3-32. 12月……好きにしていいんですよ?
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
津旗 聖納:ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。
夕方。雨が止んでいるのが救いだが、もうすっかり暗くなっている。
クリスマスパーティーは至って健全に終わりを迎え、美海が玄関で靴を履き終えた。
「じゃあ、先に帰るね!」
美海の顔がいまだに真っ赤なのは、さっきまで下着姿で一緒にいたり、俺の裸を見たりをしたことがずっと頭にあるからだと思う。
普通に考えたら異常だよなあ。俺たち高校生でしかもまだ1年だしな。
「今日はありがとな」
俺が美海にそう声を掛けていて、俺の隣に送る側で立っている聖納もいる。
「私も片付けしちゃってから帰ります」
「ウチもしなきゃやと思うんやけど、ゴメンね」
そう、聖納はやっぱり片付けをすると言って聞かず、美海はこの後家族でクリスマスの外食があるとのことで近くのコンビニの駐車場で家族が待っているらしい。
「予定があるのですから、気にしないでください」
「聖納も別にいいんだけど」
「やっぱり気になっちゃいますから……これは私のワガママです」
何度言っても、ここは頑なに押し通そうとするんだよな。
「……2人で叡智なことしたらダメやからね?」
美海がジトっとした目で俺と聖納に釘を刺してくる。
まあ、だよな。そりゃ警戒するよな。
でも聖納にだって門限があるし、もう少ししたら帰らなきゃいけないだろうから、そんなことをおっぱじめる時間などないはずだ。
「わ、分かっているって」
「せーちゃんも! 抜け駆け禁止やよ!」
「うふふ……分かっていますよ」
「ほんとかな……」
聖納には時間を守らなかった前科があるから、美海の疑いが完全に晴れることはないようだ。
俺は多分信用されているよな? そう俺は信じたい。
「美海、時間、大丈夫か?」
「あ、うん! それじゃあね!」
美海がスマホを見て、ちょっと焦った様子を見せる。今スマホが震えたから、家族からのリンクメッセージが飛んできたのだろう。
「また冬休み中に3人で会いましょうね」
聖納が言うように、冬休み中に何回か会う予定が既にできている。もちろん、それぞれと2人きりで会う日もある。
「うん! あ、ひーくん……んっ」
美海が口を少しだけ突き出している。キスをせがんでいるのだろう。美海は前よりも積極的になっているよな。
俺はそれに応えて、唇どうしを軽く触れさせるようなキスをした。
「じゃあな」
「うん! ありがと!」
美海が帰って、急に静かになる。
聖納は自分の腕を俺の腕に絡める。
「さて、片付けしちゃいましょうか。時間も惜しいですから」
「なんだか悪いな……やっぱり今からでも送るしさ」
俺が申し訳なさそうに言うと、聖納は人差し指を俺の口元に近付ける。
「さっきも言いましたけど、これは私がしたいからです。もう言いっこなしですよ?」
こういう時は謝るんじゃなくて礼を言うと喜ぶ。
「ありがとう」
聖納は笑って、俺をそのままキッチンまで引っ張っていく。
引っ張って行かれたのはいいが、結局、俺は皿洗いをする聖納を見ながら話をするだけでいいと言われてしまう。手持無沙汰もいいところだが、何かをしようとすると聖納が頬を膨らませて口を尖らせるので、大人しく聖納の傍にいることしかできなかった。
「さて、終わりました」
聖納が皿洗いもテーブル拭きも果ては掃除掛けまでささっと終わらせて、くたくたとばかりに俺に真正面からだきついてきた。感謝と労いの気持ちを込めて、俺は聖納を抱きしめ返す。
「ありがとう。助かったよ」
「んふふ」
妖艶な笑み。
俺を抱きしめていたはずの両手のうち、右手が俺の身体をなぞりながらいけない場所へと動いていく。
「せ、聖納?」
「まだ時間ありますよ?」
パっと時計を見ると、聖納が門限で帰る時間ギリギリだ。
全然時間ないだろ。
「しないって美海と約束しただろ? それにもう遅いし、門限的にもう帰らないとダメじゃないか?」
