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婚約破棄の原因となった令嬢が恋のキューピットになった件について

作者: あお

エリーザ・ベルガンドル 公爵令嬢 普通

アイシャ・ラミータ   男爵令嬢 ビッチ

ガルダ・ミリヤード   第一王子 取り巻き 俺様王子

ペンドュ・スタウォンズ 公爵令息 取り巻き 綺麗目男子

デルド・ランジャード  伯爵令息 取り巻き ナルシスト男子

ジャング・ダルマーシュ 侯爵令息 取り巻き スポーツマン系男子

宮島 愛        転移者  オタク

ベンガード・モルガーン 伯爵令息 2作品目キャラ 騎士





■■■


「エルザ・ベルガンドル!今この時を以て、貴様との婚約を破棄する!」


全校生徒が収容できる程の広さを持つアリーナをわざわざ暗くし、どこから持ってきたのか高い檀上を設置。

まるで今から出張劇団のイベントショーでも始まるのかというツッコミを入れたくなる檀上にあがる五人の姿を、スポットライトが存在を際立たせていた。


そして中央に立つ一人の男性にべったりと寄り添う一人の女性。


この国の第一王子ガルダ・ミリヤードに、男爵令嬢のアイシャ・ラミータだ。


ガルダ殿下はその男性特有の骨張った指で、彼の婚約者であるエリーザ・ベルガンドル公爵令嬢_つまり私の事だ_を指さしていた。


ガルダ殿下とアイシャ嬢の話は有名だった。

いや二人の名前だけでは語弊がある。

ガルダ殿下ならびに殿下の側近候補と、アイシャ嬢の話は有名だった。といった方がいいだろう。


アイシャ嬢は私と殿下の一つ年下であり、今年入学してきた令嬢だ。

可憐なアイシャ嬢の美貌は学園内に一気に広まり、その愛らしさで婚約者がいる男たちが文字通りメロメロになった。

勿論私の婚約者でもあるガルダ殿下も例外ではない。

本来ならば婚約者のいる男性に言い寄られた場合拒否をするのが一般的だが、アイシャ嬢は男爵の身分の為それも難しかっただろう。

ならばその婚約者の令嬢たちに現状を報告し、男たちを諌める場を設けさせる手も考えられはするものだが、アイシャ嬢はそうはしなかった。

ただ男たちからの寵愛を受け止め、周りに侍らせていたのだ。

可憐なアイシャ嬢の美貌に周囲の男性たちはチラチラと彼女を気にしていたが、取り巻きと化していた令息たちの睨みに足を遠ざけた。

第一王子であるガルダ・ミリヤード

ペンドュ・スタウォンズ公爵令息

デルド・ランジャード伯爵令息

ジャング・ダルマーシュ侯爵令息

特に第一王子であるガルダ殿下もいるとならば、他の令息たちが諦めるのも無理はない。

だが今となっては諦めておいてよかったと思うだろう。

実際に婚約者をとられた令嬢を哀れに思い慰めていた者や、男たちを侍らすアイシャ嬢の行動に不信感をもつ令息たちが次々と現れていたのだから。

またある令嬢から聞いた話だが、令嬢の取り巻きであるデルド・ランジャード伯爵令息はアイシャ嬢と既に体の関係を持っているようで、ショックを受けた令嬢はランジャード様との婚約を解消したと話していた。

