第2話「初日②」
「絶対に怒られるよな。入学式から遅刻なんて。」
「そりゃそうだ。俺たちの席はあそこのEクラスって書いてあって誰も座っていない席だな。幸い入口から席まで先生たちどころか監視の目がない。いくぞ。」
入学式が行われるのが講堂であり今現在はこの学校の校長のありがたいお話をしている最中だ。
講堂内に入るには大きな扉を開けて入らないといけないがそんなことをすれば誰もが入ってきたことに気がついてしまう。しかし、その扉は簡単に出入りすることが出来るように開きっぱなしになっている。
頭を下げて大回りに端っこに位置しているクラスの席を目指していく。椅子がしっかりとしているのでそれを壁にして進めばわかりにくいだろう。
(おい、英二。お前はガタイがいいんだからもっと姿勢を低くしろよ。)
(これでもかなり低くしているんだ。ハイディングなんてしたことないから勝手がわからないんだ。)
俺は椅子の隙間から壇上を覗くと校長が意気揚々と話をしているのを確認することが出来る。来賓の人たちはその話が面白いのか少し笑って校長に注目している。
なら、今ペースを上げてさっさと席に着くべきだ。
(ペースを上げるぞ。今ならバレずに席に着くことが出来る。)
(これでもきついのだが。仕方ない。)
足運びを静かに素早く一気に席へと向かう。
(よし、席に到着だ。けど、おかしいな。)
(何がだ。普通に席が空いていただけだ。クラスメイトの視線が少しだけ向けられているけど。)
それもそのはず。こういうときの席の並びは五十音順になる。
そして、人数確認のためにもいない人の席を開けるはず。俺は藍田なので前の方の席が空いていないとおかしい。しかし、前の席はどこも空いている席はない。
(にしてもこの校長は入学式に関係ない話をしているな。)
(そりゃそうだ。あの腹見てみろよ。でっかいぜ。肥満体型にも程がある。)
壇上で話している校長は肥満体型であることが言われなくてもわかる。しかも話しながら右手にもったハンカチで額の汗を拭っている。にしても汗をかきすぎだろう。壇上のスポットライトの光が強いからだろうか?しかし、こちらをチラッと見てきた気がする。
「さて、時間も私の話で押してきているのでそろそろ校長としての話は終わりましょう。」
と言って締めの挨拶を簡潔にいうとお腹のお肉を連れて自身の席へと向かって座った。椅子がギシッと音がした気がする。
「次に、理事長の財前寺忠治からの祝辞。」
司会の紹介でこの学校のボスである理事長がついに姿を表す。試験の面接では校長まででありその上である理事長とは会っていない。さらに、ホームページでは男の名前だけであり顔は載っていなかった。
椅子から立ち上がったのは真っ黒なゴスロリだった。髪はお姫様風巻き髪ツインであり、真っ黒な服にはピンクっぽい確かアマランサスの色をした大きいリボンが正面についている。150cmあるかないかと身長は小さい。
「まじか、、、。」
一番驚いたのは理事長で男らしい名前ということでおっさんと思ったがゴスロリを着ていてまだ十代の顔である。しかも美少女顔負けの美女?である。
「私が理事長の財前寺だ、こんな見た目でかわいいからと新入生、驚きすぎだ。しっかりと45歳だ。努力してこの美しさを保っている。お前たちは努力と嫌う年頃だろう。努力・友情などは昔に流行って毛嫌いする連中が増え、今もいる。」
理事長は新入生である俺たちをじっと見る。
「そもそも才能もない、あってもそれを使えない状態であるのにも関わらず訓練などをせず諦める、ただダラダラと時間の流れに身を任せる。そういったアホはうちにはいらん。努力いや言い方を変えよう。上を目指しているこの学校は上を目指す連中に対して十分なサポートが出来るように努めよう。」
この学校はロードが強いことで有名であるが全国大会常連であるが優勝は数える程度でしかない。国立第一高校という高校が数えきれないぐらい優勝をさらっている。10年以上前に世界最強の存在を排出したことで志願者が倍増し、国も選手のスカウトに力を入れているため強い選手が揃っている。
よって、何度も優勝が出来るような強さを得るため施設を改良やスカウトにも力を入れている。
(ここの理事長は一味違うと聞いていたがここまでとは驚いた。)
(インパクトが強いな。)
声も声優にも匹敵するレベルである。ジェンダー差別は今は薄くなってきたこともあり俺たちもそれなりの理解はあるが年齢的にマイナス30歳の見た目など高校一年生にはかんりインパクトのあるものである。
理事長はその後も校風やこれからのことを口調はきつめではあるがしっかりと生徒を思っている内容である。
