第3話「初めての戦闘」
『さて、入学式のオリエンテーションの新入生対2年生の第一戦を始めようと思う。両者フィールドへ入れ。』
理事長の指示通りフィールドに入っていく。フィールドは単純明快で白線で区切られた範囲のことだろう。相手である先輩も少しだけ前に進んだだけだからだ。
『対戦形式は2対2の殲滅戦。相手を全滅させたほうが勝者となる。アバターの変装が解けるのはもちろん、フィールド外に出ても倒されたことになる。では、アバターに変装してくれ。新入生はこちらが勝手にする。』
こちらは、ステージがなんとも昔の漫画にあったド〇〇ン○―ルの武闘会のステージにしか見えないものを見ていた。
フィールドに入ると突然、体が白い閃光を発して周りが見えなくなってしまった。
「お、服装から変わったぞ。あと、体が軽い。重力をあんまり感じないな。」
英二が騒ぎ出したので見てみると今まで着ていた学校の制服ではなく、制服を改良した軍服に近いものとなった。いや、教科書で見たことのある明治時代の警官の服装に似ている。
俺の武器は英二が選んだもの。俺はふざけて自分らしい武器にしたが英二は背中に大きな盾を装備している。
まず、手で背中の辺りを触ってみると何もない。なら、腰のところを触ってみる。左右に刀があった。それらを見てみると片方は普通に見たことのある刀の長さとそれよりも短い長さの刀つまりは小刀であり明らかに二刀流である。
「「おい、お前。」」
「武器が俺がいったのと全く違うじゃねぇか。ガッチリ守るなら普通お前の背負っている盾だろうがよ。二刀流ってそんな器用じゃないから使えないわ。」
「そういうお前も自分が使える武器を俺に装備しやがって。大きめの盾だと守りにしか使えないこれをどう使えっていうんだ。ああん?」
「お前もだと。これがお前の使える武器だってのか。二刀流なんて繊細なものをお前みたいなゴツいだけが取り柄そうな不良が使えるのか。あああん?」
お互いに自分の武器を相手の武器に選択するなんて思考が似ているのが怖いわ。俺にぴったりの武器をお互いに持つことで武器の入れ替えなどしても意味のない状態を作って英二を困らせるための作戦が台無しだ。
「絶対に武器なんて取り替えないからな。」
「おれもだ。」
お互いに考えていることは一緒。趣味は合おうとも面白いことをするためには生贄になってもらおうとしているのだがな。
それよりも、体の感覚が異様に違っているのが気持ち悪い。手をグーパーと握っては離してを繰り返したり手首の感触を確かめ、肩を回したりなどして軽い準備運動をする。
「なんか軽すぎて違和感すぎるな。この体に慣れるまでは時間がかかるな。」
少しだけ力を入れて飛んでいるとアナウンスに続きが。
『両者、ステージに上がれ。』
ステージに続く階段を上がっていくと2メートルに近い壁が複数あるのがわかる。それによって向かいにいる相手が見づらい。
「この壁っていつの間にできたの。さっきまで何もなかったのに。」
そう、先ほどのまでのステージには壁なんてものは一切なかった。もしかしてさっき英二と話していた時に変わったのか。
『さて、早速始める。後の試合もあるからな。開始‼︎』
早速と言われて本当にすぐに始まってしまった。
「おい、一年坊主ども。聞こえてるか。理事長はすぐに始めてしまったがこれから倒される相手の名前も知らないで戦うのは嫌だろ。」
壁の向こう側から男の声が聞こえる。相手の先輩だろう。せっかく名前を聞かせてくれるなら聞かせてもらおう。
「男の先輩の名前は聞かなくて結構です。もう一人の先輩の名前だけで十分です。」
「フラグを立てるとやられるって聞いたことはないか。」
なんかうざいので煽るけど乗ってはこないだろう。
「一応は聞いておけよ‼︎サラッと興味ないって言われて悲しいわ。俺は宇野太郎。もう1人が渡辺さゆりだ。覚えておけ。」
「勝手に私の名前を言わないで。犬。」
