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今日も2人だけで話そ? ~彼女2人が公認の二股恋愛!?~  作者: 茉莉多 真遊人
1年生 2学期

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3-24. 11月……バカじゃないですか?(2/2)

簡単な人物紹介

金澤(かなざわ) 仁志(ひとし):本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。

能々市(ののいち) 美海(みなみ):ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。

津旗(つばた) 聖納(せいな):ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。

松藤(まっとう):仁志の友だち。バスケ部。美海のことが昔から好きで告白する。

(あや):仁志の妹。小学6年生。かわいいけど、イタズラ好きで抜け目がない。

 俺も、美海でさえも言葉を出すことができなかった。


 聖納に心配されることはあった、呆れられることもあった、悲しまれることもあった。決していつもニコニコしているわけじゃないし、ぷくっと頬を膨らませながらむくれることだってある。


 だけど、聖納が泣いて、怒って、罵倒までして、いつもと違う感情を露わにしている。


「本当に……本当に、バカなんじゃないですか?」


 大事なことなのでもう一度言われました。とか軽口を叩ける雰囲気はゼロだ。


 俺は蛇に睨まれた蛙よろしくの固まり具合で口を動かすのも辛い。


「ご、ごめん……」


 ようやく出た言葉が「ごめん」だった。まずは謝らないと話が始まらないし、それと謝る以外の言葉が見つからなかった。


 俺が申し訳なさそうに謝ると、聖納は納得しかねている様子で口を真一文字にしたままだった。


「今回、誰に迷惑をかけたのか……仁志くんは、分かっていますか?」


 泣いているときに出る独特の声とリズム。


「え……美海と聖納じゃ……」


 不意に問われた聖納の言葉に俺が目の前の2人の名前を出すと、聖納がすぐに首を横に振った。


 美海はピンときているのか、俯いて静かにしているだけだった。


「それだけじゃないです。乃美さんも、司書さんも、仁志くんのことを気に掛けていました」


「司書さんや乃美も?」


 あぁ、そうかと思いつつも、俺から出てくる言葉はどこか不思議そうなちょっとした違和感を表現していた。司書はなんだかんだで気に掛けてくれているのは分かるけど、今回の俺の行動に気付いていたのだろうか。


 それに乃美はそもそも俺に気を遣うような感じでもないし、仲だってどんなに良くてもちょっとした友だちくらいのもんだろう?


 一方の聖納は、俺のオウム返しに力強く肯いた。


「そうです。乃美さんは美海ちゃんに仁志くんのことを告げるかどうか最後まで悩んでいて、普段話すことのない私にまで相談に来てくれて、それでも仁志くんの直接美海ちゃんに伝えたい気持ちを汲み取って、最低限のこと……美海ちゃんに仁志くんから連絡が来ていないかだけを話すことにしたんです」


「そうだったのか……」


 乃美にも変な負担を強いてしまっていたのか。それなのに俺は、乃美に口止めすることを忘れて焦ったり悩んだり自虐したりしていて、ほとんど自分のことしか考えていなかったんだ。美海との仲直りを劇的なものにしたいなんて、そんな的外れのロマンチックは周りから見たらさぞ滑稽なものとしか映らないだろうな。


 これだけでも俺はだいぶ参っているのに、聖納は再び口を開く。


「司書さんもそうです。仁志くんと美海ちゃんがすれ違いを起こしていることに気付いて、でも勝手にぺらぺらと喋ることもできないから、全部を伝えることをせずにどうにかできないかと、美海ちゃんや仁志くんにそれとなく話しかけていましたよね?」


 たしかに司書からそういう節は見えた。なんとなく話したがっている感じもあったし、話していることも直球のようでどこか遠回りしている感じもあった。こうしろはなくて、こうしたらいいんじゃないか、でも決めるのは自分自身だと告げてくれていた。


 司書にも1学期からずっと世話になりっぱなしだ。


「あぁ……そうだよな……」

「それはウチもや……」


 俺と美海はちらっと互いに目配せというか目が合って、2人して小さな溜め息と自責の念で顔が下を向きがちになる。


「おそらく、松藤くんや湖松くんも仁志くんのことを気に掛けていたと思います」


「松藤も?」


 松藤? 松藤が気に掛けていたのは、自分の告白の結果だけじゃないのか。いや、でも、なんかたしかに様子がおかしかった気もするな。


 なんだろう、この違和感。


「……直接お話をしたわけではないですが、最近の松藤くんは特に様子がおかしかったです。どうしてかは分かりませんが、お2人に関係することじゃないんですか?」


「うん……」


 ……これって、聖納、さりげなく自分が蚊帳の外にいたってことにしているな。聞き方によっては松藤の告白のことさえも知らないって風にも聞こえる。


「あぁ、多分、そうだろうな……」


 とにかく、俺は相槌を打つほかなかった。


「美海ちゃん、今回の仁志くんの行動、嬉しかったですか?」


「え?」


 いきなり聖納の矛先が美海に変わる。


「仁志くんが美海ちゃんに気付かれるまで毎日決まった時間に寒空の中じっと待って、昔の想い出を再現するような、そんなロマンチックな仲直り。美海ちゃんはそんなこと望んでいましたか? 嬉しかったですか?」


