表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/74

ゴールドの章 その1

 ――ビアンカと出会ってから半年後――


「ちょっと、アル、もう少し気をつけて進んでよ。落ちそうだったじゃない」


 がれきにまみれた廃墟の中で、ソフィアがアルベールの肩にしがみついています。


「しかたねぇだろ。ちょっとだまってろ」


 額の汗をぬぐいながら、アルベールがいいました。がれきだらけのこの廃墟は、王都ユードラシールです。いえ、正確には王都ユードラシールだったところでした。百年前の戦争で、ユードラ王国は滅び、その王都であったユードラシールも、今は廃墟となっていたのです。


「王都だったここなら、戦争で埋もれた魔法細工イズンがたくさんいるだろうしな。ソフィア、魔法玉イズニウムの波動は感じるか?」

「弱い波動なら感じるわ、でも」


 まだなにかいいたげなソフィアに、アルベールは厳しい口調で続けました。


「『でも』は無しだぜ。イズンを見つけても、お前がイズニウムをくれないから、トレジャーハンターとしての商売上がったりだよ。この王都に来るために金を使っちまったから、もうすっからかんだぜ」


「うそつき、お金がなくなったのは、アルが城壁の近くにある村で、おいしいものたくさん食べたからじゃない」


 王都ユードラシールは、まわりを城壁で囲まれていました。もちろん戦争でほとんど崩れて、がれきの山になっていましたが、それでも城壁あとはまだ残っていたのです。その内部、つまり王都内に入ることができるのは、アルベールのようなトレジャーハンターだけでした。そんなトレジャーハンターたち目当てに商売をしようと、城壁の近くにある村では、宿やレストランが軒を連ねていたのです。


「そりゃ、おれだって飯を食わなきゃ、やっていけないからな。そしてそれは、お前だって同じだろ、ソフィア」


 こけにおおわれた、倒れた柱をまたぎながら、アルベールがつぶやきました。ソフィアはだまってうつむきます。


「お前がいやだって気持ちもわかる。おれだって少しは、かわいそうだって気持ちになったさ、あのビアンカってイズンのことは」


 半年前にイズニウムのエネルギーを吸収した、ビアンカのことを思い出して、ソフィアは顔をそむけました。輝きを失って、ただの宝石となったエメラルドのイズニウムを、ソフィアはまだ、大切にポケットにしまっていたのです。


「あれ以来お前、またイズニウムのエネルギーを吸収してないだろ。お前のアメジストが、だんだん光を失ってきてるじゃないか」

「でも、まだエネルギーは残ってるわよ」


 アルベールは大げさなため息をついて、首を振りました。


「ホントにお前は強情だな。まあいいや。とにかくさっさとイズンを見つけて、お前はエネルギーを、おれはイズニウムを手に入れないと、お互い飢え死にしちまうぜ」


 ハハッとニヒルな笑みを浮かべて、アルベールは廃墟をどんどん進んでいきました。しかしソフィアはだまったままです。


「どうした? もしかしてもうエネルギーが切れちまったんじゃないだろうな」

「……アル、ごめんね、本当はビアンカちゃんのイズニウムを売ってしまえば、アルはもっといい暮らしができるはずなのに」


 宿に泊まらずに、「おれは地べたのほうが気楽でいいんだ」などといって野宿するアルベールを思い出し、ソフィアはうつむいたままいいました。アルベールは、怒ったような声で答えました。


「変なこというなよ。そんなことより、まだイズニウムの反応はないのか?」

「だんだんと近くなってきているよ。ずいぶん弱い波動だけど、ともかく近くだわ。あっちの方向よ」


 ソフィアが指さした先には、こけむした柱がいくつも倒れて、進むのには骨が折れそうなところでした。しかし、アルベールはまゆ一つ動かさずに、その柱を乗りこえてから進んでいきました。




 二人が進んでいるのは、どうやらどこかのお屋敷だったようです。その証拠に、値打ちのありそうな銅像や、大理石でできたタイルなどが、そこかしこに見られました。どれも百年前に、ユードラ王国で人々が暮らしていたなごりでした。今はこけにおおわれて、見る影もありません。


「きっと、立派なお屋敷だったんだわ」


 ソフィアがポツリとつぶやきました。


「そういえば、お前はユードラ王国で暮らしてたんだろ。ここらへんがどのあたりなのか、覚えてたりしないのか?」


 ソフィアは顔をあげると、ゆっくりと首を振りました。


「わたしは、王宮の中で創られて、そのまま外に出ることがなかったから、このあたりのことは知らないわ」

「へぇ、ソフィアってお嬢様だったのか」


 アルベールがちゃかすような口調でいいます。ソフィアは無言でアルベールの肩をつねりました。


「いてっ!」

「なによそのいいかた、バカにしちゃってさ。アルこそどうせ、子どものころは世間知らずのお坊ちゃまとかだったんじゃないの?」


 アルベールは頭をがしがしと乱暴にかきました。


「あのなあ、おれは別にお坊ちゃまだったとかじゃねぇと思うぜ。いいとこのお坊ちゃまだったら、こんなどろぼうまがいの仕事してたりしないだろ」

「思うぜって……。じゃあアルはどんな子どもだったの?」


 ソフィアにたずねられて、アルベールはあっけらかんとした口調で答えました。


「おれには子どものころの記憶ってのがないのさ」

「え?」


 ソフィアがアルベールを見あげました。今度はアルベールが、ソフィアのうでを軽くつねります。


「きゃっ! もう、なにするのよ! わたしがアルをつねるのはいいけど、アルがわたしをつねるのはだめなのよ。だいたい大きさが違うじゃない!」

「あーあー、わかりましたわかりました。だからそんなかわいそうなもんを見るような目で見ないでくれよ。別に記憶がなくったって、おれはこうして今を楽しく生きてるんだからさ」

「……どのくらい前から、記憶がないの?」


 アルベールは目をつぶって、うーんと首をひねりました。


「さぁな。そんなの気にかけたことなかったからさ。でも、記憶がなかろうがなんだろうが、生活はしていかなくちゃならない。でも自分がどんなやつだったか覚えてないんだから、流れ者ぐらいにしかなれなかったよ。それで、トレジャーハントか、まあぶっちゃけ盗みなんかもしてはいたさ。いてて、やめろよ、しかたがないだろ、それぐらいしか食っていく方法がなかったんだから。それに家もなかったし、町から町を放浪して、そんなときお前を見つけたんだ」


 アルベールは大げさに伸びをしてから、へへっと笑いました。


「だから別に、おれにとっては記憶なんてもんはどうだっていいのさ。今が楽しけりゃな」

「ねえ、一番昔の記憶って、どんな記憶なの?」

「おいおい、まだこの話題のままなのかよ? そろそろ話題変えようぜ、あいてっ、わかった、わかったから」


 思いっきりつねられたので、アルベールはあわててソフィアを背中からガシッとつかみました。じたばたするソフィアをつかんだまま、アルベールは小さくため息をつきました。


「おれが覚えている一番古い記憶ってのは、そうだな、ぼろぼろになったがれきに落ちる思い出だよ。まぁ、思い出っていっても、全然うれしくない思い出だが」

「がれきに……」


 暴れるのを止めたソフィアを、再び肩に戻して、アルベールはうなずきました。


「そうさ。まぁだからおおかた、なにかで事故って、記憶を失ったとかそんなんじゃねぇの? とにかくこの話題はもういいだろ。それよりそろそろ近いんじゃないのか?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