前に小さくそびえ立つ壁の両脇から大きな影と小さな影が飛び出してきた。
俺はステージを上がってから右手側にいて英二は左手側にいた。そして、大きな影は右手側から小さな影は左手側から現れた。
大きな影の正体は身長180cmぐらいある男だった。肩に胴体ぐらいの大きさをした大剣を軽々と担いでいる。先ほどの声の主はこの先輩なのだろう。服装は俺たちと色が違っている。こちらが真っ黒ならあちらは真っ白である。すごく目立つ色だな。
小さな影は先ほどこの男が言っていた女だろう。腰に刀を携えていて走りながら片手で刀を持ち、もう片手でつかを軽く握っている。あれは居合の構えなのか、ただそういう構え方なのか。しかし、男の方よりも強い気がする。
「俺の相手はさっきの先輩ですか。よろしくお願いします。」
挨拶は重要なのでしっかりと挨拶をして腰の刀を抜いて構える。もう一つは刀を2本も使えないのでそのままにしておく。
「おう、初心者がよく選んで使う刀か。技術もないやつをこの剣で叩き潰すのが楽しんだな。」
掛け声と共に大剣を大きくかざして接近してくる。現実ならかなりの豪傑でもないかぎりは素早くはよってくることが出来ない。しかし、アバターの身体能力であるならこの男のように少しの助走で10メートルもあった距離をすぐに詰められる。刀で受けるのは大剣という刀身自体の重みと振り抜く速度で威力は桁違いに強くなる。いくらアバターの身体能力が高いとしても受け止めることが出来るのか、受け止める刀が折れずに耐え切ることが出来るのかはわからないので避ける選択する。
こちらから見て左上から右下に向けてまっすぐに近い軌道で振り下ろされるので、右足を左へとすり足で移動させて体を少しだけ左に傾ける。それだけでその攻撃は避けることが出来る。それもそのはず速度はそれなりに速いが剣の軌道は正直だからだ。おそらく初心者である俺のことを舐めて一撃で仕留めようとしたのだろう。
(大きく避けるのは簡単だし確実だったけど、少ない動作で避けたのは成功だったな。)
大きな動作で避けるのはこの後も出来ることだが相手のこの一撃は少ない動作で避けることが出来るを試すにはいい機会だった。
足の運びは現実世界のように自然と動くことが出来たが、体を傾ける動作は攻撃に対してゆっくりとしていたので焦って傾けたが思っていたのより2倍早かった。
次は距離を空けるため思っているぐらいの強さで後ろに飛ぶ。想定していたのは3mだったのが2倍近くの距離まで行った。
アバターの身体能力はかなり高いほうなのではないだろうか。これは思った動きをするには少し時間がかかるだろう。
「ほう、かなり身体能力は高いようだな。ただ攻撃をしないところを見るに刀どころか武器に触れてきたことはないようだ。なら、さっさとやられたほうが楽だぞ。」
今度は剣を横にして接近してくる。横なぎで逃げ場を減らしているんだろう。
(攻撃をしないのはその段階ではないだけなんだけどな。)
剣の下を潜って再び距離を空ける。トントンと軽く飛んでリズムを整える。この具合だと飛んでも思った以上に滞空するだろう。
流石に2回も簡単に避けられると警戒するだろう、太郎くんも迂闊には攻めてこようとはしていない。
近くで戦っている英二の様子が気になる。なので、チラッと横目で様子を見てみる。
「ちょって、この盾どうやって使うんだよ。大きいから動くのも邪魔だな。って、あぶな‼︎」
盾が動くのに邪魔になっているようなので避けることが出来ずに相手の攻撃に対して器用に盾で防いでいる。
剣道でいう面、胴などの攻撃だろう。かなり綺麗な足運びであり無駄がないように見える。それをしっかりと防いでいて盾による妨げにならないように次の攻撃への備えもしている。けど、
「英二、へっぴりごしになってるな。面白いぞ横から見た姿は。ドローンさん、あの姿をちゃんと撮ってあげて。」
「やめんか。お前の武器のせいだろうが。あぶな。」
