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ゴールドの記憶 その17

「どうした、さっさと教えんか。それとも娘が苦しむすがたを見たいのか?」


 リリーの青いひとみが、嵐で荒れ狂う海のような怒りの色で燃えあがりました。ルドルフがチッと舌打ちします。


「またその目か。本当にお前は強情なやつだな」

「なんとでもいいなさい。でも、あなたがソフィアの封印を解く方法を知ったところで、あなたには絶対に解けないわ」


 ルドルフの笑顔が、狂気にゆがみました。歯をむき出しにして、しぼりだすような声でリリーを問いただします。


「お前ごときがかけた封印を、このわしが解けぬだと? リリー、お前がいくら才能のあるイズニストだからといっても、封印というものは魔法使いの魔法だぞ。あらゆる魔法を極めたわしに、たかがイズニストのかけた封印が解けないと、本気で思っているのか? あまり強がりをいうな。わしも弟子だったお前を傷つけたくはないのだ」

「強がりなんかじゃないわ。あなたには解けない! それどころか、あなたはわたしの娘に触れることすらできないわ」


 ルドルフは馬鹿にしたような、うすっぺらい笑いをうかべました。しかしギュスターヴには、そのうすっぺらな仮面の下に、ありったけの怒りがこめられていることにすぐに気がつきました。ルドルフは無言で、リリーをしばりつけていた魔法のなわを炎のなわへ変えたのです。


「きゃあぁぁっ!」

「ママッ! やめて、お願い、やめてよぅ!」


 リリーが苦しみ、もがくすがたを見て、ソフィアが悲鳴をあげて泣き出しました。記憶の中のギュスターヴと、現実のギュスターヴが同時に声をはりあげました。


「やめろっ! リリーさんにひどいことするな!」

「だまれ、弱虫のバカ王子が! 心配せずとも、お前もあとで兄のあとを追わせてやる! それまではそこで指をくわえて見てるんだな」


 記憶の中のギュスターヴは、くやしそうにルドルフをにらみつけるしかありませんでした。ルドルフは息をあらげながらも、ぎらついた目でリリーを見おろしました。


「どうだ、強情はやめて、わしに協力する気になったか?」

「だれが、だれがあなたなんかに……」


 リリーに向けて、ルドルフが何本も魔法のなわをまきつけました。まきついたなわは、炎のなわへと変わり、リリーの身をさいなんでいきます。絶叫するリリーを見て、ソフィアがルドルフに泣きつきました。


「やめてよ、ねえ、お願いだからやめてってば! どうしてママにひどいことするの! ママはなにも悪いことしてないじゃない!」

「うるさいうるさい! 道具の分際でわしに指図するな! 戦争兵器のくせに、人間のふりをするな!」

「だめっ!」


 ルドルフの言葉をかき消そうと、リリーがありったけの大声で止めようとしましたが、遅すぎました。ソフィアは固まったまま、じっとルドルフを見つめています。


「わたしが、なに? 戦争兵器って、わたしにいったの?」

「お願いします、封印の解きかたでも、なんでも教えますから、だからせめてこの子にはなにもいわないで!」


 許しをこうリリーの口を、魔法のなわがぐるぐる巻きにしてふさぎました。「んーんー」と声にならないうめきをあげるリリーを見おろし、ルドルフはいびつな笑顔を見せつけました。


「そうか、リリー、お前、自分の娘に真実を隠していたんだな。優しさのつもりでそうしていたんだろうが、とんでもない女だ。真実を隠したところで、娘のためにはならんというのに」

「ねえ、いったいなんていったの? わたしはなんなの? 教えて、教えてよ!」


 口をふさがれたリリーは、ソフィアに顔を向けて、必死に首をふりつづけます。けれどもソフィアは、リリーには目もくれずに、ルドルフの顔を見あげています。


「見ろ、お前の娘も、どうやら真実を知りたいそうだ。親に秘密を隠されて育てられた哀れな娘よ。わしがお前に真実を教えてやろう」

「んんーっ!」

「ソフィアといったな。お前は戦争兵器として創られたのだ。親のふりをしているそこの女は、イズンを創り変える力だから、人を傷つけることはないなどといいわけをしておったが、お前の力は戦争のためだけのものだ。イズンを創り変え、戦争にかりだすお前は、さながら神話の戦乙女のようなものだな。いや、死神といったほうがいいか。……そうだ、お前は戦争兵器なのだ。そして死神だ。イズンを、そして人間を傷つけるためだけに創られたのだ!」

