、2人とも、願い事は決めてあるん?」
不意に美海がそう訊ねてきた。
俺はほぼ無意識に聖納を見て、見えるわけもない聖納の目を見つめて、美海にどう答えようか考えた。
「まあ」
「そうですね」
俺も聖納も縦に頷いている。
俺は決めてあるも何も、今日どころか元日には確定させていたな。
「んじゃ、お互いに言い合いっこしよ?」
突然の美海の提案に俺は驚く。
「言ったら叶わないんじゃなかったっけ?」
「え? そうなん?」
あれ? 願い事は胸に秘めて誰にも打ち明けない方がいいんじゃなかったか?
聖納に同意を求めようとしたが、聖納は俺に対して首を横に少しだけ振っていた。
「言ったら叶うとも言いますよ」
「うん、そうやよね?」
どうやら、聖納と美海は「願い事は宣言する」タイプらしい。
「あれ? そうなのか?」
「時と場合によるってことでしょうね」
聖納が「時と場合による」という便利な言葉を言うと、美海が活き活きとした笑顔でほうじ茶を持つ手の方を挙げている。
「じゃあ、ウチから」
「あ、はい、どうぞ」
美海の勢いに負けて思わずそう言ってしまった。
「ひーくんといつまでも一緒にいられますように、やよ?」
「……美海、嬉しいよ」
すごく嬉しい。嬉しいけど、なんで俺を見た後に聖納も見るかなあ。
「あら、美海ちゃん、奇遇ですね。私もそうですよ。仁志くんといつまでも一緒にいられますように、です」
「……聖納も嬉しいな」
こちらもすごく嬉しい。嬉しいんだけどさ、どうして聖納も俺を見た後に美海も見るのかな?
なんか俺の目の前くらいで火花が散っている気がするぞ。
昨年は結構お互いに遠慮していた感じだったけど、なんかそういう雰囲気じゃなくなってないか。
「ひーくんは?」
「仁志くんは?」
なんでか詰め寄られている気がして、悪いことをしていないはずなのに居心地が悪い。
ここで告げることはできる……けど。
「ごめん、優柔不断かもしれないけど、今は……2人と、美海と聖納と一緒にいられますように、かな」
俺はその先のことを考えず、今のことだけを正直に伝えた。
どちらも傷つけたくない。
そんな優柔不断な気持ちが俺の背中にべったりと貼りついて離れない。
俺を見て、2人はくすっと笑った。
「嬉しい。ありがと」
「嬉しいです。ありがとうございます」
納得しているわけもないだろう。だけど、俺のことを理解してくれている。
俺は2人の優しさに救われた気がした。
「まあ、1番はウチやけどね」
うん、ちょっと前言撤回しようかな。
俺としては、穏便に済ませてほしかったんだが。
「んふふ……い、ま、は、そうでしょうけどね」
……今日はなんだか火花が多いな。
新年で気持ちを新たにした感じ?
2人は臨戦態勢なの?
「むぅ」
「むー」
ちらっと2人を見ると、美海が難しい顔をし始め頬も膨らませて、聖納も口元が尖っていて全然笑っていない。
やめてくれ……新年早々、喧嘩みたいなことはしたくない。
「2人とも、むうむう言って、かわいいな」
ひとまず、2人ともをそう褒めて修羅場と化す前に2人の炎を鎮火する。
「むぅ……むぅむぅ」
「むー……むーむー」
かわいいと褒めたからか、2人とも「むうむう」としか言わなくなった。
かわいいけど、願い事までむうむう言わないようにな。
「ほら、そろそろ俺たちの番になるぞ」
その後、俺たちは無事に願い事を神様に伝えて初詣を終えることができた。
ただし、俺の願い事は2人に言った内容とちょっとだけ違う。
俺の願いは『二股を解消しても、誰一人ひどく傷つくことなく、美海と聖納と仲良く一緒にいられますように』だ。
そんな虫の良すぎる願い、努力だけじゃなくて神頼みでもしないと達成できないだろうからな。
ご覧くださりありがとうございました!




