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ゴールドの記憶 その11

「どうすればいいの?」


 即座にたずねるギュスターヴに、リリーはしばらく考えこんでいましたが、やがて、意を決したように答えました。


「アルベルト様はもともと、ソフィアを封印するための、封印用のイズンになるように禁術を使われましたわ。そして、その影響でたましいが眠った状態になってしまった。なら、たましいを覚醒することができるのは、封印の対になっているもの、つまりソフィアと接触させればうまくいくのではないかと思ったのです」

「ソフィア? ソフィアって、だれのことですか?」


 ギュスターヴに聞かれて、リリーは少しほこらしげに答えました。


「ソフィアはわたしの娘です」

「でも、リリーさんは今、封印の対になっているっていったけど、それは封印用のイズンの対ってことでしょう? それなら、ソフィアってもしかして、戦争兵器のこと?」


 リリーはわずかにうつむき、しばらくなにも答えませんでした。ギュスターヴがばつの悪そうな顔で、リリーをのぞきこんだので、リリーもやっとのことでうなずきました。


「……そうです、ソフィアはわたしの娘で、そして……戦争兵器です」


 ギュスターヴが息を飲みました。リリーの青いひとみが、ギュスターヴをまっすぐ見すえます。


「確かにソフィアは、戦争兵器です。ですが、わたしが創りあげたのは、人間を傷つけるような戦闘用のイズンではないのです。ソフィアの力は、イズンの力を無力化することです。決して人を傷つけるような力ではありません。ましてや戦争兵器などではないのです」

「あ、あの……ごめんなさい」


 あやまるギュスターヴを見て、リリーはハッと我に返りました。あわててリリーは首をふります。


「こちらこそ申し訳ありません、別にギュスターヴ様を責めようとしていったのではございません。どうかお顔をおあげください」


 ギュスターヴは、こわごわリリーに視線を向けました。リリーは言葉を選ぶように、慎重に話を続けました。


「ごめんなさい。でも、ソフィアはわたしにとって、戦争兵器などではなくて、大切な娘なのです。おかしく思われるかもしれませんが、わたしにとってソフィアは、ううん、本当はわたしが創った、すべてのイズンは、わたしにとって大切な子どもたちなのです。でも、わたしはそれに気づくのが遅すぎた。ただそれだけです」

「いったい、なにがあったのですか?」


 ギュスターヴに聞かれても、リリーは首をふるだけで答えてはくれませんでした。かわりにリリーがギュスターヴにたずねました。


「儀式で使われた封印用のイズンは、今はどちらにあるかわかりますか?」

「えっ? ああ、王宮の倉庫に保管されています。父上が、もう二度と見たくないといって……」


 儀式のことを思い出したのでしょうか、ギュスターヴは胸の痛みに顔をしかめました。リリーはギュスターヴをいたわるような、ゆったりした口調でいいました。


「ありがとうございます。お辛いかもしれませんが、わたしをその封印用のイズンのもとへ連れていってくれますか?」


 ギュスターヴはリリーを見あげ、そして緊張したおももちでうなずきました。




 ギュスターヴたちがリリーの工房に行くときは、エリオット王に見つからないようにしなければなりませんでした(そのため、セルフィーに頼んでギュスターヴが部屋にいるように見せかけてもらったり、エリオット王をギュスターヴの部屋に近づけないように、メイドたちがうまくしていたのだと、ギュスターヴはあとで知りました)。しかし、リリーが王宮の倉庫に来て、封印用のイズンを調べるのは、ずいぶんと簡単に許可がおりたのです。


「でも驚きました。このごろの父上は、封印用のイズンの話が出るとところかまわず誰かをどなりつけていたのに、リリーさんの名前を出したとたん、調査の許可を出すなんて」


 王宮の倉庫まで案内しながら、ギュスターヴがリリーに話しかけました。リリーの代わりにアマンディーヌが胸をはって答えます。


「そりゃあね、なんといってもリリー様はこの国最高のイズニストだから。それに、エリオット陛下も気にかかるところがあったんじゃないかね。だからリリー様に調査をしてもらえて、ほっとしていると思うよ」

「気にかかるところ?」

「エリオット陛下は、ルドルフこそ投獄したけど、封印用のイズンは破棄しなかったからね。やはりほんのわずかでも、もしかしたらアルベルト坊ちゃまのたましいが封印用のイズンに残っているんではないかって、そう思っているんだよ」


 アマンディーヌにいわれて、ギュスターヴはエリオット王の、疲れ果てた顔を思い出しました。それに気がついたのか、アマンディーヌがため息まじりに続けます。


「依然としてフィーゴ王国との戦争も続いているからね。エリオット陛下もいろいろ気が抜けないのさ。だからあたしたちメイドも、少しでも陛下にご負担をかけないように、お仕えしなくちゃね」


 おしゃべりをしているうちに、いつの間にか三人は地下への入口へと来ていました。倉庫であって、宝物庫ではないのですが、それでも入口には赤い封印の魔法陣が描かれた、鉄のとびらが待ち構えています。エリオット王から鍵を預かったアマンディーヌが、鍵を魔法陣の中心へと近づけました。ガチャリと重々しい音がして、ギギギッと少しずつとびらが開いていきます。


「ここが倉庫か。実はぼくも、入るのは初めてなんだ」

「あら、坊ちゃまはお入りになったことがなかったんですね。ではここからはあたしがご案内しましょう。エリオット陛下に保管してある場所は聞いております」


 アマンディーヌが中に入っていくので、現実のギュスターヴも、記憶の中のギュスターヴも、あわててそのあとを追いました。魔法による明かりがともっているため、まっくらではありませんでしたが、黄緑色の頼りない明かりは、よけいに怖さを引き立てているように思えます。ごくりとつばを飲みこむギュスターヴに、アマンディーヌが笑って話しかけました。


「そんなに心配なさらずとも、大丈夫ですよ。こちらの倉庫は、様々な魔法の道具やイズンも保管していますが、それらが暴走しないようにしっかりと封印をかけてあるのですから」

「でも、なんだかなにか出そうだよ」


 ギュスターヴの情けない声を聞いて、アマンディーヌはふうっとため息をつきました。


「坊ちゃま、そうおびえてばかりいると、エリオット陛下は少しも心が休まりませんよ。あたしたちみんながしっかりしないと」

「それは、そうだけどさ」

「まったく、もう少し自覚を……ああ、こちらです。封印用のイズンはこちらに安置されております」


 いつの間にか目的地についていたようで、アマンディーヌが木のベッドに寝かせられた、赤い髪のイズンを指さしました。それはあの儀式で見たままの、封印用のイズンそのものでした。


いつもお読みくださいましてありがとうございます。

明日は2話投稿する予定です。

お昼ごろに1話、だいたいいつもの時間あたりに1話投稿する予定です。

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