空中に数台のドローンが音も立てずに飛んでいる。試合が始まってから飛び出したからあれが講堂にいる人たちに映像を送っているのだろう。英二のあの姿は普通に面白いからそのシーンだけでも動画がほしい。
相手の渡辺先輩は全ての攻撃を防がれているのにもかかわらず顔色を変えずにリズム良く攻撃をしている。全く本気も出していないようだ。俺の相手よりもかなり強いだろう。
「よそ見している暇はないぞ。」
太郎くんは動作の大きな攻撃は当たらないと思ったのだろう。大剣にしては素早い連続攻撃をしてくる。縦振り、横なぎ、突きを順番を変えて攻撃するけどあまりにも豪快さないので臆することがなくて助かる。大剣は的確に強い攻撃を与えて防御を砕くこと、立ち回り次第で牽制により相手の攻撃を妨げたりするなどと今の攻撃は良い攻撃とは言えない。こちらの武器は刀なので無駄に攻撃していると隙が生まれやすいのだ。
けど、攻撃はしない。まだ、楽しみたいこの体を。
「くそ、初めてのやつに1発も当たらないなんて。」
「太郎ちゃん、疲れましたか。この体は疲れないはずだけどね。」
顔を真っ赤にして大ぶりの攻撃に切り替えてきた。まだ、こっちの攻撃の方が避けづらいけどリズムが単調だ。
真上から振り下ろすような攻撃を仕掛けてくる。前に重心が傾いている。
剣が振り下ろされて視界からはっきりと俺が捉えることが出来なくなるタイミングで素早く大きく一歩進んだところで軽く体を捻った状態でしゃがみ、相手の足に向かって裏回し蹴りを当てる。綺麗に入った感覚がある。
太郎くんはそのまま大剣の重みに負けてこける。綺麗にこけてこっちがびっくりする。しかし、すぐに体勢を整える。
しかし、それで冷静になったのかすぐには攻撃はしてこなかった、
なので、またちらっと英二を見るとこちらもびっくり。
渡辺先輩は刀の速度を変えることなく威力をあげ、なおかつ蹴り技を使って盾を弾いて隙を作ろうとしている。英二はやっぱり慣れない武器を使っているから守ることしか出来ていない。顔に試合開始前の余裕がなくなっている。少しずつ後ろに後ろに下がってきている。受けるばかりでアバターに慣れることが出来ていない。
「おい、英二。これ貸してあげるわ。代わりにそれを貸せ。」
刀を英二の後ろの方に投げる。良い感じに数メートルぐらいの距離で止まったのであとはこっちに盾が来ることを待つだけだ。先輩が大剣を構え直してるから早くしてほしい。
チラッと見るとこちらを見て状況を察してくれたようだ、
渡辺先輩の剣撃に対して盾を思いっきり刀と体にぶつけて強引な距離の開け方をした。これで武器の入れ替えをする時間を生み出すことが出来た。
「武器サンキュ。受け取れ。」
盾を思いっきり地面を這わせながら投げてきた。これ、下手に当たったらおれの足がなくなるのではという速度。
やってきた盾は足で踏みつけるとピタッと止まって起き上がってきた。先輩はもうすでにこちらに迫ってきている。盾は表面をこちらに向けているので素早く裏返す。裏面には取手のようなものが上下左右についている。その取手をそれぞれ手に取る。
「そんな盾でなにが出来るんだ。」
「こんなことさ。」
先輩は今までで一番の威力を持つような攻撃を振り下ろしてくる。それをしっかりと腰を入れて盾で受け止める。
キンッと金属音のような音が響く。そして、大剣は盾を滑りながら地面へと叩きつけられる。この時の大剣の使い手は隙がある。盾でこちらが見えないので脇腹に向けて蹴りを入れる。
肺から空気がもれたような声がし膝をつく。すると、先輩は片手だけをこちらに向け、襟を掴もうとしてくる。その手の甲を叩いてかわし追撃をしようとすると大剣を振り回してきたので距離をとった。
先輩はゆっくりと起き上がって息を整えている。
「くそが。こうなったら手加減なんて考えないからな。」
右肩に大剣を置いて構える。雰囲気も変わって集中力を高めているようだ。一歩ずつこちらとの距離を詰めてきている。下手に動くのは危ない気がする。