 美海は俯いたまま首を横に大きく振った。


「……ううん。もちろん、思い出してくれたのは嬉しかったけど、こんなことになるなら、普通に思い出したときに伝えてくれればよかった……ぐすっ……ひーくんがウチのせいで辛い思いをするのは嫌やよ……変な心配かけさせんといてよ……うううううっ……」


 美海の服にぽたぽたと涙が落ちて吸い込まれていく。


 ……そうだよな。俺は今回の行動における「美海が喜んでくれるかも」という唯一の寄る辺をほぼほぼ失う。誰にも望まれないことをして自爆して、こんな心配をかけて、俺の行動っていったい何だったんだろうか。


「……そうやって仁志くんは、いろんな人に迷惑を掛けていることにも気付かずに、自分だけで何とかしようとして、独り善がりな行動をして、その挙句に無理をして熱で倒れてしまって? これで怒るなって言う方が無理なんです! だから、怒っているんです!」


 美海もすっかり嗚咽混じりの泣きに変わって、聖納も涙がいくつも頬を伝って落ちている。


 いたたまれない。もはや弁解の余地など一切なく、俺は彼女2人を泣かす大罪人だ。


「ごめん……」


「それに悲しいんです! もっと私のことを頼ってくれたっていいじゃないですか! 美海ちゃんと仲直りしたいなら私を間に入れてくれたっていいじゃないですか!」


「聖納……」


 聖納の怒りに打ち震える声が悲痛な叫びにも聞こえる。


「……私は2人が知っているように、文化祭で言っちゃったように、仁志くんの1番になりたいと思っています。ですが、それは仁志くんがもっと私の方を見てくれるようにしたいのであって、仁志くんが美海ちゃんから目を背けるようなことなんて狙っていませんし、仁志くんと美海ちゃんが仲たがいするようなことなんて考えてもいないし、2人を故意に引き裂こうなんて思っていません!」


「そんなことを聖納がするとは思ってないけど……」


 俺がそれだけは否定しなきゃと思って口を挟むと、聖納がハッとした様子で少しだけトーンダウンし始めた。


「……ごめんなさい。今のは口が滑ってしまいました。心のどこかでそんな風に思われているんじゃないかって思っていて、つい愚痴のように口からこぼれ出てしまいました……」


