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やり直し公女の魔導革命 〜処刑された悪役令嬢は滅びる家門を立てなおす〜 遠慮?自重?そんなことより魔導具です!  作者: 二八乃端月


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第68話 帰宅、団らん、そして登城

 


 ☆



「おかえり、レティ」


 王都の屋敷で馬車を降りた私。


 そんな私を真っ先に出迎えてくれたのは、やっぱりお父さまだった。


「パパっ!」


 私はお父さまにかけ寄り、その腕に飛び込んだ。


「危ないことはなかったかい?」


 心配そうに尋ねる父。


「はい。長旅でお尻が痛くなったくらいで、とても楽しい旅でしたよ」


 私の言葉に、父は安堵のため息を漏らした。


「そうか。送り出したは良いものの、お前のことが心配になってな。何度後を追いかけようとしたことか……。その度に皆に引き戻されてしまったがな」


「え……」


 思わず顔を引き攣らせる。




 実はマーマルディアに向けて出発する時も大変だったのだ。


 いざ出発する時になって、


「やっぱり行くのを止めないか」


 とか、


「護衛をあと二十人増やそう」


 とか、挙げ句、


「よし、私も一緒に行くぞ!」


 と言い出した時には、私だけでなく使用人総出で思いとどまらせたのだった。


 ––––が。

 この人はまたやったのか。

 あれを。


「お父さま。あまり皆を困らせてはいけませんよ?」


 私が、めっ、と指を立てて注意すると、


「あ、ああ。もちろん分かってるとも」


 と、すっと目をそらしたのだった。


 うん。

 またやるな。これは。


 私が「はあ」と小さくため息を吐くと、父は私に向き直った。


「疲れているようだな。陛下には私が連絡を入れておくから、今日はゆっくり休みなさい」


「––––ありがとうございます、お父さま」


 私は喉まで出かかった「お父さまのせいですよ?」という言葉を飲み込むと、父に手を引かれて久しぶりの自室に戻ったのだった。




 ☆




 さて。

 そうして帰宅した私だったけれど、予想通りというか何というか、今回も王城からの連絡は早かった。


 私の帰還を知って駆けつけた二人の兄。

 家族四人で夕食をとった後、談話室で歓談していると、城から信書を持った遣いがやって来たのだ。


「さすがに一日は空けて下さるようだな」


 さっと目を通した父は私に手紙を手渡す。


 そこにはテオを治療したことへの感謝と、問題がなければ明後日か、もしくは近々の日程で登城を要請する旨が書かれていた。


「それで、どうする? レティ」


 侍従を呼び、便箋とペンを持ってくるよう言いつけた父は、私に問うた。


「もちろん、明後日に報告にあがります」


「体調は大丈夫かい?」


「はい。帰宅して半日休ませて頂きましたし、先ほどお話ししたように『蜘蛛』に使われていた魔石の件もありますから」


 私はそう言って、テーブルの上に広げていた二枚の紙を見た。




 そこに描かれているのは、実寸大の魔石の図。


 片方は魔導通信機に使われていたもの。

 もう一つは、例の蜘蛛に使われていたものだ。


 どちらもうちで持ち帰って管理することができないため、採寸してきちんと寸法を合わせて描いてある。


 次兄のヒューバートが二枚の図を手に取った。


「現物を並べるのが一番だけど、こうして重ねて見るだけでも酷似してるのが分かるよね」


 そう言って二枚の紙を重ね、傍らの魔導灯に透かしてみせた。


 二枚の紙に描かれた魔石の図は、形とサイズがぴたりと一致している。


「片方は王族の襲撃計画に使われ、もう片方も貴人の脅迫に使われていた訳か……」


 呟き思案する、長兄のグレアム。


 父と兄たちには現段階でテオの素性について明らかにすることはできないので、『恐らく外国の貴人の息子』とだけ伝えてあった。


 私は父に向き直った。


「正直なところ、この一致が何を意味するのかは私にも分かりません。通信機と蜘蛛の製作者が同じである可能性を考えましたが、魔導回路を比較すると明らかに蜘蛛の方が設計が洗練されていましたし、基板についても通信機が木製であるのに対し蜘蛛の方は大理石のような石板の上に回路が引かれていました。断定することは難しいと思います。ただ、だからこそ早めに陛下にお伝えした方が良いかな、とも思うんです」


