少女の落とし物
翌日、メアリーに電話を入れた。
正直に話してほしい。封筒の中身のことを、君が隠していることを。
いくら掛けてもメアリーは出なかった。
「くそ!どうなってるんだ!今日が約束の日だというのに!」
ベルの車に乗り、彼女の家まで行った。
家に着き、呼び鈴を鳴らすとメアリーの母親が出てきてくれた。
ひどくやつれており、髪は乱れ、目の隈がひどかった。
嫌な予感がする。
「朝早くに失礼します。私そちらのお嬢さんのメアリーさんから依頼を受けました、探偵のカリウス・ウーバーと申します。」
そう伝えると彼女は泣き崩れた。
「ああ…そうだったんですね。」
生きている心地のしない返事だった。
「娘さんはいらっしゃいますか。今日が約束の日なので何度も電話を入れたんですが、出てくれなくて。」
「娘はいません、もう2日も帰ってないんです。警察にも捜索届けは出しているんですが。」
「え?」
ベルが家に送ったその日の夜に1度見たきりらしい。
この辺りは度々通り魔が出るという報告もある。
「すぐに探しましょう。」
メアリーの家を出て、私とベルは市内を隈なく探した。
聞き込みをしていて奇妙に思ったのが誰一人として少女を見た者がいないのだ。
メアリーと同じ学校に通う生徒達も知らないと言う。
「まずいことになったな。」
「カリウス、私は1度警察の方に行ってみます。」
「あぁ、頼む。」
元警官であるベルは警察に顔がきく。
ベルと別れた後、私はロケットを見つめていた。
「ロジー…。」
私の愛する娘。守れなかった奇跡。
12年前ロジーは殺された。5歳だった。
妻が買い物をしている時に誘拐されたのだ。
警察も全力を尽くしてくれたが捜査は難航、手掛かりすら分からずにただ日々が死んでいった。
見つかったのは2週間後、下水道の中で変死体で見つかった。
司法解剖されたが、身体がぐちゃぐちゃになるほどナイフで刺され硫酸をかけられており、直接犯人に繋がるものはなかった。
唯一の手がかりは男性の体液が体内で見つかったことだった。
「なんとしてもメアリーを救わねば。」
いつもの公園の前を通りかかると人集りが出来ていた。
見てみると猫の死体が転がっていた。
しかし、丸々剥がされて裏返しになった猫皮膚だ。
「なんだこれは…。」
野次馬がぶつぶつ言いながら去っていく。
「誰がこんなことを…。」
骨や内臓は無く、皮膚を残してそれを裏返すなど明らかに人間がやったものだ。
それだけではない。よくよく見てみると肉に焼き文字が書かれていた。
「glove…。」
私は青ざめた。
すぐに事務所に戻り、あの手袋を裏返した。
「まさかそんな。」
手袋の裏側にはMaryと書かれていた。