3-27. 12月……楽しもうね?(1/2)
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
津旗 聖納:ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。
12月はあっと言う間に過ぎ去って、今日はクリスマスイブ当日。
プレゼントも用意してあるし、美海と聖納から言われていた食材やお菓子も予算の限り用意した。飾りについては来年以降も使えるとのことで別途予算を出してもらえた。
寛大な両親に感謝しかない。まあ……俺に彼女ができたことがよほど嬉しいようで、どっちかと言うと、俺のためと言うよりは彼女たちのため感があるけど。
「仁志、いいな。ちゃんとするんだぞ」
「分かっているよ」
この「ちゃんと」が何に掛かってくるかによるが、いずれにしても「ちゃんと」するしかないのでそう返事するだけだ。
「お土産は買ってくるから」
「それよりもお年玉をちゃんと確保してほしい」
お土産も嬉しいけど、お年玉の方が大事。きっともらえる。何故なら、お盆休みのときも「独り暮らしの練習」という建付けで留守番させられているということになって、小遣いが無事にもらえたからだ。今回ももらえるだろう。
……もらえないと来年のデート代が割と厳しい。
「じゃあ、行ってくるね!」
「あぁ、行ってらっしゃい」
玄関先まで出て見送ると、車の中で彩が見えなくなるまで元気よく手を振っていた。
雪の降るホワイトクリスマスということもなく、雪になり損ないのみぞれの降る中で、両親と彩は朝も早々に親の実家へと急ぎ、俺はポツンと1人家に残っている。
「……寒っ……さて、早めに支度をするか」
俺は身体が冷える前に家の中へと戻って、もうちょっとマシな格好に着替える。それから、常温に戻しておいてほしいと言われた食材を冷蔵庫から取り出した後に、クリスマスの飾りつけを黙々とし始めた。
やがて、パーティーの飾りつけも8割がた終えてみぞれも少し弱まった頃にインターホンが鳴る。
来たか!
ふと時計を見て、時間的に美海と聖納の2人でまず間違いない。
俺は外の寒さも考えて、インターホンではなく直接玄関に向かって歩き出して、さっさと鍵を開けてから玄関の扉を押した。
間違いなくそこにいたのは美海と聖納だ。
「わわっ! インターホンじゃなくて直接!?」
美海はベージュ色のニット帽、長めのダッフルコート、ボア付きのハイカットブーツというベージュ尽くしの格好で立っていた。今日は長めの白系ソックスを穿いているが、相変わらず、素足も見せるオシャレ頑張りっぷりに強い信念を感じる。
女の子が身体を冷やすのは良くないってネットにあったけど大丈夫かなと思いつつ、びっくりする美海に軽く謝る。
「あ、すまん。時間ピッタリだから2人だと思って」
「んふふ……仁志くんがそれだけ私たちを待ち望んでいてくれたってことですよね」
聖納はショート丈の紺色ダッフルコートに真っ赤なスカート、黒タイツ、黒のハイカットブーツという美海より温かそうな格好をしている。それでも、スカートは寒そうだからズボンとか穿いてこないのかなとも思うけど。
あと、やっぱり荷物が多い。
聖納は相変わらず顔が半分以上隠れていて見えないが、口元が微笑んでいるところを見る限り嬉しそうにしてくれているようだ。
「ま、まあ……そうなるな」
聖納に言い当てられてしまって恥ずかしくなった俺はちょっと俯き加減にポリポリと頬を掻いて正直にそう告げた。
ふと、俯いていた顔を2人の方へ向け直すと、美海も聖納もニマニマニマっと笑っていて、美海が両手を広げて俺の方へ近付いてきた。
「ひーくん……んぎゅ」
「おっと……美海?」
「んぎゅぎゅ」
「すっかり冷たくなってるな。早く家に入らないと」
