3-30. 12月……おーさま、だーれだ?(1/2)
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
津旗 聖納:ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。
王様ゲーム。
言わずもがなパーティーというか飲み会とかレクリエーションとかでド定番中のド定番のゲームで、王様と人数分の数字のくじを作って参加者がくじを引く。
引いたくじが王様だった場合、「1番が〇〇をする」とか「1番と2番が〇〇をする」とか「王様と1番が〇〇する」などの自分も含めた何らかの命令を出すことができる。命令は罰ゲーム要素も強く、恥ずかしいことをするとか告白をするとかのほかにも、脱いだり揉んだり舐めたりキスをしたりなどの叡智なものまである……というか、叡智なことをすることがメインでさえある。
大学に入ってからするものかと思っていたけど、しかも陽キャくらいしかしないものかと思っていたけど、まさか、彼女たちとのクリスマスパーティーですることになるとは。
俺たちは一列に並んで座っていたが、王様ゲームをするってことでローテーブルを囲むように座り直した。時計回りで聖納、俺、美海の順になっている。
「ドキドキするために、基本的には叡智な命令にしましょう。でも、本番はナシです」
本番言うな。どこでその知識を手に入れてきたよ? まあ、今はネットで調べれば何でも分かるか……。未成年が分かっていい単語じゃないと思うんだよな。まあ、俺も分かっているってことは棚上げするけど。
「う、うん! 本番? はナシで、え、えええ、えええええ、叡智な感じね!」
美海は本番って意味分かっているのか? 分かってなさそうだけど、うん、美海には純粋なままでいてほしいな。
「それは分かったけど、3人だと人数少ないからかなり王様優位だよな」
参加者が少ないってことは選択肢がかなり絞られるってことだ。
特に俺が王様の場合、王様を含めるだけで少なくとも美海か聖納かに叡智な命令ができるわけだろ? もちろん、全力でさせてもらうぞ。朝からもう煽られっぱなしで理性がもうほぼないからな。
「そうですね。なので、特殊ルールを追加したいと思っています」
聖納が小さく微笑む。
「特殊ルール?」
「特殊ルール?」
俺と美海が聖納の言葉を異口同音で同時にオウム返しする。
あれ? 美海も聖納と一緒に提案している側だと思ったけど、もしかして、聖納に唆されて王様ゲームをしようとだけ言った感じか?
「はい。くじを4つにして、王さま、1番、2番、3番にします」
……くじが1つ多い?
「くじを4つ? 余った数字はどうするん?」
「命令が出るまで伏せておいて、命令後に余った数字が王さまの数字になります。王さまが残ったらもちろんやり直しですよ」
あ、そういうことか。
「つまり、王様が自分に命令をしてしまうこともあるってことか?」
王様は相手の数字も自分の数字も分からない状態で命令を言って、その命令が自分に跳ね返ってくる可能性もあるってことだな。
「そうですね。例えば、『1番が2番を抱きしめる』と命令して、王さまが私、仁志くんが1番、美海ちゃんが3番だとしたら、2番は私になるので、仁志くんが私を抱きしめることになりますね」
「ちょっと面白いかも」
たしかに一ひねりされている感じはあるし、俺も絶対に美海や聖納と何かムフフなことができるわけじゃないってことだよな。
ん? あれ? 俺が俺とする?
