第1話「初日①」
2045年、人類はウイルスによって危機を迎えた。
幸いにも感染者の割合は高齢者がほとんどの割合を占めていた。高齢者は65歳以上であるので大した被害ではなかったのは過去の事であり当時は超高齢化社会となっている。
超高齢化とは過去では高齢者は65歳から定年退職となることがあったのだが当時の日本では政府が65歳で定年ではなく75歳で定年ということになっていた。
平均寿命がかなり高くなっており政府はそれを目安として設定したことなどで高齢化ではなく超が付き超高齢化社会となり世界中で問題となった。
さらに、交通機関などの日々を支えていることを高齢者が仕事をして若い世代や中年はそれ以外の仕事を行っている国が多くあった。高齢者は運転する仕事などを行っているのでアクセルとブレーキの押し間違いは安全運転システムで軽減はされているが改善されず交通事故は多発するなどと高齢者の体や認識速度の低下など日本を中心とした世界的な社会問題になっていた。
そんな時、ガイアウイルスと呼ばれ社会の基盤である高齢者を中心に多くを殺していくウイルスが全世界で感染が広がっていった。全世界の高齢者は極端に数を減らし世界が抱えていた少子高齢化問題は無くなったが、高齢者を働かしていた日本のような国は大変な目にあった。
感染症により世界は人口の増加による飢餓や飽食、高齢化は無くなり、どこも国の運営で忙しい中でとある研究団体が特別な物質を見つけた。それは人間の体やその物質によって作られた核と反応するものである。
その物質の名前は「an」。見つかった当初は一センチ四方の大きさで、重さを一切感じないものであった。「an」が発見されてからアメリカ、日本、イギリスの企業が合同で「an」を使った「ポセッド」と呼ぶ技術を開発に成功をした。
「an」が人間と反応することに着目をして研究をしていき「an」は人間の体を違う物質へと作り変える特性を持っていることが確認できた。作り替わった体は一定の損傷を負うと元の体へと戻る性質も持ってもいた。
この物質はいかにも軍で使用されるような技術であったのだが、とある大企業の社長がこれに目をつけ
「この『ポセッド』を使って子どもの頃誰もが夢に見たゲームの世界を現実にしようではないか!」
この発言はSNS上で発信され数年後には、実際に「an」を用いて一つのスポーツを実現させた。
そのスポーツの名前は「ロード」である。安全面やゲーム性を損なうことなく誰もが画面の向こう側でしか存在しなかった世界を実現したものである。
基本的なルールはチーム戦で、チームに分かれ相手の陣地を一定時間占領をするか、全滅をさせるかで勝利するといった単純なものである。
このゲームは人と人が争うものであることから年齢制限が15歳以上と制限がかけられた。
年齢制限がかけられたが、これが世界中に発表されると瞬く間に世界中で人気となり数年すると世界大会が開催されることになった。
更に高校で「ロード」が授業科目として追加されているところも増えていき、2060年では大人気スポーツ世界1となり、世界は魅了されていく。
「ロード」をプレイする者の中で己が置かれている状況を変えようとするのもの、夢を叶えようとするものがいた。
そんな少年・少女の物語が幕を上げる。
桜の花びらが視界を桜色に染める。今年は程よく暖かくなったため桜は満開であり今日のために咲いたと言っても過言ではない。
真っ白に陽の光を軽く反射をしていて花びらの存在を引き立てている建物が満開の桜と同じぐらい存在感を放っている。それは俺だけがそう感じているだけなのかもしれない。
それもそのはず、今日は4月4日の月曜日。
ここ、私立中央高等学校の入学式の朝だからだ。
現在の時刻は8時ジャストであり、入学式が始まるのは9時45分からなので1時間以上も早くに学校へと到着をしている。
「この学校は全寮制だし、寮からは徒歩5分で着いてしまうのが悪い。」
ここ中央高等学校は西日本の中では生徒数は多い方であり敷地面積はかなりの広さを持つ学校である。全生徒はいくら学校から近くに住んでいようとも学校が運営している寮で生活をしなければならない。
徒歩5分圏内に学校があるので遅刻の心配はしなくてよく、寮からの学生専用バスでショッピングモールなどの施設があるところまで15分であることからかなり立地が良い。
学校自体は有名であり倍率は高い。しかし、この学校は学力が高いから有名ではない。
この世界の知らない人がいないほどの有名スポーツが国内では5本の指に上がるほど強いところであるからだ。
そのスポーツをするためにやってきた理由がある。
学力もそれなりに必要であり、試験勉強をしっかりとすることで合格することが出来た。