「新入生に見せるのは早いが流石に出し惜しみをするわけにはいかないからな。避けられるものなら避けてみな。くらえば一瞬で終わるからそのままでいいぞ。」
大剣に淡い赤色が纏う。そして、立ち幅跳びのようにいきなりこちらへ飛んできた。跳躍力はアバターならかなり高いのでそれなりに飛べるが滞空している間に加速をするというありえないことが起きている。全身に大剣に纏っていた赤色の光をうっすらと纏っている。おそらくだが、これが技能だろう。
『かぶとわり』
そう聞こえてきた気がする。これを盾でまともに受けるのは危ない気がする。技を知らないまま受けるのは今はまだ危ない。
早めによける行動に出なければ当たってしまうので真横に転がっていく。すると、地面が爆発したかのように砕かれた。かなりの威力を持っているので真っ向から盾で受けると盾ごと地面に叩きつけられてしまうだろう。
「次も避けれると思うなよ。この技能は俺の必殺技だからな。」
「いや、ちょっと技能は使用禁止って聞いているけど。」
「知らないのか。試合前に技能は使ってもいいことになったんだ。人の話はしっかりと聞くもんだ。常識だ。」
先輩はドヤ顔でそんなことを言うがこちらはそんな知らせは全く聞かされていない。むしろその逆しか言われていない。しかし、先輩が嘘をついている可能性が
「いや、それはないか。馬鹿そうだし。」
「おい、なんか失礼なこと言ったか。」
「言ってない言ってない。」
馬鹿という言葉をうっかり口に出して言ってしまった。聞こえていないならよかった。
技能を使用してもいいかしてはいけないのか今はほっておく。使用可としても俺はつかえないのだから。
それはそうとさっきの技能は相手が受けに回ったら防御を崩すことが出来、避けるのも状況によったら不可能になる。しかし、簡単にこの技を見せたのは失敗だろう。
「先輩、その必殺技と呼ぶのは今日で最後ですよ。次でその技は終わります。」
先輩はその言葉を本気にしていないようで笑っている。
「何を言うんだ。この技は必殺と呼ぶにふさわしいんだ。1年も経っていないルーキーが技を誘発して何か小細工をしようとしているのはわかるが意味はない。それすら打ち砕くのがこの技だからな。」
先輩は再び構えだす。本来ならここで遠距離攻撃があればいいが手持ちには盾を投げるという無謀な行為か短刀は攻撃の要なのでここでかわされたら拾いに行くことが出来なくなって決め手に欠けて負けてしまうかもしれない。
「今度こそこの一撃で終わりだ。」
先程と同様の速度でこちらに迫ってきた。迫力だけは激しく強くなっていた。
盾を少しだけ傾けて構えておくが力を入れすぎないようにしておく。剣の軌道は見えるようにしっかりと集中をする。一瞬のやりとりが命となる。
大剣の光が強くなっていくのが見えて強烈な一撃がすぐさまやってくる。強い衝撃が盾に伝わってくる。けど耐えるのが目的ではない。その衝撃を受けたらあらかじめ傾けた盾少しだけさらに傾ける。盾を構える力は全力ではなくほんの少しだけ緩めておく。すると、強い衝撃を受けた盾は少し傾き力の流れを変える傾斜を作る。大剣は力の流れに逆らわず火花を散らしながら軌道をずらしながら振り下ろされていく。少し味付けするだけでこんなにも簡単に必殺の一撃は防ぐことが出来る。
大剣が地面を砕いたと同時に盾を捨てて腰にある短刀を抜刀して前へ踏み出して先輩の首を軽く跳びながら切り裂く。アバターということで真っ赤な血は出ることがなかったがそのまま先輩は崩れている地面にへと倒れた。そして、頭から足にかけて順にうっすらと消えていった。そう思ったら、フィールドの外で何かが落ちてきた。それを見ると先輩が背中をついてそこに落ちていた。
『宇野選手、ゲームオーバ。2年生残り1人です。』
とアナウンスが聞こえた。先輩を倒すことが出来たと言うことらしい。しかも、必殺技と言っていた自慢の技を真っ向から崩してと完勝だ。