「……なるほどな」


 父は頷くと、私の顔を見た。


「他でもないお前がそう言うのだ。是非もない。それでは明後日に登城すると、陛下に返信しよう」


 こうして私とお父さまは、二日後に陛下に報告に上がることになったのだった。




 ☆




 翌々日。

 私と父は、再び陛下の執務室に通されていた。


「エインズワース卿、まずは礼を言おう。よくぞ困難な処置をやりとげてくれた。おかげで私の『友人』も子息を失わずに済んだ。先日、彼から感謝する旨の手紙が届いたよ」


 向かいのソファに座った陛下は、そう言って優しげな目で私を見つめた。


 おそらく『友人』というのは、テオの父親、エラリオン王のことだろう。


 私は一瞬だけ思案し、こう返すことにした。


「テオさまのお父上も喜ばれているようで何よりです。ですが処置がうまくいったのは、私一人の力ではありません。何よりテオさまご自身が、激痛に堪えながら自らの魔力をコントロールされたのが大きかったです」


「魔力を?」


「はい。処置中の発作による痙攣や動きを抑えるため、ご自身の魔力を足に集めて魔力の波を小さくして頂いたのです。おかげで私もミスなく処置を進めることができました。––––もし陛下がご友人とやりとりされる機会がありましたら、テオさまの努力についても触れられると、ご友人もお喜びになるかもしれません」


「そうか。それはぜひ返信に書こう」


 陛下は大きく頷いた。




(これでテオとご両親の距離が、少しでも近くなれば良いのだけど……)


 私がそんなことを考えていると、陛下が言った。


「ふむ。その様子だと、子息とも良好な信頼関係を築けたようだな。最初に友人からもらった手紙には『呪いのせいでやや人間不信気味になっている』と書かれていたので心配していたんだが……」


「––––確かに、最初は面会拒否からスタートしましたね」


「むう。やはり大変だったのだな」


「まあ、護衛の方に『お話し』して強行突破しましたけど」


((ぶっ!))


 噴き出す父と陛下。


「……へいか。おとーさま。レディに対して少しばかり失礼ではありませんか? これでも色々と苦労しましたのに」


 私が口を尖らせると、二人は慌てて弁明を始めた。


「い、いや、今のは『エインズワース卿も苦労したのだな』と驚いたのだ。––––なあ、オウルアイズ卿?」


「えっ? あ、そ、そうですな。––––そう。決して笑った訳ではないんだよ、レティ」


 陛下から急に振られ、慌てて話を合わせるお父さま。


「むう……」


 私が眉を顰めると、陛下は焦ったようにこう言った。


「と、ともかく今回はよくやってくれた。卿の活躍について、儂は海より深く感謝しておるのだ。––––その感謝のしるしとして、実は卿には謝礼の他に、いくつか褒美も用意しておるのだ」


「ご褒美、ですか?」


「ああ、そうだ。まずは一つ目の褒美から紹介しよう」


 陛下はそう言うと、チリンチリン、と傍らのベルを鳴らした。




 間もなく部屋の扉が開き、侍従が姿を現した。


「お呼びでしょうか、陛下」


「ああ、呼んだ。待機室で待ってもらっている、都市開発部の第三書記官を通してくれ」


「承知致しました」


 一礼して退室する侍従。


 私は首を傾げた。


「書記官さま、ですか?」


 私の問いに、陛下が頷く。


「ああ。城で働いている行政官の中で、卿のところで使えそうな者を選抜しておいたのだ」


「はい?」


 聞き返した私に、陛下はにやりと笑った。


「以前、領地の相続の件で、四苦八苦しておると言っておったじゃろ?」


「えっ、あ、確かに申しましたが……」


「儂としても、卿がそのようなことで手一杯になるのは本意ではないのだ。––––そこで、今回の件の褒美として、一人優秀な行政官を卿につけようと思うての」


「ええっ? そんな話は、初めて聞きますが」


「そりゃあ、そうだ。今初めて言うたからな」


 にやっ、と笑う陛下。


 いや、確かに書類仕事を手伝ってくれる人がいれば助かるけど…………正直、家族や使用人以外の男性と日常的に顔を合わせるのは、しんどい。


「あの、陛下––––」


「あ、ほら。どうやら来たようじゃぞ」


 直後、扉がノックされる。


「入れ」


 陛下の言葉の後、扉が開き…………


「都市開発部、第三書記官のソフィア・ブリクストンです」


 ぴしっ、とした服装の二十代半ばほどの女性が、姿を現した。



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― 新着の感想 ―
[一言] 陛下、超優秀 この方が健在であるならばレティが不幸にはならないだろと信頼できる
[一言] アンケート結果は恋愛少なかったけど テオには是非とも領地に遊びに来て 相手にされないなか頑張ってもらいたい
感想一覧
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