第104話 開戦を告げし閃光
お待たせしました。
引越し作業で更新が遅くなりました。
☆
市壁から飛び立った私は、眼前に迫った敵を見渡した。
地上には見渡す限りのゴブリンとオーク。
空には数百はいると思われるデビルクロウが飛び回っている。
(さて、どう接触しよう?)
一瞬考えたのち、
(––––やっぱり最初に『挨拶』しとかなきゃね)
私は空中で静止し、魔導ライフルの左セレクターを『2』に、右セレクターを『2』に合わせた。
「ココ、『中距離射撃モードON』」
私がそう指示を出すとクマの男の子は、
「りょーかいだぜ!」
手を振って、ブン、と空中に魔法陣を描く。
と、私の右眼の景色が真ん中の一部だけ歪み、望遠鏡のように拡大される。
中央に浮かぶ十字の照準。
私は、我がもの顔で飛びまわるカラスの中で、群れの奥の方にいる集団に照準を合わせ、半分だけ引き金を引いた。
ブブン
銃口の先に浮かぶ光弾。
しかし今回浮かんだ光の弾丸は、これまでより小さく、代わりに数が多い。
その数は、十個。
上段と下段に三個。
中段が四個。
蜂の巣のように、三–四–三の配列で光の弾が浮かび、その先にいつもより大きめの加速魔法陣が二つ、小–大と直列で回転していた。
『魔力収束弾拡散発射モード』
動きの速い飛行型の敵や、群れで襲ってくる敵に対抗するため、複数の魔力収束弾を同時に面的に広がるように発射できるようにしたモード。
要するに、散弾だ。
(効果があると良いんだけど……)
試射では設計した通りの性能を発揮していた。
問題は、実戦で『使えるか』だ。
私は狙いをつけた集団を照準で追いかけながら、指に力を入れて呟いた。
「––––舞踏会へ、ようこそ」
ドンッ!
私が引き金を引いた瞬間、十発の光弾は二つの加速魔法陣を通過し、数条の光となって空を切り裂く。
そして、爆発。
ドドドドドンッ!!!!
空に五つの閃光が煌めき、運良く爆発を逃れたカラスたちが、動揺するように各々回避を始めた。
やがて––––
ギャー!
ギャーギャー!!
私の存在に気づいた個体が啼き、他の魔物たちの顔がこちらを向く。
無数の殺気が私に突き刺さる。
そして、
『『ギャーーーッ!!』』
一匹を先頭に、まるで鏃のように雪崩をうって私に襲いかかってきた。
「さあ、鬼ごっこよ!」
私は銃口を下げて中距離射撃モードを解除すると、左に向かって急加速し、カラスの大群から逃げ始めたのだった。
☆
『レティ、増速だ!』
頭に響くココの声に、私は一段ギアを上げた。
背後に迫っていたカラスの啼き声と羽音の距離が、しだいに離れてゆく。
『減速っ』
今度は速度を落とし、右旋回に入る。
私は加速と減速、左右旋回を繰り返しながら、デビルクロウの大群から逃げまわっていた。
(そろそろ––––かな?)
ちらりと街の方を見る。
市壁の上には、いくつもの魔導の光が浮かんでいた。
(……よしっ!)
私はそれから二回右旋回して位置と高度を調整すると、進行方向をココメルの街に定めたのだった。
◇
「対空戦闘!」
「対空戦闘、用意っ!!」
レティの父ブラッドの指示を指揮官たちが復唱すると、市壁の上に展開していた全ての機関銃、魔導ライフル、魔導弓、魔法剣がその銃口と鏃、剣先を空に向け、加速魔法陣を展開した。
「目標・デビルクロウ! 弾幕射撃! ––––間違ってもレティシア様に当てるなよ!!」
「「おう!!」」
領兵隊長ライオネルの指示に、一斉に吼える兵士たち。
あの演説以来。
幼い身でありながら街を守り抜くと宣言し、先頭に立って皆を導こうと必死で動くレティシアを、領民も兵士たちも崇拝にも似た感情で見守っていた。
そんな彼女は今もまた一人、敵の只中に飛び込み囮となり戦っている。
誰かが言った。
「皆を守ろうとするレティシア様を、俺たちが守るんだ!」
「「おうっっ!!!!」」
緊張と恐怖。
そしてそれらを上回る高揚感が、これまでにないほど士気を高めていた。
「アンナ。準備はいいか?」
隣に立つ娘の侍女にそう問いかけたのは、レティの父ブラッド。
彼は今、自らの手で十二ミリ重機関銃を操り、加速魔法陣を起動した銃口を空に向け、その時が来るのを待っていた。
「いつでも行けます。旦那さま!」