ガルダ殿下はどうか”私”は知らないが、壇上の上で彼女の細い腰ではなくお尻に手をまわしている様子から見ると考えるまでもなさそうだ。

そんな不貞行為を行ったと”思われる”殿下は、壇上から私を見下ろし、そして婚約破棄を突きつけていた。


「………そのような結論に至った経緯を教えていただけますでしょうか?」


顔色を変えずに尋ねた私を面白くなさそうに見やるガルダ殿下は、彼女のお尻を撫でまわしながら答えた。


「…まぁいいだろう。お前は可憐なアイシャが目障りで虐めていただろう。

教科書や上履きを傷つけるだけでは飽き足らず、他の生徒に指示し彼女を無視させる、さらには階段から突き落とすという殺人未遂迄及んだ。

そのような非道な真似をする女性を将来王となる俺の妻、つまり国母となる女性に値しないというのが理由だ!」


私を指さしていた手を腰に当て、偉そう_実際に王子という立場はこの場の誰よりも偉いが_に胸を張る殿下に私は溜息を洩らした。


何故……


「私が彼女を害せねばならぬのです」


思わず口に出た言葉に周りの取り巻きが反応する。


「お前が殿下を好きだからだろう!」


「そうだ!殿下の寵愛を受けるアイシャが憎くてたまらなかった!それが理由だろう!」


「そうそう、そんなことをしてもなんにも意味はないのにね」


鼻で笑う取り巻きたちに私も鼻で笑いそうになった。


その理由は


「私はガルダ殿下に好意を抱いたことはありません」


言葉の通りだった。


そもそも親同士で勝手に決められて”いた”婚約者だ。

婚約者が決まってから王妃教育を受けていた私と、第一王子という立場もあって政務をこなしていた殿下が、交流する時間なんてない。

どこのタイミングでよく知らない男にトキメキを覚えるのだ。

一目惚れという言葉もあるが、私の両親と兄は周りも振り返るほどの美貌の持ち主だ。

つまり美しい顔立ちを見慣れている私は、顔がいいからといって惚れはしない。

もっというと私の好みは筋肉質な男性だ。

あんな痩せた顔だけ男どもよりも、筋肉がついて逞しい男性の方が魅力的にみえる。


ちなみに最近はアイシャ嬢に構う時間を優先するあまり、最低限の政務もこなさなくなり、殿下の人気は急降下していることは言うまでもないだろう。



つまりガルダ殿下や取り巻きが言う、”私が殿下の寵愛を受けているアイシャ嬢に嫉妬するあまり非道に走った”という理由はありえないのだ。

それよりも他の令嬢や令息たちのように、一人の女性の取り巻きになっている男たち、そして複数の男たちを侍らせる女を視界にも入れたくないほどに嫌悪しているぐらいだ。

だが、嫌悪しているからといっていじめをする理由にはならない。

寧ろ関わりたくないとすら思っている。


だから”無視する”行動は私が指示していたことではなく、私と同じくあの人たちを関わりあいたくない存在だと思っているということだ。


その証拠に私を非難する人は壇上の五人しかいない。

私がどういう反応をするのかと同情的な目線で見る者もいるが、大体の人たちがあの五人を白けた目で見ているのだ。


「殿下ぁエリーザ様が私を睨み…うぅッ!」


「!?アイシャ!?どうした!?」


急に頭を押さえる彼女に殿下と取り巻きたちがわらわらと彼女を囲む。


「エリーザ!貴様いったいなにをしたのだ!?」


壇上にいる彼女に、私がなにも”出来ることがない”事くらい分かるだろう上の発言に頭が痛くなる。

寧ろ彼女の近くにいたのは取り巻きの貴方たちだ。


本当に私の両親は何を考えていたのだろう。

家族に愛されていると思っていただけに、両親の真意を知りたくなった瞬間だった。


「わ、私…私は…、え…い、いやあああああああ!!!!」


鼻にかかるような甘い声色ではない彼女の叫び声がアリーナ内に響き渡った。


そして錯乱する彼女に突き飛ばされた殿下が尻もちをつく。


彼女は周囲を見渡して、そして私を見つけると壇上から勢いよく下りて私の元に駆け寄った。


「エリーザですよね!!私大好きなんです!あなたのこと!

悪役令嬢として登場したけれど、至極真っ当なあなたがなんで悪役なのかもわからないし、しかも追放されたときは本当に悲しくて、あのクソ王子何考えてんだ!?つかあの取り巻きもなんだよ馬鹿か!?とか思ってたけど、

二作品でエリーザたんが主役になった時は本当に嬉しくて私何度もプレーしました!!!

これが夢なのはわかってるけど、せっかくこうして会えたのだから握手してほしくて!!!!」


目をキラキラさせて、私を見上げるアイシャ嬢と思わしき人物に私は思わずたじろいでしまう。


というよりエリーザ”たん”ってなに。”たん”って。

敬称のつもりなのだろうか。


「あ、あの…」


「はい!あ、手は洗った方がいいですよね!?

