3-28. 12月……楽しもうね?(2/2)
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
津旗 聖納:ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。
ゲームを始めて1時間ほど。ふと気付くと雨足が強くなっていた。そう気温も高くなってきたからか、みぞれでさえなくなって、すっかり雨だ。レースカーテン越しに見える雨粒が窓にぶつかって伝い落ちていく様子はちょっとだけ切ない。
しかし、そんなアンニュイというか切ない空気感も俺の両隣を見るとあっという間に吹き飛ぶ。
「えええええいっ! んにゃ!? えええええいっ!」
美海がテレビ画面を凝視して攻撃ボタンをひたすら連打している。それだけならまあ、ガチャプレイみたいなものだが、美海はどうも混乱すると移動スティックも一緒に連打する癖があるようだ。それで横に逃げきれずにCOMプレイヤーにはっ倒されていることがしばしばあった。
安定の初心者プレイヤーだな。
「当たって! うぅ……まだまだっ!」
聖納は端的に言えば、ボタンを冷静に押すタイプだ。ただし、反応速度が遅いからとっさの判断が苦手なようで、逃げ回って逃げ回って後ろから敵を叩く系のアクションミニゲームでは絶望的に弱い。
今も迎え撃とうとしたまではいいが、攻撃ボタンを押すのが遅かったからかCOMプレイヤーにボッコボコにはっ倒され始めている。
「んああっ!」
「ああんっ!」
「んきゅ……むうっ……あっ」
「そんな、いや……んっ……」
「ダメ……あああああ……落とされちゃった……」
「あっ、あっ……ああっ……落ちちゃう……ふあっ」
「……2人とも……もうちょっとだけでもいいから声を抑えてもらえるか? 集中できないから……」
声がちょっと……いや、だいぶ叡智だ。両隣から交互にステレオで聞こえてくる喘ぎ声にも似た敗北ボイスは俺の集中力を簡単に乱してしまう。
とはいえ、持ち主として、簡単に負けるわけにもいかない。
結局、2人とも負けた後に、何とか俺がCOMプレイヤーの隙を突いて倒す。4人のソロ対戦なので、俺がポイントをゲットしてこのミニゲームは終了。
「次は負けたくない! 次は何かな?」
「次はゆっくりできるのがいいですね」
美海も聖納も楽しそうで何よりだ。
美海と聖納がワクワクして待っているように、次のミニゲームはランダムで選ばれる。ある意味何が来てもおかしくないが、似たようなゲームはどうにか避けたい。
俺の理性がもたない。
「お、決まったぞ」
次のゲームは記憶して再現する系のゲームだった。
「うわっ! えっ? あっ! また間違えた!」
「ふふふ……まだスティック操作に慣れていませんね……」
「意外と再現が難しいよな」
ちらっと横目に2人を見てみると、舌をチロッと出して集中する美海が四苦八苦を表情でも再現している一方で、聖納は口の端を少しだけ上げて余裕そうな表情を浮かべている。
敵の妨害がない上に、時間内にじっくりと操作できるミニゲームは聖納に軍配が上がるな。このままじゃ、俺でも勝てないっぽい。
「むーっ! 上手く動かない! うにゃあああああっ!? 全然違うのになった!?」
「ふふふ……私の勝ちですね」
予想通り、美海が負けて少し頬を膨らませる。
たまらず美海の頬を突いてみると、ほどよい弾力と感触があって、いつまでも触りたくなる。
「むーっ……何?」
「あ、ごめん。つい触りたくなって……」
美海は口を尖らせてジト目でこちらを見てくるけれど、負けた直後よりも機嫌がちょっとだけ良くなっているようにも見えた。
「……次に行きますよ?」
ふと聖納の方を見ると、嬉しそうにしていたはずの聖納の口元が真っ直ぐになっていた。
次に選ばれたゲームは打って変わって、投げられたボールをタイミングよく打ち返すミニゲームだ。聖納の口がみるみるうちに真っ直ぐから「へ」の字へと変わる。
……苦手なんだろうな。
「はいっ!」
「むむっ……ああんっ……ダメ」
「はいっ!」
