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バトルオブロード  作者: 森の番人
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第5話「4月11日」

4月11日、入学式から1週間が経過した。

式の次の日から理事長が言った通り授業は始まった。授業の教科書は紙媒体が昔の基本だったが2020年から徐々にタブレットへと変わっていき現在ではタブレットが教科書になった。軽くて大量の教科書が保存出来、書き込みとその編集が容易という便利さからだ。あとは、メモや記録をする機材を持つだけで良い。なので、学校に持っていくものといえばその2つと学校支給の携帯があれば最低限あれば全く問題ない。


「クラスメイトを率いてくれと言われたけどかなり癖のある連中ばかりだったな。見た目だけでなくて中身もそうだし。」


次の日になってちゃんと顔を見ることになり最初は自己紹介から始まった。この学校ではクラス替えというものがない。1年で決まったクラスで3年間ともに生活をしてくことになる。

俺たちの自己紹介はオリエンテーションもあったので簡潔に終わらせた。

英二よりも体がゴツい女に、自己紹介までタブレットに何やらずっと書き込んでいるやつ、仮面をつけたやつなどと俺が普通にしか見えない。

そして、クラス内では友人グループが何組か出来ている。

そう、クラスの人数は25人。ロードの最低人数である。A、Bは30人いて、それ以外は25人と上位クラスになる程人数有利もあり才能もあるということだ。Eクラスは才能が開花してないだけだけど。

そんなことを考えながら寮からは歩いてきて、クラスに向かう。桜も入学式と比べて花の数が少なくなってきた。その桜を見て少し悲しくなる。


「そういえば、昼ごはんはあるけど飲み物は買ってなかったな。この先に自販機があったな。」


クラスに向かうまでには自販機コーナーがあり、学校支給の携帯を使って買うことが出来る。

この学校では学校が提供するポイントがある。1ポイント1円であり毎月のクラスごとに決まったポイントと成績などによって臨時提供される。入学当初では、3万ポイントとかなり贅沢できる。成績がよければ3万とも限らず10万になるときもあるらしい。紫吹先輩情報。

これは近場にあるショッピングモールでも使用ができる。映画も見れてゲームも買える。中学生までの俺の生活では考えれないほど高校生らしい生活が出来る。


「じっはんき、じっはんき〜。誰かいる。」


自販機コーナーには先客がいた。それも見たことのある人だ。


「仮面女子だ。クラスメイトに朝が早い人がいるとは思わなかった。」


普通に始業ギリギリにならないと誰も教室にはこない。俺はいつものトレーニングを朝早くに行うので学校にも早く行く。誰もいない朝の学校は見ていて楽しい。

さて、何をしているのだろうと観察を始める。

仮面女子は自販機の前で何やらうろうろして自販機を見つめてはまたうろうろしている。何をしているのかと思い少し離れて見ていると片手に携帯を持っている。


「さては、このご時世に携帯で自販機での買い方がわからないのでは。」


ゆっくりと近づいていくと声が聞こえる。


「コンビニでは画面をかざして買うことが出来たのになんでだろう。故障しているの。」


商品のボタンを選択しているのにも関わらず、画面だけをかざしている。

これは見てられない。


「違う違う。欲しいもののボタンを押してこの学校携帯マークを押してからかざして買うことが出来るんだよ。校外から来る人もいるからね。この旧式の自販機では支払い端末の選択をするんだ。どれが欲しんだ。」