「今日は泊まっていきたいです……こっちも私にいてほしいって言っていませんか?」
聖納は服越しでも直接触ることなく、内股をまさぐって、俺をその気にさせようとしている。正直、けっこう限界に近いのは確かだ。今も聖納の甘い匂いのせいで、俺の本能が理性を押しのけようとしている。
だけど、泊まりはダメだし、叡智なこともダメだ。
「……泊まりも叡智もダメだよ……って、うわっ!」
聖納が勢いよくもたれかかるように身体を押しつけてきたから、不意のことで踏ん張れなかった俺はいとも簡単に押し倒されてしまった。
聖納の息が荒い。
「んふふ……今日は散々焦らしたから、ほら、こんなにも元気じゃないですか。エッチがしたくてたまらないんじゃないですか? ゴムだってたくさん用意しましたよ?」
俺の右手が聖納の左手と恋人繋ぎのように絡まり、俺の股の間に聖納の右脚を差し込まれ、聖納の頭がまるで俺の心音を聞くかのように胸に当てられて、俺の元気な俺は聖納の下腹部辺りを押している。
それと、いつもの濁した「叡智」って言葉じゃなくて、欲望に訴えかけてくる「エッチ」って言葉で聖納が容赦なく俺の本能を呼び起こそうとしてくる。
マズい……状況の全てが聖納の思う方に向かっている。
「それはそうだけど、泊まるのも、叡智なこともダメだ。約束したし、嘘を吐きたくない」
「どうしてもダメですか? 私のこと、仁志くんの好きにしてくれていいんですよ?」
聖納の右手が服の中に滑り込んできて俺の胸をゆっくりとなぞる。
懇願にも聞こえる甘い誘惑が俺の意志をドロドロにとろけさせようとする。
俺が少しでもその気を起こせば、理性がすべて瓦解してしまう。
数分で終わるわけのない行為は、聖納を泊める口実と美海との口約束の反故になってしまう。
それだけはなんとしても避けないと……。
「前にも言ったけど、俺は嘘吐きになりたくないし、聖納のことも嘘吐きにしたくない」
「ムラムラしてしょうがないはずなのに頑固さんですね。仁志くんだって男の人なんだから、もっと欲望に忠実だと思ったんですけどね」
その通り。もう一押しされるとマズい。
それを悟られないようにしながら、それこそ頑固に暴走する聖納を食い止めないといけない。
「聖納の気持ちはすごく嬉しいけど、安易に流されて誰かを傷付けることはしたくないんだ。美海も聖納も誰も……」
自分でも都合の良いことを言っていると思う。
だけど、それが本音だ。
安易に誘いに乗って、聖納までも傷付けたくない。
……あれ……でも、それって……いや、違う……美海と聖納が逆でも同じ対応をするはずだから……。
「……そうですか。残念。親にも許可をもらってきたんですけどね。お友だちの家にお泊りするかもって言ったら、お父さんなんて喜んで泣いていましたし」
……ちょっとだけ冷静になれた。
「それは友だちだからだろ。しかも女の子の友だちだってお父さんに勘違いさせたろ? 彼氏って言ったら喜んでないぞ、絶対……分かっていて聖納も濁しているだろ、それ」
娘が彼氏の家にクリスマスイブにお泊りとか、性なる夜としか思わんだろ。
「ふふふ、そうですね。分かりました、今日は引きます。でも……私、負けませんから」
「聖納……」
聖納は身体を起こして俺から離れる前に唇をそっと重ねた。
今日はもうこれで良しとしてくれるようだ。
「好きです、愛しています」
「ありがとう。俺も聖納のことが好きだよ、愛しているよ」
「……きっと私が仁志くんの1番になってみせますから」
俺は聖納の言葉にチクリと胸の痛みを覚えて、それがいつまでも消えないで残る。
俺は……きっと……。
それは聖納も分かっていて……。
それから俺は半ばごり押しで聖納を家まで送り届けた後、帰り道になんだか辛くなって、情けなくなってきて、べそをかいて、歩きたくなって、自転車を押しながら歩いて帰った。
ご覧くださりありがとうございました!
この話で第3章【1年生2学期】は終了です。
次から第4章(最終章)【1年生3学期】が始まります。
次回更新は10/6(月)予定です!