第25話 『みんなを守って!!』
「なにっ?!」
驚きとともに私の指差す方向……太陽をにらむグレアム兄さま。
一瞬遅れてジェラルド殿下も空を見上げる。
––––感じる。
頭上を舞う、異質な魔力の群れ。
それらは急激に魔力の圧力を上げ、私たちに迫っていた。
私もそちらを見る。
「っ!!」
目を細め見上げた空に、四つの影が舞っていた。
その影たちはやがて一列になり、急降下を始める。
先頭の飛竜の口の中に、炎がちらついた。
「敵騎、直上っっ!!!!」
お兄様が叫ぶ。
「総員、攻撃やめ! 魔導盾を構えろ!! 魔法防御、全力展開!!!!」
ジェラルド殿下が指示を飛ばす。
慌てて武器を捨て、魔導盾を取りに走る者たち。障壁魔法の詠唱に入る者たち。
あたりは混乱に陥っていた。
––––私の耳に、再び隻腕の騎士の言葉が蘇る。
☆
『気づいたときには遅かった…………いえ、たとえ気づいていても、どうしようもなかったかもしれません』
『飛竜どもの火炎弾で、あたりが一瞬で吹き飛びました。直撃を受けた殿下とグレアム様の部隊は全滅。少し離れたところにいた私の部隊も被害を受け、この有様です』
☆
その時、盾を構えた者もいただろう。
魔法防御に全力を尽くした者もいただろう。
でも、ダメだった。
グレアム兄とジェラルド殿下の部隊は遺髪の一本も残らないほどに焼き尽くされ、一瞬で全滅した。
「…………」
今。
私の視界の中に、殿下を護るため障壁魔法を詠唱する兄がいた。
王陛下を護るため、守護の指輪に魔力を注ぎ込み、魔法障壁を張っている父がいた。
その努力も、これからやってくる圧倒的な暴力の前には無力。
頭の中で、何かが囁いた。
『もうダメよ』
『みんな死ぬわ』
古い記憶が、フラッシュバックする。
雨の中、土をかけられる遺体のない棺。
拷問でボロボロにされ、それでもなお必死に私の助命を訴えた父。
そして、断頭台で最後の瞬間までいっしょにいてくれた、私の大切な……
『レティ!!』
––––あの子たちの、声が聞こえた。
「ココ! メル!!」
私が叫ぶと同時に、肩掛けカバンから二人が飛び出す。
「レティ!」
「遅いっ!!」
ココが私の名を呼び、メルが私を叱った。
「お願い! 力を貸して!!」
「「もちろん!!」」
叫ぶと同時に、頭上に舞い上がるココとメル。
その向こう。
遥か上空から落ちてくる、死を纏った黒い影。
すでに4騎すべての飛竜の口に炎が煌めき、先頭のそれは眩いばかりにまで成長していた。
そして、火球が放たれる。
私に向かってまっすぐ落ちてくる、死の光。
一度目の人生で、私は訳もわからないまま大切な人たちを奪われ、自分自身を失った。
二度目の人生では、ちょっとだけ素直になって相手に飛び込んでいくことで、自分がどれだけみんなに愛されているのかを知った。
父も。
兄たちも。
アンナや工房のみんなも。
みんな私を愛してくれた。
そんなみんなを、私は誰ひとり失いたくない!!
––––いや、ちがう。
私はもう大切な人を『絶対に』失わない!!!!
私は空に向かって左手を掲げ、あらんかぎりの声で叫んだ。
「ココっ! メルっ!! ––––『絶対防御』!!!!」
それは、クマたちに組み込んだ魔導回路を起動する『鍵』。
次の瞬間、私の左手からごそっと魔力が吸い取られた。
「……くっ!?」
私が持つ膨大な魔力。
その魔力が引き摺り出されるように宙に流れ、二体のクマたちへ。
クマたちの両手が、眩い光を放つ。
「「絶対防御!!!!」」
頭上に、虹色の魔法障壁が広がる。
魔力消費速度制限なし。
私が出しうる全力の魔力圧と魔力流量が、光を曲げ、周囲の空間さえも湾曲させる。
「うぁあああああああああああーー!!!!」
引き摺り出される魔力に全身が痙攣し、絶叫する。
「レティ!!!!」
「レティイイイイ!!!!」
私の名を呼ぶ、兄と父。
––––大丈夫。
みんなのためなら、耐えられる。
「ああああああああーーっっ!!!!」
厚みを増す、虹色の魔力防壁。
そこに、敵の火炎弾がつっこんだ。
ドカンッ!!
ドカンッ!!
ドドカンッ!!!!
頭上で白と赤の閃光が炸裂した。
あまりの威力に魔法障壁が波打ち、あたりに破壊のエネルギーが撒き散らされる。
その余波で、本城の城壁の一部が吹き飛んだ。
途方もない威力。
だけど私の『絶対防御』は4つすべての爆裂火炎弾を防ぎきった。
渾身の一撃を放ち、しかしそれを防がれた飛竜たちは、私の障壁の手前で方向を変え、北に向かって飛び抜けてゆく。
「……ココ、メル、『ありがと』」
そのキーワードを口にした瞬間、私から魔力の流出が止まる。
「はあっ、はあっ、はあっ……」
脱力した私は、魔導ライフルの銃床の肩当てを杖にして、その場に膝をついた。
「レティっ!!」
「レティシアっ!!!!」
……なんとか、守りきった。
ほっとした私は、駆け寄ってきたグレアム兄さまとお父さまの腕に、そのまま倒れ込んだ。
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