思わず大きくガッツポーズをとる。記念すべき一勝目だからだ。
「おい、一年坊主。盾で簡単に軌道なんてずらすことが出来るわけない。何をした。」
外で先輩がこっちに話かけてくるから答えてあげよう。
「空中だったら踏ん張ることも出来なくて剣の軌道は簡単に変えることが出来ますよ。まっすぐだけの力に対して少し横から力を加えてあげるだけで軌道は少しそれる。そこに盾で道を作ればそこを勝手に通ってくれるだけですよ。攻撃した直後になにか違和感がありませんでしか?」
「そういえば剣が少しだけ揺らいだ気がする。」
「それですよ。受けるタイミングをしっかり合わせて盾で剣の横部分を当てたんですよ。こんなことは下手したらこっちが受ける力が大きくなってしまうから一度技を見れてよかったですよ。」
先輩は答えが聞けて満足したのか仰向けになって倒れた。
もう一人の先輩との戦いをしている人を心配してあげないといけない。英二の方を見ると以外にも刀を使いこなして少年漫画のように打ち合っている。攻めと守りが入れ替わり見応えのある試合になっている。これは決着がつくとしたら何か技を持っているかが問われるな。
「それでは能力を使わせていただきます。『瞬点』」
能力名なのだろうか。叫んだと思うと彼女の姿が忽然と消える。そして、英二の肩が少し切れている。そして、英二の後ろには消えた彼女が残心をとっていた。
これはもしかして技能ではなく能力なのでは。
「お前、瞬間移動か、いや高速移動の能力なんだな。出なければ一度近づいてから斬らないとダメージが発生しない。」
「そうだ。この能力は知られても弱点にはならないのがいいところだ。では行くぞ。」
そう言うと忽然と姿が消えたが、英二は先ほどの攻撃から予測をして彼女がやってくるだろうと思ったところに刀を振る。
しかし想像通りにはならず、英二の左脇腹が切られる。あそこからそのまま高速移動したら刀に当たり大きなダメージを受けることになったはず。英二は予想が外れて詳細な能力がどんなものかを考えている。
俺は少し離れているところで見ているおかげで彼女の能力が万能の高速移動というわけではないことがわかった。
(なるほどね。自分自身が超高速で自由に動けるわけではなくてモノレールのようにまっすぐに決まった距離まで高速移動をしているわけか。)
先ほどの英二の攻撃の近くまで行って避けて攻撃をしているわけではない、攻撃をすると見せかけて一度英二の視界から外れたところまで移動をしてから攻撃を仕掛けていた。早すぎたのだが止まった瞬間だけはっきりと見ることが出来た。
「おーい、英二。先輩の能力のヒントを教えてあげようか?」
「必要はない。次の一撃で終わらせる。」
するとまっすぐに先輩を見つめ始めた。ゴツい男がそんな目で見ると犯罪者のようにしか見えないのだが。
「一撃とは思い切った宣言だな。まぁ、この能力は相手の一撃でこちらの状況がひっくり返ってしまうことがあるからな。『瞬点』」
すると、あちこち英二の周囲をランダムに高速移動をしていきどこから攻撃を仕掛けてくるのかを絞らせないようにしてくる。一応こっちに攻撃の矛先が向くかはわからないので少し離れたところの壁越しに見ることにした。
英二は微動だにせず構えていてそれが簡単に攻めることが出来ないことがわかっている。下手に攻めると簡単に返り討ちにあう姿がなぜか安易に想像できる。
「あいつ、異様な殺気を全方位に振り撒いているな。ま、あからさまに殺気のないところを作っているのと殺気が自然にないところがあるな。殺気なんて見えないから当てずっぽうだけど。(実際適当に俺も言ってるだけだけど。)」
おそらくだが先輩にはその狙い目が2つあるところがわかってはいるかどちらが狙い目なのかがわからない状態なのだろう。
「いざ、参る。『瞬点・抜刀』」
先輩は少し止まって刀を納刀してまた高速移動を始め撹乱を始めた。英二はようやく構えを大きく変えた。刀を大きく振り上げた。先輩の一撃に対抗するためなのだろう。
