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第114話 いつかの記憶

 


 ☆



 私が知っている姿よりもいくつか歳を重ねたように見える元婚約者……アルヴィン・サナーク・ハイエルランド。


 興奮する彼に詰め寄られたオズウェル公爵は、だが淡々と質問に答えた。


「陛下。あの竜操士ドラゴンライダーが公国のものかどうかは現時点では断定できません。掲げられている国籍マークが公国のものではありませんでした。それに現在公国は西方のアルディターナ王国に侵攻中で、我が国への二正面作戦を行うのは難しいはずです」


 その答えに、更に激昂するアルヴィン。


「はあ?! じゃあ、どこの部隊だと言うんだ! 飛竜部隊を持っているのは公国と我が国だけだろう。貴様はあれが反乱軍だとでも言うのか?!」


「いえ、我が国の部隊でもありません」


「じゃあ一体あれはっ…………いや、今はそんなことはいい。迎撃は? 我が軍による迎撃はどうなっている? 飛竜隊はすでに上がっているのか???」


「そ、それは……」


 その問いに言葉を詰まらせる公爵。

 わずかに躊躇ったあと、彼は低い声で言った。


「残念ながら、初撃で竜舎と屯所をやられました。飛竜隊は全滅です」


「なっ、なにっ???」


 激しく動揺するアルヴィン。

 そんな彼に公爵はもう一度、今度ははっきりとそれを口にする。


「王都の飛竜隊は、先ほどの敵の攻撃により全滅致しました。国軍の主力は東部国境を越えペルシュヴァルツ帝国に侵攻中で不在。現在、王都守備隊が応戦しておりますが時間稼ぎにしかならないでしょう。……もはや王都にはあの敵に対抗できる戦力はありません」


「なんだって…………」


 茫然とした顔でその場に崩れ落ちるアルヴィン。


 公爵は片ひざをつき、アルヴィンの肩に手を置いた。


「陛下。残念ですが王都はもうおしまいです。妃殿下、王子殿下とともに王都を脱出して下さい」


「っ……!!」


「東方遠征中の国軍主力と合流すれば反攻作戦を行うこともできるでしょう。今は生き延びて、再起を図るときです」


「……分かった」


 うなだれた元婚約者がそう呟いたとき、私の視界は再び回転した。




 ☆




 次に気がつくと、私は見覚えのある部屋にいた。


 王の執務室。


 部屋には三人の人物がいて、そのうちの一人……アルヴィンが本棚の本の一部を押し込むと、ギギギ、という音ともに本棚がスライドし隠されていた階段が姿を現した。


「王子は無事か?」


 アルヴィンの問いに、ティアラをつけた金髪の女性が頷く。


「はい。この通りよく寝ています」


 そう言って、傍らに立つ騎士服の人物を振り返る。


 騎士に抱き抱えられて寝ている三歳くらいの男の子。

 その子が『王子』ということだろうか。


「ははっ、この騒ぎの中でよく寝ていられるものだ。きっと歴史に名を残す王になるぞ」


 そんな軽口をたたいたアルヴィンは、手に持ったランプで隠し階段を照らした。


「さあ、行くぞ」


 そう言って逃亡を促す。


「…………」


 が、なぜか女性は動かない。

 顔を伏せ、腕にかけた上着をもぞもぞと動かしただけだった。


「どうした王妃?」


 歩み寄るアルヴィン。

 そんな相手に『王妃』と呼ばれた女は、俯いたまま呟くように言った。


「あなたに話しておきたいことがあって……」


「? どうしたんだこんな時に???」


 そう言って彼女に近づくアルヴィン。


「実はわたし––––」


 もじもじと動く女。


 次の瞬間、


 ––––ブシュッ!


「ぐっっ?!」


 アルヴィンの背中から、赤く輝く光剣が突き出ていた。


「––––頭の悪いあなたも、男尊女卑のこの未開な国も、大嫌いなのよ」




 驚きに目を見開き、後ずさる若い王。

 その腹部には魔導短剣と思われるものが刺さっている。


「な、なぜ……」


 尻もちをついたアルヴィンに金髪の女が近づく。


「でもまあ、あなたには感謝してるわ。私の思い通りに踊ってくれたし、一番の障害だった家門も排除してくれたしね」


「なっ……」


「何ていったっけ? エインズワース? あの家門ほど危険な連中はいなかったわ。魔導基板の製造技術なんて私たちを凌駕してたし。––––その中でも、特にあなたの婚約者だった女は危なかった。うちの活動も一度彼女に邪魔されちゃったしね。なんとか排除できて本当によかったわ」


 ぞくり、と背筋が寒くなる。


 だけど私に背を向けているその女は、今話した相手がこの場を見ているなど思いもしないように話を続けた。


「あの家門が健在だったらこうも上手くはことが運ばなかったかもね。……ねえ、アルヴィン。この国が滅びる原因の一つは、あなた達がカビの生えた価値観にとらわれて、あの家門とあの女の能力ちからを見くびったからよ。それに、私のこともね」


「…………」


 アルヴィンの体の下に広がる、ドス黒い赤。

 彼はもはや声を出すこともできず、口をぱくぱくと動かすだけだった。


「さて。余計なおしゃべりはおしまいにしましょう。––––イーゴリ」


「はっ」


 姿勢を正す騎士服の男。


「第六遠征軍司令部に伝達。『作戦を第二フェイズに移行』。飛行艦隊を王都に進軍させなさい」



「承知しました。––––第十三皇女殿下」




 ––––その瞬間、またしても世界がぐるりとまわった。





2024.1.5

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願い致します。


「やり直し公女の魔導革命」コミカライズ版の1話後編が更新されました!


今回本編がエグい感じになっておりますので、口直しに広告下のリンクより可愛く動くクマたちの姿をお楽しみください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 黒幕(実働部隊司令官かな?)を謎の人物のままにしないところ [気になる点] これまでのことが帝国の仕業としたらあらゆる面で国力が違い過ぎるな 平時は知らんけど毒盛られる脇の甘いのがトップじ…
[一言] おっと新事実が発覚か? 皇女ということは帝国なのか? 現状の敵国認定されてる公国はただの手先か傀儡国家という可能性も わざわざ神様が見せたということは、この皇女とこれから顔を合わせる可能性が…
[一言] あの後すぐではなく、日本人のエンジニアとして生きた記憶を抱えて転生したが故の決意に、慌てて修正入れに来たよ。 個人的な見解として、日本人は 「あらゆる存在を敬う対象にした上で等しく距離を置…
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