「それでは最後にレクリエーションを行おう。来賓の挨拶も済んだことだ。お前たちの目的である『ロード』をこの講堂という特等席で見せてやろう。2年生の中で中の下の実力者と1年はランダムに決めた2人にしたいが入学式にも遅れてこっそり入ってきたやつらで試合だ。」
すると、講堂のライトがこちらに向けられた。すごく眩しい。
「おい、あっちの方にもライトが向けられている。」
もう一箇所のライトはおそらくだが同じ新入生のCクラスそして、脇の方にいた人。おそらくその人たちが先輩なのだろう。
ライトの先には男女の2人が2組いた。
「先輩が勝つのか、期待のルーキーが勝つのかは見ものだ。まず、最初は遅刻した新入生の2人からだ。」
理事長が空中に手をかざす。すると、壇上の空いたところからはモニターが降りてきた。
「選手を紹介しよう。入学式を開校してから初めての遅刻と者いう問題児の1人。1年Eクラス。藍田宗斗。そして、もう1人の遅刻者。1年Eクラス、佐藤英二。」
理事長が俺たちの学年クラス名前を言ったら一部から小さな笑い声が聞こえてきた。声のする方向を見ると先輩であろう人がこちらを見て口元を隠している。声が極力出ないようしている。さらに、来賓席からも笑い声が聞こえてきた。
(あの先輩の話からしてEクラスはやっぱり嘲笑の対象になっているな。)
(ま、笑わせておけ。お前のいう通りこの席で俺たちが来たことを認識していたな。)
笑い声の主を見ることを止めて理事長を見る。こちらが見ているのに気がついたのかにっこりと笑い何かを言おうとしている。マイクが近くにあるので喋るとスピーカーから内容が伝わるはずが伝わってこない。口パクだ。
内容はわかった。
そのことがわかった理事長は顔つきを変えてまた話し出す。
「それでは、一戦目の選手はステージまで行くんだ。1年は風紀委員のやつに案内をしてもらえ。2年はわかるだろうから早く行きな。」
壇上の隅から一人の女性が出てきて階段を降りてこちらに向かってきた。彼女はツインテールで今日は2回目の顔であった。
「私は紫吹巴って知っているか、自己紹介は省くね。君たち、学校から支給された携帯は持っているよね。持っていなかった今言ってね。それは今後の学校での生活では必要不可欠なのでなくすようなことがあれば単位が落ちるぐらいのものだから気をつけてね。」
朝、俺がその携帯を持っていることを見ていたはずなのだが忘れていただけなのか、用意されたセリフを言っただけなのかはわからないがこの携帯は大切なものであることはわかった。
「それじゃ、さっそく移動しようかな。歩きながらで最低限の説明はするから。はい、立って立って。レッツ、ゴー‼︎」
意気揚々と俺たちが立つのを待たずに出口の方向へと向かっていく。
「英二が出ないと俺が出れないから早くしてよ。」
「お、すまん。ようやくかと思うとな。じゃ、楽しもうかな。」
「楽しむのは同感。」
2人揃って勢いよく立ち上がって紫吹先輩の背中を追いかけていく。
「さて、君たちはロードが初めてということで簡単な説明をしていくよ。」
紫吹先輩は講堂から出ると俺たちを見ることなく目的地を目指しながら説明を始めた。
「といってもゲームが好きな人なら感覚でどんなスポーツかはわかっちゃうけど。ある技術を用いて現実の体を異空間へと保管、現実の世界にはアバターと呼ばれる現実に対して干渉することが出来る体を現出させる。アバターを操作をして戦うけど普通に自分の体と差して変わることはない。違うことは、身体能力が向上していること、スタミナがほぼ無限にあること、技能が使えること、痛みがないこと、異能力を使えることとざっくりはこれだけね。ゲームでしょ。ね、藍田くん。」
突然名前を言われると驚いてしまう。しかも、こちらを振り向くことすらせずに。
「そうですね。画面上のゲームが現実になっていることは驚きますけど。あと、アバターって聞くとどういうふうなものなのか気になりますね。」
その質問を待ってましたという顔で答える。
「そうね。アバターってゲームではどのプレイヤーも平等であるためにRPGだったら最初は一緒でその後どう成長させるかはひとそれぞれっていうのが普通。あとは、キャラクターごとにバランス調整したものが用意されているか。それが今までのゲーム。それはそれで楽しいけどね。ならロードのアバターはどんなものかわかる?佐藤くん。」
