4話 中長の実力
―――ハルサイド―――
ハル 「リクがいれば、ナイフを投げて倒せるんだけどな…、あそこで残るべきだったの僕だったかな」
スラムン 「ハルもがんばってるっスラ。それにハルに出来ないことをリクができても、それと同じようにハルだけに出来ることもあるっスラ」
ハル 「うん、そうだよね。ありがとう」
チャーイ 「お兄ちゃん、スラムン!僕があのやぐらから骨を落とすよ」
チャーイはパチンコを2人に見せつける。
チャーイ 「あの建物の屋根に立てば届くと思うよ!」
指をさした先は、現在地から3つ隣の家だ。届くようになるとはいえ、屋根の上に姿を現すのは格好の的になってしまう。
ハル 「チャーイを信じてみよう。ただし撃つのはここからだ」
チャーイ 「僕の力じゃ、あそこに届くまでゴムを引っ張れない」
ハル 「大丈夫だ。君の力を上げる方法がある」
スラムン 「オイラもちょこっとのダメージくらいがんばるっスラ!だから作戦にはオイラの防御も入れて欲しいっスラ」
ハル 「わかった。……。よし!」
ハルは2人に作戦を話す。
スラムン 「それでいいっスラ!」
チャーイ 「僕、頑張るよ!」
ハルはフルートを取り出す。この場で狙撃する為に今必要なのはチャーイの力を上げる事である。
ハル 「それでは、お聞きください。攻強曲【こうきょうきょく】」
ハルの演奏を聞くとチャーイとスラムンは力がみなぎっていく。
チャーイ 「お兄ちゃんこれなら行けるよ!」
まず、スラムンが飛び出す。狙撃手はスラムンを狙って矢を撃ち続けるが、飛び跳ねて動き回るスラムンには当たらない。
そこに、次にハルが飛び出す。動きは素早くやぐらの方へと向かう。
最後に、チャーイがこっそり飛び出す。パチンコをめいいっぱい引っ張りスカルを狙う。
チャーイ 「届け!!」
パチンコの玉は綺麗にスカルの頭部へ当たり、体ごとヤグラから落ちて行く。
スラムン 「やったっスラ!!」
チャーイは飛びつくスラムンを受け止める。
ハルの足には昨日サボッチから受けた傷が残ったままであった。先程も火うさぎを追いかけ全力疾走して、今も走り足に負担がかかっていた。
ハル 「(でも足は止めていられない)」
横から飛び出して来た火うさぎを1太刀で斬り伏せ、やぐらの元へとたどり着く。やぐらから落とされたスカルは今にも復活しそうであったが、ハルに砕かれ消えていく。
ハル 「2人共上出来だ。……戻って守ってあげないと」
ハル 「嘘だろ」
ハルの視界に、炎の壁が迫って来るのが見える。
耳を済ませるが、中長の位置はメラスカルを倒した時から変わっていない。
ハル 「まさか、リク!」
リクはハルの予想通り、1人で中長と戦闘を開始していた。
リクは炎うさぎ撃破後、村の中心を過ぎた辺りでフレアゴーレムと出くわしてしまっていた。その姿は大きな岩に小岩を3つ重ねた物が足となり、同じように4つ連なった岩が腕と手になっていた。そして、その上に岩でできた顔が乗っており、目だけは岩でできていなかった。所謂明らかな弱点である。
リク 「(動きは遅いが、こりゃあ一撃でも喰らったら致命傷だな)」
フレアゴーレムのなぎ払いは、リクのバックステップに余裕でかわされてしまう。リクは目の前の敵の明らかな弱点をナイフで射る事だけを、考えていた。
リク 「(これなら、隙だらけだし1人でも勝てるんじゃ)」
リクやハルの実力は小長を無傷で倒せるほどである。これはこの世界において平均以上ということでもある。
2人が野生で出会ってきた魔物では彼らを倒すことはできなかった。しかし世界は広い。ハルは詳しくはリクに話していないが火柱に相当ひどくやられており自分が強く無いことをリクよりも知っていた。リクも現在の自分よりも数倍の実力を持つ父が殺されている、それ以外にも自分の弱さを理解する機会は何度もあった。しかし、自身の弱さを認めることは簡単なことではない。リクは自信に満ち溢れていた。その慢心がこの一撃を喰らうことに繋がった。
リク 「(後ろの炎うさぎ、もし近づいて来たら後ろ蹴りで倒せばいいから無視だ。ゴーレムに集中しよう)」
リクの肩に矢が刺さる。後方にいる炎うさぎの後ろからスカルが射たものだ。リクは矢が矢を抜くと右肩の出血が酷くなる。
ゴーレム 「フゴァ!!」
その雄叫びに反応して、リクはゴーレムに注意を引かれる。ゴーレムがリクの方へ腕を伸ばす。リクは再びバックステップをしようとするが、後ろから炎うさぎに捕まってしまう。
リク 「(やべぇ。)地落とし」
炎うさぎの足が地面から離れた瞬間、背中から地面にたたきつけられる。リクは炎うさぎに背負い投げをしたと同時に、フレアゴーレムのパンチを回避する。そして、後ろを振り返りスカルからの狙撃を頭を下げてかわす。突如炎うさぎが声をあげる。すると、隠れてきた火うさぎが四方八方から飛び出してくる。
リク 「マジかよ。十花繚乱【じっかりょうらん】!」
突きと蹴りを色んな方向に乱れ打ちする。万全であればすべての火うさぎの体当たりを向かい打つことができたであろう。しかし、リクの右肩は思うように動かず、さらに痛みで動きが鈍る。リクは前から後ろから右から、火うさぎの体当たりを喰らう。
