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3-31. 12月……おーさま、だーれだ?(2/2)

簡単な人物紹介

金澤(かなざわ) 仁志(ひとし):本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。

能々市(ののいち) 美海(みなみ):ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。

津旗(つばた) 聖納(せいな):ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。

 ついに始まったドキドキ王様ゲーム。クリスマスパーティー用のLED照明で薄暗いからドキドキな雰囲気はさらに倍増している。


 少し暗い中でそっと自分の数字を見ると、2と書いてある。たしかにこの暗さだと、どんなに目が良くても瞬間的に他の人の数字を見るのは難しいよな。それに薄暗いと叡智な感じもするし。


 まさに王様ゲームに適したシチュエーションって感じだ。


「ウチがおーさまや!」


 美海が嬉しそうに宣言した。


「うふふ、おめでとうございます。では、王さま、ご命令を」


 聖納が命令を促すと、美海がじっと無言で俺の方を見つめてくる。


「ん?」


 なんだ? なんかすごい見てくるけど……。


 美海はやがて決心したように大きく1回頷いた。


「……1番がおーさまをぎゅーって30秒抱きしめる!」


 おぉ、1回目(さいしょ)から「抱きしめる」のか。まあ、時間もそこまでたっぷりあるわけじゃないから、様子見もなくハイペース気味なのか?


「あら、1番は私ですね」


「んにゃ!? ひーくん、1番って感じがしたのに!」


 俺は美海の言い分でズッコケる動きをする。


 俺を穴が開きそうなほど見ていたのは俺の数字を予想していたわけか。


 そんなに1番って感じの顔をしていたのか?


「ははは……どんな感じだ、それ」


 美海が残念そうにする中、聖納が美海に近寄っていく。スマホをポチポチ打っていたと思ったら、サンタのように赤いセーターを脱いで半袖で無地の白シャツ状態になる。


「では、ぎゅーってしますね。せっかくだから、セーターを脱いで……ぎゅー」


「ふあああああ……やあらかい……」


 聖納がむぎゅっと美海を抱きしめると、聖納の胸がこれでもかと変形している。聖納はぎゅうぎゅうと抱きしめてから軽く離してを繰り返しているからか、胸が弾みに弾んでぽよんぽよんと聖納の身体と美海の身体の間で別の生き物のように跳ねていた。


 しかし、女の子どうしのハグも眼福というか、見ていてこう理性を削ってくる。


 しばらくすると、聖納のスマホが震えながら音を鳴らし始める。しっかりと30秒を測っていたようで、ようやく2人が離れた。


「んふふ……30秒経ちましたね。少し強めに抱き締めてみましたけど、美海ちゃん、痛くなかったですか?」


 聖納がそう訊ねると、美海はいつもの元気のある感じではなくて、どこか緩慢な動きでゆっくりと頷いていた。


「すごかった……」


「…………」


 すごかったか。そうだよな。分かるよ。


 これ、進めば進むほど、服を脱ぐ可能性もあるわけで、つまり、下着姿や裸で抱き合う可能性もあるってことだよな。


 ……あ、これ、逆に最後までできないから、俺に対する拷問になるかもしれない。


「では、次に仁志くんがシャッフルしてくれますか? 次は仁志くんも参加できるといいですね」


「あ、あぁ」


 なんか聖納に見透かされているような気にもなったが、とりあえず、ゲームを進めるために聖納のシャッフルと同様に丸箸を紙コップの中に突っ込んで、2つの紙コップをシェイカーのように振りまくる。


 10秒くらい振ってから蓋側にしていた紙コップを外して、美海、聖納、俺の順で箸をつまむ。


「おーさま、だーれだ?」

「王さま、だーれだ?」

「王様、だーれだ?」


 引き抜いた丸箸を見ると、3って書いてあった。今回も王様にはなれなかった。まあ、まだまだ始まったばかりだしな。


「あら、今度は私が王さまですね」


 聖納が証拠とばかりに俺や美海に自分の丸箸を見せてくる。


 たしかに王冠がしっかりと書いてあった。


「あー、ウチ、い——はっ!?」


 ここで美海がやらかしてしまう。


 うっかり聖納につられて自分の数字を言いかけてしまった。言いかけただけだが、頭文字を言うだけでももう確定してしまうので、実質自らペナルティを受けにいったようなものだ。


