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第138話 杖づくり対決!

 


 ☆



 魔術杖研究会への入会を断られた私。


「ええと––––」


 私が会長さんに理由を尋ねようと口を開きかけると、部員の先輩二人が私より一瞬早く声をあげた。


「会長っ! なんでです?! 待ちに待った新入部員ですよ!!!?」


「そうですよ! それも即戦力!! むしろこちらから頭を下げてでも来てもらいたいくらいじゃないですか!!」


 二人に揺さぶられる会長さん。


 彼はしばらく揺さぶられていたが、やがて目を細めてこう言った。


「動機が不純すぎる。ウデが良かろうがなんだろうが、杖づくりに興味もない奴をうちの部に入れる訳にはいかない」


 ああ、なるほど。

 そういうことか。


 その気持ちは分かる。

 私だって、魔導具に興味もないのに『弟子にしてくれ』なんて言われたら不快だもの。




「会長ぉお! そんなこと言ってる場合じゃないですよおお!!」


「そうですよ。このままじゃあ僕らが来年卒業したら、廃部決定じゃないですか!!」


 再び揺さぶられる会長さん。


「ふん。お前たちも学校に残ればいいだろ」


「「あ、それは嫌です」」


 あっさりと即答する二人。

 今度は会長さんが慌て始める。


「おっお前たちには我が会への愛着はないのかっ?!」


「いや、だって僕らの実家は片田舎の家族経営の工房ですもん。会長のご実家みたいに職人を何十人も抱える大工房じゃないですから」


「卒業せずに『延長』するような余裕はないよな」


 うん、うんと頷きあう先輩たち。


「む、むぅ…………」


 会長さんは再び腕を組んで考え込んでしまった。




「あのぉ––––」


 私が小さく手を挙げると、三人の先輩たちの視線が私に集中する。


「先ほど会長さんは私のことを『杖づくりに興味がない』と仰いましたが、それは誤解です」


「誤解?」


「はい。––––私は魔力変換効率の良い『魔術』をなんとか魔導具づくりに役立てられないかと考え、ルーンフェルトに留学しました。従って『どのような杖を使えば魔術を発動し易いのか』ということもまた、私にとっては重要なテーマなんです。ですからぜひこちらに入会し、色々な杖を作ってその検証をしていきたいと思っているのですが、ダメでしょうか?」


「むう…………」


 再び考え込む会長さん。


「「…………」」


 皆が彼の言葉を待つ。

 しばしあって、彼はぐっと顔を上げた。


「分かった。そこまで言うなら勝負しよう」


 ……はい?


「勝負、ですか?」


 私が聞き返すと、会長さんは頷いた。


「今日と明日の二日間で、僕と君がお互い一本ずつ魔術杖を作り、その出来を競うんだ。判定は……そうだな。暇そうな教官を何人か捕まえてきて、審査してもらうことにしよう。それで君が勝てば、入部を認めうちの機材を自由に使うことを許可してやる。だけどもし僕が勝てば、うちに入部した上で毎週一本、杖づくりと修理のノルマをこなしてもらう。もちろん杖づくり以外の機材使用は許可しない。––––それでどうだ?」


 両腕を組み、値踏みするような目で私を見る会長さん。


 なるほど。

 いずれにしても入部自体は認めてくれるのね。


 ––––なんだか面白そう。


 私はにっこり笑った。


「分かりました。この勝負、受けて立ちます!」


「ふん。いい根性してるじゃないか。審査は明後日の放課後。それまでに一本仕上げるんだ。……棄権なんかして失望させないでくれよ?」


「望むところですっ!」


 バチバチと火花を散らす私たち。


 こうして私は、魔術杖研究会のロルフ会長と杖づくり対決をすることになったのだった。




 ☆




 会長さんの指示で、先輩のうち一人が審査員をしてくれそうな教員を探しに出かける。


「杖の母材はそこに積んであるやつを使え。魔導金属ミストリールは机の上。作業台と工具も好きに使っていい。あと、他の連中も彼女を手伝うなら好きにすればいいが、騒がしくするのはナシだ。機材を壊したりするなよ。––––ニルス、こいつらがアホなことしないか見張っててくれ」


