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第160話 レティア嬢の実力

投稿再開です!

 


 ☆



 空を飛ぶ点のようなそれは、段々とこちらに近づいてくる。

 ドラゴンにしては魔力量が少ない。


「……鳥?」


 私の呟きに最初に反応したのは、なんとフレヤだった。


「お父様っ」


「やれやれ。その魔石の山に釣られたかな。––––衛兵っ! 早鐘を鳴らせ!! 皇帝鳥ケイザルコピアだ。ここで迎撃する!!」


「はっ!」と敬礼し、走り出す兵士。

 控えの騎士が剣を抜き侯爵の後ろにつく。


 アストリッド侯爵はため息を吐くと、腰の魔術杖を抜いて私たちを振り返った。


「諸君、申し訳ないが退避してくれ。この辺りの山に棲む灰ロック鳥『皇帝鳥ケイザルコピア』はドラゴンと違い火球は吐かないが、古竜なみに図体がでかくてしつこいのでね。特に魔石への執着がすごいんだ」


 そう言って、私たちが積み上げた魔石の山を一瞥する。


 なるほど。

 カラスは光るものが好き、灰ロック鳥は光る魔石が好き、ということね。


 私はあらためて空を見上げた。


「…………」


 先ほどまで点に過ぎなかった魔物は、すでに翼を広げた鳥の姿に見えるところまできている。

 –---大きい。


「さあ、早く!」


 叫ぶ侯爵。

 カンカンカンカン、と早鐘が鳴り始める。

 フレヤの母親がメイドとともに建物の中に退避する。


 恐らく兵士の召集は魔物の初撃には間に合わないだろう。

 このままではこの場にいる侯爵と護衛騎士の二人だけで迎え撃つことになる。


「失礼ですが、閣下の魔術の射程はいかほどですか?」


「五十メートルだ」


 なるほど。

 接触までにぎりぎり二発撃てるかどうか。

 剣に付与魔術をかけている騎士は、遠距離攻撃はできないだろう。

 戦力不足は否めない。


 私は前に進み出た。


「侯爵閣下。勝手を申しますが、加勢させて頂きたく」


「なんだって?」


 目を見開くアストリッド侯爵。

 だが抗議の声は違うところから上がった。


「ちょっと貴女、どういうつもり? うちの領地で勝手な真似は許さないわよっ!」


 噛みついてくるフレヤ・アストリッドを尻目に、私は右手で指でっぽうをつくり、人差し指を魔物の方に向けた。


「ココっ、メルっ!」


「「はあい!!」」


 カバンから飛び出すクマたち。


「えっ、なに?!」


 ぷかぷか浮かぶココとメルを見て、ざわめくフレヤと取り巻きたち。

 私は再び侯爵に呼びかけた。


「閣下、時間がありません。攻撃許可を」


 その言葉に侯爵は私を見ると、すっと口角を上げた。


「––––許可する。『竜殺し』の実力、見せてもらおうか」


「お父様っ?!」


 興味津々の侯爵と、抗議の声を上げる娘。

 私は「承知しました」と答えると、叫んだ。


「『魔力収束弾・遠距離射撃モード』!」


 ブゥン


 ココとメルの両手に魔法陣が浮かび、私の指先に輝く光球と五連の加速魔法陣が、右眼には照準レティクルが浮かぶ。


 きゅっと右眼の視野が狭まり、巨鳥の姿が拡大される。


 鳥は臆することなく真っ直ぐ突っ込んでくる。


(いい根性してるじゃない)


 全身の魔力が腕を伝い、指先に集まってゆく。

 光球が輝きを増す。


(でもその驕りが命取りよ)


 私は照準の真ん中に鳥を収め、頭の中で引き金を引いた。


(ばんっ)


 ドンッ!

 バシュバシュバシュバシュバシュッ


 弦から放たれ、加速する光の矢。

 それは一本の光の筋となり、宙を切り裂く。


 そして––––


 ドォンッ!!


 閃光、そして爆音。


「「おおおおっっ!!!!」」


 爆散する巨鳥の体躯。

 集まってきた兵士たちだろうか。屋敷のあちこちから驚きの歓声があがる。

 遠くの空を巨大な羽根がひらひらと舞い落ちてゆく。




「……ふぅ」


 私が息を吐き腕を下ろすと、皆は唖然とした顔で空を見上げていた。


 そしてその視線は私の方へ。

 最初に言葉を発したのはアストリッド侯爵だった。


「……凄まじいな。これが君の『竜殺し』の力か」


 茫然として呟く侯爵に、私はカーテシーをしてみせる。


「「…………」」


 フレヤと取り巻きたちは絶句したまま、恐ろしいものでも見るかのように私を見ている。


 数秒ののち、震える口を開いたのはフレヤ・アストリッド。


「……ばっ」


(『ば』?)