あ、でもどこに手洗い場があるのかわかんないや……」


きょろきょろと水場を探すアイシャ嬢はもしかして二重人格だったのだろうかと疑問に思った。


「あの…アイシャ嬢…ですよね?」


恐る恐るそう尋ねると、目の前の”アイシャ嬢”と思わしき人物はこてりと首を傾げる。


「アイシャって、最初の作品の主人公の名前ですよね?正直ビッチすぎてどこが主人公だよってツッコミ多かったですけど…。

私は宮島 愛っていいます。愛って呼んでください!」


ズキと痛くなった頭に手を添えながら、”アイ”と呼ぶように言ったアイシャ嬢に「待って」と告げると大人しく口を閉じた彼女をチラ見する。


つまり、彼女は彼女であって彼女ではない。

いえ、これだと意味がわからないわね。

目の前にいる女性は、アイシャ嬢の見た目をしているが、アイであってアイシャ嬢ではない。

それどころか、自分の事をアイシャ嬢とは別人だといっているようにも思えた。


私はポケットに持っていた手鏡を彼女に差し出した。


「お前!アイシャに何をするつもりだ!!?」


突き飛ばされて放心状態の殿下が我に返って、私の腕を掴む。

ギリギリと痛いが、それより一瞬で移動したことに驚いた。


「あなた!エリーザたんを追放したバカ王子ね!エリーザたんの細腕から手を放しなさいよ!」


そして驚くことに私の味方をするアイシャ嬢であってアイシャ嬢ではないアイに殿下は衝撃すぎてよろけている。


もうこの場はカオスだった。


「……とりあえず、落ち着いて話す必要があるわね。

取り巻き…いえ、スタウォンズ様、ランジャード様、ダルマーシュ様も現状を把握する意思がありましたら場所を移動しましょう」





◇◆




アイシャ嬢の急な変化にただ事ではないと察した取り巻きたちは、大人しく私の後をついてきた。


そして、私、アイシャ嬢基アイ、取り巻き4人、そして人物的には私の味方は誰一人いない事を心配したベンガード・モルガーン伯爵令息がこの場にいる。


ちなみにベンガード様は宮廷騎士を目指しており、王妃教育の為に通っていた私と偶然会ったことが初対面である。

互いに顔をあわせれば話をし、学園でも年初に行われるパーティーで私をエスコートしなかった殿下の代わりに、エスコート役を受けてくれた人物だ。

エスコートした際に彼の腕に触れ、ダンスを踊った時に私を軽々支える彼は騎士を目指しているから体を鍛えていて、筋肉もある。

それによく図書室でも出会うことがある為か、体を鍛える事だけではなく成績もよかった。

非常に魅力的な男性で、私に良くしてくれる彼が婚約者だと勘違いしてしまうが、そうではないのが非常に残念なことだった。


「現状を確認する為にまずアイシャ嬢…ではなく、アイ。

あなたに自身の姿を確認してもらいたいの。いいわね」


そういって手鏡を渡すとアイはうっとりとした表情で私の手鏡を受け取る。


「ああ、これがエリーザたんの手鏡……。数量限定発売ですぐなくなってしまって買えなかったけど、こうして本人から渡されて手に取ることができるだなんて…!

しかも、なんか……くんくん、…あぁ…フローラルないいかほりまでするぅ!」


くんくんと私の手鏡を嗅ぐ姿は、見た目がかわいらしいのもあってなんだかいけない変質者のように見えてしまった。


「アイ・ミヤジマと言ったな。早くエリーザ嬢から渡された手鏡で自分の姿をみろ」


一向に開こうとしないアイにベンガード様が注意する。

アイは気にすることもなく「はーい」といって、手鏡を開いた。


でもこうして気にする様子もないということは、アイは本当にアイシャ嬢ではないと考えてもいいかしらね。

アイシャ嬢は自分の事を甘やかしてくれる人には愛想がいいのだけれども、注意する者たちには態度が180度違っていたから。


「な、なにこれええええええ!?え!?なんで?!なんで私がアイシャになってるの!?