「分かりました」


 ニルス先輩が頷く。


「じゃあ、せいぜい頑張るんだな」


 会長さんは私たちにそう言うと、さっさと奥の作業台に行き、自分の作業を始めてしまった。


「あのさ……」


「?」


 私は話しかけてきたニルス先輩を振り返る。


「会長ってあんなだけど悪い人じゃないんだ。ただちょっと研究会への愛が強すぎるだけで……。だからあまり悪く思わないでくれると嬉しい」


「ええ。分かってますよ。なんだかんだ言って入部自体は認めて下さってますし、こうして人もつけて下さいました。本当は面倒見がいい方なんでしょうね」


 私がそう答えるとニルス先輩は、


「分かってくれると嬉しいよ」


 と笑ったのだった。




「さて、作業に取り掛かる前に––––」


 私はリーネを振り返った。


「リーネ。今の杖に不満はない?」


「えっ、私ですか?!」


「ええ。せっかく作るんだから、リーネ用の杖を作ってあげようと思って」


 私の言葉に、ぱあっと明るい顔になる友人。


「本当ですか?! レティアさんが私のために杖を作ってくれるなんて…………嬉しいです!!」


 一方、傍らに立つ『姉』は––––


「レティア……私の杖は作ってくれないんですか?」


 悲しそうな顔で私を見ていた。


「え、でも姉さんは今の杖でも色んな魔術を使いこなしてるわよね?」


 実際、アンナはすでに火球や土壁など複数属性の魔術を使いこなしていた。


 もちろん相当な訓練と努力の結果ではあるのだけれど、彼女の吸収力の高さと上達速度は驚異的としか言いようがなかった。


「そっ、そんなことはありませんよ。私にもレティアの杖が必要です!」


 必死で否定するアンナ。


 私は苦笑した。


「はいはい。今度姉さんにもちゃんと専用の杖を作ってあげるから。今日はリーネの杖を作らせて。ちょっと試してみたいことがあるの」


「試してみたいこと、ですか?」


 首を傾げるリーネ。


「ええ。リーネは魔術の威力調整が苦手よね?」


「ええと、はい。最近はなんとかマトに当てられるようにはなってきましたけど、正直、威力の調整までは…………」


 だんだん声が小さくなってゆく異国の友だち。


 私との特訓の結果、彼女の魔力コントロールはかなりマシになってきた。


 少なくとも『狙い』については。


 だけど『威力』については相変わらずで、自身が持つ膨大な魔力に振り回され、常に威力過剰となっている。


 正直、今のまま一緒にダンジョンに潜ったら、彼女の魔術に巻き込まれてパーティーが全滅しかねない。

 そんな状況だった。




「うちのグループが湖中迷宮の探索許可を取るためには、リーネももう少し魔術の威力を調整できる必要があるわ。だから調整がやり易い杖を作ってあげる」


「えっ、そんな杖が作れるんですか?!」


 目を丸くするリーネ。


「多分ね。実際に使えるかどうかは出来上がってみないと分からないけど。探索試験のために、ちょっと前から構想を練ってたのよね」


 先日見学した迷宮に付き添いなしで潜るには、学校の探索許可が必要だ。


 そして許可を得るには、随時申請できる教員立ち会いの探索試験に合格する必要がある。


 取得期限は一年。

 一年生の年度末までに合格できなければ落第だ。


 聞いた話では、毎年三〜五グループが留年してしまうらしい。


 決して優しい試験じゃない。


「まあとりあえず、作ってみましょうか」


 私は皆にそう言うと、杖のベースに良さそうな母材を探しにかかったのだった。




 ☆




 二日後。

 日が傾き、校舎がオレンジ色に染まる頃。

 私たちは演習場にいた。


「よし。じゃあ始めるぞ! 双方、自作した杖を提出しなさい」


 なぜかやたらと張り切っているバリエンダール教諭。


 私と会長さんは審査員席の前に置かれた台に、それぞれが作った杖を置いた。


「あのぉ……」


 私が小声で会長さんに話しかける。


「なんだ?」


 ぶっきらぼうに返す会長さん。

 私は怯まず思ったことを口にした。


「なんでこんなに審査員の先生がいるんです?」


「知るか。みんな暇なんだろ」


 そう言って審査員席を睨む。


 そこに並ぶのは、なんと八名もの教諭陣。

 しかも中央に陣取っているのは––––



(なんでフリデール先生までいるのよぉおおおおおお??!!)



 誰あろう我が校が誇る生ける伝説、ルーンフェルト魔術学校校長のフリデール先生だった。




挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] レティ、入学試験で自分がやらかした事を忘れてますね あれだけでも注目されているし、レティの正体に気付いている教師も少なからずいるようですし
[良い点] いつも楽しく読んでます! 前みたいに命がけな戦いよりも、本当に発明とか物作りの戦いは見ててドキドキはしますけど楽しいよね〜 先生たちもヒマなんでしょうね(笑)
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