 これで美海が1番だと確定した。


 もちろん聖納が聞き逃すわけもない。


「……んふふ、聞いちゃった♪ 2番と3番がキスを30秒してください」


 ここで王様と言わないところに聖納の賢さが表れていて、俺は思わず感心してしまう。


「なるほどな。俺は3番」


「残っているくじが2番だから私ですね」


 そう、王様と数字の場合、自分と自分になる可能性もあるが、美海の数字が分かった以上、残りは俺の3番と聖納に当てられる2番しか残らない。


 これで俺と聖納が30秒キスすることになる。


 美海がローテーブルに頭を擦りつけるように突っ伏した。


「あああああ……ウチのバカあああああ……」


 聖納が俺の首に腕を回して、ぴたりとくっついてくる。薄暗い中、お互いの吐息が感じられるほどの近さで聖納をまじまじと見ていると、ちらりと前髪からややつり目がちの目と瞳が珍しく出てきた。


 きれいだな。そう思っていると、スマホをいじる聖納の腕の振動が首に伝わってきた。


「30秒、スタート……あむっ」


「ん……」


 聖納が俺の唇に軽く噛みついてきて、思わず声が出てしまう。


「……ん……んっ……ふっ……ふ……んうっ…………あっ……ん……あむ……」


「ん……」


 聖納は舌を絡める度に吐息を漏らしたり声にならない声を出したり、盛り上げるための演技なのかもしれないが俺は間違いなく興奮する。


 一方の俺はあまり声を出さないが、だからこそ聖納は俺に声を出させようと必死になっている気もして、それも俺の興奮を誘う。


 ……これ、やっぱり、興奮しきった俺って、最終的に生殺しじゃないか?


 ちらっと美海を一瞥すると、じっとこっちを凝視して息を呑んでいた。


 やがて、タイマー音が鳴る。


「ん……残念、30秒経っちゃいました。仁志くん、段々とキスが上手になっていますね。私ばかり声が出ちゃって恥ずかしいです」


 聖納が唇を離した瞬間、俺と聖納の間に逆アーチができていた。


「回数は重ねてきたし、聖納の好きな感じも分かってきたしな」


「嬉しい……もっとしたいな」


 いつもの「ですます」じゃない聖納の言い方に、予想できなかったくらいにときめいた。


 これは反則級だろ。


 俺の雰囲気を敏感に感じ取ったのか、美海がちょっと大げさに音を立てて紙コップの中に丸箸を入れ始めた。


「次! 次やよ! 次はウチがシャッフルするもん! えええええいっ!」


「美海、いいな。一生懸命でかわいい」


「ふえっ!? えへへ……」


 美海が一生懸命に紙コップをシェイクしていると、リスがクルミを割ろうとしている感じに見えてきて、小動物感が満載になる。


 一生懸命なところがかわいい。満点かわいい。


「さ、では、いきましょ?」


「おーさま、だーれだ?」

「王さま、だーれだ?」

「王様、だーれだ?」


 うーん……また数字か。2番だな。さて、王様が残っているならやり直しだが。


「あ、ウチがおーさま!」


 残念。美海が再び王様に返り咲いた。


「美海ちゃん、引き運がいいですね。命令も期待通りになるといいですね」


 美海が再び俺をじっと見つめてくる。


 美海、俺は2番だぞ。分かるかな?


 美海は俺の目を見て、なにか自信ありげに大きく肯いた。


 まさかテレパシー的に伝わった?


「1番とおーさまが、さっきのひーくんとせーちゃんのキスくらいすごいキスを30秒する!」


 うん、全然だわ。1ミリも伝わってない。


「あら、1番は私ですね」


 まさかの聖納……ってことは……美海と聖納の……熱烈なキス!?