「ううっ……せーちゃん、ごめんね……」


 この聖納の言葉には俺よりも美海の方が心を痛めたようだ。ついには椅子に座ったまま、ベッドの方に身体を倒して顔を突っ伏した。


 美海は心のどこかで聖納を警戒していたのか、聖納を頼ることができなかったのだろう。


 俺は別の意味でだが、最後の最後で聖納を頼ろうと思っていなかった。相談はしたし、悩みも聞いてもらったけど、なんとか自力で解決しようと1人で息巻いていた。


 そんな2人に聖納が疎外感を覚えてもおかしくなかった。


「あぁ……聖納……本当にごめん」

「せーちゃん、ごめんね……本当にごめんね……」


 月並みな表現だが、ここはお通夜の会場かと思うくらいにひどく沈んでいた。


「仁志くん、とにかく、もうこんなバカなことを二度としないと誓ってください」


「ウチからもお願い。ひーくん、お願いやから、もうこんな無茶なことせんといて……」


 2人から言われて選択肢なんてあるわけがない。


「分かった。もう無理や無茶はしない。ごめん、本当にごめん……1人で勝手に突っ走ってごめん……」


 俺も情けなさのあまり、不意に涙が出てくる。


「うっ……ひくっ……すんすん……仁志くん、約束ですよ……ぐすっ……ぐすっ……」

「ううっ……ぐすっ……ひーくん……うううううっ……ぐずっ……」


 ……どうしたら2人は泣き止んで笑ってくれるだろうか。つうか、俺も泣き止まないとな。


 そんなことを思いながら、泣き止まない2人を交互に眺めているとコンコンコンとノックの音がして、こちらの返事を待つことなく扉が開く。


 彩だ。お盆に湯気の立った湯呑を3つ持ってきていた。


「お茶をお持ち……みんな、泣いてるの?」


「あぁ、彩、ありがとう。そこに置いておいて」


 涙声で彩にそう伝えると、彩は不思議そうな顔を隠さず机の上にポンポンポンとお茶を置いていく。


「あらら……お兄ちゃんまで涙流しちゃって」


「すまないな、ちょっとあって」


 彩は小さく溜め息を吐いた。


「もう、しょうがないなあ。今日も添い寝してあげるから」


 その瞬間、全員の涙が引っ込んだ。


「……はっ?」

「……えっ?」

「……えっ?」


 涙の代わりに出たのは素っ頓狂で気の抜けた疑問の声だ。


「あれ? お兄ちゃん、全然覚えてないの? 金曜の夜にお兄ちゃんが『美海』とか『聖納』とか言って泣きながらうなされていたから、優しい妹が2人の代わりに添い寝してあげたんだよ?」


「……嘘だろ?」


 俺はそう言いつつ、なんかうろ覚えながらも何かを抱きしめた気もするなとか記憶を手繰り寄せていた。掛布団を丸めて抱き枕にしていたのかくらいにしか思っていなかったからか、言われるまで何かを抱きしめていたことすら全然思い出せなかった。


 別の意味で美海と聖納の方を向けなくなったんだが、どうしてくれる。


「嘘じゃないよ? 2人と勘違いされてぎゅっと抱きしめられたんだから。しばらく動けなかったし。小さい頃はよく2人で寝ていたけど、まさかこの歳になってお兄ちゃんにぎゅってされるなんて思わなかったなあ」


「……いや、それは、不可抗力というか、なんで、彩はわざわざ抱きしめられに来たんだよ……」


「へえ、そっか。彩ちゃんと添い寝したんや?」


「しかも、私たちの代わりに抱きしめて? ぎゅぎゅぎゅっと?」


 恐る恐る、美海と聖納の方を見てみると、涙はすっかり引っ込んでいた2人の笑顔が見える。


 2人とも実にいい笑顔だ。2人ともやっぱりかわいいな。後ろにゴゴゴゴゴ……という聞こえないはずの音が聞こえなければ、もっと良かったな。


 多分、求められていた嬉しさと、自分がそうならなかった怒りが綯い交ぜになっているんじゃないだろうか。そう思いたい。


「……ということで、ごゆっくり! 熱々の3人だから、お茶は冷めないうちに飲んでね!」


 おいいいいいっ!? 彩あああああっ! この状況でお前はどこへ行こうと言うのかね!


 彩もきっともうちょっと和やかになると思ったのだろう。しかし、彩の予想に反してしまい、さすがにマズいと思ったようだ。逃げの一手を決め込む清々しさが垣間見える。


 まあ、マッサージの話をしないだけマシだな……いや、基準が甘すぎるな、俺。


「彩! 爆弾発言を放り込んで逃げるんじゃない!」


 掴めるはずのない彩をそれでも掴もうと伸ばした俺の手は、真横からがっちりと別の手に掴まれた。


 言わずもがな、美海と聖納だ。


 もちろん、そちらに気を取られている間に彩には逃げられた。


「今ならウチも添い寝できるよ?」

「今から私が添い寝しますね?」


 2人が俺にそう提案した後、お互いがお互いの方を見つめ合う。


「せーちゃんは最近、ウチがおらんかった分、ひーくんといっぱい一緒にいたんやから、ウチが添い寝をする! ウチがひーくんの1番なんやから!」


「……もう私も逃げません。私だって、仁志くんの1番になるために、仁志くんをメロメロにしなきゃいけないんですから」


 同じ部活の仲間であり、高校からの友だちであり、俺を共有する俺の彼女たちである美海と聖納がここにきて、真っ向から張り合うような素振りを見せ始めた。


 今まではお互いがどこか遠慮したり気遣ったりしていた部分もあったが、今日は譲れないとばかりに2人とも涙の跡が残っている頬を膨らませている。


「むうっ! ひーくん、どっち!?」

「むむぅ! 仁志くん、どちらか決めてください!」


 どちらにするべきかとちょっと考えて、答えを出そうと思った瞬間にハッとする。


「待て待て待て待て、待てい! 2人とも忘れているだろうけど、今日は見舞い! 俺はまだ病み上がりだから! 風邪をうつすとマズいから!」


 その後、我先に添い寝をせんとする2人と、添い寝を阻止しようと立ち回る俺の激しい攻防の末、「今度、絶対に」という約束を2人から取り付けさせられたものの、なんとか今日はすることもなく、お見舞いを午前中でどうにか終わらせることができた。


 そうして、この一件をきっかけにして、何かが大きく動きそうな予感がするのだった。

ご覧くださりありがとうございました!

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