仮面少女驚いているがすぐさま自販機の画面を指す。よくあるお茶だ。


「ほい、どうぞ。俺はこれ。」


お茶をさっさと買って拾ったら仮面少女に投げ渡す。俺は天然水を買う。


「ありがとうございます。あのお金は。」

「いらんいらん。学校支給のポイントだし。それじゃ、また教室で。」


仮面があるのでどんな顔をしてこっちを見ているかはわからないから反応に困るのでさっさと教室に戻るに限る。



「あれがあの方の弟さん、、、やっぱり似ている。」


仮面少女は遠ざかっていく宗斗をぼーと眺めてそう言う。彼女は彼の正体を知っている。

遠ざかっていく彼の後ろ姿をぼんやりと眺めながら仮面越しで少し痛む場所を触る。それだけで顔に炎のように燃える熱さを感じている。

後ろ姿と歩き方をある人と写し合わせる。身長やガタイは違っているがそっくりと言ってもいいと仮面少女は思っている。

もらったお茶を蓋を開け飲む。


「あ、仮面のこと忘れてた。」


ペットボトルの飲み口を仮面にぶつけて誰かに見られているのではと思い仮面の下は真っ赤な顔になった。

「あったかい。このお茶いつも飲んでいるものと違うけど意外といいですね。」

もう見えなくなった彼の後ろ姿を見て少し昔のことを懐かしむ。



教室に着いてからしばらく仮眠をする。

朝早くに起きるようになってから睡眠時間の確保は必須であり運動をした後はより一層眠たくなるので朝寝は必須ではないけどしたくなっている。

そして、起きた時には始業の少し前になっていた。クラスメイトのほとんどが来ていた。隣の席である英二は携帯で何かを見ていた。前の席であるのは仮面少女であり姿勢正しく座っていた。

このクラスは朝に弱いのか静かで落ち着く。

電子黒板の前には何やら動いているやつがいる。よくよく見ると黒板に高校生とは思えないぐらいうまい絵を描いている。毎朝描いている気がするので見慣れた。

絵よりも隣の英二が何を見ているのかが気になった。


「英二、おはよ。何を見ているんだ。」

「おう、ニュースを見ていたんだ。最近始まったコーナーでな都市伝説を扱っている記事が面白いんだ。」

「始業前にニュースを見るガタイのいい高校生っておっさんだな。」

「黙っとけ。」


冗談はこれまでにしておく。


「で、何が書いてあるの。路地裏の吸血鬼とか。」

「いや、サイレントライダーだ。最近噂されている謎の組織とかなんとか。」

「そう、謎なのに記事になるんだね。」


興味のない記事なのでこれ以上は聞かないことにする。


「そろそろ、先生がやってくる時間だな。」


教室の入り口を見ていると扉が開いて先生が入ってくる。


「席につけ。」


身長がこのクラスの中で一番高い女性の教師。黒髪でポニーテールで凛としているかっこいい人。

名前は山田真奈美、『ロード』、『地理』、『世界史』の担当をしている。

190cm近くある身長、高いだけでなくて服越しでもわかる鍛えぬかれた体がわかる。いくら問題児でもこの人に逆らうことなんて考えようとも思わないだろう。


「おはようございますー。」


続いて山田先生とは正反対の人、大口雪江先生が入ってきた。

ボブカットで顔はまんまるとしている。

150cmあるかないかと山田先生の隣にいるのでより小さく思えてしまう。『ロード』、『数学』を担当している。語尾を伸ばす特徴的な喋り方をする。よく笑顔でいて真の可愛さを秘めていて心が和む。


「誰も欠席はいないようだ。入学式から1週間が経って油断するやつらもいる。まぁ、入学式当日から遅刻するやつもいるがな。」


山田先生がそう言うとクラス内で少し笑い声が聞こえる。笑われるのも仕方はない。


「さて、さっそく授業を始めようと思ったのだが客が来ている。入れ。」


山田先生は扉へ行き開けると一人、ガッチガチにスーツをきめた男が入ってきた。教壇へと素早く向かっていき持っていた端末を端子に繋げている。

先程まであった落書きが消えて電子黒板にはなにか資料が映し出された。


「Eクラスのみなさん。私はこの学校の事務の岡崎といいます。私がここに来た理由は理事長からのお知らせを伝えるためです。今日から1週間後の4月18日10時よりクラス対抗戦を行います。クラス同士で対戦を行い勝者クラスには臨時ポイントを与えます。このクラスの対戦相手はDクラスです。実力が近いクラス同士の戦いとなります。そして、放課後には演習室Eを貸し与えます。担任教師のもと使用できるものとしますが、『ロード』の授業数は平常通りとするのでクラスで対策や訓練は貸し与えられた演習室で行うものとします。なお、詳細はこの後に各自のメールに資料を送るので確認してくれ。何か質問はありますか。」


