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第127話 ウグレィというクラス

 


 ☆



「ふぁああ–––ぁ」


 翌朝。


 女子寮を出て校舎に向かう途中で、私は大あくびをしてしまった。


「レティ、ちゃんと眠れましたか?」


 心配そうに尋ねるアンナに、私は歩きながら「うっ」と言葉に詰まる。


「まさか、また夜更かししたんじゃ……」


「ね、寝ようとはしたのよ? 消灯時間は決まってるし、灯りをつけたらルームメイトに迷惑だし」


 ジトっとした目で見てくる姉に、慌てて言い訳する私。


「だけど、ほら。いつまでも魔術が使えないと困るし、なんとか打開できそうな魔導具が作れないかと考えてたら、眠れなくなっちゃって……」


 結局寝ついたのは午前一時をまわったくらいだと思う。


 おかげで一つ思いついたことがあるけれど、引き換えに今、結構な眠気に襲われていた。


「はぁ……。レティ、『自立する』ということには、体調管理も含まれると思いますよ?」


「うぐ……」


 耳が痛い。


「––––でもまあ、環境が変わったばかりですし、気持ちも分かりますから、今日だけは大目に見ましょう。その代わり気分が悪くなったらすぐに言って下さいね?」


「はぁい」


 アンナに叱られトボトボと歩きながら、私は隣のリーネに話しかけた。


「リーネはちゃんと眠れた?」


「ええと、はい。私はよく眠れました。なんか結構図太いみたいで……」


 えへへ、と笑うリーネ。


「それは良いことよ。人間やっぱり睡眠って大事よね」


 しょぼしょぼした目でそう言うと、アンナがすかさず、


「レティもリーネを見習って下さいね」


「はぁい……」


 私はうつらうつらしながら、今晩こそは早く寝ようと心に誓ったのだった。




 ☆




 ウグレィの一年生の教室は、教室棟一階の奥にある。


 私たちが教室に入ると、すでに半分ほど席が埋まっている状態だった。


「こうして見ると、本当に色んな人がいるのね」


 三人がけの後ろの方の席に座った私たち。

 私は前の生徒たちを見て思わずそんなことを呟いた。


「そうですねぇ。レティアさんたちみたいに外国から来られてる方もいますし––––あの人はエルフの方ですね」


 リーネの視線の先に目をやると、確かに特徴的な尖った耳の女子生徒が座っていた。


「北大陸ではヒト種以外の種族を見ることがほとんどなくなってしまったから、なんだか新鮮ね」


 私の国がある北大陸では、五百年から三百年ほど前にかけて人間の国同士で激しい戦乱が続いた時代があった。


『戦乱の時代』。

 歴史の本にはそう書かれている。


 大陸の覇権を目指していくつもの国が勃興し、滅びていった。


 その戦乱の中で、エルフやドワーフなど比較的小さな集団で生活を営んでいた種族は、住んでいた土地を追われ、伝手を頼って他の大陸に移住して行ったのだ。


 実際私も、エルフを見たことはこれまで数えるほどしかない。


 私の言葉に、リーネが説明をしてくれた。


「この国では他の種族の方も普通に暮らしてますね。うちがよくお世話になっていた鍛冶屋さんはドワーフの方でしたし、前の学校の友達にはグラスレアの子もいました。街でもエルフの方はよく見かけますよ。––––ただ同じ凍土大陸でも西の帝国では他種族の迫害が酷いそうで、最近はこのノルドラントに逃れて来られる方が多いそうです」


「へえ、そうなんだ」


 私は初めて聞く話に興味を持った。


 ハイエルランドでは他の大陸の情勢など話題になることもなかったし、まして他種族の人と関わることもなかった。


 ––––どんな人たちなんだろう?


 好奇心がうずいた。




 ☆




「諸君、まずは入学おめでとう。俺がこのクラスを担当するアロルド・バリエンダールだ」


 始業の鐘がなってしばらくして教室に入って来たのは、見覚えのある中年男性だった。


 確か入試のときに魔力操作の試験官をやっていて、私に『授業で会えるのを楽しみにしてる』と声をかけてきた人だ。


 そんな男性教諭は皆を見渡すとにやりと笑い、


「アル先生でも『バルやん』でも好きに呼んでくれ。その代わり俺もお前たちのことは好きに呼ぶからな」


「「ええええええええ」」


 途端に生徒たちからブーイングが巻き起こる。


 ……なによ、『バルやん』って。


 だがバリエンダール教諭は、生徒たちからのブーイングを手を振って軽くいなすと話を続けた。


「さて。早速だが自己紹介をしてもらおう。そっちの端から順番に出身と名前、得意分野と苦手分野を発表していけ。ちなみに俺の得意分野は『魔術戦闘』で苦手なことは『座学』だ。俺に勉強のことを質問しに来てもムダだからな。各教科の担当教官のところに聞きにいけよ」


 どっと笑いが起こり、男子から「ダメじゃん!」とか「勉強できなくても教師になれんのかよ」などとヤジが飛ぶ。


 そんな生徒たちにバル先生は「そうだな。俺もそう思うぜ」と笑ってみせると、こんな話をした。




「皆知ってると思うが、元々ルーンフェルトは迷宮攻略に参加する魔術師を養成するために建てられた学校だ。その後、魔力の研究や新魔術の開発なんかもやるようになったが、迷宮攻略に軸足があることは開校以来五百年変わってない。はっきり言やあ『パーティーの一員として戦える』ことが一番大事で、それ以外はオマケみたいなもんだな。だから俺みたいなバカでも教官になれる。最終的に卒業できるかどうかも、そこで判断されるから覚えておけよ」


 そこで言葉を切ると、彼は皆を見渡した。


「この『ウグレィ』はバカや落ちこぼれが集められてると揶揄されることがあるが、それは違う。––––ひとつ、お前たちの先輩の話をしよう。かつてこのクラスに魔力がほとんどなく魔術の発動も覚束ない奴がいた。そいつは結局、在学中たった一度も魔術を発動させることができなかったが、首席でルーンフェルトを卒業していったんだ。なぜだと思う?」


 静まり返る教室。

 皆が話に引き込まれていた。


 そして先生はたっぷりタメを作ったあと、その答えを口にした。


「卒業試験でそいつがいたパーティーは、ダントツの速さで試験用のダンジョンを攻略したんだ。リーダーのそいつは作戦立案と指揮に専念してメンバーに指示を出すだけ。結果、そのパーティーは戦闘参加者が一人少ないにも関わらず、タイムレコードを大幅に更新して攻略を完了。その記録はいまだに破られてないな」




 そこまで話したバル先生は、人差し指を上に向け、くるりと小さく円を描いた。


 と、一瞬にしてその指先に眩ゆい火球が浮かぶ。


 ざわ、ざわ……


 生徒たちがざわつく。


「嘘だろ。杖なしの上に無詠唱かよ……」


 先ほど茶化した男子が呟いた。


 先生はもう一度指をまわして火球を消すと、私たちに言った。


「要するに、パーティーの一員として迷宮攻略に貢献できるなら『なんでもあり』ってことだ。俺の場合はそれが戦闘魔術だったが、ここ(頭を指差す)でもいいし、精霊術でもいい」


 そう言ってエルフの少女を見ると、今度は例の民族衣装の少年セオリクの方に視線を動かす。


「もちろん魔法でもよければ––––」


 最後に私を見た。


「自作の魔導具でもいい、ってことだ」


 そう言って、にやりと笑うバル先生。


 もうっ!

 今のは絶対わざとよね?!


 私は手で顔を隠し、そっぽを向いたのだった。




挿絵(By みてみん)

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