「そんな、そんなのうそよ!」


 さけんで首をふるソフィアの反応を、ルドルフはむしろ楽しむようにながめていました。やがてルドルフはふんっと鼻を鳴らしました。


「信じたくないなら信じなくてもよい。お前が信じようがどうしようが、そんなことはどうでもいいのだからな。だが、わしがいったことは真実だ。お前の母親を名乗るその女は、自分が戦争兵器を生み出したことで、罪悪感でも持ったのだろう。だからお前に娘のように接した。バカな女よ。そんなことをしても、自分の創ったものが変わるはずもなかろうに。お前は戦争兵器だ。だれがなんといおうと、戦争の道具だ」

「……うそでしょ……。ママ、うそだよね。わたしが、そんな、戦争の道具だなんて、そんなのうそでしょ、ねえ、ママ」


 リリーの口をふさいでいたなわが、空気に溶けて消えていきました。言葉よりも前に、リリーはありったけのにくしみをこめて、ルドルフをにらみつけました。ルドルフはすずしい顔で、その視線を受け止めます。


「ママ、違うよね。あのおじさんが、うそをいってるんでしょ? ねえ、ママ」


 すがるように、ソフィアがリリーにたずねました。リリーは無理やりに笑顔を作ってうなずきました。


「そうよ、あなたは道具なんかじゃない。わたしの大切な娘よ。本当よ」

「ふん、まだうそをつくつもりか? そんなことをしても、そいつが傷つくだけだというのにな。戦争兵器よ、お前はその女の娘などではない。その女の娘は、ソフィアという娘は、戦争で死んだのだ。その女はその事実を受け入れることができずに、お前に同じ名前をつけただけだ。しかし皮肉なものだな。戦争によって死んだ娘の名前を、よもや戦争のための道具につけるとは」

「違う、ソフィアは戦争の道具なんかじゃない! 道具だなんていわないで!」

「ふん、イズンはみんな道具ではないか。お前はイズンと人間の区別もつかない愚か者なのか? 道具に道具といってなにが悪い? そんなことだからお前はだめなんだ、この愚か者が!」


 リリーをしばっていたなわを引っぱり、ルドルフはリリーのからだを思いっきりけりつけました。リリーがくぐもった悲鳴をあげます。


「やめてよ、ママをいじめないで! お願い、誰か助けて、誰か――」


 ガタンッと、となりの部屋からなにかが倒れる音が聞こえました。そして次の瞬間、壁が真っ赤に溶けて蒸発したのです。ルドルフが反射的に結界をはります。結界は赤い風に吹きつけられて、ジュウッという音とともに消滅しかかりました。あわててルドルフは結界に全精力をかたむけました。リリーたちをしばりつけていた魔法のなわが、空気に溶けて消えていきました。


「動ける! さあ、今のうちに!」


 記憶の中のギュスターヴが、リリーとソフィアを引っぱり起こして、爆発でできた穴から、部屋の外へと逃げ出しました。


「ああっ、くそ、待て!」


 ルドルフがどなりつけますが、結界に巨大な火の玉がぶち当たったので、ルドルフは対消滅させる呪文を唱えるのに集中せざるをえませんでした。しかし、現実のギュスターヴはそのとき確かに見たのです。ルドルフの前に立っていたのは、まぎれもなく封印用のイズン……現実世界で見た、アルベールそのものでした。からだじゅうに真紅の炎をまとったそのすがたは、燃え盛る太陽のように見えました。


「やっぱりあれは、アルベールだったんだ! アルベールは、兄様だったんだ!」


 もちろん記憶の中のギュスターヴのさけびは、だれにも届きませんでした。アルベールは胸から真紅の剣を生み出し、ルドルフに切りかかります。水と風の魔法でルドルフが応戦するところで、再び記憶の世界がゆがんでいきました。ぐるぐるとうずになって、アルベールのすがたがゆらめいていきます。


「兄様、兄様ーっ!」


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