3-Ex7. 12月……また留守番よろしくな?
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
津旗 聖納:ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。
父さん:仁志の父親。頭部は地肌が目立つ。理屈っぽいが、大らかで茶目っ気がある。
12月も中旬になるとさすがに冬という感じになり、みぞれの日や雪の日がちらほらと出てくる。
俺はエアコンの暖房が効いているはずの自室で少しだけ身体を震わせていた。部屋の中心あたりだと寒さなど微塵も感じないが、壁やガラス窓から伝わってくる寒さは暖房をつけていても尋常じゃない。
「寒いな……頼むから雪は降らないでほしい……」
俺は雪が嫌いだ。ウィンタースポーツが得意なわけでもないし、ましてや好きなわけでもない。それに雪が大量に訪れると、俺は母さんからママさんダンプを渡されて30分から1時間くらいは雪かきをしなきゃいけなくなる。
特に土日の大雪は最悪だ。平日なら学校で逃げられて、それでも1回はやらなきゃいけないが、土日に雪がめちゃくちゃに降ったり積もったりなんかすると3回もしなきゃいけないときだってある。筋肉痛必至だ。
そんなことを思っていると、ドアがコンコンコンとノックされる。
「仁志、いいか?」
父さんの声だ。父さんは俺の部屋へ訪ねることなど滅多にないというか、過去に1回しかない。以前は「盆休みに1人暮らしの練習も兼ねて留守番をよろしく」ということを伝えに来た。
……もしかして、今回もそうだろうか。クリスマスから? 年末から? 父さんは例年、有給休暇という仕組みを使って、同僚の人より早めに冬休みにしている。理由は「クリスマスを祝ってから何で仕事をしなきゃならんのだ」とのこと。クリスマスからもう年末年始モードになっているから仕事にならないんだろうな。
「いいけど」
俺は少しばかり期待を胸に父さんを部屋へ迎え入れることにする。
「まあ、俺が来たってところから分かるとは思うが、今回は2つ言いたいことがある」
父さんは前回同様に学習机の前にある椅子を引き出して、何の許可を取ることもなく座ってこちらを見ている。
……ん? 2つ? なんだ留守番じゃないのか?
「2つもある? テストとか? 成績なら悪くなかったと思うけど。それに、まだ通知表は来てないけど?」
父さんはそれを聞いて鼻で笑った。
「ふっ、義務教育を終えたお前の成績なんぞどうでもいい。それをどうするかも含めて、お前の人生だ。俺の親としての残りの務めは、成人になるまでのお前の学費を出すことだけだ。犯罪と迷惑や金を掛けすぎることだけしなきゃ好きに生きろ」
「そこまで割り切っているのもすごいけど……」
……成人までってことは、18ってこと? 大学の学費は自分で出すのか。
それはそれで確認したくなる話だけど、父さんはその話を長々とする気はないようだ。
「さて、話を戻すぞ。どっちも連絡事項だ。だけど、おそらくお前にとって、良い知らせと悪い知らせだ」
なんだよ、良い知らせと悪い知らせって……。
「なんかハリウッド映画のワンシーンみたいな言い方だな……」
「どっちから聞きたい?」
ハリウッド映画と聞いて、父さんは映画俳優を気取ったように大げさなポーズを取って俺に再度訊ねてくる。
「迷うけど……悪い方から」
悪い方を後にすると落ち込むこともあるからな。それに、覚悟は早めにしておきたい。
「そうか。悪い方からか。悪い方は『お泊りは禁止』だ」
……どういうこと? 何で急に「お泊り」って単語が出てくるんだ?
「……ん? お泊り? どういうことだ?」
そう俺が訊ねると、父さんは未だに映画俳優を気取っているのか、仰々しい感じで笑いながら自分の広すぎる額をペチペチと数回叩いている。
「HAHAHA! ……実は良い知らせから聞かないとあまりピンと来ない悪い知らせだ」
それじゃ、分かるわけねえだろうよおおおおおっ!?
もったいぶらずに普通に順に話してくれよ!?
まあ、今ので、なんとなく「1人で留守番」が良い知らせで、「家に泊まらせるのはダメ」が悪い知らせだと察せるが。
しかし、話の段取りが悪いだろ、これだと!