「バケモノ……っ!」


 失礼ね。


 一方アイゼビョーナの皆の反応は賑やかだった。


「さすがです、レティアさんっ!」


「当然ですね」「当然だ」


 満面の笑みで私の手をとるリーネと、その後ろで保護者のように頷くアンナとテオ。


「あんなに射程が長いなんて知らなかったわ」


 オリガが腕を組んで言うと、


「……レティアにはいつも驚かされる」


 レナが同意するように私を見た。




 そんな中テオが隣にやってくると、ヒソヒソと話しかけてきた。


「今の『魔導ライフル』だよな?」


「そうよ」


「銃がなくても撃てるなんて知らなかったよ」


 驚きを含んだその声に、私はくすりと笑った。


「あれをやると自動防御が使えないから、実戦じゃ第一撃以外には使えないけどね」


 以前試したとき、メルから「さすがに容量キャパオーバーよ。今はね」と言われてしまった。

 『今は』ってなんだろう?


「けど、そんな奥の手を彼らに披露してよかったのか?」


 そう言ってテオは視線をアストリッド侯爵家の人々に向ける。


「奥の手というか、デモンストレーション用の小技ね。去年の事件はこの国にも伝わってるし、誤解されるならそれはそれでいいかな、って。『ハイエルランドとは仲良くしといた方が得』って思ってもらえるならそれに越したことはないでしょ」


「なるほど。織り込み済み、ってことか」


「そういうことっ」


 そうやって私とテオは笑いあったのだった。




 ☆




 庭園迷路の攻略競争から数日後。

 私たちは侯爵邸を出て、二台の馬車に分乗して南に向かっていた。


 アストリッド領の領都を出て、田園地帯を一路南へ。

 街から離れ、しばらくして見えてきた森の入口で馬車を停める。


「あの、本当にこちらでよろしいんですか?」


 うっすらと雪が積もった道に降り立った私たちに、同行してくれたアストリッド騎士団の副団長が困惑したように尋ねてきた。


「ええ。ここまでで大丈夫です」


 笑顔で答える私。

 あ、でも−−−−


「街へ戻るとき、副団長さん以外はこちらを振り返らないようにして頂けますか?」


「「?」」


 顔を見合わせ、首を傾げる騎士たち。

 が、不思議そうにしながらも副団長さんは部下たちに「振り返らないように」と指示を出してくれた。


 一年前の事件の顛末はすでに世界に知れ渡っている。

 だけどアイゼビョーナの全員が「飛べる」という情報はあまり広まって欲しくない。




「それでは道中の安全をお祈りしております!」


 敬礼し、私たちを残して去ってゆく馬車の車列。

 約束通り、こちらを振り返る人はいない。


「さて、私たちも行きましょうか。−−−−みんな、準備は大丈夫?」


「私はいつでもいけるわ」


「僕もだ」


「大丈夫です!」


「右におなじ」


「準備完了です」


 最後にアンナが頷いたのを見た私は、みんなに号令をかけた。


「各自、パートナーを起動!」


 腰のクマに呼びかけ、『飛行補助フォルレ・エディーオ』を起動する仲間たち。


 この日のために私はアイゼビョーナ全員分のサポートベアと飛行靴を作り、みんなに配っていた。


 侯爵邸にしばらく滞在した理由は二つ。

 リーネがお母さんと過ごせる時間を作ってあげたかったのと、長距離飛行のために訓練の時間が必要だったから。


 ちょっとスパルタ気味に訓練した結果、なんとかこの日までに全員が飛べるようになっていた。


「それじゃあ、出発っ!」


「「おーっ!!」」


 そうして私たちは迷宮国の寒空の下、南に向かって元気よく飛び立ったのだった。



投稿に間が空いてしまい申し訳ありません!

仕事関係で色々あり迷走しておりました。


書籍4巻の出版を目指しまたゴリゴリ書いていきますので、引き続き本作をよろしくお願い致します!!

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
更新再開ありがとうございます ココメルの進化はまだ2回残っている、その意味が分かるな?(違) 魔導ライフル術式、そこまで使い勝手の良いものではなさそう 魔術の原理を体得できれば魔力消費は減らせるだ…
訓練中に飛行はバレそうなもんだけどねえ バレなかったんだから仕方ないか
『今は』って、レティの魔力容量が増えるか、術式圧縮して容量を確保するかどちらかでしょう(笑) そこまで、助言できるココメルってFCS(戦闘支援システム)どころか魔導頭脳なのでは?
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