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第二話 「私の存在意義」



「びー・ぜろいちに? よびにくいー」

 それならば別の名前で呼んでいただけばいい。ロットナンバーに過ぎないのだから。固有名称を変えたところで私のプログラムに大きく支障をきたすようなこともない。

「うーん、それじゃあ好きなように呼びなさい」

 うーん、うーんと小さな頭を悩ませている。このような子供のときから思考を巡らせることは知性を発育させることに大きく関わる。

「! おにいちゃん!」

 何と呼んでいただいてもかまわないが、悩んでいたわりに単純な回答だった。

「おにいちゃんほしかったんだ! これからおにいちゃんってよぶ!」

 この声の抑揚を分析すればこの少年は大きく喜んでおり、私の存在を受け入れていることがわかる。それを踏まえて少年が私の呼称を決めたことについて礼を述べ、彼の意思に追従することを示さなくてはいけない。そして相手は年端のいかぬ少年であり、長い返答をしても把握してもらうことが難しいケースがほとんどだ。端的に伝えなくてはいけない。

「よろしくお願いします」

 この解答に至ることは実に簡単だった。

「ちーがーうー。たっくんのおにいちゃんはそんなふうじゃなーい」

 伝わらなかったということでは無さそうだが、私の解答はこの小さな主人のお気に召さなかったようだ。

 「た」という音を含まないこの少年の名前から、「たっくん」というのは友人、知人の誰かであり、その人物には兄がある。そして私を「おにいちゃん」と呼称することに決めるほど、「たっくん」とその兄はこの主人がうらやむくらい親しい間柄にあるものと推察された。いずれこの「たっくん」という人物に出会ったときのために今の分析内容をメモリーに保存しておくことにする。

「よろしくな、修一」

 少年と親しい間柄と推察されることから「たっくん」は同年代であり、おそらく「たっくんの兄」は小学生、あるいは中学生であろう。そのくらいの年齢の男児で、弟、妹のある者が呼びかける時は一般的にやや抑圧的であるとデータベースにある。となれば、主人の期待する返答はこのようになるであろう。

「うん! おにいちゃん、あそびにいこう!」

 今回の解答は十分に及第したようだ。

 このように単純だが無数にある情報の検索、統合を繰り返し、そしてその過程を簡略化していく。これこそが有機的で修復が効かないが、常に変化し可能性が無限に広がる人間の脳の持つ仕組み。それを無機体でチップの集まりである人工知能において実践し、脳のシナプスと異なり配列が不可変というハードウェアの弱点を、プログラム改変を常に行うことによって補っていく。

 すなわち脳の能力にチップの塊の機能を近づける。この工程を重ねていくことでいずれ心が発生するシステムが解明されるかもしれない。


 その時のために、私は在る。


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