やっぱり外は寒い。美海に抱きしめられたときに美海の顔を撫でるように触れてみると、すっかり冷たくなっていることに気付く。俺で暖を取ってくれるならそれも嬉しいが、早めに家の中に入ってもらった方がいいだろう。
「美海ちゃん、ズルい! 私も……んぎゅ」
「せ、聖納?」
「んぎゅぎゅー」
なんと言うべきか、圧が違う。ここまで着込んでいるとさすがにこの大きな胸の感触など分かるわけもないのだが、何故だろうか、圧倒的な圧を感じる。
そうなると、反応する場所があるわけで、だけど、悟られるわけにもいかないわけで。俺は頭の中でまったく別のことを考えるようにした。
「むむっ……んぎゅぎゅー」
ここで負けじと美海がさらに強く抱きしめてくる。
……美海はね、身長差的にね、俯き加減になると美海の顔が俺の腹から下腹部あたりにくるから意識しちゃって困るんだよね。身体に回してくる手や腕も腰なんだけど、若干尻に近いというか。
「んぎゅぎゅ!」
聖納もさらに強く抱きしめつつ、俺と目を合わせて、キスをしてほしそうにちょっと口を尖らせている。美海が俯いていて気付かない内にキスをしてくれとでも言いたげだ。
だが、しかし、そんな不公平なことはしないからな?
「んぎゅー」
「んぎゅー」
いつまで俺は2人の抱きしめ攻撃を耐えればいいだろうか。
着込んでいる2人とはいえ、ぎゅっと抱きしめられて正気を保てている自分自身を褒めたい。ちょっとだけ、こう、むらっと叡智な気分が増加したくらいで踏みとどまっている。やはり、朝っぱらから、しかも、玄関で元気になるわけにはいかない。
……もう……限界だっ!
「ちょ、ちょっと、ここ玄関だから。おしまい! おしまいだぞ!」
俺がそう言うと2人は名残惜しそうに、いや、恨めしそうに俺から離れる。
あ、せめて、ぎゅっと抱きしめ返したり頭を撫でたりしてから言えばよかったかな……。
「むぅ……お邪魔します」
「むぅ……お邪魔します」
美海と聖納の異口同音の抗議。
あ、マズい、2人とも露骨に不機嫌になった。開始早々、テンションを下げてしまっては後に響く。
「えっと、抱きしめられるのは嬉しいんだけど、外じゃ恥ずかしいし、そういうのは中に入ってからで! ほら、パーティー会場はこっち!」
俺はちょっとテンション高めにして、パーティー会場のリビングダイニングへと2人の手を取って、丁寧なエスコートという感じで連れて行く。
オーナメントを付け終えたクリスマスツリーに、美海が文化祭で使っていたものと同じハート形の風船も用意して、さらにLEDキャンドルライト、緑と赤の逆三角が交互に連なるガーランド。
照明も普通のライトは消して、黄色に光る長いイルミネーションライトを部屋の壁際に貼り付けるように配置して間接照明チックにする……予定だったけど、まだできていない。これで最後だったんだけど、間接照明にするには明るすぎたから紙か薄い布か何かで覆いたかったんだよな。
「わぁっ! パーティーって感じ!」
「すごい、いいですね。ワクワクしちゃいますね」
2人が喜んでくれて俺も嬉しかった。
「ようこそ、クリスマスパーティー会場へ」
俺が2人に恭しく礼をするとお姫様気分になってくれたのか、2人とも手荷物をそっと床に置いてから、ダッフルコートの裾の端を持って軽いお辞儀をし始めた。
すぐに3人で声を出して笑った。
「もう飾り付けしてくれたん?」
「まあ、家族の見送りで朝も早かったからな。後はこれだけなんだけど」
「わぁ……」
「わぁ……」
そう言って俺が普通の照明を消してイルミネーションライトをオンにすると、2人からうっとりとした感じのため息が出てきた。
「これをもうちょっと明るさを抑えようかなって思っているから、2人が料理をしてくれている間にこれをするつもり」
聖納が少し悩まし気な声を出してきた。