 まさかまさかの展開に少し興奮する。いや、百合とかNTR(ネトラレ)とかに興味があるわけじゃないけど、なんか興奮してきたな。


「えええええっ!? またせーちゃんが1番なん? そんなに1番にならんと思って言ったんに!」


 気持ちは分かるけど、その分の悪い賭けはなあ。


 聖納は美海の方に寄って、何の躊躇いもなさそうに美海の首に腕を回した。


「女の子どうしですけど、命令ですから30秒しましょうね」


「あっ……えっ……せーちゃん、本気なん?」


 美海が日和った。少し身体を引き気味の美海に対して、聖納はずいっと近寄って、そのまま押し倒すんじゃないかってくらいに身体を寄せている。


「スタート……ん……あむっ……」


「あえっ……んんんんんっ!? ん……んん! んん……んうっ……ん……んふ……ふっ……」


 聖納の舌技に美海が頬を赤らめてビクビクと身体を震わせながら、ちょっと人には見せられないような顔になってきている。


「叡智過ぎる……それで俺が生殺しすぎるだろ、これ」


 俺の俺はかなり元気だ。この元気を美海や聖納にぶつけられないのは辛すぎる。


「……終わりましたね。どうでした?」


 聖納は余裕そうだが、美海は息も絶え絶えという感じでとても叡智だ。


「すごかった……」


「美海、聖納との感想が全部それなんだが……」


 このまま3人で叡智に持ち込みたい。2人に欲望をただただぶつけたい。


 言えばできそうな気もする。聖納が率先して同意してくれて、美海が渋々だけど了承してくれる気がしている。


 でも、その一押しが俺には言えない。


「だって、すごいんやもん……やけど……ひーくん……ウチ、ひーくんとしたい……」


 そう、美海は俺と2人の方が良さそうだからな。


「お、おう……俺も……」


 その後、俺はムラムラする欲求をなんとか抑え込みながらも続けていく。


 ドキドキ王様ゲーム。その名の通り、ドキドキすることがドンドンと起きていく。3人とも下着姿になるまで脱いだし、俺と聖納で太ももを触り合いっこしたり、俺が美海をくすぐりまくったり、聖納と美海が胸を揉み合いっこしたりもした。


 聖納が徐々に命令をエスカレートさせていって、美海がそれに合わせて過激な命令を言い始めると言うスパイラル関係になっていたのも原因だな。


 もちろん、俺にとって生殺しもいいところで、俺の興奮はずっと最高潮を維持していて、2人にも俺の俺が元気なのはとっくにバレていた。


「もう……こんな時間か……終わりにしないとな……」


 楽しい時間はあっという間に過ぎ去って、もう夕方もいい時間だ。


 ちなみに、このゲームで1つだけ残念なことがあった。


「仁志くん……1回も王さまになれていませんね……」


「ひーくん、くじ運悪すぎ……」


「そんなこと言われても……」


 はい、俺は1度も王様になれませんでした。


 本当に1度も。


 いや、楽しかったよ? ドキドキもしたし、役得もあったし、なんだったら1番得しているのも俺だと思うよ。


 けど、1度として王座に座ることもなく、王冠は目の前の2人の間を行き交うばかりだった。


「仁志くん、最後に王さまになってもいいですよ?」


「え?」


「うん……1回くらい、ひーくんにおーさましてほしい」


「あ、ありがとう……」


 俺はいい彼女たちを持ったな。


 俺は王様の丸箸を無条件で渡され、聖納と美海がそれぞれ丸箸を引いた。


「それじゃ、最後に相応しい命令をお願いしますね、王さま」


 聖納が日和るなと言わんばかりに大胆なことを言ってくれる。


 もう下着姿だけど、下着を脱がして〇〇するは命令が2つになるからダメだし、かといって、下着姿で〇〇するのもインパクトがな。


 ここは思いきって俺がどちらかの下着を脱がして裸にするか。


「じゃ、じゃあ……そうだな……最後だし、大胆にいくか! 王様が2番の下着を脱がす! 2番は20秒以上立って見えるように!」


「…………」

「…………」


 俺が高らかに命令を言うと、聖納と美海の2人がお互いに顔を見合わせて、無言のまま苦笑いをし始める。


「あれ? まさか……」


「……私は3番ですね」

「……ウチは1番やね」


 ってことは、2番って俺じゃん。


「……ははは」

「んふふ、仁志くん、本当に面白い」

「あはは、ひーくん、今日は運が悪いね」


 その後、俺は自分で下着を脱いで、堂々と全裸を聖納と美海に見せつけることになった。美海も聖納も俺の元気な股間を凝視している。


 そう思えば、まあ、これはこれでありなのか?


 こうして、ドキドキ王様ゲームは俺の自爆で終わりを迎えるのだった。

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