「ちなみに、それだと王様と余った数字で何かする命令をした場合、どうなる?」
「いい質問ですね。先ほどの例で言えば、『王さまが2番を抱きしめる』と命令して、余った数字が2番の場合、王さまが自分を抱きしめることになりますね」
本当に自分でどうにかするしかないわけか。
叡智なことでもあんまり過激なことや、自分一人ですることになったらできないようなことを頼めないようにする狙いもあるのかな。
「ふーん、もし自分一人じゃできないことだったらどうするん?」
美海の質問ももっともだ。俺は一人じゃできないことを言わない前提にあったが、一人でできると思ったら実はできないことだってあるだろうしな。
「うーん、なんとか工夫して達成するがベストですけど、時間が掛かっても面白くないですしね……そうですね……ペナルティとして、次の番にまず王さまを抜かした状態で引いた上に、自分の数字を明かす、でどうでしょうか?」
あ、俺がペナルティ受けたら、確実に何かさせられるな。聖納や美海にしても、相手に出し抜かれるってことだよな。
「まあ、そこらへんは追々考えてみるとして、意外と面白そうだからやってみるか」
「うん、やろやろ」
俺も美海も納得したので、聖納の言った特殊ルールを採用することになった。
聖納がキッチンの方から竹製の丸箸を2膳、つまり4本取り出してくる。予め分離しているタイプだから割れ方で重さが若干違うってこともないか。聖納はそのままペンで器用に小さな数字と王冠マークを書いた。
あっと言う間に、丸箸くじの完成だ。
「では、この割箸に王冠と数字を書いてあります。これを——」
「ちょっと待った」
俺はくじを紙コップに入れようとする聖納を一旦制止した。
「んえ?」
「仁志くん、どうしました?」
「くじをよく見せてもらってもいいか?」
「んふっ……いいですよ? どうぞ」
念のために変な細工がないかを確認する。と言っても、聖納が俺にでも分かるようなリスキーな細工をするはずもないので、見たところで何かが分かりそうな感じもしない。
「ふむ。数字はアラビア数字で、王冠は山が3つなんだな」
「もしかして、私が自分だけ分かるように何かを仕掛けていると思っていますか?」
聖納は暴走することがあっても、不正をするような女の子じゃないってことも分かっている。どちらかといえば、後で偶然聖納に良いことが続いても疑いたくないから先にそうじゃないことを確認したいって思っただけだ。
「さすがにそこまで思ってないよ。それにもし聖納がそういうことをするなら、きっと俺や美海にバレないような工夫をすると思うし」
「んふっ……信用されているような信用されていないような感じですね? もし私が不正をしていたら、叡智なお仕置きをしてくれてもいいですよ?」
それはそれで魅力的で何としてでも見つけたくなるが、美海の熱い視線を感じて肝が冷えてきたのでやめておこう。
「言い方が悪かった、ごめん。後から偶然が重なっても疑いたくないから先に見せてもらっただけだ」
「なるほど、そうですよね。確認ありがとうございます。もう大丈夫そうですか?」
「あぁ、見せてくれてありがとう」
聖納は気分を害した様子も見せず、紙コップを2つ用意してからくじを紙コップの中に入れてしまう。
「このくじを大きい紙コップの中に入れて、さらに紙コップで蓋をして……シャッフル! ふぬぬぬ!」
聖納が両手を使ってくじを大振りでシェイクしていると、それにつられてたわわな胸部がすごい勢いで揺れている。
「おぉ! そこまでシャッフルしていたら、たしかによく混ざっていそうだな!」
思わず、俺は感嘆の声を漏らす。たゆんたゆんとか、ぶるんぶるんとかって擬音が聞こえてきそうだ。いつまでも見てられるし、なんなら揺れないように手で支えてあげたい。
「ひーくん? ひーくんはいったい、どこ見てるんかな?」
……美海の言葉に、俺はいろいろと冷静さを取り戻した。それにしても、聖納のくじシャッフルは誘惑が強すぎるな。
やがて、聖納が腕を振り終えて、蓋側の紙コップを取り外した。
「さて、シャッフルした人を最後として、時計回りで順番に手に取ってから一斉に引きましょう。書いてあるものが見えないように引き抜いたらすぐに手で隠してくださいね」
なるほど。公平な感じがする。
「じゃあ、これだな」
「ウチはこれ」
「じゃあ、私はこれですね」
俺がまず1本を手に取り、続いて美海がパっと選んで、聖納が2本から数秒考えてから手に取る。
「じゃあ、掛け声いくぞ」
美海と聖納の頷いている姿が見えた。
「おーさま、だーれだ?」
「王さま、だーれだ?」
「王様、だーれだ?」
俺たちは勢いよくくじを引き抜いて、いよいよ、ドキドキ王様ゲームが始まる。
ご覧くださりありがとうございました!