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3/3

(3/3) 2人で橋の上で

 それから2人で川沿いを歩いて、柳に吹かれながら駅へ向かった。手をずっと繋いでたけど、あとちょっとで駅だし。駅についたらバラバラの路線でバラバラに帰って行かなければいけない。


 オレは一人暮らしだけど、中原さんは実家だし。1回目のデートで家に誘うというのも急ぎすぎな気がして言えないし。でも駅についたらお別れなんて寂しい。なんとなく最後の橋のところで2人立ち止まった。


 川面を見ながら2人で黙っていた。


 今何を言っても中原さんは「うん」とか「違う」とかしか言わないだろうけど、もうそんなことは気にもならないのであった。


 今なら何でも言えるし、何でも聞ける気がした。


「中原さんさぁ」


「うん」


「………オレの身長とか嫌じゃない?」


 中原さんびっくりしたみたいだった。


「身長って? なんで?」


「なんでってさぁ(オレはここで欄干に落ちていた葉っぱを川面に向かって投げた)知ってる? 中原さんとオレ13センチも違うんだよね。オレみたいなチビと並んで歩いたりするの嫌じゃない?」


 中原さんは。

 たっぷり10秒はオレの方を見て黙ったあと、急に慌てだした。


「え? え? 身長!? え? そんなの条件からいったら100番目くらいだけど?」


「100番目?」


「どうでもいいけど!? え? 身長差があると何がやなの?」


「何がって釣り合いとか」


「釣り合いって!? いや、考えたこともないし。そもそもアタシより高い男とかいないし!」


 あ。そうだよね。考えたらオレ以外の大抵の男も中原さんより下だよね。そういやそうだ。なんでオレだけ気にしちゃったんだろう。


「え!? 何花沢くん高い女とかヤなの!? ウソッどうしよう! じゃあアタシ今から足切ってくるよ!」


「はい!? 中原さん?」


「そこら辺のノコギリとかで! ギーコギーコって切ってくる!」


「いや! いいよ中原さん! 目が怖い! てか中原さん前々から思ってたけどちょっと言動が極端だよね!?」


「そうなの! 極端なの! そうだ! 安心してよ。考えたらアタシの人生でアタシより背が高かった人なんて1人しかいなかったよ!?」


「えっ? それって……」


「マイケルジョーダン!!!!」


 ………マイケルジョーダンて。あの。プロバスケットの。


 オレはその場で『マイケルジョーダン』をネット検索してみた。198センチ。中原さんと実に20センチの差がある。


 オレは笑い出した。ついでに中原さんも笑い出した。それにしてもなんでマイケルジョーダンなの。中原さんに聞いたら日本に来た時に会ったらしい。といっても『街を歩いてるのを見た』だけらしいのだが、その時に中原さんは


 デッケー!


 と思ったそうだ。


 オレたちは笑い続けた。確かに中原さんと釣り合うなんてマイケルジョーダンとかそのレベルしかいない。そんでそんなのどーでもいいことじゃん。


 中原さんの『キムチ気になる』くらいどーでもいいじゃん。


 オレは欄干に片手をついて、もう片方でお腹を抱えて笑った。なんだったの。1年間。『中原さんにとってオレってアリ以下』って思い続けた1年間ってなんだったの?


 オレは笑うのをやめた。そして中原さんに言った。


「まぁ、そうはいってもさあ。やっぱり気になるし、中原さんちょっと屈んでみてくれる?」


「え? ああ。うん」


 中原さんは思いっきりしゃがんだ。ワンピースから見える膝小僧と、履いているペッタンコの靴が可愛く見えた。


「そうじゃなくて。もうちょっと体を伸ばして? そうそう。オレの顔の高さくらいまで伸ばしてくれる?」


 中原さんの顔がオレの顔の高さと同じになった。


 こんな可愛い人だったのに、1年間も気付かなかったなぁ。


「これでいい?」

「いいよ。ありがとう」


 オレは中原さんの肩に向かって両手を伸ばした。中原さんの首の後ろで手を組んだ。


 そのまま中原さんの唇にオレの唇を合わせた。


 中原さんはびっくりしたみたいだったけど、午前中に見たラブコメの女優さんみたいにオレの背中を両手で包みこんだ。


 社内恋愛っていいなぁ、と思った。


 だって今日は日曜日で、明日会社に行ったら中原さんに会えるでしょ? その次の日もその次の日も会えて、きっと次の土日も会えるでしょ?


 オレは唇を離してから言った。


「中原さんさぁ」

「うん」

「モンダミンしてきたでしょ?」

「してきた。て、いうか今日一日中トイレに行くたびにモンダミンしてた」

「うそっ。トータルで何回くらいしたの?」

「30回くらい?」


 オレたちはまた吹き出した。


「中原さんさぁ。前々から思ってたけど。いちいちやることが極端だよ?」

「うん」


 中原さん恥ずかしそう。


「極端なのアタシ。悪いクセなの」


 このまま夜も朝も昼もずっと中原さんといたいと思ったけど。それを中原さんに言ったらプロポーズになっちゃうから。ゆっくりと中原さんの気持ちを確かめながら2人で歩いて行こうと思った。


 とりあえず第一歩として。2人で焼肉屋に行ってキムチをバンバン食べても笑っていられるような関係になろうと思った。


(終)

お読みいただきありがとうございました。


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次回作は『無意味な片思い』

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[良い点] 男子の方ご背が低いタイプの身長差13cm! 尊いですよね(*´艸`*)ウンウン! 中原さん、ホラー派ですか。 男気あって好きです。 そして花沢くんはアリンコじゃないから、このさき身長差を気…
[良い点] 「そこら辺のノコギリとかで!ギーコギーコって切ってくる!」 中原さん好き! 勢いのよさがたまりませんね! 今回も面白かったです!
[一言] マイケルジョーダン! 爆笑しました(笑)
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