実家からはかなりの距離が開いていることもあり、全寮制であることに感謝したい。
試験に受かっただけでは終わらない。この学校はスポーツに力を入れておりその成績が悪いと落第してしまう。
一番重要なのは、そのスポーツの結果をよくすること。スポーツに力を入れることができるこの全寮制という環境はうってつけだ。
校門をくぐり前日にもらったメールの案内に従って道を進んでいく。
「これからの人生を決める第一歩の日だからっていくらなんでも早くに着きすぎたけど自分のクラスとかの案内はあるのかな。普通はこの学校支給の端末に送られてくるのを電子掲示板に貼り出すらしいからな。」
昔の学校のクラス分けは掲示板にクラスごとに学生番号と名前が張り出されて入学式の日にわかるシステムだったらしいが現在は携帯などに学校からの送られてくるメールや学校が開設している学生専用サイトに1週間前ぐらいから載っている。
旧システムが不便であることが確かなのだが文句を言っても仕方はない。
「さて、電子掲示板はどこにあったかな。校門をくぐってからまっすぐ行くだけと連絡は来ていたけど。」
誰もいない道を通っていき綺麗に整えられた校内を進んでいく。朝の涼しさと綺麗な校庭を一人で歩いているとまるで自分のためにテーマパークが開園しているのではないかと妄想することが出来そうだ。
「これだな、この建物って職員室があった気がする。」
歩いて少ししたとこにある職員室、生徒会室、会議室などが入っている校舎A棟の入口のすぐそばに電子掲示板があった。
クラスは左からAクラス、Bクラス、、、Eクラスとあるので一応左のAクラスから順に見ていく。
「Aは、、、、ない。次は、、、、、ない。次、、、、ない。次、、、、ない。、、、あった。Eクラスの最初にあったか。校舎D棟に教室があるのか。で、どこなの?」
校内のマップは今まで一切見たことがないのでどの建物がAなのかBなのかは見分けがつかない。普通はこの学校の試験を受ける上で事前に下見に来て試験会場を確かめるのが普通だとは考えるが、この学校はまた別のところを借りてそこを試験会場にしていた。
理由は簡単。全国各地から受験者が集まるがこの学校のある場所は駅からは遠くにあり近くには朝は渋滞が頻繁に起こる。そんなところで受験者を待ち構えても時間に間に合わないかもしれない。
なので、この高校から一番近い位置にある駅の施設を借りてそこを試験会場にした。
そして、この学校で学生生活は今後に関わる大事な場所なので入学式より前に見ると緊張して精神的に不快になるのが自論。
お尻のポケットから携帯を取り出してブラウザアプリを起動させる。ブックマークに登録していた学生専用サイトを開く。
「えっと、IDは学生番号にあの数字をつけて、パスワードはあれで。校内のマップは、学校情報にならあるだろう。」
携帯の画面に集中していたところ携帯の画面に影が落ちる。
気配なく近づいてきたので驚いてしまい後ろに飛び退く。飛び退いた先が建物の壁であり背中を強打してしまう。失敗した。
「驚かせてすまない。私は風紀委員の者だ。クラス発表の掲示板を見た後、建物を見て携帯を操作しだしたのでな。もしかして、教室の場所がわからないのではないのかと思い声を掛けたんだ。」
俺の前にいたのは少しだけ身長の高い男であった。特に目立つような顔立ちや体格ではなく人混みの中で彼を見つけ出すことは困難であるぐらい平均の中の平均的な顔たちだ。
「君は新入生だな。どこのクラスだ?」
「Eクラスです。」
「了解、少し待ってろ。」
男はそう言うと携帯を取り出し誰かと電話を始める。
「俺だ。A棟に来てくれ。新入生をD棟に案内してくれ。俺がしろって?これから今日の最終確認をしに行かないといけないんだ。頼んだぞ。すまない、もう少ししたらここにツインテールの女の人がやってくるからその人に教室を案内してもらうんだ。君にとって先輩の話を聞く良い機会になるはずだ。」
そう言うとA棟に入っていく。
忙しいのにもかかわらず風紀委員の役目をしっかりと果たしている。いい先輩なのだろう。
「ありがたいけど、校内のマップを開けたから案内はいらないけどな。言われた通り先輩からの情報を聞いておくか。」
目印になっている電子掲示板の横で立っておく。これならお互いに知らない顔でも俺が目的の人物であることがわかるだろう。
あの全てが平凡そうな先輩が言っていた話を聞く良い機会と言ったことが気になる。確かに風紀委員の人ならこの学校のことを熟知しているはずだが、「君にとって」ではなく「君達」もしくは「新入生」と言うのが普通だ。いかにも普通な人が普通のことを言わないのはおかしいと思うが言い間違いなのかもしれない。