いきなりやって来たと思うと一気に喋り質問はないかと鋭く睨め付けてくる。見た目通りのことをしてきた。これは好感など一切持つことが出来ない。


「しつもーん。臨時ポイントってどのぐらいもらえるんですか?」


金髪がよく目立つクラスメイトの加藤アキ(女)が元気よく椅子から立ち質問をした。

事務の人は少し顔をひきつかせたがすぐに仕事の顔に戻って答える。


「臨時ポイントは対戦相手が自分達のクラスよりAクラスに近いなら一人当たり7500ポイント、その逆は5000ポイントとなります。クラスの実力差が大きい程その成果に見合う形になっています。よろしいでしょか?」

「問題ないでーす。やった。」


ポイントがそれなりにおいしいことを喜んではいるがこのクラスはかなりレベルが低いようになっているので勝てる見込みがないかもしれないのだが、勝てる気でいるようだ。まぁ勝つ気ではいくけど。


「なさそうですね。資料を確認した後に質問があれば最後のページに記載された連絡先までよろしくお願いします。それでは、失礼しました。」


しっかりとお辞儀をして教室を後にしていった。

山田先生がもう一度教壇に立った。


「さて、聞いた通り放課後には演習室が使用出来るが、事前に申請をしておかないと使用は出来ない。申請方法は資料に載っているから忘れないように。あと、アドバイスだが能力は慣れるのに時間がかかる。自分にあったものを選択し使いこなせるように練習をしておけ。」


山田先生はこのようなアドバイスを今までの1週間で1回もしなかった。とても、珍しい。


「それでは、授業を始める。教科書を開け。」


本来授業の時間であることからすぐに授業を開始した。

しかし、俺と英二を除いたクラスメイトは初めて『ロード』で試合をすることが決まり授業のことは上の空にもうなりつつある。

いくら理事長がすごい才能を秘めていると言うクラスメイトたちでも戦う相手のこともわからずに自分達が活躍している妄想や勝利したらもらえる臨時ポイントで何を買うかを考えている。

(このクラス結構呑気だな。半数が浮かれてるし山田先生の目つきがこれを見てからかなり鋭いものになったけど。)

携帯に資料が届いたという通知が来たのでさっそく授業は聞いている感じでダウンロードして見ることにした。



「さて、今日最後の授業はここまでだ。放課後まで時間がある。演習室を使うには申請することは聞いていると思うがクラスのリーダーはすることが多い。さらに、『ロード』での指示を出すのもクラスリーダーである方がわかりやすくていい。残りの時間はクラスリーダーを決めるのに使うといい。これで終わりだ。」


山田先生はそう言うと教壇を降りて教室の隅に移動した。

ここにいて話し合いを見守るつもりらしい。


「クラスリーダーってこのクラスをまとめなければいけないんでしょ。ロードで強い人か頭がいい人が務めるべきでしょ。」


加藤さんはいきなり席を立って周りを見ながらそう言う。笑顔であり無言の圧力の感じるは俺だけなのだろうか。


「意義なし。俺はリーダーなんてやりたくないからな。」

「わたくしもですわ。リーダーなんてやっている暇はございませんの。美を追求する時間が必要でありますので。」


険しい顔をして中学生の頃は生徒会長なのではと思わせる若松慎二とぽっちゃり体型でありクラスの男子の中で一番身長の高い英二を越すぐらいの高さを持つ美野琴美は加藤の意見に賛成している。

言葉の強さ的にはどちらもクラスリーダーという面倒なことには参加をしたくはない意志を示している。


「私も強い人には賛成です。資料を読んでわかったのですがロードの試合の勝利条件では敵のリーダーを倒すことがあるそうです。なら、頭がいいだけでなくて強い人でないと不利になってしまいます。」