この女ビッチじゃんか!朝チュンで描写は写らない全年齢対象作品だったけど、ナルシスト伯爵息子や俺様王子、綺麗め公爵息子に股開くような女になんで私が!?私そんなんじゃないし!!!」


アイの発言で取り巻きたちが顔を見合わせる。

目つきが鋭いところを見ると、皆でアイシャ嬢を可愛がっていたのではなく、自分こそが本命だと思っての行動だったのね。

ちなみにもう一人の取り巻きはベンガード様と同じく騎士を目指していると聞いたことがある。

取り巻きと化しても騎士道というのはちゃんともっていることが意外だった。


それにしても殿下も不貞を働いていただなんて、…本当に頭が痛い。


「アイ、状況が把握できていない貴方に言うのは忍びないけれど、知ってることを話してくれないかしら?」


「エリーザたんがおっしゃるならば!

まず、私は恐らく…というより確実にこの世界の人間じゃありません。

私がいた世界は地球といって、太陽系の星の一つ……といってもわかんないよね。私もわからないし。

とりあえず、国は日本。高卒で、今は22歳。派遣社員として働いています。

特技は特になくて、趣味はゲームと漫画本を読むこと。最近はまっていることはエリーザたん…達に似ている人が出てくる乙女ゲームです。

特にエリーザたんは本当に綺麗で、プライドも高くて、でもからかうと顔を真っ赤にさせて照れてかわいいんですよ!そのギャップが溜まらないというか…

エリーザたんとくっつくベンガー…ごほん、まぁ2作品目に登場する男性もなんか見た目真面目系なカッコいいキャラなのに、どこかわんこ要素があってこれまたいいんですよね~。

なので私の推しはエリーザたんとベンガー…ごほん、相手役の男性なんです!

で、そんな私の趣味のゲームなのですが、とりあえず2作品目をクリアして、もう一度学生時代のエリーザたんを見たいと思って最初からやり直してました。

エリーザたんへの推し気持ちが大きくなった私は、やってもいない事で断罪しようとする俺様王子とか後ろでピーチくぱーちくいうことしかしらない取り巻きたちにイラついて

ゲーム機ぶん投げたところでベッドから落っこちてしまって…

それから目を覚めたら、なんか広い体育館というか武道館みたいなところで、あの取り巻き男子たちによく似ている男性が目の前にいたって感じです」


「そうなると、貴方は本当にアイシャ嬢ではないのですね」


普通に受け入れてそうな私だが、彼女の話は申し訳ないが大部分がわからなかった。

だけど、それでも確実にアイシャ嬢ではないことがわかる。

まず22歳という年齢がアイシャ嬢とは違うし、そしてアイシャ嬢とは人間性が全く違うからだ。


「バカなことをいうな!?アイシャはアイシャだ!!

俺がアイシャの事を愛しているからって、アイシャの人格までも否定するとは許さんぞ!」


声を荒げる殿下に私とアイ、そしてベンガード様はスルーする。


ちなみにアイは自分の頬を抓って痛みを実感していた。


「痛い…夢じゃない…?」


「貴様!アイシャの可憐な頬になにをする!?」


言ってはおくが、アイシャ…いやアイ自身が自分で抓ったのだ。

私ではない。


「もしかして…ゲーム世界に迷い込んだ…?うわー、最悪…でもエリーザたんと出会えたのは嬉しい…けどどうせなら学園生活送りたかったー」


「アイシャの美貌を妬む女の仕業がここまでとはな!!!」


言っておくが、別に羨んでも妬んでもいない。

もっというなら、私だって美形美人の両親から生まれて、美人さんといわれてきたのだ。


「ん~……あの舞台と、あの室内の暗さから考えて、…もしかしたらエリーザたんに婚約破棄を突きつけて断罪する真っ最中だったりしましたか?」


「ええ、その通りよ」


ギャーギャと私の言葉を都合よく解釈して騒ぐ取り巻きたちは放っておく。

何度もいうが、肯定したのはアイからの質問に対してであって、お前らにではない。


それよりも俯いてなにやらブツブツいっているアイが気になってしまい、私はそろりと手を伸ばした。


「アイ…?どうかし「…………わかりました!」……なにがですの?」


「エリーザたんの仇を私が討ちます!」


「いえ、あの…私の仇討ちといわれましても、私死んでいませんよ?」


「見ててください!私の当たって砕けろ精神を!」


「砕けてはいけません!」


一緒にアイを止めて欲しかった私はベンガード様を振り返ると、彼はにこりと微笑んだ。


(あ、なんていい笑顔…)


