第26話 魔導ライフルを持つ少女
「レティっっ!!!!」
「レティ! 大丈夫かっ?!」
間近で聞こえる、お兄さまとお父さまの叫び声。
二人の悲鳴のような声に、私はなんとか頷いた。
「パパ、兄さま、魔力酔いです……」
その言葉に顔を見合わせる、兄と父。
魔力酔いは、体内魔力の急激な変化によって魔力の循環が崩れたときに起こる体調不良。
症状としては、めまいや吐き気、立ちくらみなどがある。
「……うっ」
実際、今の私は、強烈な吐き気と立ちくらみに襲われていた。
––––あれだけの魔力放出の後だ。魔力酔いにもなるだろう。
だが幸いなことに、この魔力酔いには治療法がある。
父と兄はすぐに私の手をとり、それぞれの魔力を少しずつ私に送り込み始めた。
圧力と波長を微細に調整しながら。
これは、エインズワースだからこそできる治療法。
こうして私の中の魔力バランスを整えてゆくのだ。
効果はすぐに現れた。
「……ありがとうございます。もう大丈夫です」
そう言った私の視界の端に、再び『花火』の魔法を使いながら旋回する飛竜の影が見えた。
「っ……!」
「だ、大丈夫か? レティ」
少しだけふらつきながら立ち上がった私に、父が心配そうに声をかける。
「––––はい、ありがとうございます。パパと兄さまのおかげでなんとかおさまりました」
私はそう笑顔を作ると、二人に向き直った。
「お父さま、お兄さま、お願いがあります」
「「なんだ?」」
同時に聞き返す、父と兄。
「間もなく敵主力による再攻撃があります。私が迎撃しますのでサポートをお願いします」
「再攻撃って……なぜ分かる?」
兄の問いに、私は上空で旋回する竜操士を指差した。
「観測員が花火をあげました。最初と同じものです。あれは『攻撃続行』の合図でしょう」
「「なっ!?」」
目を見開く父と兄。
だがすぐに二人とも真剣な顔になる。
お父さまが目を細めた。
「なるほど。あれはそういうことか。……だが、迎撃すると言っても手段がないだろう。そのライフルは強力だが、さすがに一挺だけでは威力不足だ」
父の言葉に、私は首を振る。
「この魔導ライフルには、もう一つ使い方があって…………っ!?」
その時、北方を舞う4つの魔力圧が、急上昇したのを感じた。
私だけじゃない。
父と兄も即座にそちらの方角を睨んでいた。
「時間がないようです。お兄さまは上空の観測員を私に近づかせないようにして下さい」
「……分かった」
頷くグレアム兄さま。
次に私はメルを手元に呼び寄せ、お父さまに手渡した。
「お父さまにはメルを託します。もしもの時は敵に向け『皆を守れ』と叫んでください。メルだけなので先ほどより範囲が狭くなりますが、私の魔力を使った『絶対防御』が発動します」
「しかし……」
「お話はあとです。––––パパ、兄さま、援護をよろしくお願いします。必ず、生き残ってくださいね!」
私はそう言って二人の頬にキスすると、靴のかかとを二回打ち合わせた。
ブン、という音とともに靴の周りに魔法陣が浮かび––––––––私はふわりと空に舞い上がった。
練兵場の上空数十メートルの位置で、私は静止した。
この飛行靴は、足裏の魔力の流し方を変えることで、上昇・下降・前進・後退・左右移動と、自由自在に空中を移動できるように設計してある。
非常に面白い魔導具なのだけど、魔力消費がそれなりに大きいため、魔石を使っての稼働時間は5分程度。
市販するにはいまいち、という発明だった。
ただまあ、魔力おばけの私には稼働時間は関係ない。
「––––さて」
私は『敵』の方を見た。
4騎の飛竜は、魔力感知の通り北方数キロの上空にいた。
斜め上からの攻撃を企図しているのか、私よりもかなり高い高度まで上がっている。
先ほど私たちが感知した魔力圧は、飛竜が上昇するために発したものだったらしい。
4騎は上昇をやめ、二手に分かれようとしていた。
私の正面上方に2騎。
あとの2騎は、右方向……東側に移動しようとしていた。
「二方向からの時間差攻撃、か」
先ほどの私の絶対防御は、短時間しか維持できない。
それを見抜いて対応しようとしているらしかった。
私は、彼らを睨んだ。
「私が『守る』ことしかできないって、誰が言ったのかな?」
思わず感情が口から漏れる。
私は、みんなで作った魔導ライフルを両手で持ち、銃に視線を落とした。
魔力感知で、正面の敵がこちらに向かって降下を始めるのを知る。
私はライフルの安全装置のセレクターを『0』から『1』へ。
そして、さらにその先の『2』の位置に合わせた。
顔を上げる。
「今度は、みんなを守ってみせる! 絶対に!!」
私は銃を構え、『敵』に向かって銃口を指向した。