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やり直し公女の魔導革命 〜処刑された悪役令嬢は滅びる家門を立てなおす〜 遠慮?自重?そんなことより魔導具です!  作者: 二八乃端月


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第95話 伝えた者、見捨てなかった者

 


 ◇



 草原に延びる一本の道。


 舗装のないただ踏み固められただけのその道を、必死で馬を引く兵士がいた。


 頭上から降って来る、ギャーッ、という啼き声。


 彼は声の方を振り返ると、肩から吊るした魔導ライフルを構え、引き金を引く。


 タンッ!


 乾いた音があたりに響き、銃口が向けられた空からは、ギャーギャー、と嘲笑うような啼き声が返ってくる。


「くそっ、しつこい奴らだ」


 毒づいた中年兵士は、空を舞う三つの影を睨みつけると、再び馬を引き始める。




 もう、何度こうして撃ったか分からない。


 頭上をグルグルまわりながら、隙を見てはちょっかいをかけて来る巨大なカラスたち。


 連中を追い払おうと銃を撃つのだが、動きが速すぎて当たらない。


 いや、数発かすってはいる。

 けれどそれらは致命傷にならず、連中は悠々と空を飛び続けている。


 気がつけば、一つ目の弾倉が空になり、予備弾倉の弾も残すところあと数発、という状況になっていた。


 ひょっとすると巨大カラスどもは、こうやってちょっかいを出しながら弾切れするのを待っているのかもしれない。


 弾切れすれば最後。

 その鋭いくちばしとかぎ爪で、彼を嬲りころすつもりなのだろう。




「ぐぅっ……」


 その時、馬の背にぐったりと体を預けているもう一人の若い兵士が呻いた。


「おい、頑張れよ! もう少しでバンニの村に着くからな!!」


「お、おやっさん……僕を置いて行ってください。このままじゃ二人とも––––」


「馬鹿野郎! お前は俺が連れて帰る。絶対にだ。だから黙ってしがみついてろ!!」


「すみません……」


 絞り出すようにそう言った彼の左腕は、だらんと力無く垂れ下がり、その指先からはポタリ、ポタリと血が垂れ落ちる。


 側から見ているだけでも、骨折し、腕の一部が傷ついているのが分かる。


 実際には、彼のケガはそれだけではなかったが。


 ナクハ村から騎乗して逃げる際、左後方から滑空してきたデビルクロウに腕を掴まれて持ち上げられ、そのまま五メートルほどの高さから放り投げられたのだ。


 目立った外傷は左腕と左手首の骨折と裂傷だったが、全身打撲により肋骨も数本折れていた。


 そんな状態だったから、もはや単独で馬に乗ることもできず、年上の相棒に馬を引いてもらうほかなかった。




(くそっ……)


 馬を引く中年兵士は、心の中で舌打ちした。


(俺があのカラスに尾けられなけりゃ、こんなことには……)


 後悔しても仕方がない。


 けれど、ひとまわり以上も歳が離れた相棒を危険に晒し、今や絶対絶命の状況となっていることに、彼は責任を感じざるを得なかった。


 彼らは最後までナクハ村に残っていた、第二領兵隊の駐在兵だった。


 魔物の群れを監視し、南下の情報を持ち帰ったのは中年兵士。


 その情報は、若い相棒によってすぐさまココメルの本部に打電された。


 敵動向の把握と本部への連絡。

 そこまでは良かった。


 問題は、彼が向こうを見ていたように、向こうもこちらを見ていたということ。


 そして、本部に報告を入れている間に、仲間を呼ばれてしまったということだった。




 ギャーッ、と甲高い声で啼く巨大カラス。


 中年兵士は再び足を止め、声の方に銃口を向ける。


 滑空しながら迫る黒い影。


 タンッ!


 弾丸は当たらず、魔物は旋回し回避するように飛ぶ。


 油断なく銃口を指向し続ける中年兵。


 ––––その時、


 ガッ!!


