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第115話 テオからの贈り物

 


 ☆



「お嬢さまっ! しっかりして下さい! お嬢さまっっ!!」


「……え?」


 ガクガクと揺さぶられる私。


 気がつくと目の前にアンナの顔があった。


「大丈夫ですか? お嬢さまっ」


 心配そうに私の顔を覗き込む侍女。

 その後ろには女神ディーリアの像が夕日を背に私たちを見つめている。


「……今のはなに?」


 私の呟きにアンナが首を傾げる。


「何がです?」


「さっき私、どんな風になってた?」


 アンナは心配そうにハンカチで私の額の汗を拭くと、小さく息を吐いた。


「お祈りの姿勢のまま、青い顔で震えてらっしゃいました。まるで就寝中に悪夢を見られているようでしたよ」


「そう……」


 私は先ほどの白昼夢を思い出す。


 あれは一体何だったのだろう?




 やり直し前、最後に見た時よりも老け、王冠を被っていたアルヴィン。

 今回の時間軸では半年前に処刑されたはずのオズウェル公爵。

 そして、後ろ姿だけで顔が見えなかった金髪の『王妃』。


 彼らの会話の内容は、まるでやり直し前、私が処刑された時間軸の後日談のようだった。


 ––––ズキッ


「っ!」


 左のこめかみに痛みが走る。


「大丈夫ですかお嬢さまっ?!」


「……大丈夫。ちょっと頭痛がしただけ」


「大丈夫じゃないじゃないですか! 医務室に行きましょう。歩けますか???」


「だ、だいじょうぶ。大丈夫だから、今日はもう帰りましょう?」


「でも……」


「お願い、アンナ」


 正直、これ以上この場所に留まりたくない。


 私の懇願にも近い言葉に、アンナは泣きそうな顔で「分かりました」と頷いた。




「立てますか?」


「うん」


 アンナの手を借りて立ち上がる。


 そうして女神像に背を向けたときだった。


「……え?」


 一瞬、夕暮れの朱色に染まっていた礼拝堂に青い光が混ざった気がした。


 とっさに背後を振り返る。


「…………」


 だけど、変わったところはない。


 窓からは夕日が降り注ぎ、女神像は変わらず私たちを見つめている。


「?」


 ただ不思議なことに、妙に頭がすっきりして、いつの間にか頭の痛みもなくなっていた。


「どうかされましたか?」


「……なんでもないわ」


 私は首を横に振ると、アンナと礼拝堂を後にしたのだった。




 結局その日、私は白昼夢のことをなるべく思い出さないようにして早々に眠りについた。


 思い出そうとするとまた頭痛に襲われそうな気がしたし、私のメンタル的にもいっぱいいっぱいだったから。


 あの白昼夢のことは、目的地に着いて落ち着いてから考えよう。


 一人で抱え込んでも良いことがなさそうだから、久しぶりに『くまさん会議』でココとメルに相談しよう。


 ––––そうして私は考えることを先送りにしたのだった。




 ☆




 翌朝。

 朝食を終え、馬車で聖都郊外の森まで送ってもらった私たちは、北へ向かって飛び立った。


「ここからは約二時間半のフライトになるわ」


「えっ、先日伺った話では、確か五時間近くかかるのでは???」


 首を傾げるアンナに、私はふふっと笑った。


「このあいだ言ったでしょう? テオがね、すご〜くいいものを送ってくれたのっ!」


「……またあのおじゃま虫殿下ですか」


 嫌そ〜な顔をするアンナ。

 まるで黒い悪魔的ななにかを見たような顔だ。


「もう。そんな顔ばかりしてると、次に会った時に顔に出るわよ?」


「別にかまいませんが?」


「私がかまうのっ! あと、おとう……陛下もねっ!」


 お父さまも、と言いかけてやめる。

 よく考えたら、お父さまはアンナ側の人だ。

 きっとお兄さまたちも。


 みんな、同盟国の王族にケンカを売るのは、お願いだからやめて欲しい。


「とにかく、ノルドラントには直行しないわ。途中で休憩に降りて、お昼ごはんを食べてからノルドラントに向かいましょう」


「休憩に降りるって……海の上にですか?!」


「まあ、そんな感じね。あとは着いてのお楽しみ☆」


「???」


 クエスチョンマークを頭の上に浮かべるアンナを連れて、私は航法装置ナビの誘導に従い一路目的地を目指したのだった。




 ☆




 聖都を囲む北の山地を飛び越えると、すぐに海が見えた。


 聖国の北の玄関口、美しいセレステポルトの街を見ながら北の海へ。


 冬は荒れがちな北海も、初夏の今は晴れ渡っている。

 視界は良好。

 絶好のフライト日和だ。


 アンナと二人、凪いだ海の上空を飛ぶ。