ぽっと顔に熱がこもるが、私はすぐに頭を振った。


「笑ってないで止めてください!」


「いや、ここは彼女に任せるべきだよ。エリーザたん…ではなくエリーザ嬢」


「ですがアイが砕けるとかいってるんですよ!?放っておけません!」


「いや、彼女なら大丈夫。というより、アイツの見た目をしている彼女なら、取り巻きたちの耳に声が届くだろう。

だから彼女を掴んでいる手を放そう、エリーザ嬢」


アイシャ嬢をアイツ呼ばわりするベンガード様も相当彼女の事嫌っていたのね。

もしかして言い寄られたりしたのだろうか。


そう考えると、少しだけ胸がチクリと痛くなる。


「大丈夫です!ここが私が知っている世界なら私わかってますから!」


ニコッと笑うアイに私は観念して手を離した。


「無理はしないでくださいね」


なにをするのかは知らないが。


もしかしたら掛ける言葉が違うかもしれないが、それでも砕ける覚悟を決めたアイが心配だ。

だってアイ自身は何もしていないのに、私の為に_何をどう解決するつもりなのかわからないが_行動してくれようとしているのだ。


「殿下とその他の方たち」


アイが四人に歩み寄る。


殿下とその他お花畑脳たちが輝く笑顔でアイを見上げた。


「私は宮島 愛。あなたたちの愛するアイシャではありません」


「な!なにをいっているのだ!?あの女に洗脳でもされたのか!?」


「洗脳されているのはあなたたちです」


疑問符を頭に浮かばせる殿下たち。

ちなみに私もその一人だ。

ベンガード様は顎に手を当てているから、なにか思い当たることでもあるのだろう。


ごそごそと制服の胸元のボタンをとり、隙間からネックレスを取り出すアイ。


「なるほど…」


とベンガード様が呟いた。


「なにかわかったのですか?みたところなにやら魔法が組み込まれているように見えますが…」


王妃教育が終わっていない私は魔法に関してはまだまだ勉強不足なところもあり、アイが取り出したペンダントを見てもわからなかった私はベンガード様に尋ねた。


「あれは魅了魔法が組み込まれています」


「え!?」


そう声を出す私は更にベンガード様に説明を求めようとしたが、アイが殿下たちに話し始めたため私はその内容を聞くことにした。


「……知ってますよね?これ」


「あ、ああ」


「これは持ち主に対して周囲の第一印象が飛躍的に上がる魅了魔法が組み込まれています。

勿論、普通に好意を抱くだけなので問題はありませんが、これを持ったまま継続的に同じ人物に接触する…この場合の接触はボディタッチですね。をするとただの好意が次第に愛情に変わります。

また対象人物にこのペンダントを触れさせると洗脳状態に陥らせることができます」


「は!?そんな馬鹿な!?俺たちはちゃんと彼女の事を!」


「これに触れましたよね?」


「うっ、確かに触れたが…」


「つまり貴方達はアイシャの魔法にひっかかったんですよ!!!!」


ガクリと崩れ落ちる四人は頭を垂れる形で四つん這い状態になっていて、それをアイ基いアイシャが見下ろしていた。

今すぐにでも「ざまぁ」とでもいいそうなアイに私は少しだけ……ひいた。物理的にも。


「それなのに、騙されてた分際でエリーザたんに婚約破棄!?