意外にも仮面少女が意見をする。

そして、その資料は俺も読んでいたのでそのことは知っていた。なら、俺が試合中に自由に動くことが出来るようになるためにはここで意見をするべきだ。


「なら、英二がリーダーでいいんじゃないか。入学式のオリエンテーションでもかなり強い先輩を一人で倒していたし。俺の相手はそんなに強い人じゃなかったからな。」

「賛成―。佐藤くんの実力はみんなも知っていると思うし。佐藤くんもリーダーで大丈夫?」


加藤さんはその言葉を待ってましたと言わんばかりにみんなに英二がふさわしいと思うでしょと促している。

仕方ないと頭をかきながら英二は席を立って教壇に向かっていった。


「俺は指名されてリーダーをすることには問題ない。ただ、リーダーと決まる前に言っておくことがある。俺は中学までは不良のトップだった。高校生も下で従わせていた。俺は不良と言っても誰これかまわずに喧嘩などしたことがない。誰もが住みやすい街にするために不良を排除すべく尽力してきた。結果は、成功した。悪いことをしていた連中を追い出すこともせずしっかりと更生させ一人一人が助け合うようになり治安が悪かったところは子供だけで治安がいいところへとなった。それでも学校側から見れば不良のレッテルがはられる欠陥品だ。そんな俺でもクラスリーダーにしたいと思うのか。」


英二はイカツイ顔でクラス全体を見た。

しかし、面白いことに誰もその顔には怖気付くことはなかった。むしろ興味深いという顔で観察しているものまで現れている。


「いいんじゃないでしょうか。自分の過去をしっかりと開示して不安要素を取り除いているその行動に信頼がおけます。私は賛成です。(ちっ、こんな状況なら私が出られないじゃないですか。)」


メガネをかけた委員長みためである小嵐みなみが賛成する。最後聞こえなかったが少し不安なことを言っていた。

半数以上がそれに対して肯定の意志を示している。数人は全くの無反応であった。残りは英二の不良って要素が肯定するのを躊躇う要因になっている。


「それなら、リーダーだけではなくて副リーダーを決めてはどうでしょう。こちらは強さは関係なしでもいいのでは。」


小嵐のその意見に肯定を躊躇っていた人は賛成する。

そして、変な連中にしてはまともに会話してリーダーなどを決めていった。一部の連中は話し合いに一切参加をしないが後々に文句を言っても意味がないことは知っているのかな?と思った。


「さて、クラスリーダーは佐藤くん、副リーダーは私、加藤アキとなりました。私たちから重要な連絡があることを考慮して通知はオンにしておいてね。」


無愛想な連中を観察をしていると既にリーダーは決まったようだ。これでは俺も話し合いに参加をしていない無愛想なやつになってしまっている。

小嵐の顔が少し前と違い恐ろしくなっている。見てはいけないものだ。


「それじゃ、演習室の申請をする。みんな参加してくれ。アバターの設定と調整をしなければいけないからな。」


 英二の言葉を聞いてそういえばそうだったと気がついた。アバターについては俺と英二だけしか扱っていない。

このクラスは授業が始まって1週間となってきているのにも関わらず誰もアバターの設定をしていなかった。最初のロードの授業は基本的な知識から始まって今後のロードの予定や大会など座学だけだった。


「よし。申請は今回は私が受理したとしておく。演習室は15分後には開けておく。それに合わせて来てくれ。」


山田先生はすぐさま教室を出ていった。

英二も教壇から自分の席に戻って来た。なにやらこっちを睨んで見ている。


「リーダー就任おめでとう。」

「お前が余計なことをいうからだろうが。全く無事になれたからいいものの。俺にも作戦はあったのに。あと、お前がリーダーでもよかったのに。」

「いやいや、強いやつがなるなら実力が示されている英二がぴったりだよ。俺なんて怪力自慢の先輩の相手しただけだし。高速移動の先輩に勝った方が嫌でも記憶に残るよ。」

「ちっ、リーダーになったからにはお前をこき使ってやる。」

「そんなことよりも演習室に行こうよ。」


英二は悪態をつきながらも一緒に演習室に向かっていく。それに便乗してクラスメイトも移動をしていく。勇者パーティさながらに。

校舎を正面から出て標識に従いながら歩いていくと体育館のような見た目の建物の前についた。外見とは違い素材は一介の高校生には過ぎた代物のようにしか見えないものが使われてる気がするのだが。