 そうして海に出て2時間ほどが経った頃。


「さて。そろそろ見えてくるはずだけど…………あっ、あれだ!」


 私が指差す方を目で追うアンナ。

 彼女がその存在に気づく。


「あれは……ひょっとして島ですか???」


「正解っ! さあ、降りましょう」


 そうして私たちは、海のど真ん中に浮かぶ小島に向かって降下したのだった。




 ☆




 その島は、広さが小学校のグラウンドほどしかない小島だった。


 中央の一箇所を除いて木々に覆われているため、船から見れば無人島にしか見えないだろう。


 けれど、上から見るとその景色は一変する。


 中央部が開けていて、一棟だけ建物が建っているのだ。


 周囲の森は、建物を隠す自然のカモフラージュとなっていた。




「なかなか雰囲気があるわね」


 私の言葉に、隣のアンナが頷く。


「潮風の匂いがなければ、ここが海の真ん中だということを忘れてしまいそうです」


 私たちの前には、『森の中の一軒家』といった風情の木造のしっかりした平屋が佇んでいた。


 違和感と言えば、家の扉の前までしっかりした石畳の道が敷かれていることだろうか。


「この島はエラリオン王国商船団の積み替え基地なのよ。正確な位置を知っているのは一部の人だけ。この家はカモフラージュされた貯蔵庫、兼、船乗りたちの休憩所ね。私が迷宮国まで飛んで行くことを知ったテオが、こっそり場所を教えてくれたの」


 まあ『こっそり』と言っても、お父上……エラリオン王の許可はちゃんともらっているらしいのだけれども。




 海洋国家であるエラリオンは、西に向かう太西洋航路や自国周辺の内海航路だけではなく、北大陸の東側を北上して北海に到る、東まわりの航路を持っている。


 その航路は当然かなりの長距離航海となり、途中、北大陸東岸の複数の港町を経由してやっと北海に到達する。


 が、北海に着いても、沿岸の各国を巡って交易してまわったのでは時間がいくらあっても足りない。


 そこで北海に常時数隻の商船を置いて各国と交易させ、この島で東まわり航路の商船団と積み荷の載せ替えを行って輸送を効率化する。


 そういう仕組みを作り上げているのだと、テオからの手紙に書かれていた。


 彼からの贈り物というのは、つまりこの島の正確な位置が記された北海周辺の地図だったのだ。




 私の説明を聞いたアンナは、目を細めた。


「なるほど、そういうことですか。小賢しい真似を……」


「え?」


「いえいえ、なんでもありませんよ」


 ぱっ、と笑顔になるアンナ。


「それではささっと中をお掃除してお昼の用意をしますので、少しだけお待ち下さいね」


 私の侍女はそう言うと、背負っていた荷物から掃除道具を取り出し、鼻歌を歌いながら掃除に取り掛かったのだった。




 ☆




 軽いランチと休憩のあと、私たちは再び北に向けて出発した。


「目的地はノルドラントの首都から東に行ったところにあるエーテルスタッドという街よ」


「あ、首都ではないのですね」


 アンナの言葉に、頷く私。


「エーテルスタッドの周辺には特に初心者向けの迷宮が多くて『はじまりの街』と呼ばれているらしいの。私が入学する『ルーンフェルト魔術学校』もそこにあるわ」


「では、公使館の方はわざわざ首都から迎えに来られるのですか?」


「たぶんね。陛下のお気遣いとはいえ、各地で対応して下さる方々には申し訳ないわ」


 私の監視も兼ねていると思うので、本当にご苦労さまだ。




 そうして海上を飛ぶこと、約二時間。


「あっ! 陸地が見えましたよ、お嬢さま!!」


 アンナの言葉に、水平線に目をこらす。


 輝く波間を超えた先に、カラフルな家屋の港町が見えた。



「凍土大陸に初上陸ね!」



 一体、どんな日々が待っているんだろう?



 私は膨らむ期待を胸に、ノルドラント迷宮国に空から入国したのだった。




本作のコミカライズを担当されているサザメ漬け先生(@otha_sazame)が、年末にとても可愛いレティとクマたちのイラストを投稿されていましたので、ご紹介致します!


https://x.com/otha_sazame/status/1741309302915351002?s=46&t=KrmWmCEpVXz3LTs5Nm6D1Q


コミカライズ版、書籍版ともによろしくお願い致します!

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― 新着の感想 ―
[一言] 巻き戻し転生時の記憶が未来予測として白昼夢になったのでしょうね。 異世界転生時特典でしょうか?
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