「じゃあ、先に良い知らせから普通に言ってほしいんだが!?」
「それじゃ面白くないだろ?」
「いや、面白さより分かりやすさを追求してほしかった」
俺が小さく溜め息を吐いて首を軽く横に振っていると、父さんは怒っているような素振りもなく、どちらかというと哀れんでいるようにも見える表情で俺を見てくる。
どうしてそんな表情をされんとならんのだ。
「面白くない奴め。まあ、いい。良い知らせは『クリスマスイヴの朝から留守番を頼む』だ」
……おっと。
「えっ? それってまさか」
留守番は既定路線だと思っていたが、まさかクリスマスイブの朝から1人で留守番なのか? ってか、父さん、「ブ」の発音が「ヴ」だな。
「彼女たちとこの家でクリスマスパーティーでも何でもしていい。食材は母さんが認めるレベルなら家計から出してやる」
マジか。ケーキやクリスマスっぽい食材も買ってくれるのか。
これは予想以上に至れり尽くせりな感じだぞ。
「おぉ……」
俺が思わず顔や声にも喜びを出していると、父さんが釘を刺すような感じで人差し指を立てて手を顔の前で軽く振っている。やっぱり、さっきから映画俳優モドキになりっぱなしだな。
「チッチッチッ……ただし、相手の親御さんが心配するだろうから、彼女たちを泊めるのは禁止だ。というか、友だちでもダメだからな?」
さっきの悪い知らせってのはこれか。
「分かった」
ってことは、美海や聖納に門限を守ってもらう必要があるし、クリスマスパーティーも朝から夕方までが限度だな。
つうか、なんなら乃美やこまっちゃんも呼んでもう少しパーティーチックにするか? あとは……松藤たちを呼ぶのは微妙なラインだが……美海や聖納と相談するか。
などと考えていると、父さんはさらに何かを言うために口を開く。
「もちろん、お前も外泊禁止だ。こっちも勘違いするなよ? 彼女たちの家でなくても友だちの家でもダメだからな? ちゃんと家事の練習もすること、盆休みみたいに掃除やゴミ出しができなかったら、預かったお年玉は家計になる」
俺も外泊禁止か。まあ、妥当だな。親としてはいない間に極力いざこざが起きないようにしたいってところだろう。泊まりでしかも未成年の男女が……とかになるとまあ許されない雰囲気もあるだろうしな。
……って、今、さらっと変な条件付けたな!?
「って、子どものお年玉を奪うなよ!? それでも、大人か!?」
「何を言っているんだ? お前がちゃんとしていれば、別に問題ないはずだが? それとも、留守番も満足にできないってことなら、やっぱり、俺たちとばあちゃん家に行くか?」
ぐっ……父さんの出した条件に、下手な文句をつけるわけにはいかない。
今、言われたように、父さんが母さんを説得してまで譲歩してくれた提案内容がすべてご破算になるからだ。留守番やらパーティー費用やらなんて、父さんが言わなきゃ、母さんは絶対にそんなこと許すわけないしな。
「ぐっ……分かったよ……留守番は任せてくれ」
父さんは首を縦に振った。
交渉は完了だ。なんにせよ、俺は盆休みのときと同じようにこの家をある程度自由に使ってもいい権利をもらったわけだ。
「そうだ、避妊はしろよ? 『サンタになって、彼女たちにホワイトなクリスマスプレゼント』とかはするなよ?」
避妊は当然だけど…………っていうか、3人でいるならするかどうかも怪しいけど……ホワイトなクリスマスプレゼント? ホワイトクリスマスじゃなくて? 避妊とホワイト……って、そういうことかあああああっ!?
「……完全にド下ネタじゃねえかあああああっ! そんなことするかあああああっ! 親のくせに子ども相手になんてことを言うんだよ!」
興奮気味の俺と対照的に、父さんは不思議そうな表情で椅子から立ち上がった。
「お前はバカか? 親だから言えるんだろうが。クリスマスの雰囲気に流されて、避妊を怠るんじゃないぞ? とりあえず、留守番を頼んだからな。戻ってくるのは年始だから」
父さんが俺の部屋から去っていくと、急に自分の鼓動が分かるくらいに緊張してきた。
落ち着け。落ち着くんだ、俺。まずは2人に連絡しないと。
「美海も聖納も予定が空いているといいんだけど」
夜は家族でクリスマスパーティーをするかもしれないけど、昼なら空いてないだろうか。
俺は震える指を何とか動かしつつ、盆休みのとき同様に、美海と聖納にグループリンクでメッセージを送った。
『仁志:クリスマスイブの昼って、予定空いてる? 俺の家でクリスマスパーティーしないか? 親や彩がいないんだけど』
すると、すぐに既読がついた。
『みなみ:絶対行く!』
『津旗 聖納:絶対に行きます!』
よし、これで、クリスマスパーティーは決定だ。そう安心したら、俺の震える指は少しだけ震えが小さくなった。
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