先輩は英二の視界にはいるところで何回も能力で移動をしたところで真後ろに移動をした。時間にしてコンマ何秒だろう。さらに真後ろは殺気が自然とない死角の中でも死角である。
ちらりとしか見えなかったが抜刀して刺突する構えをしていた。高速での綺麗な構えでの刺突はかなりの威力だろう。
しかし、先輩の思う通りの行動を英二はしていなかった。しっかりと先輩の方向を向いてすでに剣を振り下ろしていた。そう、先輩のやってくるタイミングにぴったりに合わせていた。
それに先輩はどうなったのかを見るのがなんだか怖いや。恐る恐る先輩の進路方向を見ると最初にはなかったなにか物体が2つ落ちていた。しっかりと見ると真っ二つに斬られている。中身は人間のような感じはなく脳と心臓があるところに真っ黒なものがありそれ以外は真っ白であった。
「よかったー。本当にグロいものではなくて。」
「そんなグロいものが世界大会になるわけないだろうが。全く俺の方が強い相手との試合になるとはな。」
「まぁね。男の先輩の強さを1とするとあの先輩は3か4ぐらいあったからね。まぁいいんじゃないか。お互いに強さを知らない状態ならそのレベルぐらいには勝てる見込みがあるというわけでしょ。しかも今回は相手が技能を使ってこっちは能力も技能を使わずに勝ってるのはいいことじゃん。」
『勝負アリ!勝者1年Eクラス藍田宗斗、佐藤英二。両者の健闘に拍手を。』
理事長がアナウンスをしている。拍手といっても講堂の中なのでこちらには聞こえない。まぁ、始まる前の雰囲気を考えれば数人程度の拍手なんだろう。
「それじゃ、まずは一勝。おめでとう。」
「ああ、最初の一歩目はな。これからだ。」
「そうだね。これからはもっと困難なこともあるからな。」
お互いの目的のためにも一歩目は成功であるべきだったので喜ぶべきだ。英二も少しぶっきらぼうだったが顔がいつもよりたるんでいるので喜んでいるだろう。たぶん。
『それでは第2試合を始めようと思う。両者控え室に戻って休憩してくれ。1年2人は指示があるまで控え室にいてくれ。』
理事長が俺たち2人は講堂に帰ることなく残ってくれとのこと。
「もしかして、2年に勝ったことで何かあるのかな。」
「それはあるだろう。ここは実力があって努力する人になら支援してくれるっていってるし。」
先輩にも勝利して何かご褒美があるかもしれない、そう期待して控え室に向かった。
控室からはこのステージのことを写しているモニターがあるので暇になることはないだろう。ステージの破壊されているところはどうなるのかと思っていたがあれもアバターの要領だろう、一度ステージが消えて再度出現した。そのステージは破壊されていたところは一つもなかった。これなら色々なステージを作り出せるのである程度の広さを確保出来ている会場であれば何度も何度も使用が出来、環境破壊については考えなくてもいいだろう。
そうやって次の1年と2年の試合を見て楽しんだ後、教師の1人が迎えにやってきた。それについて行った先は理事長室と書かれたこの学校の中でも滅多に入ることが出来なさそうなところの一つに連れてこられた。
やっぱり何か良いことがあるのではと少し嬉しくはなったが連れてきた先生の顔が何故か少し悲しそうな顔をしているのを確認し少し疑問に思った。
そして入った理事長室は綺麗なところであり様々なトロフィーや賞状などが置いてあるだけでなく来賓用の高級なソファーもあり正面には理事長が豪華な椅子に座っていた。
理事長は俺たちが目の前に立つと笑顔でこう言った。
「さて、入学式の遅刻の件で説教といこうか。」
俺たちは浮かれていて遅刻のことをうっかり忘れていたことに気がついた。
それから数十分におよぶ説教を受け最高の気分から最悪の気分に変化したことは言うまでもないだろう。
ちなみに、俺たちのあとの試合は2年の勝利だったらしい。