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アメジストの章 その14

「アル、わたしは」

「わかってるさ。お前のほうがおれなんかよりずっと苦しい、それこそ胸をしぼられるような気持ちをかかえ続けてきたんだよな。でもさ、それでもおれは前を向いて生きていかなきゃって思う。ギュスターヴから聞いたんだけどよ、おれはイズンなんだってさ。それもお前を封印する、封印用に創られたイズンだそうだ。しかも創ったやつはあのルドルフだときたもんだ」


 ソフィアが息を飲む音が聞こえました。なにをいったらいいのか、わからなかったのでしょう。言葉を発せないソフィアの代わりに、アルベールが続けました。


「笑っちまうだろ。でも、それでもおれは前を向こうと思う。だって、おれはずっとそうやって生きてきたんだから。きっとそれは、トリエステだって同じだと思うんだ。あいつはずっと、自分のイズニウムに誇りを持って生きてきた。だから、その誇りを奪ったルドルフを許せなかったんだと思う。そして、そのルドルフにあやつられたソフィアを見て、きっと自分の生きかたと重ね合わせたんじゃないかと思う。だからソフィアを救ったんだ」

「でも、トリエステは」

「そうだな。でもそれは、トリエステが選んだ生きかただ。あいつは最後まで、前を向いて生きたんだ。だからおれも、前を向く。前を向いて生きていく。だれに創られたかとか、どんな理由で創られたかとか、そんなくだらないことはどうだっていい。おれはおれなんだから」

「……アル、変わったね。ちょっと離れただけで、なんだか置いていかれちゃった気がするわ」


 すねたような口調でそういったあと、ソフィアはフフッと笑いました。


「でもうれしい。そうだよね、自分がいったいなんなのかなんて、本当は関係ないのかもしれない。わたしが戦争兵器であっても、イズンであっても、わたしはわたしなんだから。それにわたし、思い出したの。あの月を見て、ビアンカちゃんのことを思い出した。ビアンカちゃんに誓ったんだから、わたしも前を向いて生きていかないとね」


 今度はアルベールが、へへっと笑う番でした。わざとちゃかしたような口調でおどけます。


「ま、それにイズンだって知ったところで、今までとなにか変わるわけじゃないからな。今までどおり酒場に行けば、うまいもん食えるし、かわいい女の子ともおしゃべりできるんだから」

「ダヴィデ、アルの肩を思いっきりつねって。ちぎっちゃってもいいわよ」

「うわっ、やめろやめろ! ソフィアにされたときも痛かったんだから、お前がつねったらホントにちぎれるかもしれないだろ! やめろったら!」


 アルベールがダヴィデをむんずとつかんで、肩から引き離しました。エプロンとギュスターヴが、笑わないように必死で口を押さえています。アルベールも照れ笑いしたそのときです。前のほうを歩いていたセバスチャンたちから、あぁーっという落胆の声が聞こえてきたのです。


「くそっ、やっぱりがれきで埋まってやがる。きっと風車が完全に崩壊したんだ。これじゃ外に出れないし、うまく外に出れても、建物が壊れてるんじゃ、すぐにあの天使に狙われちまうよ」

「おれはもういやだぜ! ここにずっと閉じこめられているくらいなら、天使に狙われたってかまわない、外に出たいぜ。いつゆうれいが出てきてもおかしくないのに、ずっと地下に閉じこめられるなんて、耐えられない!」


 ゆうれいという言葉を聞いて、ダヴィデがびくっとからだを硬直させました。アルベールもまゆをひそめて、男たちの会話に耳をかたむけました。


「そんなこといったって、出口がふさがってるんじゃしかたないだろ。他の出口をあたるしかない。だいたいゆうれいのうわさだって、ただのうわさかもしれないだろ」

「いや、おれは実際に聞いたんだ。一ヶ月に一度の避難道の掃除で、女の子の歌声が聞こえてきたんだ! それも、今日みたいに満月の日だった、ゆうれいは、満月の日になると出てくるってうわさだぜ。本当だよ」

「別にうそだとはいってないだろ。ただ、すがたを見たわけじゃないのに、ゆうれいだっていうのがおかしいって思っただけだ」

「なんだと、この野郎!」


 こぜりあいを起こす男たちの間に、セバスチャンが割って入りました。しっかりとした口調で男たちを止めます。


「おやめください! 今仲間内で争ったところで、なんにもなりません」


 セバスチャンにいわれて、男たちはようやく争いをやめ、たがいにぷいっとうしろをむいてしまいました。やれやれといった様子で、アルベールがいいました。


「とりあえず、ゆうれいかどうかは置いとくとして、なにか出そうってことか?」


 いきなり話に入ってきたアルベールを、男たちはうさんくさそうに見ていましたが、ぶっきらぼうにうなずきました。


「ああ、おれだけじゃない。他にも声を聞いたやつはけっこういるんだ。おかげで最近は、だれも避難道の掃除をやりたがらないありさまさ」

「なるほど。じゃあ、あんたたちはとりあえずここで待っていてくれよ。避難道の探索はおれたちがするからさ」


 男たちがいっせいにアルベールを見ました。ソフィアが小声で、「大丈夫なの?」と聞いてきますが、アルベールは胸をドンッとたたいて続けました。


「もともとあの天使は、おれたちに因縁があるんだ。だったらおれたちが危険を引き受けるのが、筋が通ってるってもんだろ。とりあえず出口を確認して、まだふさがってなくて、なおかつ安全な出口を見つけたら、あんたたちを呼びにくるよ」

「だが、ゆうれいがいるかもしれないし、もしあの天使に見つかったら」

「なーに、こっちは戦闘経験は豊富なやつばっかりだから、心配いらないさ。セバスチャンさん、あんた、時計は持ってるか?」


 セバスチャンはこくりとうなずき、ふところから懐中時計を取り出しました。アルベールは満足そうに笑いました。


「とりあえず朝になってもおれたちが帰ってこなかったら、あんたたちも出口を探してくれ。それまでは眠って、しっかりからだを休めておきなよ。セバスチャンはこの人たちといっしょにいてくれ。この人たちもそのほうが安心だろう」

「しかし、アルベールさんたちもお眠りになっていないのでは? あなたがたも休まれていったほうがいいのではないですか?」

「いや、もしソフィア……あの天使が、おれたちは死んだと思って、他の町に移動しちまったら、被害がもっと大きくなってしまう。どうしても今夜けりをつけないといけないんだ」


 まっすぐに見つめるアルベールを見て、セバスチャンはようやく首をたてにふりました。


「わかりました。ですが、どうか気をつけてください。ここはユードラ王国の時代から使われている避難道です。天使のソフィアさんはもちろんですが、わたくしはそのゆうれいのことも気がかりなのです。くれぐれも慎重に行動されてくださいね」


 へへっと笑って、アルベールはもう一度胸をドンッとたたきました。


いつもお読みくださいましてありがとうございます。

本日19時台にもう1話投稿予定です。

そちらもお楽しみに♪

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