ロビーに入るとオリエンテーションで使用した建物と同じような構造になっていた。左右に階段があるが正面は以前と違い真っ直ぐに進む道があった。

到着をして少し待つと山田先生と大口先生がやってきた。


「荷物を男女別で更衣室に置いて来たらフィールドに集合しろ。携帯だけはもってこい。」


男女で更衣室を分けてフィールドに集合する。

アバターの設定はこの演習場ではフィールド内でも出来るのでオリエンテーションの時のような控え室で設定することは今回はしないらしい。

山田先生が控室にもあった端末の隣に立つ。


「さて、学校支給の携帯はもっているはずだ。これをそこの端末で認証させてアバターの基礎情報を作成していく。まぁ、授業で習ったことだからわかっているはずだ。わかるよな。」


みんなが集まったところで説明を始めていくが授業で聞いたところをわかっているかと尋ねると数人は目を逸らしていた。

その数人とは授業中でも平気に居眠りをしていた連中だ。


「基礎情報を入力したら能力の設定を行う。能力は定着してしまえばアバターと切り離すことが出来なくなってしまう。だから、今獲得出来ている能力を試していき合うものにしていけ。順番に登録と能力の設定をしていけ。」


アバターの能力はなんと一度しっかりと定着をすると二度と離れなくなる。同じ能力でも人によっては個人差があり能力との相性が良ければすぐさま定着をしてしまうことがあるらしい。ゲームと一緒でやり直しの方法などは存在しないので気をつけなければいけない。


「考えて設定しろよ。自分が得意なことが能力にあれば強みになる。それがないなら汎用性の高いものを選んだ方が今後能力を変えたり追加した場合でも今までのことを活かすことが出来る。もし、よくわからないなら先生に聞くのもいい。『ロード』の担当だからな。以上。」


先生の話を聞くとみんな一斉に端末に向かって走っていく。端末も数は多くはないので前の人の画面を見てどんな能力があるかを見ている。


「あそこなら設定した後にすぐアバターになって試すことが出来るけど、控室に行けば誰も使ってはいない端末があるけど、フィールドに行かなければ能力を試すことが出来ないけど。」


自分は彼らの群れを背に控室に向かっていく。アバターの感覚はわかっているので能力がどんなものがあるのかを確かめてゆっくり考える時間がほしい。


「流石に誰もいないな。さてと、俺の能力は何があるのかな。」


控え室の端末に携帯を置いて個人認証をすると武器一覧と能力一覧があった。この前は順番に設定をした項目だけだった。今は学生が設定できる項目が表示されている。

まず、武器を『盾』に設定をしておく。

次に、能力一覧という項目をタッチすると3つだけ能力が表示されていた。


「3つって少なくないか。公式?が用意している能力は数はそれなりにあるはずなのに。『シールド』、『インパクト』この2つは名前からしてわかるけどこの『マモノ』ってなんだ、説明文もないけど。魔物ってことなのか。それなら何の魔物なんだ。ドラゴンだったらいいけど、かっこいいから。」