「そうですね。従来通りでも人気にはなりますが、従来通りでアバターの能力が同じならロードをしたことがない高校生未満は基準がわからない。ただ、身体能力がすごいひとだけを集めるだけでいいが、動かすのはみんな同じもので技術が高い人が有利ってことはないと思う。人それぞれでアバターが違うのでは。」
すると、先輩はくるりと回転してすばやく手を動かしたと思うと俺と英二の手を握っていた。
「そう、身体能力は人それぞれで違っていて、力の強いひとがいれば敏捷性が高い人もいる。更に所持している能力もその人によって違うのよ。」
「能力って超能力的なものか?」
英二は普通に疑問に思ったことを口にした。
「そう、誰もが獲得できる能力もあるの。けど、人それぞれで適正がある能力を手に入れることが出来るものや適性がなければ手に入れられないものもある。」
そう言うと紫吹先輩はポケットに手を入れる。そして、手からは二つの包み紙に包まれた丸いものがあった。
「こっちの赤い飴が炎の能力。でこっちの青い飴が氷の能力だとしましょう。炎を氷に近づけるとどうなりますか。」
「氷が徐々に溶けていきますよね。」
「そう、能力もそのような感じで相性というものがあります。火球を生み出し飛ばす能力を手に入れることが出来る才能があるなら、氷の槍を生み出し飛ばす能力などの才能は持つことはないのでその能力を使えない。」
「能力も相性があるのか。万能の能力はないということだな。」
紫吹先輩は大きく頷いている。
「あと、重要なのが技能ね。これはロードのアバターを使いこなしているか。現実でも特別な技術を持っているのか。技能って聞けば何を思い浮かべる2人は。」
「そうですね。『いあいぎり』ですか?」
「『かぶとわり』だ。」
俺たちの回答に喜んで大きく頭を縦に振る。
「そうそう、いい回答だよ。そういった実際にあるようなものも技能にもあるんだ。いあいぎりは有名だから説明しやすいけど、そういった技って普通一朝一夕でできるようなものではないんだね。毎日の剣の素振りから技の練習をして練習をして技となる。それに対して補正が入って威力の向上などがあるんです。さらに、技に磨きをかけることで強くなります。」
「技能には相性はないですよね。」
彼女は手を握ってきてぶんぶんと振る。
「そう技能の獲得には相性はないんです。獲得といっても体が覚えているものなので訓練を怠っていると技すら出すことが出来ないですけどね。さて、つきました。」
彼女は握っていた手を離して目の前にある建物を見せてくる。
建物は地方にあるような野球場ぐらいの大きさであり小さなドームである。壁は白に近い灰色である。ロードは近代技術が使われているところであるのでいくら野球場の見た目でも雨に対して野ざらしのようなステージではなく屋根はある。
「さぁ、みんなを待たせていたら私が理事長に怒られてしまいますから。」
先輩は入口を無造作に入っていき手招きをしてくるのでそれに従って入っていく。
中は常温に保たれているのか外と比べて少しだけ暖かかい。入ってすぐには受付がありその上にはモニターがステージを写している。そして、左右の通路のどちらかに進むか左右にある階段がありどこかに登っていくかできるようだ。
「階段は観客が登っていき、選手はどちらかの通路を進んでいくの。左右に分かれているのはチームごとに分かれるからよ。君たちは左側ね。携帯を取り出してね。」
言われた通り左の通路を歩いていくと選手控室と書かれた部屋があった。
先輩はその部屋の扉を開けて入るように促す。
先輩を扉を手で押さえたままにするわけにはいかないので早く入る。すると空気が変わったことに気が付く。
部屋の中は、ロッカーが壁際にきれいに並べられていて中心には緑色のベンチが置かれている。入口とは反対の扉がありその上はモニターがある。さらにその扉のすぐの両隣には機械が置いてあった。俺の腰ぐらいの高さからモニターがありキーボードやタッチパッドがあった。端っこには四角く白線で区切ったものがある。
「さて、二人とも取り出した携帯を持って、その2つの機械を使うよ。こっちに立って立って。立ったら画面をタッチ。」
言われた通りに機械の前に立って画面をタッチすると『システム・ロード』と表示される。
「あとは、画面の指示にしたがってください。携帯は横の枠組みに置いておけばいいですよ。」
そう言われたので画面の指示にしたがっていく。
指示は単純で名前の確認やフリガナ、基本的なアバターの説明を受ける。しかし、先ほど先輩の話で言われたことを書かれただけだ。
『次に、アバターへと換装するための器具を担当から受け取ってください。その器具を左の枠組みにかざしてください。』
「2人ともこちらを受け取ってください。」
