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第4話

「心配ない。その者にだけ、お前の姿が見え、お前の言葉が聞こえる。けっして、その者を死なせてはならんぞ」




 ラジエルはマシンのように淡々と自分の意見だけを言う。


 俺はそれを素直に聞く…。


 ただ心だけは決して縛られる事はない、だから俺は心で叫んだ。




『おい、それで話は終わりかよ!名前も聞いてないぞ。こら、ラジエル!』




 するとそのイメージの中でラジエルは、




『すまん!レミエルお前の言うことは全部正しいのは分かっている、ただの所詮わしはエルダーの伝書鳩…悪いが何も決められないんじゃ…トホホ』




と泣きながら謝ってきた。それに同情した俺は




『しょーがねーなー全く…へっ、いいよ許してやるよ、ラジエル』




『はい、レミエル様…ありがとうございます』




『おいおい、立場逆転してんじゃねーかよ、全く。ははは』




という現実とはかけ離れたあくまでイメージの世界で気持ちは落ち着いたので、まあこれで良しとしておこう……。




 そして現実として能力不明の救世主を探せと無茶振りを受けた俺は、ただただため息をついていた。




「何をしている。早くいけ、レミエル!」




「はっ、はい!!」




 くっそー、あんなにイメージの中では俺に頭を下げていたのに……。


 ま、いいか。その生徒がいる教室で、俺が姿を現わしてひとりひとりの反応を見れば簡単に洗い出せる。俺の姿に反応したヤツがその「希望」ってことだろ?




 頭いいな、俺。




「ふふ、フハハ、フハハハハ!」




 なんかもう、一周回って笑いが溢れた。こうして荒んだ心をリセットして全てを理解した俺は【連絡の間】を後にした。




「やれやれ、しかし面倒なことを引き受けちまったな。救世主なのに住所も名前もわからないってありえねーだろ、ほんっと適当な人事しやがって…」




でもまあ、女子高生に会える仕事なんてそんなザラにないしな…。


枯れた俺の青春に何か風を吹かせてくれることでも期待するか。


これならまだ、農夫の老人に井戸が枯れることを警告してやるほうがマシだ。


もう一回やったら絶対上手く行くんだけどな〜。




「とりあえず、【配給の間】に行くか」




 そこで今回の任務に必要なものを受け取らないといけない。




 何が必要になるかは、すでにラジエルの方から連絡が行っている。名前を言うだけで、係の天使が用意してくれるのだ。




 配給の間に行くと、気の弱そうな天使がおどおどしながら、カウンター越しに俺に挨拶した。




「レミエルさん、こんにちは〜。ラジエル様から聞いてますよ〜。ちょっと待っててくださいね〜」




 そう言って、配給係は奥に引っ込んだ。


 ちなみに割とかわいい。




 「さっさぁて、今回はどんなものを支給してもらえるんだろうね~。なんたって人類の救世主をサポートする重要な任務だ。きっとすごくいいものに決まっているよね」




「ふふふ、お話は聞いています、ちょっとお待ちくださいね!」




そういって配給係はテテテテテ~っと奥へと入っていった。


その小柄な後ろ姿もまんざらではない。




 「うーん、ひょっとして、武器かもな。1度は使ってみたかったんだよな、武器ってものを」




一番気になっているのはすでに武器では無いことは明らかだったが、そこは俺も理性はある、気持ちを武器であるという希望的観測に集中した。


 しばらくして、配給係がテテテテテ~っと黒い袋に包まれた細長いものを抱えて戻ってきた。




 槍だ!




 あの大きさから想像すると、槍以外は考えられない。いいなぁ、槍。やっぱり天使といえば、槍を構えて敵を蹴散らす姿だろ。




「お待たせしました〜。今回の任務に必要な支給品です〜」




 俺は興奮を抑えきれず、配給係から奪うようにして袋を受け取った。その時一瞬手が触れた!配給係は「ひゃ!」っとすぐに恥ずかしそうに手をひっこめた。


 ここでいろいろと俺はまた妄想が出来そうだが、今はそれどころではない。


 ついに槍を手に入れるかもしれないのだ!紐を解き、振りかぶりながら袋の中身を取り出す。




 そして、中から現われたのは、磨き上げられた金属の柄と鋭い刃……いや、確かに全体的には金属であることは間違いないのだが、鋭い刃の代わりに長い管の付いた透明な袋がぶら下がっていた。


 管の先には針が付いている。これは……。




 「点滴、だよな?」




 俺の記憶に間違いがなければ、栄養を直接血管に送り込むための医療道具だ。


 昔、誰かが地上界から連れてきた人間(ヒト)に使っていたのを見たことがある。




「えーと……本当にこれ?」




 思わず確認してしまった。


 だって、そうだろう?こんなもの、何の役に立つんだ。




「はい〜、間違いないと思います〜。いっしょにあなた宛ての手紙も付いていましたし〜」




 そう言って手紙を手渡された時、また一瞬手が触れた。すると配給係はすかさず


「ひゃっ」と又顔を赤らめて手を引っ込めた。


 配給係の天使は、改めて見てやはり割とかわいいが、それはそれでいい。


 さて、手紙には確かに俺の名前が書いてある。ラジエルの筆跡だ!どうせまた天使としての心得みたいなのがくどくど書かれているのだろう。


 手紙は後で読むことにして、長衣の中にしまい俺は仕方なく、点滴セットを受け取り、非実体化させた。天使は物質を非実体化させることで、ものを持ち歩くことができる。その数や大きさに制限はない。




ただし、生き物はダメだ。




 生き物は構造が複雑すぎて、再実体化するのが難しいからだ(以前、カエルで試したことがあるが、結果は……ここではあえて書くまい)。 




 さて、ひさしぶりの地上界だ!!




 俺は大鷲に姿を変え、バベルの搭に向かって降下した。




 それにしても配給係はかわいかった…。


 今度帰ったら名前を聞こう。




つづく!!

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