3-26. 12月……もうバカな真似はするなよ?
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
津旗 聖納:ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。
乃美 梓真:美海の友だち。あーちゃん。
松藤との会話を終えた翌日。俺は、松藤との会話の中で思い出した迷惑を掛けて謝らなきゃいけない相手、乃美に直接話をしようとした。
実のところ、乃美のリンク連絡先は入手済みで、どうしてもというときには連絡をしていた。どうしてもというのは、乃美から連絡してくることがほぼなくて、俺も話題が美海のことくらいなので、正直、検索をかけないと埋もれているくらいの頻度でしか連絡をしていないという意味だ。
なんというか、俺以上にぶっきらぼうというか、返事も素っ気ないんだよな。毎回、何かしらを聞くと怒らせているんじゃないかって思うくらいで、あんまり連絡をする気になれないのも事実だ。
ということで、昼休みに時間ができたのでスマホを取り出してポチポチと乃美へのメッセージを打ち込んで送信する。
『仁志:ちょっと会って話せないか? 今日の放課後とか空いていないか?』
呼び出すのは忍びないが、乃美って放課後すぐにいなくなるから、先に言っておかないと俺の方が終礼遅いと会えないんだよな。かといって、乃美の部活を待つのもなあ。あれ? 乃美の部活って何部だ? 今一つ乃美のこと分かってないな、俺。
ということを思いつつも、送信してスマホを片付けようとするとすぐにスマホが震えた。
通知はもちろん乃美で、さっと広げると衝撃的な言葉が目に映る。
『あずま:今行く』
いや、放課後でいいんだけど。
まあ、今日の昼休みは聖納も美海も友だちといるから、俺も完全フリーでいいんだけど、美海が友だちといるってことは乃美といるってことだよな。
っていうか、返事が秒で来るってすごくない? なんか調べ物でもしてたのか?
「で、用件は何だ?」
「おわあああああっ!?」
返事どころか、本人が秒で来たあああああっ!?
俺が急に影ができたことに気付いてふと顔を上げると、気難しい感じの顔をした乃美が俺の前にまるでイリュージョンのように現れた。
心臓に悪すぎるんだが!?
「うわっ!? びっくりするだろ!? 急に大声を出すなよ!」
「乃美が急に現れるからだろ!?」
乃美だけでなく周りにいたクラスメイトまでもが俺の叫び声にビクッとしてちょっと悪い気もしたが、俺だってびっくりしたんだからな?
俺が少し非難気味にそう伝えると、乃美も心外だと言わんばかりに気難しい顔に険しさも含まれ始めた。
乃美も乃美で綺麗な顔立ちをしているから、やっぱり、睨まれたり嫌な顔されたりするとけっこう怖いんだよなあ。前に怖いって言うなって言われたから口には出さないけど。
「『今行く』って返しただろうが。既読もついているし、読んだんだろ?」
きっと隣のクラスから来ると思っていたんだから、早くても数分後くらいとか思うだろ!
「『今行く』が『今行く』過ぎるんだよ!」
「『今行く』は『今行く』だろうが!」
この理屈で言うと、外で呼んだら「ちょっとしたら行く」とか「しばらく待っててくれ」とかになるんだろうなあ。どこでも「今行く」だとちょっとした恐怖だ。
「そりゃそうだけど、ちょっとここじゃ話せないから廊下行こうぜ」
「!? ま、まあ、いいけど……」
さすがに周りに人がいる教室で話す内容じゃないと思った俺は、廊下の方を指差して乃美を廊下の方へと誘う。
すると、乃美が少し驚いた後にちょっと静かな感じで頷いた。
なんだ? なんかあるのか?
そんな違和感を抱きつつも俺は廊下の隅、ちょっと袋小路になっている場所に乃美を連れて行く。以前、乃美に美海のことで問い詰められた場所でもある。
乃美がきょろきょろとし始めたので、俺はすぐに頭を下げる。
「この前は迷惑を掛けてごめん! すぐに謝れなくてごめん!」
「え? この前? 迷惑?」
乃美が何のことやらといった様子で、本気で分からなさそうな顔をしている。
だからといって、なあなあで終わらせるわけにもいかない。
「先月半ばくらいにさ、俺が調子悪そうにして、美海のことで乃美と話した後のこと。美海に伝えるかどうかをいろいろと考えてくれたんだろ?」
「あぁ、そのことか……」
どうやら謝るのが遅すぎて忘れ去られてしまっていたようだ。
もっと早めに言わなきゃダメだな。
だけど、今の俺が乃美に話しかけるのってそれくらいしかないから、てっきり勘の良い乃美なら分かってくれる気もしたんだがな。
「それ以外に呼び出すことなくないか?」
「……っ! あまりにも昔過ぎて覚えてなかっただけだよ!」
「ごめん……すぐに言おうと思ったけど、テスト週間とか入ったからさ」
口にしてから、言い訳をしてしまっていることにハッと気づく。
そうだよな。さっき俺も思ったけど、謝るには遅すぎるんだよな……。
乃美は俺のマズいと思っている表情を見てか、小さな溜め息を長々と吐いている。
「はあ……もうバカな真似はするなよ?」
「あぁ、本当に申し訳ない」
俺はもう一度深々と頭を下げる。
乃美は美海の友だちで、俺と直接友だちかと聞かれると微妙な感じだ。しかしまあ、ちょっと敬遠されている部分が見えているけれども仲がそんなに悪いわけでもないし、なんとなく距離の空いている友だち感がある。
いずれにしても、乃美は美海のことを大切に思っている美海の親友だから、俺も仲が悪くなるわけにはいかない。
「今度からもっと私のことを頼れよ」
「え?」
思ってもみなかった言葉が乃美の口から出てきたので、俺は不意打ちに素っ頓狂な声が出てしまった。
乃美って、いつも気難しい顔をしてくるけど、俺のこと、そこまで悪く思ってない感じ?
「みーちゃんのこと、金澤は1人で悩んでもバカなことするだけって分かったからな」
あぁ、頼ってもいいから余計な手間を増やすなってことね……。
でも、頼ることも乃美の手間になりそうな気がするけど。
「……返す言葉もない。でも、いいのか?」
「何が?」
「だって、乃美からしたら、よけいな負担になるだけじゃ……」
思いきって俺がそう訊ねると、怒りも混じってきたのか、乃美の顔が少し赤くなっている。
「……いいんだよ! みーちゃんが落ち込んだり暗い顔をしたりするくらいならな! 金澤はよけいなこと考えてないで、人の親切をちゃんと受け止めとけ!」
いや、まあ、そうだよな。今回、美海がすごく落ち込んだり悲しんだりしていたようだから、乃美も心配になったんだろうしな。
乃美の親切を無駄にするわけにもいかないな。
「そ、そうか……ありがとう。今度から乃美のことをもっと頼るよ」
「あぁ、約束だからな! もっとこまめに相談していいからな? リンクも大丈夫だからな?」
「お、おう?」
乃美は俺との約束を取り付けて安心したのか、首を縦に振った後に満足げな様子で帰っていく。
乃美、珍しくちょっと嬉しそう?
まあ、いいか。
俺は周りに良い奴がいて本当に助かるなあと思った。
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