アメジストの章 その13
「エプロンさん、ギュスターヴさんも、早く中へ!」
声にいわれるまま、二人も建物の中へ飛びこみました。
「セバスチャン! ここはどこなの?」
その質問には答えず、セバスチャンは床に開いたとびらを指さしました。地下へと階段が続いています。
「説明はあとです、早くそこの階段を下りてください!」
セバスチャンにせかされ、全員転がりこむように地下へ続く階段へと飛びこみます。最後に階段を下りたセバスチャンが、とびらにむかってなにか呪文を唱えました。とびらが勢いよくしまり、そのあとドゴッドゴンッと、とびらから鈍い音が聞こえてきました。とびらがきしみ、セバスチャンはあとずさりしましたが、それ以上音は聞こえませんでした。
「ふう、危なかったですね。でもなんとかあなたがたを見つけることができてよかった」
「いったいここはどこなんだ? 地下室でもあるのか?」
セバスチャンは首をふりました。せまい階段でしたが、左右には黄緑色の魔法の光がともっています。石の壁はぼろぼろとこすれ、ほこりっぽい空気にアルベールは軽くせきこみました。
「ここは避難道です。ユードラ王国時代からある古い道ですが、ちゃんと使えますよ」
奥のほうから、あの看護師の声が聞こえてきました。他にも何人か町の人のすがたが見えます。みんなつかれきっているようで、ぐったりと肩を落としています。表情は暗く、アルベールたちを見て、びくっとおびえるものもいました。首をかしげながらも、アルベールがほっとしたようにいいました。
「よかった、あんたたちも無事だったのか」
「はい、ありがとうございます。それで、あの、ぼくといっしょに働いていた、あの医療用のイズンはどうなりましたか?」
うつむき、口をつぐむアルベールを見て、看護師は視線を落としました。
「そうでしたか……」
「兄ちゃん、まあそう悲しむなよ。あいつは最後までけがした人たちを治療していたんだから。悪いのはあの天使だ、そうだろう」
町の人たちにはげまされる看護師を、アルベールは複雑な表情で見ていました。さりげなくギュスターヴのすがたをかくして、アルベールは看護師に聞きました。
「避難道っていってたけど、この道はいったいどこに続いてるんだ?」
「ここから先、いくつか分かれ道があるんですが、それぞれ病院や町長の家、それに風車小屋なんかにも通じていますよ。町の要所に通じるように掘られたって聞いています」
「そしたら急ごう。ソフィア……じゃない、あんたたちがいってたその天使ってやつが、地上で建物という建物を壊しまくってたからな。ここの入口も、そいつの矢でがれきに埋もれてたぶんふさがっちまってる。ぐずぐずしてたら閉じこめられちまうからな」
アルベールの言葉で、町の人たちがざわめきはじめました。みんな一様に、不安げな表情をしています。セバスチャンがわざと明るい声でいいました。
「心配はいりません。ユードラ王国時代から今までずっとくずれずにいたのですから、避難道のつくりはしっかりしているのでしょう。それに、とびらには呪文がかけられているようですから、多少のがれきでふさがっても、入口が完全にふさがることはありません。さあ、行きましょう」
セバスチャンにうながされて、町の人たちは重い足取りで避難道を進んでいきました。最後尾に位置したアルベールたちも、のそのそとそのあとをついていきます。アルベールは、ダヴィデを肩の上に乗せて、ギュスターヴはエプロンにかかえてもらうようにしました。エプロンを隠すように歩いて、みんなにギュスターヴが見えないようにします。すると、エプロンが小声でアルベールに耳打ちしました。
「ちょっとアルベール、みんなを怖がらせるようなこといわないでよ」
アルベールは頭をがしがしかきながら、ばつの悪そうな顔で答えました。
「いや、悪かったよ。でも、しかたないじゃないか、事実なんだからさ。でも、それを置いといても、なんだかみんな暗かったな。せっかく助かったってのに、まるでこの世の終わりみたいな顔してたぜ」
アルベールの言葉に、エプロンも首をひねりました。
「いわれてみれば、そうかもしれないわ。でも、どっちにしてもあんなこといったらだめよ。ただでさえみんな、ショックを受けてるんだから」
「わかったよ。すまんな」
へへっと笑うアルベールに、ぶっきらぼうにソフィアがたずねました。
「それで、トリエステはどうしたのよ、それになんでギュスターヴがいっしょなの?」
「あ、そうだった、話の途中だったな。……でも、どうしたんだよ、ソフィア。なんでそんな怒ってるんだ?」
「別に怒ってなんかない。それより早く話してよ」
ツンツンしたしゃべりかたに、アルベールは目を丸くしてエプロンを見ました。エプロンは笑いをこらえている様子でしたが、なにも答えてくれませんでした。ちぇっ、と小さく舌打ちして、アルベールは説明しはじめました。
「ギュスターヴについては、いろいろあって今は仲間だ。それについては、かなり長くなるから歩きながら話すよ。それで、トリエステだけど……」
アルベールはなかなかいい出せない様子でしたが、やがて意を決したように言葉にしました。
「トリエステは、死んだ。おれたちをルドルフと天使のソフィアから逃がしたあと、ルドルフに殺されたらしい。ルドルフのクソ野郎の言葉だから、うそかもしれないが」
「……そうだったの……」
やっとでそれだけいうと、ソフィアはおしだまってしまいました。だれもなにもしゃべることなく、避難道を進んでいきます。
「……トリエステの声が聞こえたとき、いやな予感がしたの。たましいがぎゅうってしぼられるような、悲しみという悲しみをしぼりつくされるような、そんな感じだったから。きっとトリエステは、わたしを助けようとして……」
ソフィアの言葉に、アルベールはえんりょがちにうなずきました。
「トリエステは、おれたちみんなのことを守ってくれたんだ。トリエステだけじゃない、考えてみればおれたちは、たくさんの人やイズンたちに生かされてきたんだ。ソフィアが他のイズンたちのエネルギーを吸収して、今まで生きてきたのと同じように、おれたちもたくさんの人たちの助けを受けて、ここまで生きてきたんだ。ソフィアはずっと、そのことに罪悪感を感じて生きてきただろ。その気持ちが少しだけ、おれにもわかった気がしたよ」
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