そう答えたアンナもまた、重機関銃を据え付けた対空銃架の後ろに立ち、銃口を空に指向している。
飛び立つ前、レティが二人に託したこと。
それが、この場で最大威力、最長射程である二挺の重機関銃の操作だった。
この対空戦闘の火蓋を切るのは、間違いなくこれらの重機関銃になる。
その責任は、重い。
防衛側最大の攻撃力を預かることになるし、デビルクロウを誘引して飛ぶレティシアを躱して第一撃を叩き込まなければならないから。
レティシアの自動防御は非常に強固な防殻ではあるけれど、それでも限界はある。
数発であれば耐える防殻でも、秒間十発近い重機関銃弾を連続して叩き込まれれば、どうなるか分からない。
だからこそレティは、生死を預けられる自身の父親と、最も信頼する自分の侍女にその操作を託したのだった。
「––––くるぞ!」
ブラッドの声に、目を細めるアンナ。
その視線の先では、彼女の主人が数百のデビルクロウを引きつれ、まっすぐこちらに向かっている。
「お嬢さま……」
アンナは呟くと、機関銃の持ち手を握り、押し下げ式の発射スイッチに両の親指を添えた。
◇
「––––あれね」
カラスの群れを引き連れたレティは、ココメルの街に向かって飛びながら、眼下の目印を確認した。
それは、左手から右手に向かって張り出した林。
そのラインがココメルから約二キロの地点であり、そこを越えれば二十秒足らずで重機関銃の有効射程に入る。
(目標まで、三、二、一、増速っ!!)
森の上を飛び越えると同時に、二段ほどギアを上げて加速する。
カラスたちの啼き声と羽音が遠ざかる。
(ちゃんとついて来なさいよ?)
レティは祈るような気持ちで加速を続ける。
十分に距離をとらなければ、巻き込まれる可能性があるからだ。
––––そして彼女は、『そのポイント』を通過した。
ココメルから一本の火線が伸び、彼女の背後に到達する。
ババババババババッ!
断続的に風を切る音。
そして、光。
背後から聞こえるバサバサという落下音。
間もなく街からは、もう一本の火線が伸びる。
ババババババババッババババッ!!
(––––これはアンナね)
レティがちらりと背後を見ると、彼女を追いかけて来る黒い怪鳥の群れの一部が、ある位置で見えない壁にぶつかったようにボトボトと落下している。
もちろん、その壁をすり抜けてレティを追い続ける敵の方が圧倒的に多いのだが。
そうして飛んでいるうちに、しだいに市壁からの発砲が増えてくる。
まずは魔導ライフルの単発の攻撃が。
次に二十挺からなる軽機関銃の連射が始まる。
市壁の上から発射される無数の弾丸。
それらがどしゃ降りの雨のごとく撃ち上がる。
(……怖い)
改造が間に合った軽機関銃は二十数挺。
そのほとんどによる濃密な弾幕射撃は、先行する囮役のレティですら本能的な恐怖を感じるものだった。
その弾幕が、レティを追うカラスの化け物たちに襲いかかる。
ギャーッ!!!!
断末魔の悲鳴をあげ、バラバラと落ちてゆくカラスたち。
だが、かろうじてそれをすり抜けた個体には、更なる攻撃が待っていた。
「撃ーーっ!!!!」
ヒュンヒュンと飛んでくる魔導弓。
それに魔法剣による火炎弾が混じる。
ドンッ! ––––ドンッ!!
次々に落ちるカラスたち。
レティはそれらを引っ張ったまま、市壁の上空に差し掛かる。
(––––パパ! アンナ!!)
二人と目が合う。
重なる心。
湧き出す勇気。
レティはそのまま二人の頭上を飛び抜けたのだった。
いつも応援頂きありがとうございます。
前回のアンケートに協力して下さった皆さま、ありがとうございました!
なろうとカクヨム、両方を合算した結果を発表させて頂きます。
《アンケート集計結果》
☆複数挙げて頂いた方は重みづけを反映しています。
26pt ①魔導具開発のところをもっと丁寧に!
27pt ②開発した魔導具で活躍する姿が足りない!
29pt ③領地経営で問題解決する描写がなくない?
18pt ④戦い多すぎ
10pt ⑤テオ(またはアンナ他)とわちゃわちゃしてよ
12pt ⑥くまさん会議どこいった?
やはり、領地経営や魔導具での活躍、開発の要望が多かったです。
コメントで頂いたご意見と合わせ、第三部執筆の指針にさせて頂こうと思います。
それでは引き続き本作をよろしくお願い致します!