先輩が差し出してきたものは真っ黒な腕時計だった。安っぽいものではなく金属製でもなさそうだ。
受け取った時計を指定されたところにかざした。
『認証しました。器具を装着してください。続いて武器の選択に移ります。武器は基本として片手剣、刀、短刀、薙刀、短剣、大剣、斧、槍、ナックル、盾、弓があります。その他もありますが初心者の方には基本武器がおすすめとなります。最大で2個まで選ぶことが出来ますが重量や戦闘や移動に支障がきたさないためには1個がおすすめとなります。』
次の操作は武器選であった。基本武器以外にもあるというのが魅力的だ。それを見ていくと興味深いものもあった。
「英二はどんな武器が好きなんだ?俺はガッチリと守るよりも守りも出来て反撃もできそうなのがいいな。」
「俺はしっかりと重量があって一撃が重そうなのがいい。そうだ、お互いの武器を決めるのはどうだ?」
「お、いいな。じゃ、交代交代。」
場所を交代して画面を見る。英二の話でぴったりなのは大剣だろう。けど、ここで大剣を選んでしまったら面白くはない。なら、逆に英二にではなく俺にぴったりそうな武器にしてしまえばいいのだろう。
武器は基本的なものではなくその他を見ていく。刀と小刀が鎖で繋がっているもの。モーニングスターなど個性的である。その中でも面白そうであり昔によく使っていたものに似ているものがあったのでそれを選択した。
「俺は終わったよ。」
「こっちもだ。武器が出てくるまでお楽しみにしろよ。」
「よし、2人とも終わったようだね。その後は能力の設定があるけど今回は使わないからスキップしてね。技能も今回は使用禁止。使ったら実力差がかなりついてしまうからね。そしたら、基本設定は完了。ついに、試合だよ。腕時計はしっかりとつけてね。」
「案外かっこいいデザインしているな。俺は気に入った。」
英二はしっかりと左につけていた。俺も左につけておく。
「さて、君たちの先輩がステージで待ってるよ。そこからステージに行けるから頑張ってね。」
「先輩はここまでですか?」
「そうよ。ここからは選手だけだから。フィールド内に入れば勝手にアバターに変装するから説明と案内はこれまで。これからはクラスメイト達と頑張ってね。」
先輩は笑顔で見送ってくれようとしている。
「そうか、次は初心者をいたぶろうとしている怖い先輩か。どんだけアバターで動けるのかが不安だ。」
「1年の差はかなりだからな。」
そう、1年の差は大きい。それが何も経験をしていない人と経験している人の差はかなりのものになる。不安になるのも無理もないと思うだろう。
しかし、彼女の反応は違った。
「問題はないですよ、あなたたちならね。」
しっかりと、こちらを見て無表情でだ。
「2人のことはよく知っているので大丈夫です。どこに住んでいたのか、どんな生き方をしてきたのか。そして、なぜこの学校へやってきたのかも。目的も実力もご存じです。だからこそ初めてのロードでも対戦相手の先輩でも勝つことは出来るでしょう。それではご健闘を祈っています。」
そう言い彼女は控室を音を立てずに控室を出ていった。
俺はただ何もせずに突っ立ってしまう。
「俺たちのことを知ってるっていきなり先輩に言われたら怖いわ。なんで目的も知ってるの?」
「それは俺も思った。この学校の風紀委員はなんだ。学校で雇われた忍びか何かか?」
こちらの個人情報など生徒が知っているだけでなく、入学式という高校生生活1日目にそう言われると恐ろしいのなんの。
十数秒ぐらい経ったか、さすがにこのままではいけないと思い英二の肩を叩いて現実に引き戻す。
「いくぞ。さっきの怖い先輩のことは忘れてこれから会う怖い先輩の方を考えよう。」
「そうだな。普通の高校生にはきつい。」
俺は扉を豪快に開けて気持ちの切り替えをする。先ほど言われたフィールドらしきところまではまっすぐな通路のみであった。
ロードのデビューはこの一本道を通れば始まる。
「さて、選んでもらった武器は通用するのか楽しみだ。」
「俺もだ。真面目に選んだんだろうな。」
「それはもちのろんよ。(自分に対してだけどな。)」
俺と英二にとっては今後の人生そのものを変えてしまうスポーツであるロード。その最初の一歩はこけることなどは許されない。不安だと思うことをいったが内心では自信があった。これまでの人生はこれから始まる生活に全てをかけるために過ごしてきた。
辛いことがあろうとも、苦しいことがあろうともくじけずにやってきた。周りに助けられたことは何度もあった。今までを無駄にしない。絶対に夢を叶えてみせる。
念願の戦場へと足を踏み入れる。