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第102話 進む準備、到着する援軍、そして

 


 ☆



 未だ興奮冷めやらぬ中、私は降壇し、馬車へと向かう。


「伯爵様っ!」


「レティシア様っ!」


 人々の呼びかけに、小さく手をあげ、微笑で応える。


「やるぞおおおおっ!!」


「おおおおおおおおーーっっ!!!!」


 広場のあちこちから聞こえる雄叫び。

 こぶしを掲げる人々。


 もはや不安そうな顔をしている人はいなかった。


(なんとか、みんなの不安を拭うことができたかな……)


 微かな疲労と、やり遂げた充実感を感じながら馬車へと歩く。


 と、あと少しのところまで来た時、馬車の前に見知った人が立っているのに気づいた。




「お父さまっ!!」


「レティっ!!」


 私たちは歩み寄り、手を取り合う。


「遅くなってすまない。さっき到着したんだ」


 申し訳なさそうにそう言った父に、私は首を横に振った。


「……エラリオン王国使節団への対応もあったでしょうに。こんなに早く来て下さるとは思いませんでした」


「陛下が配慮して下さったのだ。あと、これのおかげで全力で飛んで来ることができた」


 父はそう言って、ベルトに固定したクマ……先日私がプレゼントしたサポートベアを見せてくれた。


「早速、使って下さったのですね」


「ああ。これがなければ到着は明日になっていただろう。それにしても……」


 父は顔を上げて雄叫びをあげる人々を見渡すと、私に視線を戻した。


「素晴らしい演説だった。よく人心をまとめたな」


「少しでもみんなの不安を拭うことができれば、と。必死だったんです」


「……よき領主になった。お前のことを誇りに思うよ」


「ありがとうございます。お父さま」


 目を細める父に、私は恥ずかしくなり目を伏せた。


「長時間のフライトでお疲れでしょう。お屋敷に戻りましょうか?」


「そうだな」


 お父さまは微笑すると、あらためて私の手をとり、馬車へと導いてくれたのだった。




 ☆




 翌日は、早朝から街全体が活発に動き始めていた。


 空が白み始める頃に目を覚ました私が寝室のカーテンを開けると、すでに街のあちこちに炊事の煙が立ち上り、炊き出しに向かう兵士や地域防衛隊の人たちが道を行き交っている。


「すべては、今日の準備次第ね」


 私が外の景色を見ながら呟くと、コン、コンと扉がノックされ、


「おはようございます。お嬢さまっ」


 アンナがいつもの元気な笑顔を見せたのだった。




 ☆




 その日の航空偵察には、私とアンナ以外にお父さまが同行することになっていた。


 昨日の夕食のときのお父さまの言によれば、


「できれば自分の目で敵を見ておきたい。移動速度や動きなどを知っていれば、戦いのイメージがし易いからな」


 ……ということらしい。


 これまでは飛行靴フライング・ブーツを連続使用できるだけの魔力を持つ人が他にいなかったので、私がアンナを連れて飛んでいたけれど、お父さまであれば問題なく私について来られるだろう。


 ただし、お父さまの魔力量では何度も『自動防御アウト・ディフェンシア』を発動することは難しい。


 せいぜい一回か、二回程度。


 つまり、カラスに囲まれたら一巻の終わりだ。


「お父さま、交戦は絶対にナシですよ? デビルクロウに接近されたら、私を気にせず、なりふり構わず全力で逃げてください」


 私の真剣な要請に父は、


「分かっているよ。私に何かあれば、お前たちまで危険に曝してしまうからな」


 そう言って苦笑したのだった。




 さて。

 そうして偵察を行った結果、あまり愉快でないことが二つ分かった。


 一つは、魔物の総数がすでに三万を超えていること。


 もう一つは、魔物の移動速度がわずかだが上がっているらしいことだ。


 このままでは魔物の群れのココメル到達は、明日の正午頃になるだろう。


(各地からの援軍と物資が、なんとか間に合えば良いのだけど……)


 分析結果を聞いた私は、思わず額に手をやった。


 ライオネルの報告によれば、昨日の演説の後、例の暗号通信による交信量が増えたらしい。


 ひょっとすると、ココメルに潜んでいる間諜から魔物を操っている工作員たちに、何らかの指示が出たのかもしれなかった。


 私が頭を抱えていると、お父さまがポン、ポンと肩を叩いた。


「心配することはない。統合騎士団も、オウルアイズ騎士団も、生半可な訓練はしていない。今回は時間こそが一番の問題だということは、皆、分かっているさ」


「……そうですね」


 お父さまの言葉に、いくらか気持ちが軽くなる。


 そうして私は、私がしなければならないことに向き合ったのだった。




 ☆




 その日の私は、分刻みと言って良いくらいにあちらこちらに動きまわることになった。


 早朝の航空偵察。


 南部に避難する人たちの見送り。


 工房に顔を出して、ダンカンに対空銃架の追加生産と軽機関銃取付用アタッチメントの製作を依頼したりもした。


 あと、魔導ライフル・軽機関銃共用の七ミリ弾の増産も。


 正直、人手不足を心配していたのだけど、ありがたいことに工房には、昨日までよりさらに多くの街の職人たちや、婦人会の有志たちが手伝いに来てくれていた。


 ダンカン曰く、


「こんだけいれば人手はなんとかなるだろ。むしろ治工具の準備の方が大変だわ」


 ということだったので、なんとか間に合わせてくれるだろう。




 工房での指示のあとは、各陣地の工事の視察にまわった。


 北側の盛土を利用した反斜面陣地のほか、西の森に設置した秘匿陣地、東の丘陵に設置した多重陣地、南側の避難経絡を守る陣地と、街をぐるりと一周した。


 各現場では、大勢の人が魔導スコップを手に工事を進めていて、作業は順調に進んでいるようだった。


 そうして日が傾き始めた頃。


 西門と東門に、待ち人が到着した。




 ☆




「お兄さまっ!」


 私は屋敷の玄関に現れた騎士服姿のグレアム兄さまに駆け寄った。


「レティ、間に合ってよかった」


 私を抱きしめるお兄さま。


「お兄さまが騎士団の指揮をとっておられるのですか?」


「ああ。さすがに殿下まで王都を離れる訳にはいかないからね。話し合って、今回は俺が派遣隊の指揮を執ることになった」


「それは心強いです!」


「あ、そうだ。外で新領の派遣隊長が待ってるんだ。一緒に挨拶に行こう」


「確か、お兄さまの同僚……ですよね?」


 オウルアイズ新領には、まだ領兵隊は組織されていない。財政的な問題と、人材不足がその理由だ。


 従って今回新領から来てくれたのは、王国統合騎士団の新領派遣軍の騎士たち、ということになる。


「ああ。俺の騎士学校の同期で、ノリは軽いが優秀な男だ。奴なら戦力差があっても粘り強い戦いをしてくれるはずだ」


「ええと……それは期待できそうな方で良かったです」


 苦笑する私の肩に、兄は手をまわした。


「さあ、それじゃあ明日の戦友を紹介しよう」


「はい。お願いします!」


 こうして私は、新領から駆けつけてくれたヘクターという名の若い騎士に挨拶をしたのだった。




 ☆




 全ての準備が、なんとか進みつつあった。


 それは残っていた最後の懸念についても、同じ。


 領兵隊長のライオネルから『例の件』の報告があったのは、グレアム兄たちと面会した直後のことだった。


「ネズミのアジトを突き止めたぜ、嬢ちゃん」


「本当?!」


 問い返した私に、ライオネルはにやりと笑って頷いた。




挿絵(By みてみん)

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