「は、速い……速いです……もっとゆっくり……もっと優しく……ふあっ……いじわる……」
「聖納? わざとじゃないよな?」
「???」
予想通り、美海がほぼ完ぺきなタイミングでボールを打ち返すのに対して、聖納はまったく掠りすらしない。
あと、聖納のセリフがいちいち叡智なんだが、自覚がないようで本当に困る。
「ふふんっ。ボタンを押すタイミングなら負けないんやから!」
「か、勝てない……です……」
やがて、美海の圧倒的な勝利で終わり、聖納が圧倒的な大差で負ける。なんだったら俺も負けている。まあ、順位によるポイント獲得制だから、どれだけ差があってもポイントが大きく離されることもないけど。
「次がんばればいいんだよ」
俺はしょんぼりとする聖納の頭をポンポンと撫でた。
「……はい!」
聖納の元気が出たようで何より……美海の方から何やら視線を感じないこともないが。
次のミニゲームが選ばれると、2v.s.2の邪魔もできる二人三脚ミニゲームだったので、さらにチーム分けもランダムで行われた。
俺と聖納、美海とCOMプレイヤーに分かれると、美海がコントローラーから手を離して、俺のことをポカポカと叩き始める。
ゲームで白熱し過ぎているのか、加減ができてなくてちょっと痛い。
「なんでウチがCOMとペアなん!? ひーくんとがいい!」
「そ、そう言われても」
俺が美海の方を見て困った感じで対応していると、逆側の聖納が俺に身体を預けるように寄ってきた。
……聖納のむにっとする感触に、俺は顔を緩ませないように必死にならざるを得ない。
「美海ちゃん、ランダムですから仕方ないですよ? 仁志くん、2人の息を合わせましょうね」
「お、おう」
今が好機とばかりに、聖納が俺に身体をすり寄せてくるし、俺の膝に手をそっと置いて薬指だけでゆっくりとなぞってくる。
……どうも俺をその気にさせるつもり満々のようで、俺が聖納の方をしっかりと見据えると、ニコッと整った笑みを見せつけてくる。
「むーっ! 負けない! ウチが勝つもん!」
「聖納、がんばろうな。妨害は俺がするから」
「はい、お願いしますね」
ゲームが始まると、2つのボタンをタイミングよく押していく。聖納も完全に一定のリズムであればそう難しくないようでしっかりと押してくれる。
俺はそれに加えて、相手を邪魔したり、相手の邪魔を防いだりするボタンも含めた4つのボタンを駆使して、美海とCOMプレイヤーのペアを苦しめる。
美海は2つのボタンまでなら問題ないが、妨害や妨害阻止まで含めたボタン4つだと混乱し始めるようだ。途中からCOMにそこら辺をすべて任せるようになるが、COMと俺じゃ差は歴然だ。
「あっ! 痛っ! ねえ、ひーくん……ウチのキャラを邪魔せんといてほしいなあ」
「そういうゲームだし、そういうわけには……」
美海がボタンをポチポチ押しながら、ゲーム画面を見ずにこちらを向いてきてうるうるっとした瞳の上目遣いでお願いしてきた。
俺だけなら負けてあげてもいいけど、聖納とのペアだからいろんな意味でその誘惑に負けるわけにもいかない。
「んふっ……ゴール……ですっ!」
「やったな」
「んにゃあああああっ!?」
美海が遅れてゴールして誰とも負けを共有できないからか、ちょっとつまらなさそうな雰囲気でむくれている。
「んふふ……私たちの勝ちですね」
「むーっ! 次はウチとひーくんがペアになるもん!」
「いや、だから、ランダムだって」
しかし、美海の願いが叶ったのか、俺と美海、聖納とCOMプレイヤーのペアでミニゲームだ。
「やった! ひーくんと一緒のペア!」
「がんばろうな」
「うん! 連打ならウチに任せて! ウチが勝利の女神になるもん!」
決まったルートにある障害物を2人で協力して壊すミニゲーム。
美海の得意な連打だけで良いからだろうか、すでに勝ちを確定する美海がかわいい。
「……打ち砕きます」
「打ち砕っ!?」
聖納の雰囲気があからさまに危険な感じだ。
そもそも邪魔ができるミニゲームじゃないのに、打ち砕くってどうするの? まさかコントローラーでも物理的に破壊するのか? それだと、ただの暴力だけど?
