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エメラルドの章 その5

 ――どこだ、ここは。なにも見えない、なにも聞こえない――


 気がつけば黒一色の世界を、アルベールは一人でただよっていました。からだの感覚がまったくなく、立っているのか、すわっているのかすらわかりません。それ以前に自分のからだが存在しているのかすらわかりませんでした。黒しか感じることができないので、目ですら本当に存在しているのかわかりません。視線(目があればですが)を動かして、自分のからだを見ようとしますが、どこをどう見ても黒一色です。声をあげようとしても、口がないからでしょうか、音は発せられませんでした。


 ――おれは、死んだのか――


 ここが死後の世界かもしれないと考えたとたん、まわりの闇が、押しつぶされてしまいそうなほどに重く感じられました。黒だけの世界のはずなのに、なにか神々しく、そしていまいましいものがうごめいているようで、反射的に目を閉じようとします。まぶたがあるのかないのか、それすらわかりませんでした。目を閉じていたとしても、開けていたとしても、結局黒の世界は変わりようがなかったのですから。


 ――助けてくれ、ああ、おれまで黒に染まっていく――


 黒の世界をもがき、泳ごうとしますが、うでも、足も、なにもないのです。ただただ黒の海を沈んでいくだけでした。


 ――そうか、こうやってこの世界に同化すれば、おれもこの世界の一員になれるんだ。おれの存在も消えて、黒の仲間に――


 ――アル――


 なにかが感じられました。それが音だと認識するまで、途方もない時間が経ったように思えました。しかし、それが音だと認識した瞬間に、耳の感触もよみがえってきました。


 ――耳がある。いや、耳だけじゃない。おれは、存在しているんだ。まだ生きているんだ――


 まっくらな夢から目覚めるかのように、光が一気によみがえってきました。目を開けて、自分のからだを見おろします。胸が、腹が、うでが、足が、五感がすべて戻ってきました。からだを起こそうとすると、力の入れかたが思い出されてきました。こわばったからだをじょじょに慣らしながら、アルベールはようやく立ち上がりました。


「なんだ、ここは」


 見わたす限りに、がれきの山が続いています。夜なのでしょうか、空には星がまたたいて、見たことがないほどに大きな月が、頭上で白銀に輝いています。どこかで見たことがある光景でした。しかし、どこで――


「そうだ、ソフィア! それにみんなも!」


 そのとたん、一気に記憶が戻ってきたのです。まるで滝に打たれるかのような衝撃に、アルベールは思わずその場にしゃがみこんでしまいました。頭を押さえ、記憶が収まるのを待ってから、アルベールはよろよろと立ちあがりました。


「いったい、どうなってるんだ? おれはあのとき、確かに矢で胸を射られたはずだ。いや、射られる直前だったのか。矢が止まって、世界が止まって、それで、エメラルドが輝いて、砕けて――」


 ――アルベールさん、聞こえますか――


 どこからか声が聞こえてきました。ぐるりとまわりを見まわしてみますが、どこまでいってもがれきと星空しか見えません。アルベールは声をはりあげました。


「だれだ、いったいどこにいる!」


 警戒するように視線をめぐらせ、ハッとアルベールは頭上を見あげました。白銀の月から、再び声が聞こえてきました。


 ――この空間は、わたしのイズニウムが、最後の力を使って生み出した世界です――


「最後の? じゃあ、やっぱりきみはビアンカなんだな。ビアンカ、お願いだ、おれを早くもとの世界へ戻してくれ!」


 アルベールの声が、夜の空気へ溶けていきます。耳が痛くなるほどの静寂が続きました。


 ――このまま戻せば、あなたはソフィアさんの矢につらぬかれて死んでしまいます。でも、あなたなら、ソフィアさんとずっと旅をしてきたあなたなら、ソフィアさんを封印することができるかもしれません――


 がれきと星空だけだったはずの、目の前の空間がゆがみました。そして突然、アルベールの目の前に、天使のソフィアが現れたのです。みがまえるアルベールですが、天使のソフィアは、弓をかまえたままぴくりとも動きません。再びビアンカの声が聞こえてきました。


 ――ソフィアさんは戦争兵器として覚醒してしまいました。残っていた心も、戦争兵器となったソフィアさんがつらぬいてしまった。あとはもう、戦争兵器となったソフィアさんを完全に封印するしか手はありません――


「そんな、なにか他に手はないのか?」


 ――残念ですが、それ以外に方法はないのです。でも、ソフィアさんを封印して、これ以上苦しまないようにすることはできます。リリーさんは、愛することでソフィアさんの力を封印した。戦争兵器を封印する方法も同じです。愛する人による封印。それでソフィアさんは封印されます――


「だけど、封印されたら、ソフィアは」


 ぐらりと天使のソフィアがその場にへたりこみました。アルベールは話をやめて、すぐにソフィアにかけよります。倒れるソフィアをかかえ起こして、肩をゆすりました。


「ソフィア、しっかりしろ、おい!」

「ん……うう、アル……?」


 焦点のあわない目で、ソフィアがアルベールを見あげました。ほっとしたように笑うアルベールに、ソフィアは声をふるわせて頼みこみました。


「お願い、アル、わたしを……封印して」


いつもお読みくださいましてありがとうございます。

最終話まであと残り3話です。7/27に完結する予定です。

明日は2話投稿予定ですが、時間が15時台と20時台になりますのでよろしくお願いいたします。

どうか最後までお付き合いいただけると幸いです。

また、7/28からは、同じシリーズの新作を投稿予定ですので、よろしければそちらもどうぞ♪

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