「うーん、料理は仕込むにしても、まだちょっと早いですね」
「せやね、ひーくんの飾りつけをウチらも手伝う?」
美海もそこは同意のようで、2人はすることがないと言わんばかりだ。
しかし、来てくれて早々に俺の飾りつけを手伝ってもらうのも申し訳ない。
「だったら、2人は来たばかりだから、少し休んで温まってくれていていいよ」
「うーん……そうですね……」
俺の言葉で聖納がダッフルコートを脱いでから俺に再び抱きついてきた。真っ赤なスカートだとは思っていたが、上着も白いラインが縦に数本入った赤いセーターを着ていて、おそらくサンタをイメージしたんだと思う。
セーターが大きめだからか胸元の谷間がちらりと見えたり、スカートも思ったよりも短かったりして、ちょっと叡智なサンタさん風だ。
「ごくっ……聖納?」
俺がつばを飲み込む音を立てた後に聖納を呼んでみると、聖納が衣擦れの音をさせながらセーターをずらして艶めかしい鎖骨や肩を大胆に見せつけ始める。
「中に入ったことですし……身体を温めるために……3人で……しちゃいます?」
さ、3人!? 3人って俺と聖納と美海ってこと!? いや、それ以外ないけどさ!?
言い出した聖納が顔を真っ赤にしていて、自分でも恥ずかしがっているのだろう。それがさらに俺の欲望を刺激するわけだが、聖納はそこまで意図していないと思う。
だからこそ、刺激が強すぎる。
「んなななななっ!?」
美海も聖納と同じようにダッフルコートを脱いで、俺に抱きつこうとしたまでは動いていたが、聖納の言葉を聞いて大口を開けたまま狼狽えて、その場で顔を赤らめつつ動きが止まっていた。
す、するのか……?
正直、俺はしたいけど……だけど……。
「ま、待てい。抱きついてもいいけど……それ以上は……だいたい朝っぱらから何をしようと言うんだ!?」
俺は何とか踏みとどまった。正直、やってみたい。
だけど、あんなに狼狽えている美海まで巻き込むのは良くない。それに、叡智なことをするなら1人を相手に集中したい気がしているのもある。
……だいぶ心残りだけど。
「ふふっ、冗談ですよ。さすがにまだ早いですよね?」
「ドキドキしちゃった……」
冗談……か? 冗談ならドキドキし過ぎて笑えない冗談だ。
美海はホッとした様子で胸を撫で下ろしている……よな? こっちをちょっと物欲しそうに見ているのは俺の気のせいだろう。
「ところで、仁志くんのお家には、パーティーゲームみたいなものあります?」
「突然だな……えっと、パーティーゲームか。それならこれだな」
バツが悪くなったのか、聖納がパっと離れるので、俺はリビングのテレビの前にあるゲームを起動する。そこには家族でできるように、パーティーゲームがいくつかダウンロードされている。
聖納がラインナップを確認し、美海がその隣でちょっとだけ眉間にシワを寄せている。多分、美海はこういうゲームをしないからどういうものか分からないのだろうな。
「……いいですね。あ、このゲーム、昔のものならしたことあります」
「うーん、ウチあんまりそういうのやったことないんやけど、ウチでもできるんかな?」
聖納が示したパーティーゲームに美海が不安げにそう聞いてくる。
俺と聖納は首を縦に振って頷いた。
「ミニゲーム集って感じで、けっこうゲーム自体は単純で誰でもできるし、楽しめればいいと思うからいいんじゃないか?」
「そうですよ、美海ちゃん。タイミングを合わせたり、とっさの反射神経が大事なミニゲームもありますし、美海ちゃんきっと上手ですよ。あと、仁志くんが言うように楽しめるならそれでいいと思います」
美海はパっと顔を明るくする。
「うん! ならする! いっぱい、楽しもうね?」
俺たちはクリスマスパーティーのオープニングとして、パーティーゲームを始めることにした。
ご覧くださりありがとうございました!