よくわからないものでも使ってみると案外いいものかもしれない。

そう思い、『マモノ』を選択して登録をした。早速能力を試すためにフィールドへと行ってみることとする。

フィールドへ行くと武器や能力の設定が終わった何人かが早速アバターで遊んでいる。

誰かが手に赤色の光を纏って手を突き出すと何やら紋章が浮かび上がりそこから炎の弾を発射している。


「炎の能力って魔法みたいな発射をするんだな。世界大会は手が光るところまでは一緒だったけど、紋章みたいのはなかったな。」

「授業でも言っていただろ。能力は体の一部となる。だから定着するし成長もする。あの紋章は補助的なものだ。」


英二がいつのまにか近づいて来ていた。


「紋章が補助的なものって初めて聞いたけど。独学?授業では何も言っていなかったけど。」

「いや、あいつらが使っている能力を持った選手に以前話を聞いたことがあっただけだ。」

「なるほどね。能力についてはすでに洗練して使っている選手が出ている大会のものしか見たことないから知らなかった。てか、能力を1から知ってそれを鍛えるってのは骨が折れそうだけど。英二はちゃんと能力の設定はしたの?」

「いや、俺は最後でいい。能力は獲得しても実戦では使いこなせないと思うからな。なら、アバターの動きに慣れて本来の動きを取り戻した方が効率がいい。ま、みんなの後で能力はとるがな。」


英二はそう言ってステージに向かっていき俺に向かって手招きをしてくる。


「お前は能力を試すんだろ。アバターを動かすいい訓練になるだろうから、さっさと来い。」


俺の能力をただの運動するための器具であると言っているようだ。これは流石に初心者が言う言葉でもない。これは初心者でも怒ってもいいことだと思う。


「それなら、能力の実験台になってもらおうかな。俺の能力は説明文がほとんどないユニークだからな。」

「え、それってマジか!?(本気にならないと恐ろしい能力かもしれないのか。)」


英二はユニークと聞いて驚いていた。

能力はある程度資質さえあれば手に入るものもあれば、誰でも手に入るもの。そして、数人しか手に入れることが出来ないユニーク、そして、ただ1人しか持っていない能力なんてものもある。しかし、ユニークが数人手に入るというが内容が少し異なっているので本当に謎である。


「さてと、アバターになってから少し変わった気がするな。胸の辺りが温かくなった気がする。後は手がかゆい。」

「よし、最初から刀だな。やっぱり少し刀身が長い方が俺には合ってるな。試し切りは1発だけでなくて何回もやらないとな。違和感はお前の気のせいだろう。ゆっくりとギア上げていくぞ。能力のことを知ってもらわないといけないからな。」


英二の言う通り違和感は久しぶりだからと思ってアバターに最初は慣れていくことにする。前回と同じ少し大きめな盾を構える。重さは前回と違って少し軽い気がする。


「始めるがすぐにやられるなよ。」


刀を片手で肩に担ぎながら歩いてくる。その姿は旧時代の不良としか見えない。

大きく振りかぶって綺麗な型で刀を振るってくる。盾でしっかりと防ぐのもいいが上段の攻撃は防ぐと盾で見えなくなって次の攻撃が見えなくなってしまう。


(強化ガラスがついたような前が見えるような盾ってあるかな。)


サイドステップで程よく避けると盾を前にして体当たりをする。

英二は盾に全く当たることなくすぐさま後ろに飛び下がって反撃をしてくる。今後は斜めの斬り込みなので盾で防いで腰の短刀を抜いて首を狙う。

数十秒は英二はヒットアンドアウェイ、俺はガードからの攻撃を何度も繰り返していくが攻撃の速度が上がって来ている。


「おい、ゆっくりやるんじゃないのか。」

「相手の言葉をそのままんま受け取るな。この前のオリエンテーションでのことを忘れてないからな。」

「それはお前もだろ!」


英二はお互いの武器を選んでみることをしたのだが、お互いに自分の武器を相手の武器にした。それで英二は盾を全く使いこなすことが出来なくて先輩に押されていた。そのまま続けていると英二は負けていただろう。けど、お互いに酷いことをしてそれを責めて来ている。俺が悪いわけではないけどね。


「なんだ、能力は使わないのか。こっちは能力対策もしたかったのに。なんだ、まともな能力がなかったのか。おっきな盾で守るだけが取り柄ですなんて似合わないからやめとけ。」

「お前はこっちにダメージすら当てることが出来てないくせに。何が試し切りだ。秒でやられる脇役が。」

「「・・・・・・・・。」」


お互いに動きを止める。

やっぱりこいつは、、、。


「「こいつは気に食わないな!」」


相手に向かって今の気持ちをぶつけるため大声で叫ぶと同時に俺の口から緋色の炎が放出された。

俺の体に変化が起きた、口から火が出たのだからだ。

なんで?


