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ラピスラズリの章 その1

 ガタガタと心地よい音をたてて、馬車は街道を進んでいきます。王都ユードラシールを出発してから二日目のことです。いくつか小さな村を通って、ソフィアたちはようやく、目当ての町にたどりつこうとしていました。


「それにしても危なかったよな、あのギュスターヴとかいうやつら。危うく殺されるところだったからな」


 あくびをしながら、アルベールがつぶやきました。馬車の中には他に誰もいませんでしたので、ソフィアも今日は旅行かばんの外に出ていました。


「でも、なんだったんだろうな。結局あいつら、ソフィアのことを覚醒させたりしなかったんだろう。それどころか、いつの間にかどこかへ行ってたわけだし」


 ぶつぶついうアルベールを見あげて、ソフィアは目をそらしました。アルベールが意識を取り戻してから、ソフィアは悩んだ末に、うその説明をしていたのです。アルベールが真っ赤に燃える剣を持ち、ルドルフを殺そうとするすがたを思い出して、ソフィアはブンブンッと頭を振りました。


 ――とにかくダメ。もしアルに本当のことを伝えて、それがきっかけでこの間みたいになっちゃったら――


 じっと考えこむソフィアとはうらはらに、アルベールはのんきに鼻歌を歌っています。ソフィアはジロッとアルベールを見つめました。


 ――人が悩んでるのに、アルったら――


 それにしても、いったいあの力はなんだったのでしょうか。とにかくいえるのは、アルベールが普通の人間ではないのだろうということだけです。あの力はまぎれもなく、魔法でした。


 ――失われたはずの魔法を、しかもあんなに強力な魔法を、アルが使えるなんて。それも、無意識のうちに――


 ルドルフがいっていたように、ユードラ王国が崩壊したあと、生き残ったユードラ大陸の人々は、イズニストや魔法使いを迫害していきました。その理由はソフィアもよく知っていました。


 ――王都ユードラシールを攻め落としたフィーゴ王国は、王族たちがいなくなったユードラ大陸の人々と、和平条約をむすんだ。そのときの条件が、戦争用イズンの廃止だったわ。幸いわたしは、普通のイズンのようなかっこうだったから、今までなんとか生き延びることができたけど、他の戦争用イズンたちは、みんな破壊されてしまった。人間たちに代わって、ユードラ王国を守っていたのに――


 疲れたように顔をあげて、ソフィアはアルベールに向きなおりました。いつの間にかアルベールは、旅行かばんをまくらにして、寝息を立てていました。


 ――もうっ、本当にのんきなんだから――


 ソフィアはアルベールに近づき、赤毛をつかんで、ぎゅうっと引っぱりました。イテテとうめきながら、アルベールが目を覚まします。


「なんだ、もしかしてもう着いたのか?」

「もうすぐなんだから、ちゃんと起きててよ」


 とげとげしい声でそういって、ソフィアはそっぽを向きました。


「おいおい、どうしたんだよ。なんでそんなに機嫌が悪いんだ?」

「なんでもないっ!」


 ソフィアはアルベールがまくらにしていた旅行かばんを開けて、自分で中に入りこみました。なにがなんだかわからず、アルベールは首をかしげるばかりでした。




 旅行かばんに入ったまま、ソフィアは一言もしゃべらず、アルベールがなにをいっても答えませんでした。そのうちに馬車は止まり、御者席から声がかかりました。


「ついたぞ、ここがシャルムの町だ。別名、占いの町さ」


 馬車から降りると、そこは石だたみでできた大通りの入り口でした。どの家も屋根が赤レンガでできています。御者のおじさんに銅貨を渡しながら、アルベールはたずねました。


「占いの町って、この町には有名な占い師でもいるのか?」

「ん? ああ、おれは占ってもらったことはないんだが、よくあたるって評判でね。それだけのためにシャルムの町にくるやつらだっているくらいさ。っていうか、お前さんはそうじゃなかったのか?」

「いや、そんな占い師がいるなんてのは知らなかったな。この町に来たのは、こいつを売れるところがあるんじゃないかって思ったからさ」


 アルベールがポケットから取り出したのは、きらきらと光る宝石でした。ソフィアがギュスターヴから受け取った、あのイズニウムでした。


「へぇ、あんたもしかしてトレジャーハンターか。それならちょうどよかったな。その占い師、よろず屋もやってるから、たぶん高値で買い取ってくれるはずだぜ」

「占い師で、しかもよろず屋なのか。なんだかめずらしい組み合わせだな」


 アルベールの言葉に、おじさんが苦笑いしました。


「そうだろ。それが、けっこう変わり者ってうわさでさ」

「変わり者?」

「ああ。すご腕の占い師には違いないんだが、ものすごいよそ者嫌いらしくてさ。遠路はるばるたずねてきたやつも、気にいらなかったってだけで占ってもらえなかったらしいんだ」


 気難しいやつなのさと、おじさんは一人でうなずきました。


「そうなのか。おれは気難しいやつはちょっと苦手だけどな。まあ別に占いを受けに来たわけじゃないからいいけど。まさか、よろず屋目的で来た客も追い返しちまうなんてことはないんだろ?」

「まあな。むしろあんたとは気があうと思うぜ。その占い師、ユードラ王国の遺物もいろいろ集めているらしいから、トレジャーハンターならいろいろ話を聞いてくれるんじゃないか」


 アルベールは肩をすくめて笑いました。


「まあいいさ。じゃあそのよろず屋の場所だけでも教えてくれないか?」


 おじさんは大通りを指さしながら答えました。


「この大通りをずっとまっすぐ行けば、右手側にそのよろず屋が見えてくる。他の家と違って、そこだけ屋根が青色だから、すぐにわかるさ」


 アルベールはおじさんにお礼をいって、大通りを歩き始めました。人通りも多く、アルベールと同じように、旅行かばんを持った旅人風の人たちも見られます。


「それにしても、青い屋根なんて、本当に変わり者だよな。ソフィアもそう思うだろ」


 旅行かばんに話しかけますが、ソフィアはうんともすんともいいません。


「ソフィア、いったいどうしたんだよ? おれがなにか気にさわることしたんならあやまるからさ、いい加減機嫌直してくれよ」

「こんな道ばたで話しかけないでよ、あやしまれるでしょ!」


 それほど大きな声ではなかったのですが、そのすごみに、アルベールは思わず立ち止まってしまいました。通りを歩いていた人たちが、何事かとアルベールを振りかえります。アルベールはバツの悪そうな顔をして、そそくさとその場を立ち去りました。


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