あんたにはもったいないくらいの人なのに、あんたから婚約破棄!?頭おかしいんじゃないの!?」


「アイ、聞いてもいいかしら?」


「はい!エリーザたん!」


「あなたそのネックレスに魅了魔法が組み込まれているといってたけれど、それじゃあどうして殿下たちだけが魔法にかかったの?」


私もそうだが、この学園の中にアイシャ嬢に対していい印象をもっている人があまりいないのだ。


「あくまでもこれは第一印象がよくなるだけの魔法なんです。その後友好関係を築けるのは本人次第。

なので、性格が悪かったら人は離れていきます。殿下たちがアイシャに好意的だったのは恐らくアイシャが愛想を振りまくっていたからだと思います」


確かに彼女は苦言を呈す人には顔をしかめて聞く耳も持たなかった。

それどころか周囲に”虐められた”のだと声を上げていたという。


そんな彼女の言動を見たものが一人二人と増えていき、彼女を愛したのが今の取り巻き四人だというわけだ。


「そういうことだったのね」


「はい!!!…それでエリーザたん…婚約は…」


「ええ。殿下から破棄を申し付けられた以上私は受け入れるつもりよ。

勿論早くお父様から陛下に伝えてもらえるように、今日中に言うつもりだわ」


そう告げた私の言葉にぱああと表情が明るくなるアイに私はなんだか心が温かくなる。


「なんだか不思議ね。見た目は同じなのにアイはとてもかわいらしく見えるわ。

………もしかして”それ”使っているの?」


「あ、確かにそうかもですが…これは同性には友情が深まるくらいの効果しかなかったはずですよ…?」


恐る恐る見上げるアイの頭をよしよしと撫でる。


「冗談だから気にしないで。アイとしての今までのあなたは非常に好感が見てるいい女性だったわ。

それより貴方これから先どうするつもりなの?戻れる保証ないのでしょう?」


「ハッ!確かにそうですね……」


「では私の侍女にならない?貴方なら歓迎するわ」


「本当ですか?!嬉しいです!!!!

………あと、エリーザたんに聞きたいのですが…」


「なに?」


もじもじとする彼女に私は首を傾げる。

ちらちらと四つん這い状態で放心している取り巻きたちと、ベンガード様に目線を送っているところから、もしかしたら他の人がいる場では言いづらいことなのかと思い耳を彼女に近づけた。


『エリーザたん、ベンガード様が好きなんですよね?』


こそっと呟かれた言葉に、私は一気に顔を赤く染める。


『ベンガード様は私の世界でも評判いいので早く婚約申し込まないととられてしまいますよ』


私から離れてニコッと微笑むアイ。


聞こえてはいないだろうかとベンガード様を振り向くと、彼は彼でなにか考えているようだった。











そして後日、正式に殿下と婚約を解消できた私に、スパイでも潜り込ませていたのかと疑うほどに即座にベンガード様からの婚約の話が舞い込んできて



私はベンガード様と新しく婚約したのであった。












うっひゃー--!生エリーザたんかわいいいいい!

真面目な顔しているときはちょっとこわいかなっていう印象を受けるんだけど、ベンガード様(あまりにもカッコよくて私は様付けしている)の横に立つエリーザたんはもう本当にかわいいのよ!

顔を赤らませて、きつそうに見えてた顔も照れてて、もうギャップ萌えというやつよね!

ベンガード様もエリーザたん萌えーとか思ってるに違いないわ!

だって私がエリーザをエリーザたんって言ってたら、疑問に思わず真似していたくらいだもの!

オタクな私の耳は聞き逃さないわよー!

ちなみにいうとベンガード様が人気あるというのは、1作品目で国外追放されてしまったエリーザたんを追いかけて

彼女と一緒に旅をしつつ、彼女を命を懸けて守っている姿がもうそれは素敵すぎてお似合いカップル…つまり王道カップルとして人気だったわけ。

2作目の始まりからしてもうこいつら好きあってんだろ!?って思ってたから、絶対今の時点で両片思いだと思ってたんだよね!

だからエリーザたんがベンガード様とちゃんとくっついてくれて私も安心!

私?私はエリーザたんが拾ってくれて、エリーザたんの侍女として…まだ見習いだけど頑張っているわ。

それにしてもエリーザたんから渡された手鏡…これって返した方がいいのかな…あああ、返したくないい。

あとでもらっていいか聞いてみよ!……気が済むまで持ってたから、エリーザたん渡したことも忘れてそうだけど…


ではでは!



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