「「・・・・・・。」」

「宗斗、お前はドラゴンにでもなったのか。」


アバターになってからの違和感であった胸の温かさが強くなった。


(『マモノ』の能力って口から炎を出す能力なのか?いや、それならこの手のかゆさはなんだ。)

「ま、好きあり。」

「あ!」


好きだらけだった盾を力強く叩かれて落とされる。盾を持っていた右手が痛く痺れる。

このままだと本当に試し切りされてしまうカカシとなってしまう。

なら、武器を落とさせて強気になって油断している英二の刀を掴んで攻撃までの時間稼ぎをする。


「あれ、何だこの手?」


短刀を持っていた左手は武器を捨てて見事刀を掴むことに成功したがいくらアバターでも素手で刀を掴むと刀の切れ味で手が切れるはずが全くその感覚がない。それもそのはず。


「お前の手なんで猛禽類の足になってるんだ。」


刀を掴んだ手がかゆさがなくなった代わりに猛禽類の足の中でもかなり凶悪な見た目の黒い爪がついている足に変わっていた。


「ドラゴンのものでもないらしいな。それでこのままでもいいの?」


英二はそう言われて振り解こうとしているけど振り解けないでいる。

俺は人間の手以上に力を入れることが出来、しっかりと掴めている。掴んだまま英二を押し飛ばす。

改めて確認すると指は5本ありそれぞれに鋭い爪がついている。これだと人を刺し殺すこともできそうだ。人間の手に戻れっと手に念を込めると人間の手に戻った。手はもうかゆくはなくなった。もうアバターに対する違和感はなくなった。


「ここで終わるか。他のやつのことをサポートしてやらないといけないしな。」


英二はそのままアバターになって遊んでいる人たちのところに行った。

逃げられたと思ったが今は能力が未知でありその事を知ることに専念したいので忘れる。

人があまりいないフィールドの隅に行くと深く息を吸う。そして、胸にある温かいものを吐き出そうとする。口からは炎が出る。


「さっきほどの出力の炎は出てない。胸の温かさがなくなった。」


そして、もう一度炎を出そうとするが全く出てこなかった。


「胸の温かい感じがないと炎が出ないのか。」


胸のところを触ってみると何かが蠢いているように感じた。しかも、これがなんなのかが何故かわかった。


(今ここの辺りで炎を作っている。ゆっくりだけど作られている。でも作ろうとしないと炎が作られていない。能力っていうよりは本当に生物みたいに作られているみたいだ。さっきの手は。)


今度は左手に先ほどのように変化していくのを思うと左手が徐々に猛禽類のような手に変化していった。


(これは手が作り替えられていっている感覚だ。これとか、炎とかなんかイメージがしずらいな。名前でもつけたほうが意識しやすいか。なんて名前にしようかな。)


