第五話 「これも学習」
今日もまたお母さんに同行しアーケード街へと買い物に来た。私が外出に連れて行かれる際は自動車を使用せず徒歩で出かける。私自身の重量が非常に大きいことも理由のひとつだが、外界と言うものを観ながら、画一ではない世界を知ってほしいからだと彼女は言った。
今日はお母さんだけではなく、一家の主であるお父さん、修一も一緒だった。すなわち今日は日曜日である。お父さんははじめ私を連れて行くことを渋っていたが、お母さんの眼には敵わなかったようだ。
伴侶の眼を真っ直ぐに見つめ、乱れることの無い姿勢。あの時のお母さんの姿を照合したところ、彼女の中にあると類推される感情は「余裕」や「自信」だった。最終的にはお父さんが意見を曲げ、共に出かけることになったのだ。
以下はその時の会話記録だ。
「B-012のことを聞かれたらどう答えるんだ?」
「え? この子に任せればいいのよ」
「だけどな沙都…… 俺たちとの関係はあんまり外部には」
「機密だって言うんでしょ。大丈夫よ、馬鹿正直にほんとのことを言い過ぎなければ良いんだから」
「だけどな……」
「心配しすぎよぉ。嘘をつくのだって、人間でしょ?」
「……」
「……この子は人間になるの。機械の体でも、中身はいつかちゃんと。そのために連れてきたんでしょ? だから私達が手伝ってあげなくちゃ」
私はお母さんに感謝の言葉を伝えた。学習の機会をあたえてくれた厚意を私は十分に生かさなければならない。
しかし実際はもうすでに私は幾度か外に、それも街中に連れて行かれたことがある。機密保持のために自主的な外出はしたことはないが、この家の人物の命令に従うようにプログラムされている以上、私に拒否する理由は無い。
近所にあるスーパーマーケットではこの家族の知人達と何度か出会い、顔も覚えられている。彼らには私はお父さんの歳の離れた弟で、実家からでは遠い大学に通うために間借りさせてもらっていることになっている。すでにその虚偽の情報は部外者に対する私のプロフィールに登録済みだ。いつでも滞りなく引き出すことが出来る。
これからは私自身がこのような情報を作り、登録していく。
それにしてもお母さんは嘘をつくのがうまい。