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第70話 魔石採掘権と飛行靴

大変お待たせ致しました。


 驚きのあまり変な声をあげてしまった私は、こほん、と咳払いして陛下に向き直った。


「それは、オウルアイズ領にあるグリモール鉱山を自由に採掘して良い、ということでしょうか?」


 私の問いに、頷く陛下。


「いくつか条件つきではあるがね。簡単に言えば『外部への販売量と販売価格は制限するが、オウルアイズとエインズワース両家が使う分については、自由に掘ってもらって構わない』という内容じゃな」


「ああ、なるほど。そういうことですか」


 得心が行った顔になるお父さま。

 同時に私も理解した。


 低コストで無制限に魔石が使えるのは私にとって非常にありがたい。

 これから進めようと思っている様々な魔導具の開発には、相当な試行錯誤と大量の魔石が必要になるだろうから。


 けれど、その魔石を自由に流通できるとなれば他の貴族からの反発は必至。

 ライバル工房からの反感も相当なものになるだろう。


 彼らの不満を抑えながら私にとってもメリットがある形を考えると、陛下が仰った制限案はベストの解決策と言える。


 流通量と価格に制限をかければ、市場への影響は抑えられる。

 同時に私は魔導具開発を安価に、スムーズに進められる。


 まあ、元々うちが販売している魔石は安定化に手間ひまをかけているので高価だし、多少材料仕入れが安くなったところでそこまで安値で売れる訳じゃない。


 消耗品の魔石販売ではなく、革新性のある魔導具の開発で勝負してきたエインズワース家としては、「のぞむところ」だ。




「すごくありがたいご提案です! それに今ご説明頂いた条件についても、素晴らしいご采配だと思います」


 私がやや興奮気味にそう言うと、陛下は満足げに頷いた。


「そうかそうか。卿が喜んでくれてよかった。ちなみにこの魔石採掘権の条件付き貸与案だが、考えたのは先ほど紹介したウェストフォード子爵令嬢なのだ」


「えっ、あの方のご発案なのですか?!」


 目を丸くする私。


「ああ、そうだ。儂が面接で『行政官の派遣とペンダント以外に何がエインズワース卿への褒美として相応しいか』と問うたら、この提案を出してきたのだよ。良案であったので、令嬢の推薦と併せて採用することにしたのだ」


「そうでしたか……。あ、ひょっとしてこの書類もソフィア嬢が素案を作成されたのですか?」


「素案どころか、儂のサイン以外は彼女が書いたものだな」


 そう言って「してやったり」という顔をする陛下。


「そうですか。この書類を……」


 私は手元の書類をめくり、流し読みで内容を確認する。


 内容、体裁ともに文句のつけようがない。

 ソフィア嬢がいかに優秀な人なのか、一目瞭然だ。


 私は顔を上げた。


「確かに極めて優秀な方ですね。ですが、これほど優秀な方を国は手放してしまってもよろしいのですか?」


「優秀だからじゃよ。今の官僚組織の中ではその力を存分に振るえまい。––––だが、もし彼女が卿の下で特筆すべき実績をあげることができれば、将来的に『組織の上で』采配を振るう未来も夢ではないじゃろう」