開いていた学生専用端末のウインドを消しておく。
時間もまだまだ入学式が始まるまであるので教室に着いても暇になるだろう。
「すみません。君がおせっかいな風紀委員に案内をされるように言われた新入生かな。」
またも気配を消して真横に現れる。今回は気配を消していようとも視界の端で姿を捉えていたので驚くことはない。
「はいそうです。」
「あれ?驚かないんだ。ちょっと意外かも。」
声を掛けられて普通に返答しただけなのだが逆に驚かれた。不思議な人だ。
「ま、いいや。君はどこのクラスなのかな?答えなくて良いよ。お姉さんが当てよう。D棟ってことはC、D、Eの3つのクラスってことだよね。私の観察眼では、、、Eクラスだね。当たった?」
ツインテールの先輩は前をゆっくりと行き来しながら俺のことを観察してクラスを言い当てる。
「当たりですよ。」
「やっぱり、Eクラスの子は誰も彼も変わった人しかいないから君もそうだと思ったんだよ。」
拳を握って天高く突き出して喜んだ後は、手招きをしてくる。
「早速教室に行きましょ。話したいことがあったらいつでも話してね。」
ニカっと屈託のない笑みを向けたきた。
「わかりました。」
先輩が先頭で歩いていくのに着いていく。すると、先輩はくるりと体の向きを後ろにいる俺に変えて後ろ歩きを始める。
「自己紹介をしていなかったね。私は紫吹巴。紫吹先輩って気軽に呼んでね。それでね今年のEクラスは過去1番のすごいクラスだって先生たちが噂していたよ。もしかして君もその一人なのかな。どう?」
「さぁ。その逆で普通すぎるかもしれないですよ。」
「そうかな。まぁいいか。その過去1のクラスの中でもすごい人が入ってきたって。超がつくほどの有名人の家族だって。」
こちらをじっと見つめながら言ってくるが気にはしない。
「そんなすごい人なら面白い学生生活になるでしょうね。」
「ま、Eクラスってことは変わった人なんでしょうね。今日学校に1番早く辿り着いた新入生には良い情報をあげよう。」
再び前に向きを変えて歩く。
「だれもがすぐに知ることにはなるんだけど、Eクラスってのは合格者の中でも成績の悪い人や異常者などが集められたクラスなんだ。生徒の間では『エラー(erorr)』のクラスってね。成績が卒業するまでどのクラスよりも低いんだ。名前の通りだね。」
広いところに出た途端先輩はくるくると周りだした。
「風紀委員はそのクラスとよく関わることがあるけど、誰一人としてどのクラスにも劣っているとは思えないだよね。使い方がわからないって感じで。」
顔は相変わらず笑顔ではあるが目はかなり寂しそうである。
「そうですか。悪いことも成績が悪くなることはしていないですけど。」
ふふと笑ってこちらを見てくる。
「だから、今年はEクラスは違うんだよ。ほら、こっちがD棟だよ。こっちが玄関口。」
扉は自動ドアなのでスイっと先輩は入っていく。私立校だからなのかかなり綺麗である。清掃員がかなり有能なのだろう。
入ってすぐの廊下を右にまがって階段を登っていく。
「Eクラスは二階だよ。ほら、階段をあがってすぐのここが教室。」
教室の扉の近くには『Eクラス』と書いてあった。
「案内の方ありがとうございます。」
「いいってことよ。新入生。教室の鍵は空いていないからそこのもう一人の新入生と仲良くしておきなよ。同じクラスらしいからね。」
先輩が後ろを指差すので見ると窓際の柱の影からガタイのいい男がいた。柱と同化でもしていたのかと思うぐらい微動だにしていなかったので置物かと思っていた。
「それじゃあね。期待の新入生、藍田宗斗くん。」
手を振りながら笑顔で立ち去っていく彼女を見送った。
「俺が誰かを知っておきながらあの話をしていたのか。」
「お前もか、俺の時もそうだった。」
置物が話しかけてくる。俺よりも頭一つ分だけ身長が高い。顔は少し高校生には見えそうにないがまぁ高校生だろうぎりぎりのラインの顔をしている。
「ああ、名前はさっき言われた藍田宗斗だ。よろしく。」
「俺は佐藤英二。3年間同じクラスだから隠さずいうが、中学までは名の知れた不良だ。だが、遠慮せず接してくれ。」
「顔の通りだな。隠す必要がないぐらいだ。」
「ほっとけ。俺の顔はオヤジ譲りだ。」
そして、教室の扉に手をかけて開けようとするが開く様子は一切ない。
「時間が来たら自然と空くだろ。それまで暇を潰す場所がほしいんだけど。」
「なら、お前が来るまで暇だったから校舎内を見ていたら良い場所を見つけた。一緒に来るか。」
佐藤は指で天井を差しながら尋ねてくる。もう一つ上の階のことなのだろうか暇であるしこれから同じクラスのやつと友好を深めるのも悪くはない。
「そうだな。一緒に行こうかな。」
