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第一章:ガール・ミーツ・ガール?⑤

 翌日の放課後、実結はゆまに連れられて上原駅前のファミレスに来ていた。昨日のうちに雫と連絡が取れたとゆまから聞かされ、早速会うことにしたのだ。

 一度、実結の家に寄って、カトリーヌを回収し、待ち合わせのファミレスに着いたとき、クールな印象のアッシュブラウンのロングヘアの女性が駅の方から歩いてきた。大学生くらいに見える彼女は、こちらへと軽く片手を上げてみせると、

「ゆまちゃん」

「雫ちゃん!」

「久しぶり。そっちは話に聞いてた実結ちゃん?」

「片岡実結です。はじめまして」

 水を向けられ、実結はぺこりと頭を下げた。雫も軽く会釈を返すと、

「ゆまちゃんの従姉妹の七瀬雫です。いつもゆまちゃんと仲良くしてくれてありがとうね」

「いえ、こちらこそ……」

 姉の杏奈よりも年上の女性にどう接したらいいのかわからず、緊張した面持ちで実結は返す。雫はふっと涼やかな笑みを浮かべ、

「二人とも、こんなところで立ち話もなんだから中に入ろうか。何か飲みながら二人の話を聞きたいな」

「雫ちゃんの奢り?」

「五百円までならね」

「よっしゃ! さっすが雫ちゃん! ほら、実結行こ」

「う、うん」

 ゆまに促され、実結は彼女に続いて、店に入ろうとしている雫の背中を追った。


 高校生くらいに見えるウェイトレスの少女に案内された窓際のボックス席に三人は腰を下ろした。雫は向かい合った中学生二人にメニューを広げて見せてやりながら、

「ドリンクバーは頼むとして……二人とも、何がいい?」

「私、ウルトラスーパージャンボチョコレートスペシャルエベレストパフェ!」

 ゆまはすぐさま巨大すぎるパフェの写真を指差して答えた。雫は呆れたように首を横に振る。

「駄目。それ三千円もするし、そもそも食べきれないでしょ。普通の小さいやつにしておきなさい」

 雫は透明感のある藍色に染まったすらりとした指先で四百円ほどの普通のチョコパフェを示した。ゆまはえー、と不満そうに口を尖らせる。

 雫が指し示すパフェが常識的なサイズであるのに対して、ゆまが食べたいと主張したパフェは器だけでも寸胴鍋ほどのサイズがあり、相当にボリュームがある。土台となっているワンホール分のチョコタルトの上にはコーンフレーク、その上にチョコレートブラウニーとバニラアイスが乗っている。更にいちご、チョコソース、プチシュークリームと続き、もう一度コーンフレークを挟み、上にチョコレートムースとバナナ、チョコレートアイスの層が重なっている。チョコレートアイスの上にはほんのりと苦いティラミスが乗せられ、てっぺんにはチョコソースとカラースプレーのかかったバニラとチョコのミックスソフトが鎮座している。値段も存在感も量もカロリーも何もかもが常識の埒外な一品だ。

「それで、実結ちゃんは何にする?」

 雫は実結へと向き直り、そう問うた。実結は初対面の相手に自分までご馳走になってしまうのは何だか申し訳ない気がして、

「えっと……わたしはジュースだけで大丈夫です。ただでさえ、今日はわたしの話を聞いてもらうために、雫さんには時間を作ってもらってるんですし……」

「そんなこと気にしなくていいのに。じゃあ実結ちゃんもゆまちゃんと同じやつでいいかな? それとも他のやつがいい?」

 雫に尋ねられ、実結はちらりとチョコパフェの隣の期間限定のいちごパフェへと視線をやる。そして、実結はおずおずと、

「えっと……じゃあ、こっちのいちごのがいいです」

 りょーかい、と言うと雫は丁度通りかかった、先ほど席に案内してくれたウェイトレスの少女を呼び止め、注文内容を告げた。

 少々お待ちくださいませ、とウェイトレスの少女が立ち去った後、

「それじゃあ、私はここにいるから、二人とも飲み物取っておいで。ゆまちゃん、ついでに私のアイスコーヒー持ってきてくれる?」

 おっけー、とゆまは右手の親指と人差し指で丸を作ってみせる。実結とゆまは立ち上がり、入口近くのドリンクバーのスペースへと向かう。

 実結はキャラメルオレ、ゆまは自分のトロピカルアイスティーと雫に頼まれたアイスコーヒーを氷を入れたコップに注ぐ。二人が席に戻ると、既に頼んだデザートが届いていて、雫は一人で水の入ったグラスを傾けていた。

 三人は頼んだデザートに口をつけながら、最近学校がどうだとかといった他愛のない世間話に花を咲かせた。半分くらいまでデザートを食べ進むと、それで、と雫がこの日の本題を切り出した。

「こけしが喋るだとかどうとかって、ゆまちゃんから聞いているんだけど、詳しいことを教えてくれる?」

 はい、と頷くと実結はいちごパフェのバニラアイスを食べ進めていたスプーンを置く。

「一昨日の夜中に何か物音がしたような気がして目が覚めて。それで、音の正体を確かめようとしていたら、机の中から人の声がしたんです。それで、怖くて昨日の放課後にゆまに家に来てもらって、一緒にもう一回、机の中を確認してもらったら、こけしが出てきて」

「なるほどね。それで、それが喋った、と」

「はい、それで……こんなこと言うと頭おかしいって思われるかもしれないんですけど」

 実結はそこで言葉を一度切る。相談すると決めて、雫に会いにきたはずなのに、いざ話すとなると、内容が内容だけに躊躇した。

「大丈夫。私は変だとかおかしいだとか思ったり言ったりしないから。だから実結ちゃん、言ってみて」

 静かだけれど真摯な切長の目で雫にそう促され、実結は心を決める。

「このこけしの中にいるのは、わたしが最近プレイしている『プルメリアの王冠』っていうゲームのキャラクターみたいなんです」

 ゲームのキャラクターがなぜか現実に存在――それも、喋るこけしの中にいるなどという俄には信じ難いはずの実結の言葉に、雫は顔色を変えることなく、そうと冷静に頷いた。

「それはどうしてわかったの?」

「最初に名前を聞いたときにあれって思って。それで、色々と聞いてみたら、そのキャラクターのプロフィールや境遇と完全に一致していて」

「なるほどね。だけど、そんなよくわからないものとそんなふうにコミュニケーションを取ったら危ないでしょう。体を乗っ取られたりしたらどうするつもりだったの?」

 雫に諌められ、実結は口籠る。あのときは自分もゆまもそこまで気が回っていなかった。

「実結ちゃんもゆまちゃんも、体調がおかしいとかそういうのはないよね?」

 実結とゆまを案じる雫へと、大丈夫と二人は頷く。

「ならいいんだけど……」

 ゆまはチョコパフェのバナナを飲み下すと、そういえばさ、と会話に混ざってきた。

「もう一つおかしいことがあってさ。ゲームからも攻略本からもカトリーヌが消えちゃったんだよ。まるで最初からカトリーヌなんていなかったみたいに。雫ちゃん、どう思う?」

「消えた?」

 雫は眉根を寄せると、

「実結ちゃん。何にしても、そのこけしを一度見せてもらえない? この手の人形を使った呪術の類だってないわけじゃないし、危ないもののようだったら、然るべきところに持ち込んで、処理してもらわないといけないから」

 そう言われた実結は脇に置いたスクールバッグを開けると、中を手で探る。全長十五センチほどのこけしを取り出すと、食べかけのデザートや飲み物が置かれたテーブルの上にそれを置いた。

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