そうこう考えているうちにミニゲームが始まり、障害物のところでとにかく連打せよとボタン表示が出てくる。予想通り、俺と美海のチームの方が数歩リードといった感じだ。
「ふふん、ひーくんがいれば百万倍パワーやもん!」
もう勝ち誇っている美海はかわいいな。
一方で聖納は……ん? こっちを見ている? ん? 近付いてきてないか?
「むむむ……こうなったら……えいっ」
「んぐっ!?」
良い匂いがして、口の中がなんだか甘くて、脳がとろけそうになる。
横目で警戒していたものの、半分ゲームに集中していたこともあって、聖納がキスしてくるのを全然避けられずに俺は画面も見えずに聖納と舌の絡まる濃厚なキスをゲーム中にしてしまう。
いや、避けんよ? じゃなかった、避けられんよ? って、聖納!? さすがに、そ、そこはズボン越しでも触ったらダメだぞ!? 我慢ができなく……あ、打ち砕くって……まさか俺の理性!?
「ん? えっ!? せーちゃん!? 何やってんの!?」
美海の声で、快楽の波からどうにか引き揚げられる。
「んちゅ……撹乱作戦です……あむっ……」
撹乱というか、錯乱か、いん……コホン、聖納の妨害も虚しく、俺と美海のペアが勝利を収める。ただし、美海はちっとも嬉しそうじゃなくて怒ってらっしゃる。
「邪魔もキスもダメに決まってるでしょ! ひーくんもさっと避けて!」
「無茶な……」
やっぱり俺にも怒るのね……。ってか、キスだけしか見えてなかったか。それ以上にマズいことがあったわけだが……バレなくてよかったか?
「ニヤけんといて!」
「はい……」
美海の怒りの矛先が何故か俺の方を強く向いている気がする。
解せぬ。
そう思いつつも次のゲームが始まろうとして、ペアも決まった。
「あ、ウチとせーちゃんのペアや」
「がんばりましょう」
美海と聖納、俺とCOMプレイヤーのペアだ。
お、相手を倒すアクション系か。さっきの感じだと、これなら、2人に勝てるかな。
「うん! ひーくんをボッコボコにする!」
「ボッコボコにしましょう」
「どうしてかな、不穏すぎるんだが」
なんかゲームの中じゃなくて、場外乱闘になりそう? 2人で結託されると勝てる気がしないな。
先ほどよりも警戒を強めてゲームを始めると、中盤辺りで動きがあった。
うん、ゲーム内じゃなくて場外の方だけどな。
「仁志くん、強い……こうなったら——」
「ウチがする!」
「なっ!? 今度はみ——んぐっ!?」
聖納の方を警戒していたこともあって、小柄な美海のするっと入ってくる動きを捉えきれずに美海の唇が俺の唇に強く押しつけられる。
「んふ……ちゅ……んっ……ほふふふほ? んちゅ……あむっ……あむ……んちゅ……ちゅ……」
何を言っているかはさっぱりだけど、その後に美海が舌を絡めてきたので、「こうするの?」なんじゃないかと推測する。
聖納よりも必死な感じがして、頑張っている感じがして、それがちょっと愛おしくなってしまう。
……いや、待て待て……2人ともさ、ゲームをさせてくれないかな。
「先を越されちゃいましたね。では、その間に勝っちゃいましょう」
しれっと聖納が動かない俺のキャラを叩き落としていて、それに気付いた美海がキスをやめてから聖納と2人掛かりで挟み撃ちをしてCOMプレイヤーを完膚なきまで叩いてから追い落としていた。
……えげつないな。
「やった、勝ったあああああっ」
「ズルい気がするんだが……」
「仁志くんは役得もあったと思いますけど?」
「……否定できない」
その後もゲームを続けて、3人は仲良く同数勝ちになって丸く収まった。
「それじゃ、パーティーの準備を始めましょうか」
「せやね」
「じゃあ、俺も動くか」
ゲームが終わってから、美海と聖納は調理を、俺は残りの飾りつけを始めた。楽しかったが、俺の理性をガリガリ削るのはやめてほしい……。
ご覧くださりありがとうございました!