佐藤は手招きしながら階段を上がっていく。見た目の割にはかなり動きが早い。
「こういうのって屋上に連れて行かされて暴力を振るわれるのが定番だってじいさんの漫画では言われていたな。昔すぎるけど。」
佐藤が突然振り返り
「その漫画『サイドステップ』ってやつじゃないか?」
「それそれ、あれ?なんで昔の漫画知ってるんだ。じいさんばあさんぐらいの世代の漫画なのに。」
「ああ、かあさんが漫画が好きでなよく読んでた。この先でその話をしようぜ。」
階段を一階以上登って行き、行き止まりまで来た。この先にあるのは屋上だ。
「屋上って入っても大丈夫なのかな。」
「気にするな、立ち入り禁止でもバレなきゃ大丈夫だ。」
「それもそうだな、佐藤に連れて行かれたって言えば大丈夫だ。」
佐藤は聞き流しているのかドアを開けようとするが鍵がかかって開けることができていない。しかし、近くにある窓の方に向かっていく。
「ドアが開かないんじゃ屋上には入れないだろ。」
「屋上を普段から解放しているなら時間がくれば開くだろうが、開いていない時間でも入りたい連中はいる。特に歴代の問題児クラスなら。」
ドアの鍵を開けて窓を開ける。
「佐藤もEクラスが問題児の巣窟って話を聞いていたのか。」
「まぁな。お、当たりだ当たり。開けた先がちょうど屋上だ。下に足場があるってことはここから出入りしていたんだな。」
掛け声と共に窓から身を乗り出して屋上に向かっていく。俺もそれに続いて屋上へと向かう。
屋上は地面一面緑色をしていてところどころにベンチがあり生徒が利用するために置かれていることが確認できる。
奥の方には用具入れと白い布を被せられた何かが置かれていた。
「藍田、俺のことは英二でいい。けど、藍田なんてどこかで聞いた名前だな。」
「気のせいだ、英二。宗斗って呼んで。藍田って苗字は嫌いなんだ。」
英二は「オケだ。」と言ってベンチに腰をかける。俺は白い布を被ってるものが気になりめくりに行く。
「『ACK Model S, Rx O』よくわからない機械だな。まぁいいや。」
四角い金属にラベルが貼っていただけだ。外見から中身の予測など出来なかった。
英二の座っているベンチと向かい合っているベンチに座る。
「さてと、聖なる天使が地上に堕とされてバスケにひたすら向き合う、、、」
「『ホーリーダンク』。平凡な高校生が地獄の門番の代わりに悪人を地獄へと落としていくラブコメ。」
「『ヘルスチューデント』。やっぱりクロックの漫画を読んでいたんだ。不良なのに昔の漫画知りすぎだろ。」
「不良だって漫画読むわ。いきなり話がわかるクラスメイトで助かる。これなら入学式までの時間どころか簡単に時間がたっちまう。」
ガハハハと豪快な笑いをする英二はやっぱり高校生のようには見えない。
「英二はこの学校にきた理由ってやっぱり『ロード』をしにやってきたんでしょ。」
「まぁな。けど、『ロード』は手段の一つだ。ざっくり言うが不良の中でも俺はよく喧嘩をしていたんだ。喧嘩をしない不良もいるけどな。そしたら時代錯誤のようによそから喧嘩をしにくるやつがいるんだ。その中の一人で強いやつを求めているというやつが来たんだ。」
空を見つめてながら英二は続ける。
「圧倒的な強さだったよ。初めて負けたんだ。腕力の強さはすごかったがすべての攻撃が見切られて1発も当てることは出来なかった。自分は小さな世界だけで生きていた。外を見ることの大切さも教えられた。だから、そいつに会ってお礼とリベンジをするためにこの高校に来たんだ。」
「なるほどね。そいつは『ロード』をしているってことを知って強めの高校にやってきたと。」
英二はこっちを見て返事をする。
「おう。ここのことは前から知っていたからな。お前の方はどうなんだ。」
相手にそのことを聞いたら自分のことも聞かれるのは当たり前だ。
「まぁ倒したい相手がいることは同じだ。けど、相手が相手だから俺の目的が成功する確率は0に等しいけどな。」
「そうか、ま、お互いに頑張ろうぜ。さて、漫画の話をするぞ。」
入学式という明るい日に暗い話は全く向いてはいない。せっかく漫画の話をする相手が初日から見つかったなら楽しく話すだけだ。
そう、現在の漫画を読んでいる人はたくさんいるのが当たり前だが、昔の漫画を読んでいる人はそうそういない。2000年あたりの漫画は名作が多いのだが数が数なので全てを読むのは億劫になる。
俺と英二は漫画をかなり読んでいて相手が読んでいない作品があるならお薦めしたりお薦めされたりして有意義な時間を過ごしていた。
楽しい話というのは時間の進みが思っているより早くなっているという体験はしたことは誰でもあるだろう。
そう俺たちは時間というのを忘れていた。
入学式遅刻した、、、、