 突然の衝撃。


 鋭い痛みが両肩に走り、彼は空中ブランコのように宙に浮き上がった。


「うおっ?!」


 頭上を覆う黒い影。

 先ほどとは別の個体に掴まれてしまっていた。


「この野郎っ!!」


 両肩を鋭いツメで掴まれた状態で、彼が銃口を上に向けようとした時だった。


「!!」


 ふっ、と体が宙に投げだされる。


 一瞬の浮遊感。

 そして––––


 ガンッ! ゴロゴロゴロゴロ……


 地面に強かに体を打ちつけ、そのままゴロゴロと転がる。


 地上数メートルからの落下。


 中途半端ながらわずかに受け身が取れたのは、不幸中の幸いだっただろう。


 それでも全身がバラバラになったかのような痛みですぐには立ち上がれず、彼は土の上に無様に転がった。




「ぐっ……」


 激痛に体を震わせながら、体を起こそうと試みる。


 だがその試みは、文字通り上から押さえつけられた。


「ぐぅっ!!」


 背中に乗っかる巨大カラス。

 食い込むかぎ爪。

 頭のすぐ上で、勝ち誇ったようにカラスが啼いた。


「ふうぅっ……ぐはっ?!」


 なんとか逃れようともがくが、背中のカラスは今度は片脚で後頭部を押さえつけてきた。


 頬が地面に押しつけられ、口の中に土の味が広がる。


 目の前に着地する、新たな二本の鳥の脚。

 その目的は、明白。


(こんなところで、カラスのエサになってたまるかっ!!)


 必死でもがき、ライフルを手繰り寄せようとする。

 が、カラスの脚がさらにその手を踏みつける。



(くそっ、くそおおおおっっっっ!!!!)



 涙で視界が霞んだ。



 ––––その時だった。





「『単体防御パルト・ディフェンシア』っ!!」




 辺りに響く少女の声。


 ズン、という見えない空気の圧力。


 同時に、巨大カラスに踏みつけられていた腕と背中が、すっと軽くなった。


「?!」


 彼は何が起きているか理解できず、そのままぐるっと仰向けになり、空を見上げた。




 ギッ、ギギッ


 彼の真上で、二体のデビルクロウが空中に磔になっていた。


(っ……! なんだ、これは?!)


 見たことのない現象に、息を呑む。



 ––––そして、天使を見た。



 虹色の膜をまとい宙に浮かんだ少女は、二体のカラスに手のひらを向けていた。


 まるで魔物を拘束するかのように。


 やがて、


 ミシッ、ミシミシッ!


 磔になった黒い鳥が、異様な形に歪み始める。


 ギッ、ギギギッ


 それは断末魔の叫び声か。


 バキッ、バキバキッ


 バキバキバキバキッ!


 バキンッ!!


 化け物ガラスの巨体はぐちゃぐちゃに潰れて––––


「はぁっ!!!!」


 少女の声とともに、視界の外に吹き飛んだのだった。




(……これは、夢だろうか?)


 現実感のない光景に彼が茫然としていると、少女がちらりとこちらを見た。


 その顔を見た兵士は、目を見開く。

 そして、


「レ、レティシア様っ?!」


 彼の主の名を叫んだ。


 そんな彼を見て、ホッとしたような顔をする天使。


 が、彼女はすぐに真剣な顔に戻ると、後ろを振り返って叫んだ。


「アンナ! 残る一匹をお願いっ!!」


「はいっ!!」


 呼びかけられたメイド姿の侍女は、ライフルの銃口を指向し、空に向かい猛然と射撃を始めたのだった。




 ☆




「ラッセル、本当に大丈夫?」


 見上げて尋ねた私に、馬に跨ったベテラン兵士は口角を上げて頷いた。


「なに、このくらいどうってこと……っつ!!」


「……あまり大丈夫じゃないみたいね」


 私は彼らを連れ帰る方法を思案する。


 が、飛行靴もサポートベアもない状態では、良い方法が思いつかない。


 頭を抱えた私に、頭上から余裕ぶった声が降って来た。


「お嬢、そんな顔をしねーで下さいよ。お嬢に助けてもらったおかげで俺たちはこうして帰れるんだ。それだけで十分ですよ。あとは俺がこいつを無事連れ帰ります」


 そう言って、自分の前に座り、馬の首筋にもたれかかっている若い兵士の背中を軽く叩く。


 すると叩かれた兵士は、わずかに顔をこちらに向けて、微笑した。


「お嬢様。おやっさんの言う通りです。僕も、必ずココメルに帰りますから……」


 息継ぎをするたびに痛みに顔を歪める彼に、私はようやく頷いた。


「……わかった。私たちも魔物の偵察が終わったら帰るから。貴方たちも無事帰還してね」


「おうよ」 「はい」


 こうして二人の兵士は南の村を目指し、私とアンナは魔物がいる北に向かって飛び立ったのだった。




挿絵(By みてみん)



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― 新着の感想 ―
[良い点] お嬢様強い‼︎ [気になる点] もしかして魔物相手だとレティちゃんの魔法で空撃できる? [一言] お疲れ様でございます。毎回とても楽しみです♪レティちゃんやっぱり強い!
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] 騎兵隊登場(二人だけど)。
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