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第151話 『氷のクマたち』

 


 ☆



「レティアが貴族ってことは知ってた。アンナが姉じゃないことも」


 私の自己紹介を聞いて最初に口を開いたのは、意外なことにレナだった。


「えっ、なんで???」


 聞き返した私に、小柄な金髪の少女は首をすくめる。


「仕草や話し方を見れば、分かる」


「……え。そんなに分かりやすかった?」


 こくり、と頷くレナ。


 すると今度はリーネが小さく手を挙げた。


「あの、私も『ひょっとしたら貴族の方なのかな』とは思ってました。礼儀作法が身についてらっしゃるようでしたし」


「……俺もだ」


 同じく手を挙げ、ぼそりと呟くセオリク。


「––––ええと。つまり、これまで素性を隠そうと頑張ってきた私の努力は完全にムダだった、ということ???」


 顔を引き攣らせる私の肩に、オリガがぽん、と手を置いた。


「まあ、あれだけ堂々と殿下とやりとりした上に、次々と色んな魔導具を作られちゃあね。私たちや一部の先生方に気づかれるのは仕方ないわよ。他の学生にはバレてないようだし、いいんじゃない?」


「よ、よくなぁあああいっ!!」


 夜明けの空に、私の叫び声が響いたのだった。




 ☆




「それじゃあみんな、本当にいいのね? 私と一緒に深層に潜るってことで……」


 自己紹介の後、『これから』について話し合った私たち。


 私が問うと、仲間たちはそれぞれのやり方で肯定した。


「レナも?」


「最下層の魔物を殲滅してあの入口を塞がないと、この街も、孤児院も、いつ襲われるか分からない。私の力が必要だとレティアが言うなら、一緒に行く」


「レナの魔力感知は、私がこれまで見てきた誰よりも精度と速さが優れてる。迷宮の踏破にはレナの力が必要なの」


 これは大げさではなく、本当の話。

 レナは、誰よりも速く、遠くの敵の数まで言い当てる。


 指示も速い。


 もはや動物的な勘ではないかと思うような彼女の力を貸して欲しいというのは、パーティーから犠牲者を出さないためにも、切実な希望だった。


 そんな私の本気が伝わったのか。

 レナは珍しく微笑した。


「分かった。一緒に行く」




 レナの次に私が視線を投げたのは、リーネだった。


 成り行きでここまで一緒に行動していたから、あらためて確認しない訳にはいかない。


 と、彼女は私が口を開くより先に、こう答えた。


「私も行きます。こんな私でも、オリガさんに魔力を渡すくらいは役に立てると思いますから。オリガさんへの魔力を私が引き受ければ、レティアさんは防御に集中できますよね?」


「確かにその通りだけど……本当にいいの?」


「はいっ。私もレナさんと一緒です。このまま迷宮の暴走が続けば、国が滅ぶかもしれないんですよね? 故郷の母を守るためにも、ぜひ一緒に行かせて下さい!」


 力強い瞳が、私を見つめる。

 私はそんな彼女の手をとった。


「こちらこそよろしくね、リーネ!」


「はいっ!!」




 一人ひとりに意思を確認し、残すところはあと二人。


「俺はさっき言った通りだ。一緒に行く」


「私もよ。今貴族の義務を果たさず、いつ果たすのか、という話よ」


 即答するセオリクとオリガ。


 私はアンナと視線を合わせて頷きあうと、みんなに言った。


「みんなのことは絶対に私が守る。だから、みんなの力を貸して」


「はいっ!!」「おう!」 「よろしく」


 こうして私たちは、深層討伐に参加することになったのだった。




 ☆




「ところで、パーティーの名前はどうするの?」


 夜が明け、ポルタ島から湖を渡って続々と部隊が集結する中、待機中の天幕でオリガが私に尋ねてきた。


「ええと……パーティー名っているの?」


「それはあった方がいいわよ。というか、軍と共同で作戦を行うんだからないと困るわね。向こうが私たちのことをなんて呼んだらいいか分からないでしょう」


「ああ、なるほど!」


 ぽん、と手を打つ私。

 呆れ顔のオリガ。


「それで、どうするの? 貴女がつくったパーティーでしょ。貴女が名前を決めるべきよ」


「えっ……いきなりそう言われても。ねえ?」


「わ、私に振られても困りますぅ」


 突然話を振られたリーネが、あせあせと手を振る。


「ねえ?」


 私の問いかけに、さっと目を逸らすセオリクとレナ。


「もうっ!」


 私がぷりぷりと口を尖らせていると、セオリクがちらっとこちらを見た。


「俺に決めさせると『銀髪の天使守り隊』とかになるぞ」


「うわぁ……」


「…………ひどい」


「センスが壊滅的ね」


 ドン引きする私と、おぞましいものでも見たかのような顔をするレナとオリガ。


 さすがに恥ずかしくなったのか、セオリクは再びそっぽを向き首をすくめた。


「ほらな。だからやっぱりレティが決めた方がいい」


 私はため息を吐くと、テーブルの上に座らせたココとメルを見た。


「そうね。私としては『クマ』を入れたいかな」


「クマねえ……」


 腕を組み、考え込むオリガ。


 彼女はひとしきり考えると、ボソリと言った。


「アイゼビョーナ」


「え?」


「アイゼビョーナ……こちらの古い言葉で『氷のクマたち』という意味よ。凍土大陸のクマたち。––––どう?」


「それ、いいかも!」


 私は思わず叫んだ。


「ええと、みんなはどう?」


 私の問いに、頷く仲間たち。


「それじゃあ、私たちのパーティーの名前は『氷のクマたち(アイゼビョーナ)』よ。––––あらためて、みんなよろしくね!」


「「よろしく(お願いします)!!」」


 その瞬間。


 一瞬だけど、私の目には私たちを結ぶ輝く糸が見えた気がした。




 ––––この事件からしばらく後。


 私たちは散り散りになり、それぞれが大変な困難に直面することになる。


 糸は細く、ちぎれそうで。

 それでもその存在が、私たちにとっての微かな光となる。


 そんな日々が来ることを、この時の私たちはまだ知らなかった。




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― 新着の感想 ―
[一言]  私に名前を付けさせたら「森のくまさん、お待ちなさいお嬢さん」か「テディベア愛好会」になっていただろう・・・、または「熊猟友会」かな?
[一言] やっとレティに同年代の友達、いや親友とか戦友とかかな?が 学生時代に培った絆ってのは、細くなって消えそうになっても意外と長く続いて、ひょんなところで顔を出して自分を救ってくれたりするんですよ…
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