「さっきの炎を口から出していたのっていかにも『ブレス』って感じですね。架空の生物のドラゴンとかが代名詞の。」


後ろから声が聞こえたので振り返ると仮面女子がいた。


「『ブレス』ね。口からの炎はそういう名前にしようかな。なら、この足のような手は置野さんならどう命名する?」


仮面少女は頭をゆっくり振りながら考えている。


「そのままで『鳥足』はどうでしょう。下手な名前は混乱しますし。あと、名前覚えていたんですか。」

「クラスメイトの名前は半数近くはね。人の名前は覚えるのが苦手だけど。」


そういうと仮面少女が口元?を押さえて笑う。


「何かおかしいところあったかな。」

「いえ、名前を覚えるのが苦手なところや後ろ姿がよく似ているなって思いまして。」

「誰に?」

「藍田華蓮さんです。藍田君のお姉さんですよね。」


少しだけ視界が暗くなった。しかし、すぐさま光を取り戻す。


「似ているだなんて同級生からは初めて言われたよ。似ているだけで俺が弟ってよくわかったな。」


正直のそれの弟であると答えると仮面少女は少し近づいてきた。


「聞いていた容姿や戦い方と同じだったので。」

「置野さんは姉に助けられた一人なんだな。俺のことを話しているってことはかなり気に入られているってことだね。」


仮面で顔は隠れているが『一人』ってところで少し表情が曇ったように気がした。


「そうですね。彼女に助けられて私は人生が変わりました。けど、、私自身が変わったわけではない気がするんです。なら、今度は私は彼女の隣に立って支えることが出来るようになりたいんです。藍田くんに話したのは私の目標を知ってて欲しんですよ。弟さんだからではなくて信頼できるクラスメイトとして。」


仮面少女はアバターを試しに行くと言ってその場から去っていく。


「あいつと似ているか。唯一の家族と言える人だから似ているって言われて悪くはないと思うけど。」


このまま姉のことを思い出していると昔の嫌な記憶が出てくるので控室に行くと言って置野さんと別れる。

今は能力があまりに未知なのでもう一度見直してみることにする。説明欄など読み忘れがあるかもしれないし、武器をもっと自分に合うものに変えることが出来るかもしれない。

控室行くが、やはり誰もいない。気楽に端末の操作や説明を読むことをすることができる。


「やっぱり何か追加されてるや。いや、でも最初からあったのかな。」


能力一覧から『マモノ』の説明文をみると先ほどの変化のことが書かれていた。


火蜥蜴サラマンダーの肺・・・火炎の息を吐くことが出来る。肺で炎の素を生成

・グリフォンの足・・・手足をグリフォンの足に変化させることが出来る。


現在はこの2つの異なる架空の魔物の能力や身体的特徴の能力が使えることが書かれている。

しかし、『マモノ』についての説明は何もないが予想は出来る。この能力は架空の存在である魔物や妖怪などの力などを使うことが出来るものだと。名前の通りだけど。力の獲得方法はその力を初めて自覚し、使用出来るか否かなので条件が今はわかっていない。

わけのわからないこの能力は後々解明させていけばいい話なので、他に能力が新しく追加されたのかをみる。しかし何も追加されているものはない。


「仕方ないか。一旦『マモノ』を外してから他の能力を、、、外れない。」


能力の設定解除をしようとするがエラーで外すことが出来ない。考えられる理由は一つしかない。


「これってもう定着したのか。」


この『マモノ』は俺と短い時間で定着したということだ。ものの10数分で。

補足だが、能力は人によっては数個ほど設定することが出来るらしいが初心者が数個設定できることはまずほとんどない。長い間プレイをしていると増えることがあるらしい。設定できる能力の個数の平均2.94と2個か3個がほとんどである。


「はぁ、仕方ないな。この能力でずっとやっていかないといけないというのか。未知の能力ほど怖いものはないというけど俺が一番怖い。」


口から炎を吐く能力は大会の動画を見たことがある。説明ではサラマンダーの肺とかではなく『火吹き』という名前だったはず。想像上の生き物の名前の能力は存在していることは確か記憶にあったが能力の中に複数の能力があるというのは反則ではないのだろうか。


「いや、重力の能力だったら引力と斥力と2つの力があるから同じことか。」


自分の能力の考察をする時間はまだ1週間もあるのでゆっくりと考えていけばいいと思い能力の一覧を閉じて武器一覧を表示していく。

前が見える盾が欲しい事を思い出して探していく。

今日は自分と相性のいい武器を探していくだけで放課後の残りの時間を使い切った

能力は寄生生物とも呼ばれることがある。じわじわと能力をその生物から離れないように根を張っていき一心同体となる。まぁ生物じゃないだけマシだけど。

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