しかしそんな中でも、スカルの狙撃とゴーレムのなぎ払いはかわす。すべての火うさぎを倒し終えた時には、息が上がっていた。
リク 「このままじゃ、いい所無しになっちゃうよな」
ポケットから錆びたナイフを取り出し、スカルへ投げつける。
リク 「(スカルは砕かないと倒しきれなかったか)」
もう1つ取り出し、地面に落ちたスカルの頭蓋骨へ投げつけ砕く。そのトドメをみとどけずにリクはゴーレムの肩に乗る。
リク 「ハァ もう、こんな岩を砕く力はねえがよ」
ゴーレムは自身の肩に乗ったリク目掛け、パンチを撃ってくる。当然かわす。自身の肩にパンチをしたゴーレムを見て、リクは苦笑いをする。ゴーレムは自身の手で自分の右肩を破壊する。右肩から下が砕け地面に落ちる。
ハル 「リク!ごめん遅くなった」
リク 「ハル、無事でよかった。チャーイ君も無事か?」
ハルの後ろからスラムンとチャーイが姿を見せる。
チャーイ 「僕は無事だよ!お兄ちゃんも助けに来てくれてありがとう」
そう言うと可愛い笑顔を見せる。こんな愛嬌を皆が持っていれば小さな争いなどは生まれないんだろうなとリクは思う。
スラムン 「リク、肩の怪我にこれを」
スラムンは口からスライムを出して、リクの肩の傷につける。
リク 「?ありがとう」
ハル 「スラムン!チャーイ君を頼んだぞ。リクまだ戦えるか?」
スラムン 「わかったっスラ!」
リク 「あぁ、スラムンにつけてもらったこれで血が止まった」
スラムン 「ラッスの体だったら回復するっスラが、オイラのに治癒能力はないっスラ」
リク 「わかった!それでも楽になった!村の外にチャーイ君を頼む」
リク以外の3人は曇った顔をする。そんな話の中でもハルとリクはゴーレムの攻撃をかわしている。
ハル 「徐々に中長を中心にして、外側から炎の壁が迫ってきている」
中長の攻撃を躱しながらでは、うまく説明できなかったが、リクはおおよそ読み取る。
リク 「じゃあ、さっさと倒して壁がなくなるならよし、無くならなかったら火耐性のある俺が何とかする」
ハル 「わかった。今は中長を倒そう」
ハルとリク2人が同時に同じ敵を相手するのは初である。
リク 「初共闘よろしく頼むぜ」
ハル 「あぁ。必ず勝つぞ。狙うは」
リ ハ 「目!!」
とりあえず、コンビネーションは悪くない。ハルはゴーレムのパンチをかわすと腕の岩の接合部分を剣で叩き切る。
ハル 「手応え的には、あと2発だ。」
リク 「了解。後ろからコソコソ狙ってきてる弓使いも任せろ」
ハル 「本当に助かるよ。隙があったら僕がフルートを使ってバフをかける」
ここまで、ゴーレムの攻撃は2人に直撃していない。凡人であれば一撃目を喰らって負けるだろう。しかしスピードのある2人には当たらない。柱の次に強いと言われる中長の実力に2人は少し違和感を感じていた。
ハル 「(中長でも、2人でかかればこんな簡単に倒せるのか?)」
ゴーレムの腕をハルは切り落とす。リクも後方のスカルをほとんど倒している。
ゴーレムの手は、地面に落ちている。しかし、浮き始め再びに腕にくっつく。
リク 「さっきは、肩から下を砕かせたからもどらなかったが…」
ハル 「スカルと一緒だね」
ゴーレムは手をハルの方へむける。次の瞬間ゴーレムの手は、腕から離れハルへ向かって飛んでくる。
リク 「ハル!!」
ハルは咄嗟に自身の前に剣を構え飛んできた岩を受けるが、その速度と重量に耐えられず後方に飛ばされる。
とばされるハルの方を振り返り隙を見せるリクに、炎うさぎが飛びかかり、リクの顔に膝蹴りをいれる。が、辛うじて左腕で受け少しダメージを減らしていた。
リク 「しくった」
ゴーレムが再び飛ばした腕の岩を、リクは喰らう。ダメージを減らすために自ら後ろに飛ぶが、直撃しハルと同様にとばされる。
ハルの腕は痺れている。剣は辛うじて持てるが、力強く振ることは叶わない。
ハル 「完全に油断していた。早く戻らないと」
そう呟くとハルの右の建物が、さらにゴーレムから発射された岩によって倒壊する。ハルは建物の崩壊に巻き込めらないように、走ってその場を離れる。
ハル 「(まずいな、もしかして後ろから)」
ハルの読み通り後ろから手の岩と腕の1つの岩がゴーレムの方へ戻っていく。
ハル 「…やるしかないな」
ハルは岩と並走しながら口笛を吹き始める。すると通常では上がらない状態の腕が、持ち上がる。
ハル 「(美武音【ヴィーヴォ】!)」
そして、剣を思い切り振り下ろし手の岩を砕く。そしてハルの腕はまた痺れ始める。
リクは岩を腹に喰らったことでダメージを受けていた。ふと、炎飛燕流の師匠の突きを思い出し、震える。
リク 「中長の岩なんかより、よっぽど師匠の突きの方が痛ぇや」
そう言うと、リクは起き上がる。
リク 「(しまった。俺を吹っ飛ばした岩がゴーレムの方に戻る前に砕いとくんだった。)」
ハルに比べて、少しリクは抜けている。ここで、性格の差が土壇場でやれる事の差につながる。
2人はゴーレムの元へ戻ってくる。
ハル 「さて」
リク 「反撃と行こうぜ」
2人は互いを労る言葉をかけない、2人の間には信頼関係が生まれ始めていた。