 陛下は楽しそうにそう言うと、私に微笑んだ。


「とはいえ、この件で儂が卿に何かを求めることはない。これはそなたが私の友人の子を助けてくれた褒美じゃからな。先ほども言った通り、卿が希望する者を選ぶがよいぞ」


 このところ何度かお話しさせて頂いて、私にも陛下のお人柄が少しずつ分かってきた。


 ここは変に勘繰ることなく、私が良いと思う人を選ぼう。


「それではお言葉に甘えまして、まずはソフィア嬢とお話しさせて頂こうと思います」


「うむ。採用者が決まったら連絡してきなさい」


 こうして陛下から私へのご褒美の話は、ひと段落したのだった。




 その後私は陛下に、蜘蛛から見つかった魔石についての報告を行った。


 本当はご褒美の前にこちらの話を先にするべきだったと思うのだけど、まあ、話の流れもあるから仕方ない。


 蜘蛛の魔石が魔導通信機に使われていたものと同一だろう、という話を聞いた陛下は、しばらく考え込んだ後、


「よろしい。この件の情報収集については、優先度を上げて調査させることにしよう」


 と頷かれたのだった。




 これで陛下への報告は完了。


 会談もお開きとなりかけた時、私は最後に忘れていたことを思い出した。


「あ、陛下」


「ん? なんじゃ?」


 立ち上がりかけていた陛下が再びソファに腰を下ろす。


「一つご検討頂きたいことがありまして……。テオさまから『飛行靴フライングブーツが完成したら一足譲って欲しい』と頼まれたのですが、構わないでしょうか?」


「フライングブーツ……ああ、あの空飛ぶ靴のことかね?」


「はい。今回の旅の合間に安全面での改良を進めまして、間もなくお披露目できるかと思うのですが……」


「ふむ。確かジェラルドが騎士団での採用を検討しておったな」


「『軍用装備として極めて有用』ということで、武具調達局から販売と譲渡に制限がかけられている状態なんです。……せっかく頑張って作りましたのに」


 そう言って、しょぼんと肩を落として見せる。


 そんな私を見た陛下は––––


「卿の気持ちは分かるが、さすがにアレの流通には制限をかけざるを得ないな」


 と言って、苦笑した。


 どうやら私の猿芝居はお見通しらしい。

 残念っ。


「とはいえ、そなたの努力は正当に報われるべきだ。––––そうじゃな。安全性の問題が解決したなら、長期契約で毎月決まった数量を国で買い入れようではないか」


「本当ですか?!」


「ああ、本当だ。もちろん価格と発注数量については相談が必要だがね」


「構いません。それではその件は楽しみにしてますねっ」


 私の笑顔に陛下は、


「ふむ。うまくのせられたかな」


 と再び苦笑いした。




「話は戻りますが、テオさまへの飛行靴の譲渡は許可頂けますでしょうか?」


「そうだな……」


 私の問いに、しばし考え込む陛下。


「あの飛行靴は、簡単に模倣できるものなのかね?」


「ええと……いいえ。エインズワース製の魔導基板が必要になります。あのサイズでの製作はよそでは難しいでしょう」


「それでは、人が乗れるくらいの大きさであれば作れるは作れるのか」


「はい。魔力消費量が大きくなるのでかなりの数の魔石が必要となるでしょうが、製作自体は可能だと思います」


「ふむ……」


 再び考え込む陛下。


 要するに飛行靴が軍用として有用なのは『短時間とはいえ飛行できる』という点だ。


 これにより、上空からの戦場観測や強襲攻撃が可能になる。


 逆に言えば、飛べさえすれば、多少ものが大きくなろうが魔石を大量消費しようが『使える』とも言える。


 飛行制御と安全機構が飛行靴のコア技術だとすると、それが鹵獲などで敵の手に落ちるのはいずれにせよ避けなければならないだろう。




「あの、陛下」


「なんだね?」


 陛下が顔を上げ、こちらを見た。


「飛行靴なんですけど、機密保持のため、分解しようとするとスイッチが入る『自壊装置』を取り付けようと思うのですが」


「ふむ。魔導通信機にあったような仕組みかな?」


「はい。現在量産の準備を進めている魔導小銃に組み込むために、小型自壊装置の設計はすでに終わっています。それを流用しようと思うんです」


「なるほど。それなら問題ないか……」


 陛下は再び思案されると、「よし」と頷いた。


「では、こうしよう。飛行靴は儂から友人に『機密』扱いで送ることにする。卿はプレゼントする飛行靴と先方のご子息に宛てた手紙を用意してくれるかな?」


「承知致しました。––––陛下、ご配慮頂きありがとうございます! これで私も彼との約束が守れます」


「なに、大した手間ではないさ。それにこれは将来、皆にメリットがある話になるじゃろう」


「?」


 首を傾げる私を前に、陛下はそう言ってからからと笑ったのだった。




 ☆




 陛下との会談が終わり、父と私は侍従に別室に案内された。


 謁見の順番待ちをする待機室。


 扉が開かれると、広めの談話室のようなその部屋の窓際に立ち、物憂げに外を眺めていた女性が振り返った。


「大変お待たせしました、ブリクストン書記官さま」


 私が小さく立礼すると、ソフィア嬢は同じように礼を返す。


「とんでもございません。こちらこそお時間をとって頂きありがとうございます。エインズワース伯爵閣下」


 硬い表情。

 硬い声。

 一見冷たさを感じるその顔のまま、彼女は続けてこう言った。


「ですが、私を雇用されるのはお止めになった方が良いと思います」



本作を応援頂きありがとうございます。

二八乃端月です。


投稿間隔が空いてしまいましたが、ようやく書籍化作業が山場を越えました!

特典SSも会心の出来となりました!!


という訳で、今回から更新ペースをアップすると同時に、書籍関連の情報を順次ご報告してまいります。


まず出版社・レーベルについて。


今回本作は、一二三書房様のサーガフォレストレーベルから出版して頂くことになりました!


そして、刊行日は……


すみません。『至近』とだけ。

あと数日で情報が出るようですので、イラストレーター様と併せて次回のあとがきではお伝えできるかと思います。


それでは次回もよろしくお願い致します。

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