第一話 「新しい家族」
「わぁ、これが!」
「ああ、そうだよ。これからこの家で父さん達と暮らしていく、新しい家族だ」
私の型番はB-012。形状は人間の男性を模している。体長は1750mm、重量は124kg。外表面は特殊ゴム製の人工皮膚で覆われ、一見しただけでは成人の一般男性と見分けが付かない。体格も面持ちも、この国の成人男性から見た目が大きくかけ離れることが無いように設計されている。
私がこれから活動を行う家庭は、仲睦まじい夫婦と一人息子の三人家族で構成されていた。夫は私を製造したラボに勤めており、主に私の思考形態を構成するプログラムを開発する部門の人間だ。この家庭に配属された理由は、プログラムの異常や修正必要箇所の発見には同部門の人間である方が都合が良く、そして家族構成及びこの家庭が生活している環境の立地的条件から、私の目的を実行するに当たってここが最適とされたからだ。
私がこの家庭に派遣された理由はここのハウスキーパーとしての役目ではない。もちろん依頼されたのならばその程度の仕事であれば問題なく実行できる。さらに言うなれば、ここの5歳になる一人息子の遊び相手でもない。……もちろん、やれと命ぜられたのであれば何の問題もない。力の加減も握力で言えば僅か0.01gから270kgまで自在に調節可能だ。
「よろしくおねがいします」
眼下のはるか下にある頭がさらに下がる。このような時どうするのか、あらかじめプログラムされている。
「B-012です。今後よろしくおねがいします」
「あら、すごいわね。最新鋭?」
「技術は日々進歩しているからね。前から理論構築されてても実践するには素材面とかから難しかったんだ。やっと人間に追いついた、のかな」
私も頭を垂れる。腰部から背筋を伸ばしたまま30度。私ほどの重量だと、一般に普及しているタイプのマシナリー(注:使役用機械全般を指す)にはこの姿勢を維持するための重心バランスを取ることが難しい。
頭を上げた少年は、頭を下げたままの私よりもずっとずっと背が低い。私を見上げ、満面の笑顔を見せた。こういう時どうするのか。これもプログラムされている。
「あら。……でも破顔、とまではいかないのねぇ」
「表情は極めて難しいのさ。サイズや形状に変化を付けられない頭部だからね」
口角を少し引き上げ、笑顔を造った私に注文が付けられる。これは今後のロットに期待することにしたい。