第1章 少女の落とし物
カリウスは煙草をふかしていた。
ジタン・カポラルとデュポンがよく似合う。
身なりにはあまり関心がないが、変なところはこだわっていた。
良い大人の嗜みだといつも部下のベルに言っている。
「カリウス、コーヒーを入れたんですけど飲みますか?」
ベルがコーヒーを持ってきてくれた。とても気配りが上手なやつで、妻のお気に入りだ。
「頂くよ。」
あまり高い物には手は出さない、清潔感のある好青年だ。
だから私も気に入っている。
何より信頼している、親友のような存在だ。
「ローザがいつも君のことを気にかけているよ。」
「有難いです。」
ベルははにかむように返した。
最近の朝はとてものんびりしている。
世間は色々騒いでいるが、入ってくる依頼といえば探し物ばかりだ。
探偵をなんだと思っているんだろうか。
平和なことに越したことはないのだが。
「今日は昼に依頼人が訪ねてくる予定です。」
「次はペットの捜索かな…。」
「どうでしょうか。」
ベルが微笑む。
ガールフレンドが出来てから煙草を吸わなくなってしまった。
私もやめたほうがいいのだろうか、一応酒はやめているんだがな。
「ごめんください。」
あれこれ考えているとあっという間に昼だ。
少しはマシな依頼であってくれ。
「予約したメアリー・ビッシュです。本日はお忙しい中ありがとうございます。」
見たところ10代前半の女の子だ。
「いえいえとんでもない。私、カリウス・ウーバーと言います。こちらは部下のベル・ジャックマン。」
「どうも、お茶を用意しますね。」
「ありがとうございます。」
「さて、それでは早速要件を聞きましょうか。」
「はい。あの…落とし物を探してもらいたくて、とても大切なものなんです。」
内心、私はがっかりした。
アクセサリーかハンカチか、財布だろうか。
「お安い御用です。それで、一体何を落としましたか?」
「封筒を探して欲しいんです。」
封筒?頭の中で3回ほど繰り返した。
珍しい落とし物だな。
「封筒ですか。確かにそれは大変だ、早急に探しましょう。」
「ありがとうございます。それで…あの…。」
「なんでしょうか。」
「必ず3日以内に見つけて欲しいんです。」
「3日ですか…分かりました、ご希望に添えるように努力しましょう。」
「有名な探偵さんだと聞いたので…、よろしくお願いします。」
別に有名ではないがな。
メアリーと名乗る少女は落とした場所や時間等を話し、紅茶を飲んで帰っていった。
すっかり遅くなってしまったのでベルが車で送っていっている。
「あの子…声が震えていたが本当に普通の封筒なのだろうか…。」