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第一章:ガール・ミーツ・ガール?①

 実結(みゆ)は物音を聞いた気がして、夜中に目を覚ました。眠い目を擦りながら、白いアンティーク風のベッドサイドテーブルに置いたひよこの形を模した目覚まし時計を見ると、午前二時二十八分を指していた。

 実結はそっと体を起こし、辺りを見回した。電気の消えた暗がりの中から、出窓に飾った熊のぬいぐるみが静かな目で実結のことを見下ろしていた。

 かち、かち、と秒針の動く音がしんと静寂が降りた部屋の中に響く。いつの間にか時刻は午前二時三十一分になっていた。

 なるべく音を立てないように気をつけながら、実結はベッドを抜け出した。うるさくすると、隣の部屋の姉の杏奈に怒られるのは疑いない。

 そのとき、実結の聴覚が女の声を捉えた。がたがた、と何かが揺れているような音もする。

 ひぃっと、実結の喉の奥で小さく悲鳴が漏れた。目覚まし時計の横に置いていたリモコンを慌てて手に取ると、実結は部屋の電気をつけた。

 女の声と物音がしたのは机のほうだったはずだ。実結は照明のリモコンを握りしめたまま、寝る前にやっていたゲームの攻略本が出しっぱなしになっている勉強机の方へと恐る恐る近づいていく。

「……るさ……い、絶対……許さない……」

 許さない。女の声がそう言うのを実結は確かに聞いた。手の中をリモコンがすり抜け、どすんと音を立ててフローリングの床に落ちる。

 一秒、二秒、三秒。実結は悲鳴を上げた。

「いっ、いやああああああ!」

 それから数秒の後、実結よりいくつか年上の少女がバン、と実結の部屋のドアを開け放った。

「実結うるさい! 何時だと思ってんの!」

 少女――実結の姉の杏奈は青筋を立てて怒声を浴びせた。

 実結は姉を振り返り、その形相を認めると、再度悲鳴を上げた。


「っていうことがあって、朝まで眠れなかったんだよね」

 おかげで寝不足でさ、と言いながら、実結は弁当のウインナーを箸でヤケクソ気味に突き刺した。実結と一緒に弁当を食べていたゆまは苦笑する。

「だからってさっきの数学寝てたのはいい度胸だよね」

 新井ちゃん授業態度厳しいらしいじゃん、とゆまは紙パックのオレンジジュースを手に言う。数学教師の新井は教歴三年の若くて可愛らしい雰囲気の女性だが、その見た目に反して生徒の授業態度にかなり厳しいらしいともっぱらの噂だ。

「でももう眠気が限界だったんだよー……」

「せめて保健室行って寝ればよかったのに。頭痛いとか適当な理由つけてさ」

「それはそうなんだけどー」

 実結は口の中の甘い卵焼きを飲み下すと、溜息をつく。

「はあ……今日帰るのやだなあ」

 でもさあ、とゆまは空になったジュースのパックを手で弄びながら、

「それって夜中のことだったんでしょ? 実結寝ぼけてたんじゃないの?」

「そうならいいんだけどね……」

「それか風の音を聞き間違えたとか」

「でも『許さない』ってはっきり聞こえたよ」

「じゃあ外の酔っ払いとか」

「家の中っていうか、明らかにわたしの机の中から聞こえてきたんだけど……」

 ゆまは紙パックを握りつぶすと、そうだ、と手を打った。

「じゃあさ、今日私が帰りに実結んち行くよ。それで、その声の正体みたいなのをはっきりさせよう。そしたら怖くないでしょ?」

「う、うん……」

 半ばゆまに押し切られる形で実結は頷いた。それじゃ決まりね、とゆまは片目を瞑るとジュースの紙パックを捨てに席を立った。



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